【関東総通】e-コムフォKANTO
令和6年11月11日
第5回関東放送シンポジウム
−若いリスナーとのつながりから考えるラジオ放送の在り方−
総務省関東総合通信局〔局長:高地 圭輔(たかち けいすけ)〕は、一般社団法人日本コミュニティ放送協会(JCBA)関東地区協議会との共催により、若い世代のラジオ聴取率向上とラジオによる地域社会への貢献をテーマにしたシンポジウムを開催しました。
今回は、全国のラジオ放送事業者や大学、地方公共団体を中心にオンライン含め、180名程度の参加を得たシンポジウムとなりました。過去開催のシンポジウムに比べて最も多い参加者数であり、テーマへの高い関心がうかがえました。
【アーカイブ配信】
本シンポジウムの講演内容について、YouTube関東総合通信局公式チャンネルにて公開します!見逃した方も見直したい方も、この機会に是非、ご視聴ください。
1 概要
我が国においてラジオ放送が開始(1925年)されて、もうすぐ100周年を迎えます。2000年代に入り、インターネットやスマートフォンが急速に普及する中で、それまではテレビやラジオによる一方向の情報発信が中心であったメディアもSNSや動画共有サイトの急増と相まって、利用者が自ら情報発信の役割を担う形に変化してまいりました。
今回のシンポジウムでは、双方向の情報発信を意識した若者向けラジオ番組の運営者による講演と、学生がラジオ番組制作に参画しているケースを取り上げ、若者目線での番組製作の工夫、若者はどのようにラジオを評価しているのか等について、パネルディスカッションを行いました。
−説明のポイント−
- 若者向け番組は、手間はかかるが、経営規模(広域・県域・コミュニティ)を問わずコンテンツとしては身近であり、どの放送局でも真似できる部分はある。
- 新規顧客の継続的な獲得は安定した経営を行なっていく上で不可欠な要素であり、放送局側からインターネットやSNSも交えた「ラジオに触れる機会」の創出を行なうことも必要な時代となっている。
- 若い世代のリスナー増加は、次世代のラジオ業界を担う人材にもなり得る。
- ラジオは災害時において、正確な情報源としての役割、不安な人の心に寄り添うというのも使命の一つであり、ラジオの認知度が高まることで、若い世代が災害時に正しい情報を入手・発信することにも資するのではないか。
大正大学表現学部メディア表現学科教授 松崎 泰弘(まつざき やすひろ)様からご講演いただきました。松崎教授は、これまで、株式会社日経ラジオ社、北海道放送株式会社、株式会社東洋経済新報社で30年あまりにわたり、経済記者・編集者として勤務されたご経験があり、現在も毎週金曜日に東京メトロポリタンテレビジョン株式会社において、経済番組のキャスターを務められております。
今回は放送局時代のご知見も踏まえ、北海道の若者向け番組を参考に、ラジオ放送を通じた若者への共感についてご紹介いただきました。
−講演のポイント−
- 株式会社エフエム北海道の番組「IMAREAL」への取材をもとに若者向け番組の事例を紹介。番組成功の鍵は「徹底して寄り添う姿勢」である。
- 同番組パーソナリティである森本 優氏は、若者に対して上から発言するのではなく、「一緒に考えよう」と共感する姿勢が重要と説明。生徒向けの番組ではなく、「あなた」向けの番組である。
- 学校へ訪問し、放送を行なうことも含め、積極的に若者に歩み寄っていくことが大事。
- 現在の若者はラジオに触れる機会も少ない。今、ラジオを聴いている学生は小さい頃にラジオを組み立てた経験があることが意外に多い。このため、小中高の教育現場において、ラジオへの理解を深めてもらうような授業も必要ではないか。
4 講演 『番組製作サイドから見た若者とラジオとのつながり』
- 株式会社エフエム東京 プロデューサー 大橋 竜太 氏
全国38局ネットで中高生を中心に絶大な支持を集める『SCHOOL OF LOCK!』の製作に携わっていらっしゃいます株式会社エフエム東京 プロデューサーの大橋 竜太(おおはし りゅうた)氏からご講演いただきました。
−講演のポイント−
- 番組は学校である。2005年の開校(番組開始)以来、リスナーを生徒、Webを教室と見立て、番組を運営してきた。時にはwebの内容を元に番組構成を変更することもある。
- リスナーとの対話を大切にしている。
