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令和3年版
地方財政白書
(令和元年度決算)

7 財政マネジメントの強化

地方公共団体や公営企業が、中長期的な見通しに基づく持続可能な財政運営・経営を行うためには、自らの財政・経営状況、ストック情報等を的確に把握し、「見える化」することが重要であり、地方公会計の推進、地方財政の「見える化」や公営企業等の経営改革に取り組む必要がある。

(1)地方公会計の整備・活用の推進

地方公会計は、現金主義会計による予算・決算制度を補完するものとして、発生主義・複式簿記といった企業会計的手法を活用することにより、現金主義会計では見えにくいコスト情報(減価償却費、退職手当引当金等)やストック情報(資産等)を把握することを可能とするものである。令和2年3月31日時点において、平成30年度末時点の状況を反映した固定資産台帳については都道府県及び市町村の83.1%に当たる1,485団体が整備済となり、平成30年度決算に係る財務書類(貸借対照表、行政コスト計算書、純資産変動計算書、資金収支計算書の財務書類4表をいう。)については都道府県及び市町村の80.4%に当たる1,438団体が作成済となっている。こうした状況を踏まえつつ、固定資産台帳及び財務書類(以下「財務書類等」という。)のさらなる活用を図る観点等から、全ての団体において、決算年度の翌年度末までに財務書類等の作成・更新が行われることが求められる。

また、総務省においては、各地方公共団体が作成した財務書類に関する情報等を集約し、統一的な様式に基づく比較可能な形で公表しているところであり、平成30年度決算については、令和2年度末に公表することとしている。

さらに、令和元年度における財務書類等の活用状況に関しては、各種指標の分析を行った団体は一定数あるものの、公共施設マネジメント等に活用した団体は依然として一部の団体に限られていることから、財務書類等から得られる情報を資産管理や予算編成等に積極的に活用していくことが重要であり、総務省においては、これらの取組に関する具体的な活用事例を毎年度とりまとめて公表するとともに、地方公共団体に周知している。

(2)地方財政の「見える化」の推進

地方財政の「見える化」については、「地方財政白書」や「決算状況調」、「財政状況資料集」等により積極的な情報開示を行ってきた。

「財政状況資料集」について、平成27年度決算からは、住民一人当たりのコストについて性質別や目的別で網羅的に公表するとともに、施設類型別の有形固定資産減価償却率*7などのストックに関する情報についても、固定資産台帳の整備に合わせて順次充実を図り、経年比較や類似団体比較を行うことができるようにした。また、平成29年度決算からは、基金の使途・増減理由・今後の方針等について、新たに項目を追加し、公表している。

地方公共団体においては、住民等に対する説明責任をより適切に果たし、住民サービスの向上や財政マネジメントの強化を図る観点から、「財政状況資料集」等の活用による住民等へのより分かりやすい財政情報の開示に取り組むとともに、公表内容の充実を図っていくことが求められる。

こうした中、それぞれの地域の実情や住民のニーズを踏まえて実施されている多種多様な地方単独事業(ソフト)についても、決算情報の「見える化」に向けた取組が進められてきたところである。令和2年9月には、地方単独事業(ソフト)の平成30年度決算に係る試行調査結果を公表したところであるが、同試行調査について、地方公共団体から、歳出区分の設定のあり方等に係る意見が示されており、引き続き、地方公共団体の意見等も踏まえながら、「見える化」のあり方を検討することとしている。

(3)公営企業等の経営改革

公営企業は、料金収入をもって経営を行う独立採算制を基本原則としながら、住民生活に身近な社会資本を整備し、必要なサービスを提供する役割を果たしている。今後の本格的な人口減少等に伴うサービス需要の減少や施設の老朽化に伴う更新需要の増大など、公営企業を取り巻く経営環境が厳しさを増す中にあって、各公営企業が将来にわたってこうした役割を果たしていくためには、経営戦略の策定・改定や抜本的な改革等の取組を通じ、経営基盤の強化と財政マネジメントの向上を図るとともに、公営企業会計の適用拡大や経営比較分析表*8の活用による「見える化」を推進することが求められる。また、第三セクター等については、地方公共団体の財政に及ぼすリスクを踏まえ、各地方公共団体において、第三セクター等の経営健全化のための方針の策定・公表を推進することが求められる。

ア 公営企業の更なる経営改革の推進について

(ア)経営戦略の策定・改定の推進

経営戦略については、令和2年度末までに策定を完了するよう各地方公共団体に要請している。第48表のとおり、令和2年3月31日時点では、63.3%の事業が策定済、92.3%の事業が期限内に策定を完了する予定となっている。

第48表 公営企業経営戦略の策定状況(R2.3.31現在)

また、策定済の経営戦略についても、取組の進捗と成果を一定期間ごとに評価、検証した上で、収支均衡を図る具体的な取組を再検討し、3年から5年以内に経営戦略の改定を行うことが求められる。

