総務省トップ > 組織案内 > 地方支分部局 > 北陸総合通信局 > 救急業務用高度医療情報伝送システムに関する検討会報告書(概要版)

救急業務用高度医療情報伝送システムに関する検討会報告書(概要版)

1 背景

 近年、順次行われている救急救命士の処置可能範囲の拡大等にみられるように、救急搬送中の適切なプレホスピタルケアの充実とそのための環境整備が迫られており、医師の適切な指示・指導・助言等に役立つ情報伝送の必要性は高い。

 本検討会では、将来の「救急業務用高度医療情報伝送システム」の実現に向けて、救急医療の現場が求める医療情報の種類や品質、システムの機能や性能等を調査・検討するとともに、救急医療の実態に即した通信試験等を通じて、救急業務用高度医療情報伝送システムの望ましい技術的条件及び実現に向けた課題と方策等を明らかにした。

2 救急医療用の情報通信の現状とニーズ

 救急車出動においては、現場到着まで約6.4分、病院到着まで平均約30分(平成16年度)を要している。また、収容から病院到着時間まで1時間を超える例も少なくない。このため、今後とも病院前医療(プレホスピタルケア)の充実は重要と認識されている。 
(1)医療機関及び消防(救急)機関の双方に対してアンケート及びヒアリング調査を実施した。
 1.現在、携帯電話による音声の会話によっても傷病者の容態の報告や医師からの指示・助言が行われ、有効に運用されているが、容態の現状とその変化のより正確な把握が必要とされる場面も少なくない。
 2.このため、医療機関・救急隊の双方から画像伝送が求められており、より効果的な医師からの指示・助言や搬送先病院の適切な選択につながることが期待されている。
(2)システムに期待される要件
 高度医療情報伝送システムに期待される主な要件は次のようなものである。
 1.患者の容態とその変化の把握に十分な品質の動画が伝送できること。
 2.音声、バイタルデータ等の多様な情報が伝送できること。
 3.災害等に十分な信頼性と通信可能エリアを確保しつつ、システムの構築コストが十分に低いこと。
 4.医療機関と救急隊双方にとって操作が容易であること
(3)画像情報の要求品質  
 画像の伝送がほとんど行われていない現状を踏まえると、静止画のみの伝送でも相当な意義がある。一方、動画において特に呼吸状況が把握できる等の要件を満足する下表のような品質の画像が要求されている。

表 求められる画像情報の品質
画像種別 要求品質 用途及び品質の目安
動画像 ○解像度
320×240画素程度以上
○フレームレート
10フレーム/秒以上
○伝送遅延
0.3秒程度以下が望ましい。
・呼吸に伴う胸部の動きを確認できること。
・体の各所の動きから意識レベルを確認し得ること。
静止画像 ○解像度
640×480画素程度以上
○フレームレート
4フレーム/秒程度
(ただし、より低速も容認し得る)
・外傷部位の状況が確認できること。
・表情、顔色の状況が確認できること。

 
(4)システム構成モデル
 要求される性能等の要件を考慮すると、IP(インターネットプロトコル)技術を用いて開発が進められている「VHFマルチホップ無線技術」を使用したシステムの構築が望ましい。
 特に、1基地局当たりのサービスエリアが比較的広く、有線回線への接続を必要としない中継局(ホッピング局)が簡便に設置できる特徴は、救急業務のみならず公共業務用として広く利用が期待できる。
システムの概要は別紙「利活用イメージ例」のとおり。
 なお、本システムは、将来、基地局・中継局を広く網羅的に整備することが期待されるものの、下図のように幹線道路沿い等の適切な場所に設置することにより限定的な整備であっても一定の効果が期待できる。

図 システム置局モデル例

システム置局モデル例

3 救急業務用高度医療情報伝送システムにおける技術試験

 消防救急機関と医療機関及び研究機関の協力のもと、試作されたシステム(伝送速度は前表に掲げる性能の1/2程度)により、救急車から救急病院に傷病者の画像等の伝送を想定した公開通信試験を実施し、運用性、基本機能、品質等について関係者から意見を収集した。
 このほか、異なる画像品質の有効性を比較するため、コンピュータ上での品質試験並びにヒアリングを実施した。

公開通信試験の概要

公開試験での想定事故現場、搬送先病院、救急車の走行ルート
(主な協力機関;金沢大学、同付属病院、厚生連高岡病院、金沢市消防本部、独立行政法人情報通信研究機構(順不同))

4 救急業務用高度医療情報伝送システムの実現に向けた課題等

(1) 技術的課題
 現在開発が進められて試作段階に達しているVHFマルチホップ無線伝送システム技術の利用により所要の性能のシステムを実現できる見込みである。実現に向けたさらなる検討事項としては次の事項が挙げられる。
 1.VHF帯における周波数帯域の確保
 2.伝送遅延縮小等の関連技術の開発
 3.地域に応じたシステム構成、付属装置の選定等の具体的検討
(2)制度的課題
 新たなシステムであり、また応用性の広いことも考慮した主な制度的検討課題は次のとおり。
 1.救急業務上の位置づけと運用体制の明確化、関連予算の確保
 2.汎用性に着目した他の公共関連業務等との共同設置・共同運用の可能性の検討
(3)その他
 細部の課題を明確化して検証を行うために、さらに実務的・継続的な実証が望まれる。


ページトップへ戻る