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地上デジタル移動体向け(1セグメント)放送の不感地帯解消のためのギャップフィラーに関する調査検討会報告書(概要版)

1 地上デジタル移動体向け(1セグメント)放送の現状と課題

1.1現状
地上デジタル放送は、2003年12月から関東、中京及び近畿の三大広域圏で放送開始。
北陸地域では、2004年10月からNHK富山放送局及び北日本放送が放送開始。また、2006年5月にはNHK福井放送局、福井放送及び福井テレビジョン放送、7月にはNHK金沢放送局、北陸放送、石川テレビ放送及びテレビ金沢、10月には富山テレビ放送、チューリップテレビ、北陸朝日放送が本放送を開始予定。
携帯電話や携帯受信端末向けの地上デジタル移動体向け放送(以下、「ワンセグ」という)は、2006年4月に三大広域圏及びNHK富山放送局、北日本放送などの放送事業者が本放送の開始予定。また、2005年12月に、「ワンセグサービス開始ロードマップ」が公表され、全国各都道府県におけるサービス開始時期が明確化。2005年12月には、すでにワンセグが受信出来る携帯端末が発売開始。
ワンセグは、6MHzの放送帯域を13セグメントに分割した1セグメントを使用して、携帯電話や携帯受信端末に組み込まれた小型の移動受信機へ放送するサービスで、いつでもクリアな映像を受信可能なこと、移動中でも安定したサービスの利用が可能。
また、移動体向けデータ放送とインターネットへの接続等の携帯電話の通信機能と組み合わせ、通信と放送を連携したサービスが可能。さらに、非常災害時等の緊急警報放送などへの活用にも期待。

1.2課題等
ワンセグは、携帯電話や携帯受信端末での移動受信が主体となるため、固定受信に比較し受信条件が悪くなることを想定。特に、北陸地域では冬期の積雪等により、閉塞空間となっている駅ホームやバス停の待合室及び地下街等の利用が増えるが、これらの場所では受信が困難となることが予想され、ワンセグの普及促進を図るためには、不感地帯解消が不可欠。
この不感地帯解消には、ギャップフィラー(中継装置)の設置が有効と考えられるが、
(1)一般の固定受信への影響
(2)送信出力と送信アンテナの検討及び1セグメントの伝播特性
(3)安価で効果的方法の検討
などの課題がある。
  本調査検討会では、地上デジタル放送を開始している富山県のフィールドを利用し、不感地帯を解消するためのギャップフィラー(中継装置)に関し、その有効性の検証及び技術基準の策定に資するための調査検討を実施。

ワンセグの不感地帯解消に関する調査検討イメージ

ワンセグの不感地帯解消にかんする調査検討イメージ

2 調査検討のあらまし

2.1技術試験の概要
(1) 技術試験場所の選定
技術試験場所は、既に地上デジタル放送を開始している富山県の放送エリア内において、次の2地点を試験場所として選定。
富山市地下道(閉塞空間)
JR高岡駅構内(半閉塞空間)
(2) 調査検討項目
ギャップフィラーのSFN送信における既設固定受信に対する影響調査
ギャップフィラーに関する技術基準の策定に資するための技術試験と有効性の検証
ギャップフィラーの導入のための課題等の検討

3 技術試験

3.1妨害・隣接ch妨害試験(室内試験)
フィルタ特性の異なる3種類のギャップフィラー装置を用いて、次の調査を実施。
(1) SFN妨害試験:複数の同一波を受信した時の特性
(2) 隣接ch妨害試験:任意のchのみを増幅した時の隣接chに対する影響
(富山地区での北日本放送28chを希望波とし、隣接妨害chとして27chを使用。)

 測定方法
(1) SFN妨害試験

SFN妨害試験系統図

(2) 隣接ch妨害試験

隣接ch妨害試験系統図

 ギャップフィラー装置の種類
今回使用したのは、次の3種類のギャップフィラー装置。
(1) 13セグIF方式:IF周波数に変換しIFフィルタを使用して、隣接への回り込みが少ない方式。
(2) 1セグRF方式:RF周波数にて1セグ部分のみ通過のフィルタを使用して、安価に製作可能で、隣接への回り込みも比較的少なく、SFN妨害にも強い方式。
(3) 13セグRF方式:RF周波数にて13セグを通過するフィルタを使用して、隣接への回り込みが大きくなるが、安価に製作可能な方式。