そのため、地方公共団体に向けた支援策として、「経営戦略策定・改定ガイドライン」(平成28年1月作成、平成31年3月最終改訂)や、事業ごとの具体的な策定・改定実務の手引書となる「経営戦略策定・改定マニュアル」(平成31年3月作成)を公表しているほか、後述する「経営・財務マネジメント強化事業」を令和3年度から創設することとしており、これらの積極的な活用が望まれる。

なお、病院事業は、平成27年3月に、「新公立病院改革ガイドライン」(平成27年3月31日付け総務省自治財政局長通知)により、経営戦略に代えて、「新公立病院改革プラン」の策定を要請し、全ての公立病院が策定済である。

(イ)抜本的な改革の検討の推進

各公営企業が不断の経営健全化等に取り組むに当たっては、事業ごとの特性に応じて、民営化・民間譲渡、広域化等及び民間活用といった抜本的な改革等に取り組むことが求められる。

その取組状況は、第49表のとおり、令和元年度の1年間で、民営化・民間譲渡12件、広域化等66件などとなっており、例えば、

第49表 令和元年度における公営企業の抜本的な改革等の取組状況
  • 水道事業及び下水道事業については、広域化等や公共施設等運営権制度を含むPPP/PFI手法、民間委託などさらなる民間活用の取組が進められている。
  • 病院事業については、再編・ネットワーク化、地方独立行政法人化や指定管理者制度の導入を含む経営形態の見直し、経営の効率化等の取組が進められている。

総務省においては、各公営企業の取組のうち、特に他の地方公共団体において参考となる取組について先進・優良事例集を作成しており、毎年度更新の上、地方公共団体への周知を行っている。

(ウ)公営企業の経営状況の「見える化」の推進

公営企業の経営状況の「見える化」については、各公営企業の経営状況の把握や財務マネジメントの向上に有用であることから、公営企業会計の適用拡大及び経営比較分析表の作成・公表を柱として推進している。

a 公営企業会計の適用拡大

公営企業会計の適用については、「公営企業会計の適用の更なる推進について」(平成31年1月25日付け総務大臣通知)及び「公営企業会計の適用の推進に当たっての留意事項について」(平成31年1月25日付け総務省自治財政局長通知)等において、

  • 下水道事業及び簡易水道事業を重点事業とし、人口3万人未満の市町村において令和6年4月1日までに公営企業会計に移行すること
  • 重点事業以外の事業についても、公営企業として継続的に経営を行っていく以上は、原則として公営企業会計の適用が求められること
  • 市町村における公営企業会計への移行が円滑に進むよう、都道府県において、個別の市町村の取組状況を踏まえた助言等の支援を行うこと

等としている(第130図)。

第130図 公営企業会計の適用拡大に向けた新たなロードマップ

令和2年4月時点における全地方公共団体の公営企業会計適用への取組状況は第50表のとおりであるが、引き続き、各地方公共団体における取組状況のフォローアップや、経営・財務マネジメント強化事業等により、さらなる取組を促進することとしている。

第50表 公営企業会計適用の取組状況(R2.4.1時点)

b 経営比較分析表の活用

経営比較分析表については、総務省において、水道事業、簡易水道事業、下水道事業、交通事業(自動車運送事業)、電気事業、観光施設事業(休養宿泊施設事業)、駐車場整備事業、病院事業及び工業用水道事業の9分野のひな形を作成し、これを元に各事業において作成・公表している。経営比較分析表が、各公営企業において経営課題の把握や経営改革の検討に活用されることが期待される。

(エ)主な事業における経営改革の取組

a 水道事業

水道事業を取り巻く経営環境が厳しさを増す中、広域化、適切なストックマネジメント、料金収入の確保、民間活用、ICT等の利活用によるデジタル化の推進などに取り組むことで持続可能な経営を確保すべきである。

特に、広域化については、「「水道広域化推進プラン」の策定について」(平成31年1月25日付け総務省自治財政局長・厚生労働省大臣官房生活衛生・食品安全審議官通知)を発出しており、都道府県において、「水道広域化推進プラン」を令和4年度末までに策定するよう要請している。なお、「水道広域化推進プラン」の策定に向けた取組を支援するため、「水道広域化推進プラン策定マニュアル」(平成31年3月)を発出し、策定に当たっての実務上の参考資料として、プランの全体像や標準的な記載事項等を示している。さらに、令和2年12月に、連携体制の構築やシステム標準化・共同化を含むデジタル化の推進の検討等を内容とするプラン策定に当たっての留意事項を示している。また、引き続き多様な広域化に伴う施設の整備等に対する地方財政措置を講じることとしている。

b 下水道事業

下水道事業を取り巻く経営環境が厳しさを増すことを踏まえ、広域化・共同化、汚水処理施設の最適化、適切なストックマネジメント、使用料収入の確保、民間活用、ICT等の利活用、公営企業会計の適用などに取り組むことで持続可能な経営を確保すべきである。

