『平成23年度第5回地域力創造セミナー』開催概要

開催日

平成24年1月31日(火)

参加者数

123名  (自治体職員、団体職員、民間企業、学生等)

次第

13:15〜13:30 
主催者挨拶・事業説明
総務省地域力創造グループ 地域自立応援課長  牧 慎太郎
13:35〜14:35
基調講演
テーマ:つぶやきを育てる、地域みんなでまちづくり
講師:高知のまちづくりを考える会 代表  畠中 智子 氏
14:40〜15:20 
リレーセッション(1)
テーマ:住民のやる気や主体性を引き出すまちづくり
講師:NPO法人日本上流文化圏研究所 主任研究員  鞍打 大輔 氏
15:35〜16:15
リレーセッション(2)
テーマ:地域遺産や遊休施設の再生をきっかけとしたまちづくり
講師:オフィスフィールドノート 代表取締役  砂田 光紀 氏
16:20〜17:20
パネルディスカッション
テーマ:住民のやる気と行動、モチベーションを育む留意点とポイントを考える
コーディネーター:畠中 智子 氏
パネリスト:鞍打 大輔 氏、砂田 光紀 氏
17:25
閉会挨拶
総務省地域力創造グループ 地域自立応援課 地域支援専門官 秦野 高彦
※閉会後、名刺交換会(情報交換会)を開催(17:30〜18:00)

