7 財政マネジメントの強化
地方公共団体や公営企業が、中長期的な見通しに基づく持続可能な財政運営・経営を行うためには、自らの財政・経営状況、ストック情報等を的確に把握することが重要であり、地方公会計の推進、地方財政の「見える化」や公営企業の経営改革等に取り組む必要がある。
(1)地方公会計の整備・活用及び地方財政の「見える化」の推進
ア 地方公会計の整備・活用の推進
地方公会計は、現金主義会計による予算・決算制度を補完するものとして、発生主義・複式簿記といった企業会計的手法を活用することにより、現金主義会計では見えにくいコスト情報(減価償却費等)やストック情報(資産等)を把握することを可能とするものである。令和4年度末時点において、令和3年度末時点の状況を反映した固定資産台帳については都道府県及び市町村の95.5%に当たる1,707団体が整備済みとなり、令和3年度決算に係る財務書類(貸借対照表、行政コスト計算書、純資産変動計算書及び資金収支計算書の財務書類4表をいう。以下同じ。)については都道府県及び市町村の93.7%に当たる1,676団体が作成済みとなっている。
これらの情報を資産管理や予算編成等に積極的に活用していくことが重要であり、全ての地方公共団体において、決算年度の翌年度末までに固定資産台帳及び財務書類の作成・更新を行うことが求められる。
総務省においては、地方公共団体に対し、後述する経営・財務マネジメント強化事業により、財務書類等の作成・更新を支援しているほか、財務書類等の活用事例の周知を行っている。また、各地方公共団体が作成した財務書類に関する情報を集約し、統一的な様式に基づく比較可能な形で公表しているところであり、令和3年度決算については、令和5年9月に公表した。
イ 地方財政の「見える化」の推進
地方財政の「見える化」については、「地方財政白書」、「決算状況調」、「財政状況資料集」等により積極的な情報開示を行ってきた。
財政状況資料集においては、各地方公共団体の性質別・目的別の住民一人当たりのコストや、施設類型別の有形固定資産減価償却率*2などのストックに関する情報について比較可能な形で公表するとともに、基金の使途・増減理由・今後の方針等について公表している。
地方公共団体においては、住民等に対する説明責任をより適切に果たし、住民サービスの向上や財政マネジメントの強化を図る観点から、住民等へのより分かりやすい財政情報の開示に取り組むとともに、公表内容の充実を図っていくことが求められる。
こうした中、地域の実情や住民のニーズを踏まえて実施されている地方単独事業(ソフト)についても、決算情報の「見える化」を進めており、令和4年度決算額に関する調査(令和5年度に実施)から全ての歳出区分を回答対象とする全数調査を実施している。
(2)公営企業の経営改革
公営企業は、料金収入をもって経営を行う独立採算制を基本原則としながら、住民生活に身近な社会資本を整備し、必要なサービスを提供する役割を果たしている。今後の本格的な人口減少等に伴うサービス需要の減少や施設の老朽化に伴う更新需要の増大など、公営企業を取り巻く経営環境が厳しさを増す中にあって、各公営企業が将来にわたってこうした役割を果たしていくためには、経営戦略の策定・改定や抜本的な改革等の取組を通じ、経営基盤の強化と財政マネジメントの向上を図るとともに、公営企業会計の適用拡大や経営比較分析表*3の活用による「見える化」を推進することが求められる。
ア 公営企業の更なる経営改革の推進
(ア)経営戦略の改定の推進
経営戦略については、令和4年度末までに96.8%の事業が策定を完了しており、未策定の事業においては、速やかな策定が求められる。
今後は、策定済みの経営戦略について、取組の進捗と成果を一定期間ごとに評価・検証した上で、今後の人口減少等を加味した料金収入の反映やストックマネジメント等の取組の充実により、中長期の収支見通し等の精緻化を図るとともに、料金改定や抜本的な改革を含め、収支均衡を図る具体的な取組の検討を行い、令和7年度までの経営戦略の改定に反映することが求められる。
(イ)抜本的な改革の検討の推進
各公営企業が不断の経営健全化等に取り組むに当たっては、事業ごとの特性に応じて、民営化・民間譲渡、広域化等及び民間活用といった抜本的な改革等に取り組むことが求められる。令和4年度においては、第46表のとおり、広域化等83件、包括的民間委託46件などの取組が実施されている。総務省においては、取組の検討に資するよう「公営企業の持続可能な経営の確保に向けた先進・優良事例集」(令和5年3月28日)を作成・公表している。
