『平成23年度第4回地域力創造セミナー』開催概要

開催日

平成23年11月29日(火)

参加者数

86名  (自治体職員、団体職員、民間企業、学生等)

次第

13:15〜13:30
主催者挨拶・事業説明
総務省地域力創造グループ 地域自立応援課長  牧 慎太郎
13:35〜14:35
基調講演
テーマ:地域ブランド構築に向けた地域資源の見出し方・売り出し方・保ち方
講師:流通科学大学サービス産業学部 教授 高橋 一夫 氏
14:40〜15:20
リレーセッション(1)
テーマ:地域にある宝の発掘と、まちづくりとの連動〜高校生レストラン・まちづくり仕掛人塾の現場から
講師:多気町役場 まちの宝創造特命監 岸川 政之 氏
15:35〜16:15
リレーセッション(2)
テーマ:素材の宝庫・綾部から考える価値の創造と交流のデザイン〜里山とみんなのエックスを活かした都市農村交流の現場から
講師:半農半X研究所代表、NPO法人里山ねっと・あやべスタッフ 塩見 直紀 氏
16:20〜17:20
パネルディスカッション
テーマ:地域資源の創造と地域起業の留意点とポイントを考える
コーディネーター:高橋 一夫 氏
パネリスト:岸川 政之 氏、塩見 直紀 氏
17:25
閉会挨拶
総務省地域力創造グループ 地域自立応援課 地域支援専門官 秦野 高彦
 ※閉会後、名刺交換会(情報交換会)を開催(17:30〜18:00)

