『平成23年度第3回地域力創造セミナー』開催概要

開催日

平成23年9月29日(木)

参加者数

69名  (自治体職員、団体職員、学生等)

次第

13:15〜13:30
主催者挨拶・事業説明
総務省地域力創造グループ 地域自立応援課長  牧 慎太郎
13:30〜14:00
リレーセッション(1)
テーマ:知性と感性の交差点 情報サロン「面白輪」を事例に
講 師:財団法人地域振興研究所 常勤理事・主任研究員 谷本 亙 氏
14:05〜14:35
リレーセッション(2)
テーマ:学び、考え、成長する地域づくり〜インターネット市民塾による知の環流〜
講 師:富山インターネット市民塾推進協議会 事務局長 柵 富雄 氏
14:40〜15:10
リレーセッション(3)
テーマ:夢をカタチに 地域資源を活かした住民主体の地域再生
講 師:COM計画研究所 統括研究員 鈴木 奈緒子 氏
15:25〜16:55
パネルディスカッション
テーマ:地域の主体が活躍する場の作り方、保ち方について考える
コーディネーター:金沢工業大学産学連携室コーディネーター 小松 俊昭 氏
パネリスト:谷本 亙 氏、柵 富雄 氏、鈴木 奈緒子 氏
16:55
閉会挨拶
総務省地域力創造グループ 地域自立応援課 地域支援専門官 秦野 高彦
※閉会後、名刺交換会(情報交換会)を開催(16:55〜17:15)

