谷本氏
場を作るためには人間対人間の関係の中で知のコンテンツを共有化し、おもしろい空間をつくることが大切だろう。
続けるためには一回一回を大切にすること、それが結果的に継続につながる。マンネリがないとすれば、そこには変化という工夫があったはずだ。
サロンの特徴は、会費だけで他人の経験を得ることができること。意識と主体性があれば相手のリソースを活用することもできる。そういう意味では知識を求める、興味をもつ意欲を啓発することは大切だ。そのような雰囲気づくりが幹事役の腕の見せどころとなる。だから、参加者が喜んでいる姿を見ればうれしくなる。これは幹事、黒子としての楽しみでもあり、大切なことだ。
今日の話を聞いていて思ったのは、連携や協働には長い目で見ることが大切だということだ。一見無駄に思えることでも、無駄の効用のように意味があると思う。最近では「行動すること」に価値があるという風潮があるが、成功の裏には「考えている」ということがある。流されずに少し立ち止まって考えることは必要だろう。
柵氏
取組を続けるためには楽しい状況を作ることと任せることが必要だ。受講者が楽しいと感じるのは、実は自分にも出番があったとき。受講者がやれることを見つけて行動するようになる。こういう活動の運営は事務局がそれなりに苦労するが、ある時期からは受講者が講師になり、講師がサポーターになり、サポーターが事務局を支えるという人材の循環が生まれる。これが私は何よりもうれしく楽しいことと思っている。ITの時代なので、ネット上の発信を常に把握して状況をベンチマークすれば、任せることはそんなに難しくはない。ITを上手く使えば、もっと任せやすくなると考えている。
場作りは、身近なものをテーマにすること。市民講座も家庭のお困りごとや周りの話題がきっかけだ。我々はITを使っているが、結局は仲間ができたら顔と顔を合わせている。やはり大事なのは、顔を合わせて一緒に考えていくことだろう。インターネット市民塾でも地域で顔を合わせることができる距離の中でやることが最適である。そのためには初めての人でも参加しやすい環境づくりが大切だ。いつも同じ人ばかりが同じように参加している場は他の人が参加しにくい。我々は、リアルとネットの上手く組み合わせて、その傾向を緩和するように工夫している。様々なメディアを活用して情報の接点を増やし、きっかけができた人にはリアルな場に参加してもらえるよう配慮している。
鈴木氏
場作りはいつでも、誰でも、どこからでも入れるようにすることと、来ない人に「どうして来なかったの」など、来にくくなるようなことを決して言わないこと。
続けるためには妄想が役に立つ。「いつかやりたい」がアイデアを生み、反対に義務感は発想を乏しくする。アイデアは溜めておき、良いタイミングで実行することが大切だ。これまでの現場を振り返ると、大体3年のサイクルで人材が育ち、3〜5年目でネットワークができてくる。このタイミングで拠点などのハードを整備すると、地域が動く場が生まれる。NPOにも3〜5年のサイクルがあって、先ほどのエコバッグも5年でグッと伸びた。
行政や大学との連携システムは、正直なところまだまだ途中段階だ。ただ、市民の力は本物になってきている。立ち上げは大変だが、市民が育つと行政も地域運営が楽になっていくので頑張ってもらいたい。大学との連携では、学生のレベルに合わせていると地域活性化に結びつかない。学生にはOBの活躍と課題の変遷を理解させ、蓄積されたものをつないでいくことが大切だ。また、第二の故郷というくらい活動したOBが働き盛りの30代になって、年に1回帰ってきて、また夢を追っていることもある。そういう事例も一つのサイクルだろう。
小松氏
幹事役というのは、実はプラットフォームにつながっていて、一番の秘訣は、プラットフォーマー自らが楽しみながらやること。谷本氏は8割準備と言われていたが、事前準備もきっと楽しみながらやっている。参加者の選び方は独断と偏見とも言われていたが、それが皆さんの共感を呼ぶ原点となっている。楽しむというのは大切なポイントだ。
市民塾の活動では、お互いが先生になったり生徒になったりと関係性が連続している。新しい関係性の創造がまた感動や共感を生み、やる気や取組みを育む。
