加藤種男氏
今、世の中では市場や競争だけが正しいという風潮がある反面、相互扶助も重要だという認識も強くなっている。功利的には何の効果もないが故にアートは、社会の中でみんなが助け合って生きていこうとするときには結構力強い味方になる。その一方で、先ほどの話のとおり、アートには外から人を呼ぶインパクトも秘めている。
アートプロジェクトには、民間が主導するタイプと行政が主導するタイプがあるが、いずれにせよ、両者がうまくかみ合っているケースは、批判も含め議論を丁寧にしている。アートの一番おもしろいところは、意表を突かれるというか、まったく想定していないものが生まれてくること。これがアートの価値だ。そこを双方がキチンと議論した上で認識することが大切だ。
また、アートによる地域振興を進めるには、たとえば、行政とアーティスト、たとえば、現場の若い専門家たちと決定権のある人々など、ものの見方や価値観が異なる両者を如何につなげるが重要だ。両方の言語を駆使しながら通訳をして、双方を繋いでいくことがポイントとなろう。
野田邦弘氏
官と民それぞれWin・Winの関係にすることが絶対に必要で、これがないと持続可能にはならない。それができない一つの理由は、行政の担当者が人事異動でどんどん変わるからだろう。当然、民間にも課題は沢山ある。その中でうまく組んでいる事例を見ると、やはり目標を共有している。目標が共有されているわけだから、成果が出なかったら交代いう約束がちゃんとできる。そういう仕組みを考えること。横浜がうまくいったのは、委員会で目標評価制度を作って、それで動かし始めた。そして、始まったらNPOや民間の人に任せてゴチャゴチャ言わない。その代わり2年、3年後にチェックさせてもらいました。制度設計をきっちりやって、目標を共有して、あとは任せて口を出さないが評価はする。これが大切な一つのポイントだと思っている。
あと、外から人を呼ぶためには、レベルの高いものがないと来ない。それには費用がかかる。観光客を呼んで経済効果を上げるにはコストがかかるという点を行政は理解することが大切だ。
熊倉純子氏
欧米には、作品プロジェクトはあるが、行政と市民と若いアーティストたちが街を一緒に共創する文化はない。アーティストが市民と同じ目線で物を考えるという発想は日本人にしかない。これからの市民文化というのは、出し物の観客として住民を呼ぶのではなく、街でプロジェクトを一緒に行い、文化でどう地域に働きかけていくのかを一緒に考えていくスタイルが重要かと思う。その方が皆生き生きし、もっと地域とつながると考えている。
一方、プロを活かす場合は、動いてもらうために、あの手この手を尽くすのがマネジメントだろう。それには街の人を必死にさせる。その前に担当者が必死になる。そして、「どうしてもやりたい」という意識をキチンと作る。
そして、やるのだったら、ちゃんと汗かいて、どこにニーズがあるのかを探る。ほかにはないプライスレスという演出を考える。おもしろいことに仕立ててくれるプロフェッショナルを企画に入れるのも一つの方法だ。