 SFN妨害・隣接ch妨害試験(室内試験)の結果まとめ
(1) 13セグIF方式
・SFN妨害試験では、特性に影響をおよぼすような大きな帯域内リップルはなく、良好な特性が得られた。
・隣接ch妨害では、使用しているフィルタ特性により隣接への漏洩も少なく、隣接に影響がない結果が得られた。
(2) 13セグRF方式
・2波の位相差により帯域内にディップ点が発生する上、隣接chへの漏洩も大きく、隣接chを希望波として受信している場合に、その特性を悪化させた。
(3) 1セグRF方式
・SFN妨害試験では、2波の位相差により、使用する1セグ部分にディップ点が発生する場合があるが、概ね良好な特性が得られた。
・隣接ch妨害試験では、使用するセグメントのみをフィルタリングしており、隣接chへの漏洩は少なく影響がない良好な特性が得られた。

3.2ギャップフィラーSFN送信における季節固定受信に対する影響調査
SFN送信波による固定受信への影響を調査するため、擬似信号発生器(SG)にて規定電力を送出し、外部への漏れ込み量など諸特性を測定。

 測定方法
ギャプフィラー出力を1mWとし、受信エリア外周囲の3地点において、ギャップフィラーからの漏れ電波を14素子八木アンテナの高さを3mから10mまで可変させ、全周方向に回転させ最大となる値を測定。

 ギャップフィラーSFN送信における既設固定受信に対する影響調査の結果まとめ
(1) 富山市地下道
・全ての受信点で、ギャップフィラーからの電界強度は46dBμV/m以下。
・富山市地下道は送信所との距離も近く、希望波の電界強度も強いことから、固定受信で問題となるレベルでないことを確認。
・実際の固定受信で画像確認し、ブロックノイズ等もなく良好な画像を受信。
(2) JR高岡駅構内
・全ての受信点で、ギャップフィラーからの電界強度は36dBμV/m以下。
・固定受信で問題となるレベルでないことを確認。
・実際の固定受信で画像確認し、ブロックノイズ等もなく良好な画像を受信。

3.3ギャップフィラー装置に関する技術基準を策定するための技術試験と有効性の検討
ギャップフィラー装置による受信電界強度を測定し、技術課題と有効性について検証。

 測定方法
・希望するエリアで58dBμV/mとなるようにギャップフィラーの出力を調整。
・ギャップフィラーon/off時での電界強度・BERなどを測定。
・受信機メーカ試作機により受信状況を調査。

(1) 移動測定
受信電界強度の短区間での変動も把握できるように移動しながら測定。
(2) 定点測定
2〜3m間隔のポイントを定点とし、その場所にて連続測定(約3分間)。

【試験系統図】

測定器写真 測定器構造

(3) 連続測定(高岡駅のみ)
人の往来による電界強度の変動を測定。

 ギャップフィラー装置に関する技術基準を策定するための技術試験と有効性の検討の結果まとめ
(1) 技術試験結果まとめ
・所要電界強度として設定した58dBμV/m(13セグメント)を確保する場合、今回の試験ではギャップフィラーの出力電力が0.03mW(-15dBm)と、極めて小電力で受信エリアを確保。
・JR高岡駅構内では、ギャップフィラーからの電界強度が高いにも関わらず、壁や柱等の近辺において、MER特性が悪くなる測定ポイント有り。
・富山市地下道及びJR高岡駅構内での試験ともに、1本の送信アンテナで受信想定エリアを所要電界強度でカバー可能。
・13セグメントと1セグメントのギャップフィラー装置からの電界強度を比較すると、マルチパスなどの影響による信号劣化の少ない環境下では、両者の相関が取れていることから、ギャップフィラー再送信による受信波の乱れなどは見られず、忠実に再送信していることを確認。
・JR高岡駅構内の連続測定では、列車乗降客が増える時間で電界強度が最大10dB変動(人の往来による電界強度の変動)。
(2) 有効性結果まとめ
・ワンセグ受信端末の所要電界強度58dBμV/mを確保した場合、良好に受信視聴(受信)できることを確認。
・地方都市の富山市地下道及びJR高岡駅構内をモデルとして、ギャップフィラー出力が0.03mWでも所要電界強度を得られる。
・ 受信エリア境界において、外部からの直接波とギャップフィラー波(SFN送信波)の干渉の影響はなく、ほぼシームレスに視聴可能。

 

4 地上デジタル移動体向け(1セグメント)放送の不感地帯解消に向けて

 

