【関東総通】e-コムフォKANTO
令和7年3月17日
関東総合通信局
第3回臨時災害放送局の開設・運用に関する実務者連絡会を開催
総務省関東総合通信局(局長:高地 圭輔(たかち けいすけ))では、大規模災害時に開局が見込まれる臨時災害放送局に関して、平時からの産学官関係者との連携体制を構築し、地域の防災対策を推進することを目的として、実務担当者による会議を令和5年6月より開催しています。
第3回目となる今回は、web形式による参加・傍聴も含め、30程度の地方公共団体及び関連団体の参加を得て、災害発生時のラジオ放送の有効性や実際の運用等について意見交換を行ないました。
(講演の様子)
【主催者挨拶】
関東総合通信局長 高地 圭輔
今年はラジオ放送が開始されて100年という節目の年。ラジオはアナログなメディアでありながらも信頼性の高い情報を発信することで、国民生活に必要不可欠な情報インフラとして、今もデジタル社会の中で根付いている。
近年においても数多くの災害が発生し、災害規模も激甚化している中で、災害時における情報提供手段の重要性は高まるばかりであり、日頃からの取組や関係機関との連携が重要であることは論を俟たない。
臨時災害放送局の普及・促進は総務省を挙げての政策のひとつであり、本連絡会における皆様のご意見やお考えについても、今後政策に生かしていきたい。
本連絡会の構成員でもある村上 圭子(むらかみ けいこ)氏から、これまでに取材・研究された「被災地・被災者を取り残さない災害情報伝達」という観点から、「臨時災害放送局を準備する意味とは?」というテーマでご講演いただきました。
(講演のポイント)
- 情報伝達手段は多様化しているが、避難行動後の伝達手段まで考慮に入っていないのではないか。南海トラフ地震や首都直下地震などの激甚災害では、携帯電話やインターネットは利用できず、テレビ、県域ラジオの利用も限定的となる可能性がある。
- 能登半島地震で臨時災害放送局が開設されなかった主な理由は、市町村の事情(人員、予算、理解)と、スマートフォンアプリやSNSによる情報伝達で十分という認識にあったのではないか。
- 災害の直接死だけでなく関連死も含めて、リスクが高いのは、高齢者などの災害弱者と孤立の可能性のある地域。災害情報伝達をSNSによる一斉発信など「効率化」だけで考えないでほしい。音声による語りかけや音楽は災害弱者を支えることにもつながる。
- これまでの災害と南海トラフ地震や首都直下地震はレベルが異なるため、能登半島地震の教訓を読み違えず備えを進めてほしい。臨時災害放送局を準備する意味はそこにある。
臨時災害放送局の電波を遠くまで飛ばすために重要なのは、「送信出力の大きさ」よりも「アンテナの高さ」と「送信機までのケーブルの短さ」です。これらの状況を具体的にイメージいただくことを目的として、平野部と山間部で電波を発射した場合のシミュレーション結果を説明しました。
(説明のポイント)
- 送信用アンテナ地上高4m、送信出力100Wと地上高50m、送信出力地上高4m、送信出力100Wで電波発射した場合を比較すると、後者の方が聴取出来る範囲は広い。ラジオによる情報伝達で必要なことは、空中線電力の大きさよりもアンテナの設置位置とアンテナと送信機をつなぐケーブルの短さ(損失の小ささ)である。
- 臨時災害放送局のアンテナと送信機は高い建物の屋上付近に設置し、そこから放送を行う場所(放送ブース、災害対策本部等)まで音声ケーブルを延ばすなどの工夫が必要。
臨時災害放送局は、県域ラジオ放送局(基幹放送局)と同様に高位(第2級陸上無線技術士以上)の無線従事者資格が要求されます。
しかし、関東総合通信局の調査によれば、関東管内の地方公共団体職員の多くは第2級又は第3級陸上特殊無線技士の資格しか保持しておらず、自分たちで操作ができない機材は使用を想定しにくいことから、災害時はラジオよりも防災行政無線とスマートフォンアプリやSNSを組み合わせた情報伝達で対応可能と考える団体が多いということが分かりました。
その上で、意見交換を行い、臨時災害放送局の運用課題として、前述の無線従事者の確保に加え、人材・ノウハウ不足、運用費用の問題などが挙げられました。
(議論のポイント)
- 臨時災害放送局を使いやすくするためは、無線従事者要件を緩和していただきたい。コミュニティ放送局と同様に第2級陸上特殊無線技士以上の資格でも操作できるようになれば、資格を有する地方公共団体職員等が操作することが出来るし、コミュニティ放送局に運用を委託しやすくなる。
- 無線従事者要件を緩和することは、外部委託費用(数万円から数百万円まで様々)の低減にもつながり、臨時災害放送局用機材を活用した防災訓練の実施にもつながる。
関東地域では臨時災害放送局専用の周波数(77.1MHz及び78.8MHz)が設けられたところですが、限りある電波を有効に活用するためには、1つの周波数を複数の臨時災害放送局が時間帯で区切って運用する方法(タイムシェア)や、1つの臨時災害放送局で複数の地方公共団体の情報を発信するなどの工夫が有効です。
タイムシェア運用に関しては、連絡会構成員から「今ひとつ実際のイメージが湧きづらい」という声もあったため、具体的なタイムスケジュールを設定し、議論いただきました。