概要

<基調講演>
 つぶやきを育てる、地域みんなでまちづくり
 畠中 智子 氏(高知のまちづくりを考える会 代表)
畠中 智子 氏 ワークショップという手法で約20年、気楽で形式ばらない話し合いの場づくりを行ってきた。たとえば、相手の顔が間近にあると、前の人の発言を無視した話をする人は現れない。机を合わせるだけで言葉は重なり合い、議論が活発になっていく。
 会場選びも工夫の一つだ。高知県のある村では古民家で行った。それだけで地域の人は「ちょっと行ってみようかな」という気になる。我々が初めて行ったワークショップは小学校の家庭科室。赤岡町では街の社交場であったお風呂屋さんを使った。
 もう一つは「ばっかりよりバラバラ」。団体の長ばかり集めるのではなく、中学生や小学生、おじいさんやおばあさんなど、いろいろな目線の人が集まり意見を出してもらうことも必要だ。ただ、地域の人が大勢の前で話をすることは難しい。しかし、コミュニケーションの最小単位の2人1組であれば皆が語れる。大人と子どもの組み合わせでも相手が1人なら話ができる。そこに学生など「よそ者」が入るとさらに化学変化を起こす。
 「ロ」の字型の会議では「つぶやき」が育たない。ポンと言ったことに目の前の人がポンと返すことで「つぶやき」が育つ。意見を大量に生み出すのではなく、「私の意見はこうだったけれど、あの人の意見はこうだった。2人合わせて、こんな意見が生まれた」。その積み重ねが必要だ。
 そのためには「つぶやき」を書き留めるとことが大切だ。書き留めることで、みんなが目で確認でき、無駄だと思う一言も、あとから生きてくる。捨てるのは簡単だが、書かないと記憶にも残らない。書いておくことで「これとこのアイデアとくっつけると面白い」とさらにアイデアが出始め、皆の「やりたい」気持ちにスイッチが入る。そして、旗上げアンケート等によって「ひとりでもやる」「誰かと一緒ならやる」「ちょっとなら手伝いたい」という前のめりな気持ちを引き出していく。専門家が指摘したから何かが生まれたのではなく、地域の人達によって何かが発見されて、やりたいことを自分たちで決めて実行する。時間はかかるかもしれないが、それがないと後には続かない。
 また、「あまりやりたくない」という人の意見も大切にする。ともすると地域活動は前のめりになりやすいが、「うまくいかないかもしれないよ」と冷や水のような事を言ってくれる人も必要だ。「違うんじゃないのという意見も会議で言ってください」と事前に伝えておくことで、反対意見の人も疎外感を持つことも少なくなる。
 そして、「志は何か」「スケジュールは具体的にどうなのか」「募集人数はどれくらいか」など、決めるべきことを決めていく。こうすることで皆の話し合いのベクトルが揃う。この整理箱を用意することでグループの話を着実に前に進めることができる。
 これを重ねていくと、終わった後には皆いい笑顔になる。より多くの地域の人たちに「おもしろいことができそう」という気分になってもらうことは大事なことだ。特に、子どもたちの言葉には、大人たちの気持ちを押し上げるパワーがある。子どもの地域力を上げるという取組も有効だ。
 地域づくりは「誇り」を見つけ育てていくこと。地域の課題ばかりを口にするのではなく、今もある宝、昔あった宝、なくなるかもしれない宝を見つける。その「誇り」を守り育てていこうという気持ちを一緒に持っておかないと、自ら動くことはないと思う。
<リレーセッション(1)>
 住民のやる気や主体性を引き出すまちづくり
 鞍打 大輔 氏(NPO法人日本上流文化圏研究所 主任研究員)
鞍打 大輔 氏 山梨県の早川町は、面積の96%が森林で、人口が1,300人弱、高齢化率が48%と過疎・高齢化の著しい地域だ。上流文化圏研究所は、町の総合計画の重点施策という位置づけで平成8年に設立された機関で、早川らしい暮らしや文化を際立たせながら、都市や下流域との関係を築き、早川で暮らし続けられる環境をつくることを使命としている。平成18年にNPO法人になり、地域資源の掘り起こしと外部への情報発信、山の暮らしの担い手を育てる住民活動のサポート、山の暮らしの課題解決を3つの柱として取組を行っている。
 最初、「2000人のホームページプロジェクト」と銘打った早川町全員をインターネットで紹介する取組を行い、約1000人の住民を紹介した。町内外150人の大学生の協力を得て、一軒一軒お邪魔して1時間くらい話を聞いて、ホームページを作った。この「効能」は学生に話すことを通じて、住民が自分たちの生き様や地域を見つめ直すきっかけになったこと。学生にとっても大きな意義があり、多くの早川町のファンを得ることにつながった。研究所にとっても、住民の生の声を聞く大事な機会となり、その後のいろいろな活動を考えていく上でのベースになっている。
 次に、地域住民の手で地域資源を探し始め、平成19年には町の事業の一環として町民参加でガイドブックを作った。町内6地区に置いた地区委員を中心に、集落を歩いて地域の資源を掘り起こした。町民108人が参加して、600個以上の地域資源を見つけ、このうち200個弱を選び、地元の人たちで文章やイラストも書いて12巻のガイドブックを作った。これは観光施設やネットでも販売しており、これまで2,500冊以上売れた。最初は「うちの地域には何もない」という声が結構あったが、結果的には地域資源がたくさんあることを認識してもらった。同時に、資源を守りたいという意識も生まれ、自主的な草刈りや清掃が行われている。
 「あなたのやる気応援事業」は平成14年から行っている。この事業は、審査を通過した住民アイデアに助成と助言を行う取組で、廃校を使った宿泊施設「VILLA雨畑」の名物料理「豆腐御膳」や、赤沢地区の廃屋を使ったそば屋など、いろいろな取組が動いている。また、このグループの情報交換会を定期的に開き、進捗状況や悩みをお互いに相談している。途中でくじけそうになっても、同じ志を持った仲間がいることが事業を続ける支えにもなる。この事業は、農水省の補助事業だったので、その後の仕組みとして作ったのが「早川サポーターズクラブ」。その年会費の一部を「あなたのやる気応援事業」の助成金に使わせてもらっている。会員には、生まれた成果をツアーや交流会、商品という形で還元している。会員は約300人で、毎年50万円の予算で2グループをサポートしている。
 何かをやりたいと思っている人は地域の中に結構いるが、家族の理解が得られない、周りの目が気になる、お金がないなどの理由で一歩を踏み出せないでいる。この時、何かの機会や仕組みがあれば、背中をポンと押すことができる。そのときに必要なのは、やる・やらないを本人に決めてもらうこと。合意がとれなくて困っている場合は、しっかりと間に入って話を聞き、そこに寄り添うことも重要だ。それをやるだけで意識が変わって、何か動いてみようかということにもなる。さらに、すべての関係者の思いを反映させ、みんなで共有する仕組みも重要だ。本当に些細な意見でもしっかり取り上げて、どこかに位置づける。
 活動が活発化してくると、専門的なサポートも必要になってくるが、まず大事なのは住民にいかにやる気を出してもらうか、主体性を出してもらうかということであり、そのためにはきめ細かいサポートをやっていかなければいけない。
<リレーセッション(2)>
 地域遺産や遊休施設の再生をきっかけとしたまちづくり
 砂田 光紀 氏(オフィスフィールドノート 代表取締役)
砂田 光紀 氏 スキルやテクニックだけを磨いても地域振興は成り立たない。「地域の活性化」という言葉には、人それぞれに色々な姿が思い描かれる。全国各地が地域おこしに取り組んでいる中で、自分たちの地域は何を目指すのか、すなわち「志(こころざし)」を考えることが大切だ。地域振興の要はお金ではない。関わる人びとの想いや情熱、作り上げる楽しさや苦しさを共有することを通じて、地域に価値が生まれていく。
 この時、地域活性化の方向性を整理するのに便利なのが「演出」の発想だ。この発想法で考え方や人の力など色々なものを整えていく。地域の何を良くするのかによって脚本は変わる。人を感動させる・心に深く記憶が刻まれるような体験・感動の場面を考えることも重要だ。そのためには、文化、歴史、風習伝承など地域独自のものを正しく手間暇をかけて磨き上げる必要がある。お金ではなく、人手や時間をかけ、本気で考えることに手間暇をかけ、磨くことで資源は変わってくる。この際、一人よがりではなく客観的な視点でその良さを検証することも必要だ。また、大切なものを見落とさないためにも地域を歩いて、見て、探る。そして、自分が知ったこと、分かったことを周りの人に伝えていき、そのために写真などの映像で残すことも大切なポイントだ。
 次に「素材を語る」こと。素材を活かす方法について語らい、苦しむこと。素材を活かすには、お金や人手、場所など色々なことで悩む。でも苦しみがないところに良いものは生まれない。
 そして、各人が一番得意なところを活かすよう役割分担をする。この取組は「何のために、誰のためにやるのか」が見え、「やらなければならない」と皆で一致したときに、「私はこれができます」「私はあれができます」となる。この際、地域でできること、できないことは、はっきり分けたほうがいい。できないことは地域外の人にも頼む。最後はお金の使い方をしっかり考える。
 このような発想法で実現した事例としては肥薩線の取組みがある。嘉例川駅では明治36年開業の古い駅舎をレトロに再生し、昭和30?40年代に造られた隼人駅の外壁は地元の竹で覆った。「SL人吉」では、車内アナウンスで乗客に「『手を振る運動』をしていますので、外に人がいたら手を振ってください」とお願いし、さらに沿線市町村には、SL人吉を見たら手を振るように地域の方々に周知してもらった。「手を振る」ことは当然タダであるが、たったこれだけのことで旅が楽しくなり、みんながいい気持ちになれる。
 鹿児島県長島町の衰退した物産販売所の再生では、料理が得意なお姉さん、おばちゃんを中心に独自のヘルシーメニューを提供している。建物はシックにリニューアルし、ランチョンマットは役所でコピー。箸袋はゴム印を750円で作って自作した。しかし、印刷したよりも気持ちのいい箸袋ができる。これがお金じゃない手間。お客さんの数が落ちてきたときは、皆で得意なジャガイモ料理を作って、「ジャガイモ料理始めました」という折り込みを入れた。カフェもやりたいという話になり始めた。どんどん自分たちで工夫するようになっている。
 同じ長島町の離島である獅子島では、食事をする場所がないので、漁港にレストランを作った。ただ板を置いて、それに柱を建て、日よけに白いテントをかける。これを「獅子島レストラン」と名付けて、料理は隣の公民館の厨房で作って出している。今、ここには毎週大型バスでお客さんが来ており、半年で1,000人を超えた。今まで観光客を受け入れたことがなかったので、受入体制など、いろいろな面で皆さん試行錯誤中だ。
 どんな取組でも始める際には「誰が作るのか」「お金がかかる」などの批判的な意見がたくさん出る。しかし、アイデアを出すことで解決策がみつかり、地域の得意技が活きてくる。ただし、初めから100点満点のものを作ろうとするとアイデアが出なくなり、自分たちのアイデンティティもどんどん失われていく。地域を活かす演出には、壊れたらまた作ればいいという発想も必要だろう。
<パネルディスカッション・会場質疑>
 テーマ:住民のやる気と行動、モチベーションを育む留意点とポイントを考える
 コーディネーター:畠中 智子 氏
 パネリスト:鞍打 大輔 氏、砂田 光紀 氏