概要

<リレーセッション(1)> 知性と感性の交差点 情報サロン「面白輪」を事例に
谷本 亙 氏 (財団法人地域振興研究所 常勤理事・主任研究員)
谷本 亙 氏 「面白輪」は昭和61年から始めた、いわゆる飲みニケーション式のサロンである。25年の活動では参加者の人脈づくりはもちろん、「夜なべ談義」の原型になり、「地酒列車」や「カップ酒紀行」、「原色うまいもん図鑑」などのイベント開催、産品の販路開拓につながるなど、新しい取組や関係が生まれるきっかけとなった。
 サロンには様々な種類や歴史があるが、基本的には人と人を結びつけるネットワークとしての役割がある。今では異業種交流会などは当たり前というくらい定着しているが、これを始めたきっかけの一つが自分とは異なった環境の人の話が聞けないかということであった。毎回15〜20人が集まるが、顔ぶれは主婦、企業人、ジャーナリスト、県議会、自治体職員など多彩で、常連もいるが初参加の人もいる。最近は他の地域に出かける合宿スタイルも取り入れ、その地域の人と連携して行っている。
 「面白輪」は、ちゃんとしたお酒と料理を出している飲み会ではあるが、食と酒はすぐに親しくなってもらうためのコミュニケーションメディアであり、その場でどういう話題が出て、どういう情報が交換されるかというのが一番大事な点だ。飲まない人も参加しているので、飲む・飲まないに関係なく、いきなり核心の話ができる、仲良くなれるという雰囲気づくりに気を配っている。
 そのため、訪問するところ、会う人、食べるところ、飲むところ、宿、みやげ品に至るまで、全て自分で企画している。また、参加者も、来てくれたら面白いだろうなと思う人を私や常連の人が誘っており、ある意味では人を選んでくる目利きの部分がある。会場も毎回変えており、また来たいというきっかけづくりにも配慮している。
 大事なのは話のコンテンツ・中身であり、話が極端にならないように一般化して雰囲気を出していくことが必要だ。当日は常連さんが雰囲気づくりを手伝ってくれるので、初めての人も違和感なく話に参加できる。そういう意味では幹事としての私の役割は準備8割、現場2割であり、当日はある程度の雰囲気づくりをしておけば参加者に満足してもらえていると思う。
 サロンには色々な役割や使い方がある。今後も常連の人も初めて来た人もすぐに雰囲気に馴染めて、その人柄がすぐにわかるような場、濃厚な時間を過ごして人間関係を作ってもらえる場を提供していきたい。
<リレーセッション(2)> 学び、考え、成長する地域づくり〜インターネット市民塾による知の環流〜
柵 富雄 氏 (富山インターネット市民塾推進協議会 事務局長)
柵 富雄 氏 「インターネット市民塾」は、市民が自分でネット上に塾を作るという仕組みで、身近なこと、自分が経験してきたことをテーマに開いている。単なるeラーニングではなく、市民講師の活躍の場を生み出すシステムとしている。たとえば、受講者は「家から参加する」だけではなく、「集まって学ぶ」、「現地で学ぶ」ことも多い。また、講義だけではなく、ディスカッションや実習も開かれている。講座数や参加者数は年々増えており、30〜40代の働き盛りの参加が多く、最近は60代の伸び率が高い。
 私たちの一番のミッションは、市民講師を育てることだ。一人ひとりが講座を持つということは、自分が集まってきた人たちに教える、あるいは集まった人たちと一緒に活動をするという形で主役になるということだ。そういう意味では、市民塾は社会デビュー、地域デビューの良い機会・場になっている。
 地域活動には他人と付き合う力や新しいことに向かっていく力、道具を上手く使う力が必要になる。「地域人材」という意味で見ると、市民が塾の講師になることは自分を見つめ直したり、つながりを作ると同時に自らも「キー・コンピテンシー」を身につけ人材力を育てることに役立っている。先輩から学んだり、あるいは自分で学んだりしているうちに学びが段々楽しくなり、単に上から教えられるのではなく、ヨコ型、コミュニティ型で学び合う「知のリレー」や、お互いに知識を交換する「コミュニティ・オブ・プラクティス」が生まれている。受講者が講師に転じて新しい講座を立ち上げる例や、その間の研鑽を生かして70歳を過ぎて会社を興す人、受講者が集まって高齢者の見守りや情報バリアフリーを支援する活動を始めるなど、新たな地域活動と出番が生まれるベースになっている。
 これからの地域マネジメントは、まず市民が共通のテーマで学び合う、小さな場をたくさん作っていくこと。そして、その中で、地域のいろいろな問題を学び、解決の方法を考えていく場を自分たちで作っていくこと。この「自分たちで創り考える」主役感がとても大事で、その過程で市民力が培われていく。このような場をいつでも容易に持つことができ、子育て・働き盛りの世代も含めて、積極的に地域を考える動きを育てていくのが市民塾の役割だ。その上で、このような動きを評価して必要により制度化し、継続運営していくという新しい流れを行政がリードするという役割も、今後は重要になってくるのではないかと思う。
<リレーセッション(3)> 夢をカタチに 地域資源を活かした住民主体の地域再生
鈴木 奈緒子 氏 (COM計画研究所 統括研究員)
鈴木 奈緒子 氏 これまでコンサルタントとして約20年間まちづくりに携わり、5年前にNPOを立ち上げ、大学の非常勤をしながら、あわら市を中心に地域住民とNPO、行政、大学を結ぶ活動に取り組んでいる。ベースとなるJR芦原温泉駅周辺は寂れた街であったが、都市マスタープランの地域別構想を住民参加で検討したことがスタートとなった。その後、全国都市再生モデル調査に採択され、それを原資に活動を行った。
 まずはワークショップを開いて活動の意味をみんなでとことん話し合う。次に、まち点検を行って将来の夢を議論し、それをマップにまとめて目に見える形にした。その後、事例視察を行いながら、皆で景観プランを検討し実現の道筋を共有した。緑化活動では、市と協働して県の助成申請を行い、花を植えるコンテナのデザインはNPO法人awarartと連携し、製作は多世代参加で行った。これを見ていた他地区の住民にも活動が広がり、まちづくりと住民がつながっていった。このため、まちづくり交付金を活用した公園整備では、スムーズにワークショップを立ち上げることができた。公園の竣工式は住民のアイデアでお誕生会というイベントになり、吹奏楽や太鼓の演奏、菓子まき、タイムカプセル、記念植樹などが行われ、その後の維持管理も地域住民が行っている。大阪府堺市美原区でも、あわら市と同様にビジョンを共有して簡単なまち歩きから始めて、花と緑を切り口に活動を発展させた。ここでは美原朝市の開催や農芸高校との連携、あわら市との連携へと取組がつながっていった。
 人をつなぐ取組は、都市の大小や農山漁村などの条件は関係ないと思っている。暮らしや人生にまちづくりを直結させ、身近なテーマから始めることが大切だ。また、首長の理解ややる気のある自治体担当者の配置など、行政が地域人材の出番や機会をつくることも大切なことだ。
 NPOと地域のつながりでは、あわら市ではawarartという団体がまちづくりのワクワク感を創り出している。特に、海外で評価されたオリジナルのエコバッグなど、ちょっとセンスのいいものを地元素材を使って作っている。「いつも放課後プロジェクト」では、自分がやりたいことを部活形式にして、農作業支援や特産品開発に結びつけている。NPOと地域がつながるには、NPOは暮らしの質の向上や少し良いものを見せる、あるいは自分たちが楽しむだけではなく、住民を主役にしたコーディネートを行うなど黒子的な役割、拠点となる場づくりが必要となるだろう。
 大学生と地域は、イベントなどの一過性の関係や卒業による休止が生じやすいが、福井大学の「雑木林を楽しむ会」では、先輩から想いを引継ぐ機会や地域とのコミュニケーションを充実させることによってつながりを保つ流れを模索している。
<パネルディスカッション・会場質疑>
テーマ:地域の主体が活躍する場の作り方、保ち方について考える
コーディネーター:小松 俊昭 氏(金沢工業大学 産学連携室コーディネーター)
パネリスト:谷本 亙 氏、柵 富雄 氏、鈴木 奈緒子 氏

