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【ICT訪問記】人工知能(AI)を活用したデータヘルス事業の高度化に取り組む広島大学

 広島大学大学院医歯薬保健学研究科では、平成29年度総務省医療・健康データ利活用基盤高度化事業により、人工知能(AI)を活用してデータヘルス事業(レセプトデータ等に基づき住民の保健指導を行なう事業)の高度化に取り組んでいます。その取組内容、課題及び今後の展望について、広島大学 木原康樹副学長、森山美知子教授、石橋伸介研究員及び市川哲也主査にお話を伺いました。

  • 取組の背景、経緯

    集団を対象とした健康マネジメントモデル

    集団を対象とした健康マネジメントモデル
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     今回の取組の背景として、呉市等の自治体で取り組んできたレセプトデータ等に基づく糖尿病性腎症への保健指導で培ったノウハウと実績があります。呉市等での取組においてレセプトデータ等の分析により医療費の使われ方の特徴がわかりましたので、多くの医療費が使われている中高リスク者をターゲティングし、最適な保健指導サービスを提供することで重症化の抑制や医療費の適正化を目指しています。このような中、レセプトや健診情報等のデータ分析に基づく効率的・効果的な保健事業をPDCAサイクルで実施する「データヘルス計画」を推進するため、総務省より委託を受けた国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)が公募をしていたので、AIを活用した保健指導システムを提案し、平成29年度に採択されて事業を開始しました。

  • 取組の内容

    AIによるターゲティングと保健支援サービス

    AIによるターゲティングと保健支援サービス
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     今回の事業では、まず、AIを活用して、レセプト・健診データや地域特性データ、個人属性データ等の分析を行い、保健指導サービスの必要な方々を抽出し、リスクレベルごとに階層化を行います。そして、それぞれの階層に対してAIが費用対効果の高い保健指導を提案します。提案された保健指導の効果を検証して、改善すべき点があれば、AIがデータ分析や最適な保健指導に反映させるというシステムの構築に取り組みます。そして、このシステムでは、リスクレベルの階層化と最適な保健指導の提案を逆引きすることにより結果の予測を行うことも可能となり予防的な介入も期待できます。この取組は広島大学が中心となっていますが、レセプトのデータ化を行う(株)データホライゾン、保健指導のノウハウを持っている(株)DPPヘルスパートナーズ、AIシステムの開発を担当している(株)OKEIOS(オケイオス)と日本大学吉開範章先生、また、広島県とも連携して取り組んでいます。

  • AIの可能性

     今回の取組の中で、AIは「将来どうなるか」を予測するために活用することを考えています。レセプトデータを組み合わせて抽出することにより、現状を放置すると将来重症化する可能性が高いという予測が可能です。また、AIを活用することで、実は特定の指標同士に相関関係があることが新たに判明する可能性も期待できます。AIは人間では数え切れないパラメーターの処理が可能であり、特徴を全体的に俯瞰する形で観ることにより、パターンに合った治療を導き出すツールとなります。現時点では、レセプトデータ等から個人がどの階層に属しているかをAIが分析し、その結果と医師や看護師の認識が大体一致しているというレベルまで確認ができています。実用化に向けてその正確率を更に高めることが必要です。

  • 課題と今後の展望

     一番の課題は、データ収集です。中高リスク層はレセプトデータ等を分析することで階層化が可能ですが、低リスク・健康層については健康診断も受けていない方が多いためデータがないのが現実です。そのような状況があるので、まずは、中・高リスク層への対応に取り組んでいますが、一見健康そうに見える人であっても、何らかのリスクを抱えていることは大いにあり得ることです。低リスク・健康層のデータ収集については、医療情報を共有する、ひろしま医療情報システム(HMネット)が広島県、広島県医師会にあるため、これらのメリットを本研究に活用することができないかと模索しています。最近では、スマートフォンなどの各種アプリから脈拍等の様々な健康情報を取得できますし、IoTなど簡便な機器の活用も考えられます。これらから得られたデータを、例えば、HMネットなどを通じて入手することができれば、今回の研究に活用できるのではないかと期待しています。

    写真、左から市川 哲也主査、森山 美知子教授、木原 康樹副学長、石橋 伸介研究員

    広島大学研究メンバー
    左から市川 哲也主査、森山 美知子教授、
    木原 康樹副学長、石橋 伸介研究員

     また、地域ごとに背景やデータ特性が異なるため、地域特性データをAIで解析することで地域にあった判定基準を持たせることができるのではないかと考えています。広島県はビッグデータ活用特区でもありますので、自治体のオープンデータの活用についても今後提案していければと思います。このようにして、低リスク・健康層のデータの収集、分析ができるようになれば、地域全体や国民全体の健康管理を推進できるシステムを構築、提供できる可能性があると自負しています。広島県はユニークな基盤を持っていることから、これらを上手く活用して研究を進めていきたいです。
(平成30年4月11日取材)

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