特に、広域化・共同化については、「汚水処理の事業運営に係る「広域化・共同化計画」の策定について」(平成30年1月17日付け総務省自治財政局準公営企業室長等通知)を踏まえ、都道府県において、令和4年度末までに「広域化・共同化計画」を策定するよう要請するとともに、令和3年1月には、システム標準化を含むデジタル化の推進に関する事項などを同計画に盛り込むよう要請している。また、引き続き広域化・共同化に伴う施設の整備費等に対する地方財政措置を講じることとしている。

c 病院事業

公立病院は、地域における基幹的な公的医療機関として、へき地医療、感染症をはじめとした救急・小児・周産期などの不採算医療や高度・先進医療を提供する重要な役割を果たしているが、多くの公立病院において、経営状況の悪化や医師不足等のために、医療提供体制の維持が厳しい状況になっている。また、人口減少や少子高齢化が進展する中で、医療需要が大きく変化することが見込まれており、地域ごとに適切な医療提供体制の再構築に取り組んでいくことが必要になっている。

そのため、公立病院を経営する地方公共団体においては、「新公立病院改革ガイドライン」(平成27年3月31日付け総務省自治財政局長通知)に基づき、地域医療構想と整合を図りながら新公立病院改革プランを策定し、地域の実情を踏まえつつ、再編・ネットワーク化、経営形態の見直し、経営の効率化等の公立病院改革が進められてきたところである。

なお、厚生労働省においては、地域医療構想の実現に向けた具体的な取組について、各地域の地域医療構想調整会議において議論・検証を行うよう、都道府県及び医療機関に要請しているところであるが、その後の新型コロナウイルス感染症への対応状況に配慮し、令和2年度冬の感染状況を見ながら、都道府県等とも協議を行い、議論・検証の具体的な工程について改めて検討することとされている。これを受け、総務省においては、「新公立病院改革ガイドライン」の改定等を含む取扱いについて、その時期も含めて再整理することとしている。

公立病院に対する財政支援措置については、へき地医療や不採算・特殊部門に係る医療を担う公立病院の役割を踏まえ、不採算地区に所在する中核的な公立病院に対する特別交付税措置を令和2年度から創設したほか、医師確保対策など、所要の地方財政措置を講じている。

イ 第三セクター等の経営改革の推進について

各地方公共団体においては、財政規律の強化と財政的リスク管理の一環として、第三セクター等のうち、出資比率が高い法人や損失補償等の財政援助を行っている法人等、経営が著しく悪化した場合には、地方公共団体の財政に深刻な影響を及ぼすことが懸念される法人について、自らの判断と責任により経営効率化・健全化に取り組むことが必要である。

総務省においては、令和元年度決算で、地方公共団体が出資又は出えん(以下「出資等」という。)を行っている第三セクター等の中で、地方公共団体が25%以上の出資等を行っている法人のうち債務超過である法人や損失補償等を行っている1,112法人について財政的リスクの調査を実施し、地方公共団体別に、調査対象法人全ての結果を公表したところである。

この調査対象法人のうち、275法人において一定以上の財政的リスクが存在するものとなっている。具体的には、<1>債務超過の法人は222法人、<2>時価評価した場合に債務超過になる法人は8法人、<3>土地開発公社で債務保証などの対象となっている5年以上の長期保有土地の簿価総額が標準財政規模の10%以上のものは25法人、<4>地方公共団体の標準財政規模に対する損失補償などの額の割合が実質赤字比率の早期健全化基準相当以上の法人は45法人となっている(複数項目に該当する法人がある。)。

このような法人については、「第三セクター等の経営健全化方針の策定と取組状況の公表について」(令和元年7月23日付け総務省自治財政局公営企業課長通知)により、地方公共団体に対して、経営健全化のための具体的な対応等を内容とする経営健全化方針を作成し、着実な取組を実施するとともに、取組状況を公表するよう要請している。

(4)地方公共団体の経営・財務マネジメント強化事業の創設

人口減少が進展する一方で、インフラ資産の大規模な更新時期を迎える中、財政・経営状況やストック情報等を的確に把握し、「見える化」した上で、中長期的な見通しに基づく持続可能な財政運営・経営を行う必要性が高まっている。

しかしながら、地方公共団体においては、人材不足等のため、こうした経営・財務マネジメントに係る「知識・ノウハウ」が不足し、小規模市町村を中心に公営企業会計の適用やストックマネジメント等の取組が遅れている団体もある。

こうした状況を踏まえ、地方公共団体の経営・財務マネジメントを強化し、財政運営の質の向上を図るため、地方公共団体金融機構との共同事業として、令和3年度から、団体の要請に応じてアドバイザーを派遣する事業を創設(第131図)することとしている。

第131図 経営・財務マネジメント強化事業の創設

この事業では、「公営企業の経営戦略の策定・経営改善」、「公営企業会計の適用」、「地方公会計の整備」、「公共施設等総合管理計画の見直し」の4つのテーマについて、個別の市町村や公営企業に対して、継続的にアドバイザーを派遣して伴走型の支援を行うこととしている。



*7 保有する償却資産の取得価額等に対する減価償却累計額の比率。耐用年数に対して、資産の取得からどの程度経過しているのかを表す指標。

*8 経営比較分析表とは、各公営企業の経営及び施設の状況を主要な経営指標やその経年の推移、類似団体との比較により表し、分析を行ったものをいう。

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