 本調査検討会で明らかになったギャップフィラーに対しての技術的、制度的課題を整理し、今後の利用策と普及に向けた方策を報告。

4.1技術的課題
(1) SFN妨害及び近接ch妨害調査(室内試験)において、1セグRF方式(RFフィルタを挿入し1セグのみを送出)、13セグRF方式(RFフィルタを挿入し13セグを送出)、13セグIF方式(IFフィルタを挿入し13セグを送出)の3方式について検討した結果、1セグRF方式が最も影響が少ない。
(2) 富山市地下道(閉塞空間:全長150m)及びJR高岡駅構内(半閉塞空間)の技術試験においては、1セグRF方式及び13セグIF方式の2方式の調査を実施。
その結果、本調査検討会が設定した所要電界強度58dBμV/m(13セグあたり)が得られば、両方式とも良好な受信状況を確保。
富山市地下道及びJR高岡駅構内のエリアにおいて、所要電界強度を得るために最低必要なギャップフィラーの送信電力は、0.03mWと小さい数値。
(3) デジタル放送では、アナログ放送に比べ約10分の1の送信電力で、アナログ放送と同等の受信エリアを確保することができる。多くのアナログ放送の極微少電力TV局(中継局)の送信電力が0.1Wであることと比較すると、相当の小電力で受信エリアが確保できることが確認。
(4) 技術試験において、1セグRF方式と13セグIF方式では、受信機端末側での受信状況に相違はない。
なお、1セグRF方式は、13セグIF方式と比べると、「(1)他チャンネルに対しての妨害が少ない」、「(2)IF増幅に比べ部品数が少ない」などの優位点がある。
(5) 携帯受信端末にて画像評価を行った結果、受信エリア境界において外部からの直接波とギャップフィラー波(SFN送信波)の干渉の影響はなく、ほぼシームレスに視聴可能であることを確認。
このことから、小規模エリアを対象としたギャップフィラーでは、中継方式としてSFN送信方式が有効。
(6) 以上のようなことから、小規模の閉鎖空間におけるギャップフィラーとしては、簡易型の極微小電力1セグRF方式を製品化することにより、機器の低廉化が図れると想定。

 

4.2制度的課題
(1) 現行法では、ワンセグはテレビ放送の補完放送と位置付けられ、1セグ単独の放送は出来ないことになっている。このため、ワンセグは携帯電話や携帯受信端末向けに、本放送の補完としてサイマル放送が行われる。
(2) しかし、今回の技術試験結果から、1セグRF方式による送信(再送信)の有効性を確認されたので、1セグ単独による放送の実現が大きな課題。
(3) また、現在、各地において、防災情報の伝送等の検討が進められており、地域ニーズに応じたワンセグ専用番組の送出が可能となることも望まれる。
(4) 技術試験では、ギャップフィラーの送信電力を0.03mWで、所要電界強度58dBμV/m(毎メートル800マイクロボルト)を確保。
電波法令では、免許を要しない無線局は、無線設備から3mの距離における電界強度が毎メートル35マイクロボルト以下であると規定されていることから、送信電力が0.03mWのギャップフィラー装置は無線局の免許を受ける必要有り。
(5) 受信障害対策中継放送(受信障害対策用SHFテレビジョン放送局)は、放送事業者以外の者が免許を受けることができる。
ワンセグの不感地帯を解消するギャップフィラーの設置主体についても、同様の規程が整備されることにより、普及促進が図られると想定。
この制度の実現が、ワンセグ受信機の発展や、適正なギャップフィラーの運用に必要。
(6) 以上のことから、小規模の閉鎖空間のギャップフィラーとして、極めて小電力の設備でも有効であることを確認。
不感地帯解消のためには、今回のような閉鎖空間用ギャップフィラー設備として、用途、電波の型式、周波数、空中線電力が定められた総称「小電力無線局(空中線電力が10mW以下であって、総務省令で定められた機能を有し、適合表示無線設備のみを使用する無線局:免許を要しない無線局)」の適用が有効。
また、1セグ単独による放送の実現について、今回の技術試験結果から屋外フィールドに対するギャップフィラー電波の漏洩と、影響が皆無であることを確認したので、地下街等の閉塞空間に限定して条件が緩和されることを望まれる。

4.3 1セグRFギャップフィラーの有効性
本調査検討会では、技術検討として、1セグRF方式、13セグRF方式、13セグIF方式の3方式を調査した結果、1セグRF方式が、ワンセグ不感地帯解消のためのギャップフィラーとして、最も有効と判断。

5 おわりに

 いよいよ、本年4月からワンセグが本格的に開始されるが、非常災害時等の緊急警報放送の受信という観点からも、移動・携帯受信における不感地域を解消することが早急に求められている。
今後、本調査検討会で明らかになった課題、問題点が解決され、ギャップフィラーが実用化し不感地帯が解消されることでワンセグの重要性が高まり、ひいては地上デジタル放送が視聴者にとってなくてはならないものとして、普及発展することを願う。


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