(ウ)公営企業会計の適用拡大等による「見える化」の推進
公営企業会計適用の取組状況は第47表のとおりであり、これまで重点事業として推進してきた下水道事業及び簡易水道事業について、概ね適用が完了している。これを踏まえ、「公営企業会計の適用の更なる推進について」(令和6年1月22日付け総務省自治財政局長通知)において、適用が完了していない下水道事業及び簡易水道事業に対し、早急な適用を求めるとともに、その他の事業についても、できる限り適用することを要請している。
このほか、各公営企業において、経営比較分析表の作成・公表を行い、引き続き経営状況の「見える化」を推進することとしている。
イ 水道・下水道事業における広域化等の推進
水道・下水道事業の広域化等については、令和5年度末までに全ての都道府県において計画が策定される見込みであり、今後は、都道府県のリーダーシップの下、計画を着実に実施することにより、中長期の経営見通しに基づく経営基盤の強化を進めることが重要である。このため、引き続き広域化等に伴う施設の整備費等に対する地方財政措置を講じることとしている。
また、水道管路の計画的な耐震化を推進するため、水道管路耐震化事業に要する経費に対する地方財政措置について、対象範囲を見直した上で、令和10年度まで5年間延長することとしている。
さらに、公営企業会計の適用の進捗を踏まえ、各公営企業の経営安定化に向けて、公債費負担を適正な水準の料金収入等で賄える程度に平準化できるよう、令和6年度から資本費平準化債の発行可能額の算定において、過去に発行した資本費平準化債の元金償還金を新たに算定対象に加えることとしている。
ウ 公営交通事業の経営改善の推進
公営交通事業においては、長期的な人口構造の変化に加え、テレワークの普及等の影響を受け、新型コロナウイルス感染症による感染が拡大する前の令和元年度と比較して1割以上の減収が継続するなど構造的な課題を抱えており、早急に経営改善に努める必要がある。
このため、「公営交通事業の経営に当たっての留意事項について」(令和6年1月22日付け総務省自治財政局公営企業経営室長通知)において、経営戦略の改定や経営改善に取り組むよう要請するとともに、改定した経営戦略等に基づき策定する計画により、適切に経営改善に取り組む団体の資金繰りを円滑にし、経営改善を促進するため、令和6年度から交通事業債(経営改善推進事業)を創設することとしている。
エ 公立病院経営強化の推進
公立病院は、地域における基幹的な公的医療機関として、へき地医療、救急・小児・周産期・災害・精神などの不採算医療や高度・先進医療を提供する重要な役割を担っているが、医師不足や人口減少等により、厳しい状況が続いている。さらに、新たな感染症の発生・まん延時への備えや医師の時間外労働規制への対応も必要となっている。
このため、「持続可能な地域医療提供体制を確保するための公立病院経営強化ガイドライン」(令和4年3月29日付け総務省自治財政局長通知)を踏まえ、令和5年度までに新たに策定した「公立病院経営強化プラン」に基づき、経営強化の取組を推進するよう要請するとともに、その取組を支援するため、公立病院の機能分化・連携強化に伴う施設・設備の整備費や医師派遣等に要する経費について地方財政措置を講じている。令和6年度においては、機能分化・連携強化に伴い必要となる基幹病院以外の医療施設の建替えに要する経費(病床機能転換に必要な部分に限る。)を病院事業債(特別分)の対象に追加するとともに、不採算地区病院等については、厳しい経営が続いていることや医師の時間外労働規制への対応が経営に与える影響等を踏まえ、特別交付税措置の基準額引上げを継続することとしている。
(3)DX・GX等の新たな課題に対応した経営・財務マネジメントの強化
地方公共団体の経営・財務マネジメントを強化し、財政運営の質の向上を図るために、地方公共団体の状況や要請に応じて継続的にアドバイザーを派遣する経営・財務マネジメント強化事業(地方公共団体金融機構との共同事業)については、令和6年度も引き続き実施し、これまでの支援分野に加え、新たに「地方公共団体のGX」についてアドバイザーを派遣することとしている。
*2 保有する償却資産の取得価額等に対する減価償却累計額の比率であり、耐用年数に対して、資産の取得からどの程度経過しているのかを表す指標
*3 各公営企業の経営及び施設の状況を主要な経営指標やその経年の推移、類似団体との比較により表し、分析を行ったもの