市場の動向
インターネット・ブロードバンド市場
飽和状態にある移動体通信市場と比べて、ブロードバンド市場はまだ十分に開発が進んでおらず、成長の余地がある。特にケーブルモデム、光ファイバの利用が顕著に増加している。
ブロードバンド市場は、テレフォニカ・アルゼンチン(TdA)と、2018年1月にケーブルビジョンとの合併が完了した最大手テレコム・アルゼンチンの複占状態にあり、両社を合わせたシェアは6割に及ぶ。両社の最大のライバルとなるアメリカ・モビル系テルメックス・アルゼンチンは加入者の獲得に苦戦しており、光(FTTH)サービスの展開で巻き返しを図ろうとしている。このほかの競合事業者としては、ケーブルテレビ事業者のTeleCentro、Supercanal、IPLAN(LiV)がいる。
2021年10月には、ブエノスアイレスを拠点とするB2B接続プロバイダのダトコ・グループが3.5GHz帯を使用した5G固定無線アクセス(FWA)の試験運用を実施した。
固定ブロードバンド加入数及び加入率(2016~2020年)

2016年 | 2017年 | 2018年 | 2019年 | 2020年 | |
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7,223 | 7,843 | 8,474 | 8,793 | 9,572 |
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16.6% | 17.8% | 19.1% | 19.6% | 21.2% |
出所:ITU World Telecommunication/ICT Indicators Database
移動電話市場
デフォルト(債務不履行)の危機が深刻化し、通信インフラへの設備投資が減少したことで、2013年以降、移動体通信市場は縮小している。2015年に誕生したマクリ政権(当時)が経済の健全化を図ったが、2021年現在も市場の縮小傾向には歯止めがかかっていない。
移動体通信市場はここ数年、クラロ・アルゼンチン、モビスター・アルゼンチン、テレコム・パーソナルの3社の寡占状態が続いている。
モビスター・アルゼンチンは2017年11月に国内で最初の5Gサービスの実証実験を行った。実験はエリクソンの協力の下、28GHz帯を使用しブエノスアイレスで行われた。同社は2021年から5Gの商用サービスを開始する。一方、ライバルのテレコム・パーソナルは2018年4月に5Gサービスの実証実験を実施し、2021年2月には動的周波数共有(DSS)方式による5Gサービスをブエノスアイレスで提供開始しており、本格的な5Gサービスの運用は2021~2022年頃を計画している。
移動電話加入数及び加入率(2016~2020年)

2016年 | 2017年 | 2018年 | 2019年 | 2020年 | |
---|---|---|---|---|---|
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63,720 | 61,897 | 58,598 | 56,353 | 54,764 |
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146.5% | 140.9% | 132.1% | 125.8% | 121.2% |
出所:ITU World Telecommunication/ICT Indicators Database
固定電話市場
2000年の通信自由化以降も、旧国営通信事業者Entelの資産を引き継いだ既存事業者と呼ばれるTdAとテレコム・アルゼンチンの2社で約9割のシェアを占めている。競合事業者には、約250社からなる地元の小規模な協同組合で構成される公営企業FecotelやFecosurに加えて、外資系アメリカ・モビル傘下の固定通信事業テルメックス・アルゼンチン等がある。
固定電話加入数及び加入率(2016~2020年)

2016年 | 2017年 | 2018年 | 2019年 | 2020年 | |
---|---|---|---|---|---|
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10,165 | 9,744 | 9,764 | 7,757 | 7,356 |
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23.4% | 22.2% | 22.0% | 17.3% | 16.3% |
出所:ITU World Telecommunication/ICT Indicators Database
放送市場
地上放送
全国向け地上放送は、国営放送RTAが運営するTelevision Publica Argentinaと商業放送の5社(Telefe、El Trece、El Nueve、Net TV、America)が実施している。地上放送のチャンネルはすべて衛星経由で全国のケーブルテレビ事業者に配信されている。
有料放送
国家コミュニケーション機関(ENACOM)によると2021年3月現在、有料放送契約件数は約961万件。このうち衛星放送の契約件数は約226万件、世帯契約率は15.9%。一方、 ケーブルテレビ契約件数は、2021年6月現在、約735万件、世帯契約率は51.7%である。ただし、近年の経済危機の影響やOTTサービスの隆盛で、ケーブルテレビ業界の成長は鈍化傾向にある。
ケーブルテレビ最大手は、テレコム・アルゼンチンとの合併が発表されたケーブルビジョンである。衛星放送は、米国系のディレクTVアルゼンチンが1998年に最初の衛星直接受信サービスを開始している。
重要政策動向
国家ブロードバンド政策
2021年10月、エネルギー庁は「連邦電気輸送計画(Plan Federal de Transporte Eléctrico)」の一環で敷設された光ファイバ網のうち、未使用の光ファイバ回線4,405kmへのアクセスを許可した。この光ファイバ網は14州にまたがり、光ファイバ・バックボーン整備計画「Red Federal de Fibra Optica」を補完するものとなる。
5Gの動向
ENACOMは2021年3月15日~19日にかけてブエノスアイレスの本部で政府関係者、専門家、業界関係者を集めて5G技術のデモを実施した。
ENACOMはこれまでにモビスター・アルゼンチンとテレコム・パーソナルに対し、5Gの実証実験に28GHz帯を使用することを許可しているが、今のところアルゼンチン政府はどの周波数帯を5G用にオークションにかけるのか明らかにしていない。
基礎データ集
国の基礎データ
- 政体
- 共和制
- 面積
- 278万400㎢
- 人口
- 4,520万人
- 首都
- ブエノスアイレス
- 公用語
- スペイン語
経済関連データ
- 通貨単位
- 1ペソ(ARP)=1.13円(2021年9月末)
- 会計年度
- 1月から1年間
- GDP
- 3,892億8,806万 USD(2020年)
出所:World Bank, World Development Indicators Database
法律
通信 | アルゼンチン・デジタル法、電気通信サービス免許規則 |
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放送 | 視聴覚コミュニケーション・サービス法 |
監督機関
通信 | 公共イノベーション庁、国家コミュニケーション機関 |
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放送 | 公共イノベーション庁、国家コミュニケーション機関、メディア・パブリックコミュニケーション事務局 |