谷本氏
谷本氏 場を作るためには人間対人間の関係の中で知のコンテンツを共有化し、おもしろい空間をつくることが大切だろう。
 続けるためには一回一回を大切にすること、それが結果的に継続につながる。マンネリがないとすれば、そこには変化という工夫があったはずだ。
 サロンの特徴は、会費だけで他人の経験を得ることができること。意識と主体性があれば相手のリソースを活用することもできる。そういう意味では知識を求める、興味をもつ意欲を啓発することは大切だ。そのような雰囲気づくりが幹事役の腕の見せどころとなる。だから、参加者が喜んでいる姿を見ればうれしくなる。これは幹事、黒子としての楽しみでもあり、大切なことだ。
 今日の話を聞いていて思ったのは、連携や協働には長い目で見ることが大切だということだ。一見無駄に思えることでも、無駄の効用のように意味があると思う。最近では「行動すること」に価値があるという風潮があるが、成功の裏には「考えている」ということがある。流されずに少し立ち止まって考えることは必要だろう。

柵氏
柵氏 取組を続けるためには楽しい状況を作ることと任せることが必要だ。受講者が楽しいと感じるのは、実は自分にも出番があったとき。受講者がやれることを見つけて行動するようになる。こういう活動の運営は事務局がそれなりに苦労するが、ある時期からは受講者が講師になり、講師がサポーターになり、サポーターが事務局を支えるという人材の循環が生まれる。これが私は何よりもうれしく楽しいことと思っている。ITの時代なので、ネット上の発信を常に把握して状況をベンチマークすれば、任せることはそんなに難しくはない。ITを上手く使えば、もっと任せやすくなると考えている。
 場作りは、身近なものをテーマにすること。市民講座も家庭のお困りごとや周りの話題がきっかけだ。我々はITを使っているが、結局は仲間ができたら顔と顔を合わせている。やはり大事なのは、顔を合わせて一緒に考えていくことだろう。インターネット市民塾でも地域で顔を合わせることができる距離の中でやることが最適である。そのためには初めての人でも参加しやすい環境づくりが大切だ。いつも同じ人ばかりが同じように参加している場は他の人が参加しにくい。我々は、リアルとネットの上手く組み合わせて、その傾向を緩和するように工夫している。様々なメディアを活用して情報の接点を増やし、きっかけができた人にはリアルな場に参加してもらえるよう配慮している。

鈴木氏
鈴木氏 場作りはいつでも、誰でも、どこからでも入れるようにすることと、来ない人に「どうして来なかったの」など、来にくくなるようなことを決して言わないこと。
 続けるためには妄想が役に立つ。「いつかやりたい」がアイデアを生み、反対に義務感は発想を乏しくする。アイデアは溜めておき、良いタイミングで実行することが大切だ。これまでの現場を振り返ると、大体3年のサイクルで人材が育ち、3〜5年目でネットワークができてくる。このタイミングで拠点などのハードを整備すると、地域が動く場が生まれる。NPOにも3〜5年のサイクルがあって、先ほどのエコバッグも5年でグッと伸びた。
 行政や大学との連携システムは、正直なところまだまだ途中段階だ。ただ、市民の力は本物になってきている。立ち上げは大変だが、市民が育つと行政も地域運営が楽になっていくので頑張ってもらいたい。大学との連携では、学生のレベルに合わせていると地域活性化に結びつかない。学生にはOBの活躍と課題の変遷を理解させ、蓄積されたものをつないでいくことが大切だ。また、第二の故郷というくらい活動したOBが働き盛りの30代になって、年に1回帰ってきて、また夢を追っていることもある。そういう事例も一つのサイクルだろう。