概要

<基調講演>
 地域ブランド構築に向けた地域資源の見出し方・売り出し方・保ち方
 高橋 一夫 氏(流通科学大学サービス産業学部 教授))
高橋 一夫 氏 ブランドとは「売れ続けるための仕組み」。だから、ブランドにはマークだけで商品やサービスの「価値」をお客さんに思い浮かべてもらえる力がある。観光では“そこに行くとどんな良いことがあるのか”という期待感が湧かないと選んでもらえない。例えば温泉に行く場合、消費者は自分の経験と口コミやネットで得た知識の中から探す。そして、最も期待が湧き上がった所に「行ってみよう」となる。観光目的は「心身のリフレッシュ」「家族とのふれあい」「友人との付き合い」「好奇心や向上心の満足」の4つに大きく分けられ、この目的がかなう所を私たちは選んでいる。したがって、地域ブランドづくりでは、地域資源で消費者はどんな経験ができるのか、それをどう伝えるかが重要となる。来て経験してもらったことが消費者の期待感を上回る価値のものであれば、間違いなくそこに絆ができ、地域ブランドが生まれる。
 一方、地元と消費者では地域イメージが異なるケースが多い。例えば、首都圏の人の和歌山県のイメージはやはりミカンであるが、世界遺産の熊野古道など歴史・文化でブランド化を進めようとする場合は、このギャップを埋める様々なプロモーションが必要となる。身近なコンタクトポイントはウェブサイトだが、コストをかけられない中、行政は手段やあり方を考えざるを得ない。北海道長万部町のツイッター「まんべくん」はプチ炎上を繰り返しながらフォロワーを集めた。これも新しいプロモーションのあり方と言えよう。
 地域ブランドの価値には「買いたい」と「行きたい」があり、「買いたい」価値は「商品」の意味付けを考え、どんな努力しているのか、いかに美味しいのかなどをお客に伝えることである。例えば、1粒1,000円する佐那河内村の「ももいちご」は、36の限られた農家が手間暇かけているから美味しいのだと言っている。この手間をみると「一度は食べてみたい」と思う。「行きたい」価値も同様に伝えることが必要であるが、「商品」と異なる点は、サービスが複合的なものから構成されているため、具体的イメージを示しにくいことだ。また、情報も誰でも発信できるので、地元理解が共通でないと統一的なブランドはなかなかできない。ここが地域ブランドは難しいと言われるところだ。しかしながら、「長崎さるく」は、市民プロデューサー97人を中心に市民が作り上げ、大渋滞で二度と行きたくないと言われた吉野山の桜も、交通マネジメントで周りの見る目が変わってきた。地元住民が新たなアイデンティティを作り上げたことで観光の復活に結びついている事例もある。また、施設や街並み景観といったハードや担い手も重要だ。特に、観光まちづくりは「外の人の目」に対する意識が大切となる。南信州観光公社や千葉の(株)とみうらは、推進役・プラットホームとして機能している好例だ。
 今日は代表的な事例を紹介したが、実際にはどこもスムーズに進んだ訳ではない。「長崎さるく」もご苦労がたくさんあり、吉野山も最初は地元の大反対。誰もこういう結果を予測できなかった。ブランドづくりは全てがうまくいくとは限らないし、お二人の先生の所も、最初から成功の確信があって始めたわけではないということが著書からも分かる。だけど、“やってみないとどうしようもない”ということを、ぜひ、皆さんと共有したい。
<リレーセッション(1)>
 地域にある宝の発掘と、まちづくりとの連動〜高校生レストラン・まちづくり仕掛人塾の現場から
 岸川 政之 氏(多気町役場 まちの宝創造特命監)
岸川 政之 氏 三重県多気町は松阪牛の主生産地にもなっている1次産業の町。今は「高校生レストランのまち」と呼ばれているが、それはここ10年位の話だ。テレビドラマ化で取組が変わったかと聞かれるが、ドラマ化はオマケに過ぎない。これに踊らさず、以前と変わらずに続けていくことが大事だ。ただし、続けていくには、何かを少しずつ変えていかなければならない。
 今日一番言いたいことは1つ。私たちは気持ちがオープン系だということ。来る人の話をすべて吸収して、次に仕掛けるヒントにしている。その上で、地域資源を見直し、人、モノ、歴史、文化などを一つ一つ手に取って、磨いて、くっ付けて、地域の宝を作っている。
 このポイントは3つ。1つは無いものでやらないこと。無いもの探しはお金がかかるし、根付かない。だから、あるもので行うという発想だ。高校生レストランもすごい高校があるのを10年前に知った。高校は役場から車で大体2分の距離にあるが、県立なので行ったことがなかった。そこですごい先生と生徒に出会い、感動して取組が始まった。「あの高校がなかったら、この取組はできていないのでは」とよく聞かれるが、その通りだ。しかし、その場合は違う仕掛けをしていると思う。なぜなら、私たちは無いものを探していないからだ。
 2つ目は、自分たちで考えること。コンサルタントに委ねることは、短期で完成度の高いものができる反面、自分たちが勉強するチャンスを逃している。長い目で考えると、自己投資ができていない分、組織力が弱くなっていく。
 3つ目はビジネスにすること。「まごの店」は簡単にいうと、料理の道を真剣に目指している子どもたちが、お客様からお金を頂いて真剣勝負の練習をする場である。活動費は月に何十万円もかかるが、これをビジネスにすることで生徒の自己負担をゼロにしている。「せんぱいの店」も利益が出るよう仕掛け、一緒に組んだ企業も利益を得ている。ここが重要だ。
 私がやっていることは実は規制との戦い。前例のないことをやっているので、課題をひとつずつつぶしていく。私のストレスの8割はこれだ。しかし、規制や反対にあう中でも一生懸命話をすると、視点が少しずつ同じ方向へ向き始め、落とし所が見えてくる。
 私たちの町はいろいろな取組をしているが、ほとんど全て続いている。その理由は真剣な大人がたくさんいるからだ。他の地域でも成功している所は、結局、本気になる大人の存在がある。これに尽きると思う。
 今回、相可高校生産経済科の生徒たちと近江兄弟社が一緒になってハンドジェルを作った。最初はまともにプレゼンができなかった生徒が変わっていった。テレビに出ているアイドルではなく、小さな町で農業の勉強している生徒たちが考えたものが大人を感動させて世の中に出ていく。ちょっと愉快だと思う。
 私たちの町は特別ではない。ただ、真剣に真面目に地域の宝を磨いている。今後も子どもたちが東京や名古屋へ出ていくかもしれない。でも、その子どもたちの心の中に故郷がきっちりあれば何人かは残ってくれる。また、多気町には隣のおばちゃんが肴に大根をくれた、私は白菜をあげたという繋がりがある。そういう社会もありかなと思いながら、私たちは地域の宝を一所懸命に作っている。ぜひ、多気町にお越しいただきたい。ゆっくりお話ができると思う。
<リレーセッション(2)>
 素材の宝庫・綾部から考える価値の創造と交流のデザイン〜里山とみんなのエックスを活かした都市農村交流の現場から
 塩見 直紀 氏(半農半X研究所代表、NPO法人里山ねっと・あやべスタッフ)
塩見 直紀 氏 私が故郷綾部にUターンしたのは、内村鑑三の言葉に出会ったことがきっかけとなった。また、会社員時代、会社で環境問題と出会い、持続可能でソーシャルデザインするようなライフスタイルを模索する中で、農ある小さな暮らしをしながら天職を目指す「半農半X」というコンセプトが生まれた。
 この「X」は、自分の大好きなこと、得意なこと、生きがい、使命・ミッションだ。人には様々な「X」があると思う。講演の際、X的な自分の「キーワード」をABCと、3つ出し合ってもらうワークをすると、全てが重なる人はいない。1キーワードだけならライバルは多いが、3つを掛け算すると、すごく個性的になる。例えば、綾部には農業をしながら短歌も詠み、農家民宿を営み、泊った若者の人生相談にのるおばあちゃんがいる。農業をしながらNPOでまちづくりに取り組み、写真にも熱心な青年がいる。私は、この方々を「里山のクリエイティブ・クラス」と呼んでいる。このような半農半X的な生き方をしている88人を紹介した本を作った。
 今、自分が住む地域が大好きな場所だと感じていない人が多いと思う。大好きな場所であることはとても重要だ。大好きな場所に自分のキーワードABCを重ねると何かが生まれる。皆さんは、このABCに何を入れるだろうか。自分のことよりも地域のことが知りたいという方もいると思うが、まちづくりの担当者の皆さんに自分のキーワードがないというのは問題だ。まず自分を象徴するキーワードを持つことが重要ではないかと思う。私は、生命多様な里山空間で、村人だけではなく、旅人の「X」など色々なものを掛け合わせて、「世にないもの」を作っていきたい。住民一人ひとりがキーワードABCを出し合い、掛け算すると、色々なまちづくりができるのではないかと思う。そして、IT技術を使えば、いろいろなABCをつなげていくことができる。竹が好きな人、炭が焼ける人、チェーンソーワークが好きな人・・・などをどんどんつなげればおもしろい取組ができあがる。
 お見せしているスライドは、五右衛門風呂に使う薪を上手に積んでいる写真だ。農機具のトラクターが笑っているように見える写真もある。私はこれを「小さなアート」と呼んでいる。地域にも目もこらせばいろいろな風景がある。この小さなアートを組み合わせることで地域が違って見える。しかし、これもセンス・オブ・ワンダーみたいなものが失われていくと気付かなくなる。地域には眠っているものがいっぱいあると思う。そこで、私は半径3キロ内で宝探しをすることを提案している。小さな範囲の中でどれだけ探せるか。100個、1000個を見つけるのは大変だが、10個なら簡単だ。そしてそれを重ねれば多様となる。現在、行っている「綾部里山交流大学」では、「あるもの(既存のもの)」にアイデアを加え、哲学を持って、他の地域にないことをやろうとしている。やはり最終的にはアイデアがとても重要。哲学あるソフトパワーが重要ではないかと思う。
 アイデアを生むには、色々な人の縁を作っていくことが重要だ。新しいアイデアとは、既存のものの組み合わせ。いかに既存のものを組み合わせていくか、交流を通じて、さまざまなデザインが生まれたらいいなと思っている。
 そして、日本中が、世界中が情報発信する時代において、地域は何を情報発信すればいいのか。私は、最終的には、哲学勝負、コンセプト勝負になると思っている。「綾部里山交流大学」では今年からローカル情報発信学科とローカル社会起業学科を設けて、地域の情報発信のあり方を模索し、また市民みんなが社会起業家になる時代を視野に入れている。
<パネルディスカッション・会場質疑>
 テーマ:地域資源の創造と地域起業の留意点とポイントを考える
 コーディネーター:高橋 一夫 氏
 パネリスト:岸川 政之 氏、塩見 直紀 氏