- インターネットアプリ(radiko)経由の聴取が多いが、昔ながらのラジオ受信機による聴取方法についても番組ホームページ上で解説している。
- 今の若い子たちは「音楽も見るもの」であり、番組の存在を10代に知ってもらうためには、SNSやショート動画を含め、ラジオ以外のツールを活用した積極的なプロモーションにも注力している。
- 株式会社TBSラジオ ディレクター 保坂 明里 氏
「Z世代の声を聞きながら、一緒に考えていく」ことがコンセプトの番組である『TALK ABOUT』の製作に携わっていらっしゃいます株式会社TBSラジオ ディレクターの保坂 明里(ほさか あかり)氏からご講演いただきました。
−講演のポイント−
- パーソナリティが若者目線で話すことも大切だが、同じ目線になり過ぎず、大人としての意見を届けることも意識している。
- 生放送という番組のメリットを最大限生かすため、リアルタイムでスタジオの様子として「写真」や「印象的だった言葉の切り取り」を積極的に公式アカウント(SNS)で発信することで、リスナーとのつながりを重視している。
- リスナーが毎週、オンラインで番組に登場することで、よりリアルな声が集まる番組となるよう心がけている。
- 当番組はradikoによる聴取が多いが、東京都首都圏とネット局があるエリア以外のリスナーが番組を聴取する場合には、課金する必要があり、親の理解が得られないこともあるため、YouTubeやPodcast(ともに音声のみ)でも配信することで、とにかく番組を聴いてもらうことを意識している。
- 株式会社エフエム愛媛 編成制作部長 関 千里 氏
中国・四国地方で開局した初の民放FM局である株式会社エフエム愛媛において、編成制作部長として番組編成を統括されております関 千里(せき ちさと)氏より、同局の中高生向け番組「カモ☆れでぃ★Night!」での取組に関してご講演いただきました。
−講演のポイント−
- 10代のリスナーを増やすことは、将来のエフエム愛媛のリスナーをつくることにもつながる。
- パーソナリティ中心ではなく、番組の主役はあくまでも10代リスナーであるという認識。大人の話題を基本排除し、テーマは学校の話題、行事をメインに取り扱っている。
- 番組方針は「会いに行くラジオ!」であり、放送局側から積極的に学校を訪問しており、部活取材、校内放送、文化祭などの学校行事などにも積極的に協力している。学校訪問することは、ラジオに触れるきっかけにもなるため、会社(放送局)として長く続けることができれば、それだけラジオに出会う生徒も多くなり、継続してラジオを聴取してくれることにもつながる。
- 学校には放送機材もそろっていることが多く、コミュニティ放送局であっても学校放送はやりやすい。放送局側のフットワークさえ軽ければ、どなたでも真似できる。
- 東海大学文化社会学部広報メディア学科3年 垣尾 聡太 氏
神奈川県平塚市のコミュニティ放送局である株式会社湘南平塚コミュニティ放送において、「こちらラジオ番組制作部」という番組でチーフプロデューサーを務めていらっしゃる東海大学文化社会学部広報メディア学科3年の垣尾 聡太(かきお そうた)氏からご講演いただきました。
−講演のポイント−
- 毎週、自分の興味・関心がある様々なテーマを持ち寄り、自分たちの言葉で伝えることを意識して番組製作を行なっている。
- ラジオ番組に関わることで、物事をしっかり自分で考えた上で、話をするということへの向上心と、相手との対話する力を得ることができたと考えており、様々なメリットがあったと感じている。
- 番組OB、OGにも取材したが、ラジオ番組製作の活動は、将来の進路に役立つと言える。
- ラジオは音でしか伝えられないが、映像がない分、音声で最大限伝えることがラジオの魅力でもある。
- 慶應義塾大学総合政策学部4年 宮西 惟成 氏
東京都品川区のコミュニティ放送局である株式会社エフエムしながわにおいて、「みらいの大井町をつくる・ラボ」という番組でプロジェクトリーダーを務めていらっしゃる慶應義塾大学総合政策学部4年の宮西 惟成(みやにし これしげ)氏からご講演いただきました。
−講演のポイント−
- 地域の魅力が伝わる内容となることを意識している。ゲストの活動にあわせて、実際に経験してみた感想を伝えることも意識している。