畠中智子氏
畠中智子氏 「住民のやる気と行動、モチベーションを育む留意点とポイントを考える」というテーマを「やる気スイッチをONにするツボ」、「行動につなげるプロセスの編み出し方」、「モチベーションを保ち続ける工夫」の3の視点に分けて議論したい。
 やる気のスイッチをオンにするツボは、それほど難しいものではなく、誰かがその思いを受け止め、聞くことが第一歩だ。以前、平均年齢83歳のワークショップで車いすのお年寄りたちに子ども時代の話を聞いたら、話しているうちに顔が生き生きしてきて、最後には全員車いすから立ち上がって話をしていた。人は自分の思いを聞いてもらうことで、ものすごくパワフルになると実感した。
 行動につなげるプロセスの編み出し方としては、小さい達成感が大切だろう。その効果を外のちょっと違う目線で意味付けする人がいると喜びは倍増する。ただ、このプロセスでは、産みの苦しみも必要で、急ぎすぎない、時間を丁寧にかけることも必要だ。
 モチベーションを保ち続ける工夫の一つに、子ども社会の中に位置づけることがある。「とさっ子タウン」のお手本であるドイツのミュンヘンでは、子どもが関わっていないプロジェクトは1つもないと言い切るくらい子どもの視点、目線をあらゆるプロジェクトに生かしている。子どもには大人を動かす力がある。子どもと一緒に活動するということも一つの方法だろう。