高橋氏
高橋氏 まず、事前質問のうち講演の中で触れられなかった商店街の問題を考えてみたい。商店街実態調査から商店街が抱える問題をみると、「経営者の高齢化と後継者の不足」、「魅力ある店舗が少ない」など自身の内側に問題があることを商店街の人たちは気付き始めている。たとえば、ショッピングセンターと商店街を比較すると、商店街は閉店時間が店ごとに違い、全体の統一的なコンセプトもないというケースが多い。しかし、高松市の丸亀町商店街ではショッピングセンター的管理をしており、横浜の元町商店街でも協定を結んで運営している。いずれも元気だ。他の商店街もこの方法を思い切って導入しないと変化が起きないのでないか。特に、不動産の所有と経営を分離し、共同事業なども含めて一体的な運営が必要だ。このため、営業者の組織としての商店街組織ではなく、地権者も含めた組織を考え、テナントミックスを考えていく。これは結構難しい話かもしれないが、地域資源を有効に活用する上でも考えていく必要があろう。
 有効なプレスリリースの方法については、某通信社の記者によると、まずは編集する記者たちに、新商品や新サービスの概要を分かりやすく文章化して伝えることだという。しかし、多くの場合は消費者向けのパンフレットやチラシを送ってくるのにとどまり、報道記者向けの内容にはなっていないそうだ。地味でも、正確に客観的に信頼できるリリースが第一歩だと言っている。