また、本年2月に実施された水戸市いっせい防災訓練において、水戸市役所からの電波を周辺地方公共団体にも共同聴取いただいた結果や、隣接する東京都国分寺市と国立市において1つの周波数の共同運用についても意見交換を行いました。
(議論のポイント)
- タイムシェアは調整が大変ではあるものの、1日2〜3回程度放送を行うということが担保できるのであれば、よいのではないか。
- 開局が予想される地方公共団体が同時に電波発射を行い、どのあたりまで混信が許容できるのかということを試してみることも有益ではないか。
- 実証実験の結果から複数市町村の共同運用の可能性はあるとは思うが、これをどうやって市民に伝えていくのかも課題である。
- 共同運用においては、他市町村の情報が入ることによるデメリット(市町村ごとの被災者支援の違いが明確になる)もあるのではないか。今後検討が求められる。
- ラジオは受信機によって受信感度にばらつきがあるため、避難所内などで聴取できるのかどうかを確認することも課題であろう。
- 共同運用時には、誰が何をどうやって放送を行う場所に届けるのかも事前確認が必要。
災害時の情報発信のイメージを持っていただくために、東日本大震災における女川さいがいエフエムの立ち上げや、北海道胆振東部地震などにおいて臨時災害放送局の開設を支援された大嶋 智博(おおしま ともひろ)氏から宮城県女川町の臨時災害放送局において使用された原稿及び本年2月末に石川県輪島市町野地区で実施された試験放送で使用された放送原稿をベースに放送内容のひな形を紹介いただくとともに、臨時災害放送局が伝えるべき情報について、ご講演いただきました。
(講演のポイント)
- 災害発生時は、情報がないことが住民にとって一番の「不安」である。臨時災害放送局はそうした情報を集約し、発信する「ハブ」となり、「不安」を解消できる。
- 臨時災害放送局を聞いている人は地域の「住民」である。被災して緊張状態が続き、疲れているときだからこそ、(できるだけ)やさしい「ことば・表現」を使うことが大切。防災無線の延長や代替としてではなく、広く使えるツールとして臨時災害放送局を捉えていただきたい。
【会議における学識経験者等からの主な発言】
法政大学大学院政策創造研究科 北郷 裕美(きたごう ひろみ)教授
- タイムシェア運用は重要な取り組みではあるが、例えば発災時に避難を呼びかけるような緊急の状況にあってはリアルタイム性が重要であり、地方公共団体ごとに順次放送を行うのは現実的ではないと考える。どの段階でタイムシェアを行うのかというルールについては今後の検討課題であろう。
- 無線従事者の要件緩和に関して、臨時災害放送局はコミュニティ放送の操作資格よりも要件が厳しく、総務省に対しては速やかに要件を緩和することを求めたい。
- 見落とされがちだが、臨時災害放送局を運用するためには相当な資金がかかるということが今回の報告でわかった。今後予算化を行うためには、地方公共団体全体への啓蒙、首長及び議会の理解、それから市民の理解を促していくことが重要である。
- 村上氏から和歌山県情報化推進協議会(WIDA)の紹介があったが、関東管内においても相応な有識者や臨時災害放送局運用経験者がいると思うので、このような人材と平時より協働し活用していくことも重要。
- これは要望となるが、臨時災害放送局の運用については、県単位の意識が重要であり、都道府県庁からも本連絡会への参加をいただくことも必要ではないか。特に東京都においては、特別区以外に市町村もあるので、首都直下型の地震を想定し、共同運用していくためには都庁という一つの県域の役所が議論参加すべきではないかと思っている。
- 過去の災害においては、(公財)日本財団や(公社)日本フィランソロピー協会など民間からの資金供給があったが、あくまでも厚意的な民間の支援である。本来なら公的な支援、例えば災害復旧支援金のような制度設計を進め、臨時災害放送局の開設や運用等、幅広く補助対象とすべきではないか。これはまさに国の問題としても迅速に考査すべきであろう。
一般社団法人日本コミュニティ放送協会関東地区協議会 鈴木 伸幸(すずき のぶゆき)会長
- 小田原市では東日本大震災時、FM小田原の放送を庁舎内に流していた。災害時には他の管轄の情報をラジオでながら聴取できることは行政にとっても意味があること。
- ラジオで伝えるべき行政情報は日々変わるが、常に広報担当と相談しながら流すべき情報を判断して放送することが重要。また、行政や民間の情報を収録してリピート放送の合間に生放送を行うことは聞いている人も飽きさせない対応としても有効である。
- 臨時災害放送局は災害対策として重要であり、行政からの予算措置を検討いただけるとよい。
- 日本コミュニティ放送協会は、臨時災害放送局に関する知識も豊富であり、行政との関わり方含め、ご相談いただきたい。
関東総合通信局は引き続き、地方公共団体における防災訓練への参加や団体間の情報共有等を通じて、臨時災害放送局を用いた防災対策を推進してまいります。
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