妄想というのは活動の源泉だ。連続性がないと妄想は起こらず、今までの枠の中だけで考えていると妄想にならない。妄想が源になって、今までにない楽しいことが起き始め、そこからお互いの知恵を少しずつ出し合って徐々に形にしていく。これが重要だ。
これから地域が伸びていくためにはスモールビジネスやコミュニティビジネスのように、マーケットサイズは小さいものの、地域の中で生み出した価値を世界に対して発信して、外貨を獲得することが重要だ。その価値を生み出していくには、NPOの活動が基盤となってくる。最近、新しい公共など色々な言葉で言われているが、今までの官・民・学の区別ではなく、「地域」という括りの中で価値を生み出すための役割分担を作り、そこで得た外貨で新しい取組みを作る。その循環モデルが見えてくると地域は一気に活性化するだろう。
見えないところに価値創造の源泉はある。価値の源泉を探し地域全体で作り上げていく仕組みと担い手づくりがポイントになってくる。アウトカムを急げば急ぐほど良い人材は作れない。秘訣は任せてコツコツと応援することだろう。試行錯誤や失敗、痛い思いが人間を成長させる。そして、フォロワーシップという言葉があるように、前に出ようとしている人材を後ろから押していくことも重要だ。
人と人とのつながりで言えば、柵氏のところのようにソーシャルメディアとローカルメディアを上手に掛け合せると新たな関係が生み出されてくる。多様な関係の中から色々な情報が吸い上げられる仕掛けが重要で、それにつながるのが行政とNPOと大学だ。それぞれの主体間の連携・役割分担を上手く形にすると、より良いプラットフォームができる。しかし、ある主体だけがプラットフォームを運営しようとすると、おそらくプラットフォームにならない。しかし、全く自由にすると「最低限」が守れなくなる。このバランスが難しいので注意が必要だ。
一方、現代人はがんじがらめに管理されて体や心、頭の隙間が無くなるほど詰め込まれているので、隙間を作ってあげられる場が必要だ。「面白輪」はお酒という一つのきっかけで隙間を作っている。地域独自の隙間づくりの場を作っていくことが、新しい人と人とのつながりをつくる第一歩かもしれない。その動きが「丸の内朝大学」や「シブヤ大学」、金沢での「タテマチ大学」の形で世の中に出始めている。
また、これまではジェネラリストをたくさん養成しようしてきた。しかし、それではなかなか価値が生み出せないので、スペシャリストを養成しようとした。ところが、スペシャリストは専門的なところに入り込んで抜け出せなくなってしまった。このバランスをとれる人材が「T型人間」だ。横軸がジェネラルで、縦軸がスペシャリティ。何らかの持ち味なり専門性を持ちつつ、世の中を俯瞰する、広い目で見られる人材を地域で育てていく。Tの縦の軸を深めることで地に足がついた活動を行い、横軸でなるべく広い視野で物を見ながらお互いにつなげていくことができる人材が必要だ。
そのためには自分の頭で考えることが非常に重要になっている。いわゆる自頭(じあたま)を鍛えることによって気付く力が発達する。気付きは創造力の源になる。この自頭を鍛えるには、味覚や感性を磨いておくことが必要である。
鈴木氏も活用されたように、物事を始めるときには公的な資金がひとつのきっかけとなる。これは今後も重要なきっかけだと思う。また、物事を始めるときのお金をシードマネーと言うが、撒いた種が育ってきたときには、それを育てるためのお金も必要になる。育てるためのお金を集める方法の一つに寄付がある。日本も戦前までは寄付文化が根付いており、地域ではお祭りの寄付などその底流がまだ残っている。今、私は寄付をしっかりと集めることができるファイナンスの仕組みづくりに取り組んでいる。この夏の国会でNPO税制が改正されて、NPOに対する税額控除のハードルは低くなった。今後は寄付も一つの財源として活用できるようになればよいと考えている。日本にはまだ民間にお金が残っているので、そのお金をどうやってまちづくりや地域づくりに活かしていくのか、これは重要なテーマの一つだと思っている。