岸川氏
岸川氏 商店街や地域の活性化には、私は「真剣」という言葉がキーワードだと思う。本当に真剣に活性化したいのか。地面に這いつくばってでもいいから、やる気があるのか。そうゆう真剣度を上げることが大切だ。一番難しいことだと思うが、それができたら、きっと色々な地域は活性化すると思う。これに秘策はない。みんなが真剣になるよう、どうやって仕掛けるか。具体策は、その地域ごとにいろいろあると思う。
 地域資源の発掘も真剣に見るかどうかにかかっている。自分たちの街を愛したら、人やモノ、歴史、文化の見方が変わってくるだろう。
 人の巻き込み方は、先頭で旗を振るというやり方は難しい。私は、地域の人たちの力をいかに前に出させるか、その人たちの場面を作ってあげられるかにかかっていると思う。
 公務員である自分は、一生懸命、地域にこだわり、向き合ってきた。

塩見氏
塩見氏 個店や市民、地域の「X」を真剣に集めていくことが重要ではないかと思う。ユニークな店やスポットがその地域(まちの一角や村の集落)に3つあればマニアックゾーンになる。「マニアック」、これはもっと使っていいキーワードではないかと私は思う。綾部のあるゾーンでは、町家カフェ、薬膳カフェなど3軒ができて発信力が高まった。たくさん作るのは難しいので、まずは「目標3つ」でいいと思う。
 また、民俗学者の宮本常一さんは佐渡島で地元の人に農具(生活道具)を1000点くらいじゃなく、1万点集めなさいと地域の人に指示したという。1万点というのはなかなか大変だと思うが、そのくらい思い切ってやることも大事だ。分類すれば、その中からおもしろいものが見つかり、特徴も抽出できるかもしれない。私もそれに倣って、来年、綾部全域で2万個のおもしろいアート(地域資源)を探すというのをやろうと思っている。
 すべての人は「X」を持っているという視点で付き合う。みんなから大好きなこと、得意なことなどキーワードを幾つか出してもらい、そこに光を当てたり、新しい組み合わせをつくっていく。そして、地域のやる気も、褒めることがポイントだと思う。

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