- 伝えきれないところの「余白」をリスナーに想像してもらうことも、ラジオの魅力。
- ラジオ(特にコミュニティ放送局)やローカル雑誌は、特定の地域に特化した内容を伝えることが出来る。私たちのプロジェクトでは、ラジオを地域づくりの手段の一つとして捉えており、地域住民とのつながりを作るプラットフォームとしてラジオが機能していくのではないかと考えている。
- 学生にとって、ゲストとのやりとりを通じて、自らの進路発見につながることもあり、ラジオ番組製作は本人にとっても大変意義がある。
5 パネルディスカッションと質疑応答
関東総合通信局放送部長 石原 誠一(いしはら せいいち)をモデレーターとして、NPO法人放送批評懇談会ラジオ部門の選奨委員を先日まで務められた大正大学表現学部メディア表現学科 松崎 泰弘教授を討論者として迎え、「若い世代にラジオの魅力をどうやって伝えるか」、「若者と同じ目線で番組を作る難しさ」、「ラジオの良さ、ラジオだからこそ伝えられるものとは」をテーマにして、パネルディスカッションを行ないました。
- モデレーター
- 関東総合通信局放送部長 石原 誠一
- 討論者
- 大正大学表現学部メディア表現学科教授 松崎 泰弘 氏
- パネリスト
- 株式会社エフエム東京プロデューサー 大橋 竜太 氏
株式会社TBSラジオディレクター 保坂 明里 氏
株式会社エフエム愛媛編成制作部長 関 千里 氏
東海大学文化社会学部広報メディア学科3年 垣尾 聡太 氏
慶應義塾大学総合政策部4年 宮西 惟成 氏
6 大正大学松崎教授からの特別寄稿
シンポジウム終了後のアンケートでは「松崎教授のお話をもっと伺いたかった」という要望も多数ございましたので、今回の掲載に際して、松崎教授から特別にコメントをお寄せいただきました。
「第5回関東放送シンポジウム」によせて
大正大学表現学部メディア表現学科教授 松崎 泰弘
「頑張ってください」ではなく、「一緒に乗り越えよう」。エフエム北海道(AIR-G)で若者の支持を集める人気番組『IMAREAL』のパーソナリティを務める森本優氏は受験生からのメッセージにこう呼び掛けます。こうしたきめ細かな言葉選びにも、徹底的にリスナーに寄り添っていこうという同氏のこだわりが感じられます。
『優しいコミュニケーション 「思いやり」の言語学』(岩波新書刊)でも、社会言語学者である著者の村田和代氏がコロナ禍での小池百合子・東京都知事と吉村洋文・大阪府知事のコロナ禍での記者会見に言及。「一緒に乗り越えていきましょう」という趣旨の言葉が目立っていたことを指摘しています。
大事なのは「共感」。エールを送るのではなく、徹底的に若者の立場になって物事を考えることがリスナーの心をとらえています。
番組予算の乏しい地方局にとって、いわゆる「推し」のタレントなどを積極的に起用して若年層の取り込みを図ることには限界があります。いきおい、各局が育成したパーソナリティの力に依存せざるを得ません。『IMAREAL』には乃木坂46のメンバーが出演していますが、森本氏は「アイドルの出演していない時間帯が勝負」と話します。彼女たちが出演していない時間帯でもファンにラジオを聞き続けてもらえるかどうかがカギ。バレーボールで旧ジャニーズのタレントがパフォーマンスを披露し、ファン層の裾野拡大を図る取り組みを彷彿させます。
これからのポイントは若者にとどまらず、親世代の取り込みを図ることが重要。実際、大学の職場にいると、学生の進路決定や消費行動が親の影響力を強く受けていることを実感させられます。高校などへ足を運んで番組を収録する際に、保護者も巻き込むような施策を講じるのも一案です。
「DNA」をいかに受け継いでいくかも要諦になるでしょう。『IMAREAL』でも森本氏の存在が大きいように思います。ラジオ各局にとってはトップの指揮下で若者に徹底したフォーカスする姿勢を代々、受け継いでいけるような雰囲気の醸成が焦眉の急といえます。
7 その他
当日、シンポジウム会場では関東総合通信局が保有し、災害時等に無償貸与可能な臨時災害放送局用設備の展示も行いました。
関東総合通信局は引き続き、ラジオを通じた地域の社会課題の解決や放送業の発展に資する内容をテーマとしたイベントを企画してまいります。
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