鞍打大輔氏
鞍打大輔氏 やる気のスイッチをオンにするツボは、住民の人たちが持っている想いを汲み取る機会や場を作り上げることだと考えている。
 行動につなげるプロセスの編み出し方は、議論を進めていく中で、毎回毎回、積み上がりやステップアップしていくことが実感できるような機会のデザインが重要だろう。もう一方で、急ぎすぎないことも重要。住民は行政のスピード感に慣れていないし、即決できないことも多い。少し行ったり来たりしながら徐々に住民の気持ちが高まってくるのを待つということもすごく重要だと思う。
 モチベーションを保ち続ける工夫としては、初めの段階ではハードルをあまり高く設定せずに、できることを一つずつクリアしながら自信をつけてもらうことが重要だ。また、簡単に満足させないことも重要だと思う。満足した途端に停滞するケースも少なからず見受けられる。
 住民がやりたいことに寄り添うということがものすごく重要だ。こちらが企画したものに本気で取り組む人は少ない。住民から何かアイデアが出てくるまで、しっかり待って、出てきたものをしっかり育てるということがすごく重要だろう。

砂田光紀氏
砂田光紀氏 やる気のスイッチをオンにするツボは、それぞれの得意分野を持ち寄れる仕掛けが一番いいのではないか。そのような取組は楽しい。楽しいことが非常に大切だ。
 行動につなげるプロセスの編み出し方は、そこに暮らすそれぞれの人が自分の居場所を実感できる取組にすること。役割を作るということがポイントだ。あと、地域の人がつながる仕組み。お互いに何ができるのかが解れば、自然に取組は広がっていく。
 モチベーションを保ち続ける工夫としては、憧れや誇りがある。例えば、いい祭り、続いている祭りは、子どもたちが憧れを抱く祭りだ。おそらく祭り以外も同じだと思う。本質を磨き高めれば、憧れや誇りが高まっていく。これに加えて、その本質を伝える語学力アップが必要だ。その素晴らしさ・魅力を皆がイメージできる言葉で伝えられるかによって、地域のイメージまで決まってくる。対外的にも、次の世代にも「大事にしなきゃダメなんだ」というのを明確に伝えるためにも、言葉を考えてほしい。

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