小松氏
小松氏 幹事役というのは、実はプラットフォームにつながっていて、一番の秘訣は、プラットフォーマー自らが楽しみながらやること。谷本氏は8割準備と言われていたが、事前準備もきっと楽しみながらやっている。参加者の選び方は独断と偏見とも言われていたが、それが皆さんの共感を呼ぶ原点となっている。楽しむというのは大切なポイントだ。
 市民塾の活動では、お互いが先生になったり生徒になったりと関係性が連続している。新しい関係性の創造がまた感動や共感を生み、やる気や取組みを育む。
 妄想というのは活動の源泉だ。連続性がないと妄想は起こらず、今までの枠の中だけで考えていると妄想にならない。妄想が源になって、今までにない楽しいことが起き始め、そこからお互いの知恵を少しずつ出し合って徐々に形にしていく。これが重要だ。
 これから地域が伸びていくためにはスモールビジネスやコミュニティビジネスのように、マーケットサイズは小さいものの、地域の中で生み出した価値を世界に対して発信して、外貨を獲得することが重要だ。その価値を生み出していくには、NPOの活動が基盤となってくる。最近、新しい公共など色々な言葉で言われているが、今までの官・民・学の区別ではなく、「地域」という括りの中で価値を生み出すための役割分担を作り、そこで得た外貨で新しい取組みを作る。その循環モデルが見えてくると地域は一気に活性化するだろう。
 見えないところに価値創造の源泉はある。価値の源泉を探し地域全体で作り上げていく仕組みと担い手づくりがポイントになってくる。アウトカムを急げば急ぐほど良い人材は作れない。秘訣は任せてコツコツと応援することだろう。試行錯誤や失敗、痛い思いが人間を成長させる。そして、フォロワーシップという言葉があるように、前に出ようとしている人材を後ろから押していくことも重要だ。
 人と人とのつながりで言えば、柵氏のところのようにソーシャルメディアとローカルメディアを上手に掛け合せると新たな関係が生み出されてくる。多様な関係の中から色々な情報が吸い上げられる仕掛けが重要で、それにつながるのが行政とNPOと大学だ。それぞれの主体間の連携・役割分担を上手く形にすると、より良いプラットフォームができる。しかし、ある主体だけがプラットフォームを運営しようとすると、おそらくプラットフォームにならない。しかし、全く自由にすると「最低限」が守れなくなる。このバランスが難しいので注意が必要だ。
小松氏 一方、現代人はがんじがらめに管理されて体や心、頭の隙間が無くなるほど詰め込まれているので、隙間を作ってあげられる場が必要だ。「面白輪」はお酒という一つのきっかけで隙間を作っている。地域独自の隙間づくりの場を作っていくことが、新しい人と人とのつながりをつくる第一歩かもしれない。その動きが「丸の内朝大学」や「シブヤ大学」、金沢での「タテマチ大学」の形で世の中に出始めている。
 また、これまではジェネラリストをたくさん養成しようしてきた。しかし、それではなかなか価値が生み出せないので、スペシャリストを養成しようとした。ところが、スペシャリストは専門的なところに入り込んで抜け出せなくなってしまった。このバランスをとれる人材が「T型人間」だ。横軸がジェネラルで、縦軸がスペシャリティ。何らかの持ち味なり専門性を持ちつつ、世の中を俯瞰する、広い目で見られる人材を地域で育てていく。Tの縦の軸を深めることで地に足がついた活動を行い、横軸でなるべく広い視野で物を見ながらお互いにつなげていくことができる人材が必要だ。
 そのためには自分の頭で考えることが非常に重要になっている。いわゆる自頭(じあたま)を鍛えることによって気付く力が発達する。気付きは創造力の源になる。この自頭を鍛えるには、味覚や感性を磨いておくことが必要である。
 鈴木氏も活用されたように、物事を始めるときには公的な資金がひとつのきっかけとなる。これは今後も重要なきっかけだと思う。また、物事を始めるときのお金をシードマネーと言うが、撒いた種が育ってきたときには、それを育てるためのお金も必要になる。育てるためのお金を集める方法の一つに寄付がある。日本も戦前までは寄付文化が根付いており、地域ではお祭りの寄付などその底流がまだ残っている。今、私は寄付をしっかりと集めることができるファイナンスの仕組みづくりに取り組んでいる。この夏の国会でNPO税制が改正されて、NPOに対する税額控除のハードルは低くなった。今後は寄付も一つの財源として活用できるようになればよいと考えている。日本にはまだ民間にお金が残っているので、そのお金をどうやってまちづくりや地域づくりに活かしていくのか、これは重要なテーマの一つだと思っている。

セミナー風景 セミナー風景 セミナー風景

ページトップへ戻る