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セミナーA−3:シンポジウム「ICT利活用による被災者生活支援」

【講演】

  • MMWINシステムを活用した地域医療連携の新しい形
    講師:気仙沼市立病院 脳神経外科 科長 成田 徳雄 氏
    石巻市被災者自立支援システムの構築
    講師:宮城県石巻市 副市長 笹野 健 氏
    タブレット活用による浪江町のきずな再生・強化への挑戦
    講師:福島県浪江町 復興推進課 主幹 小島 哲 氏

【MMWINシステムを活用した地域医療連携の新しい形−講演要旨】

気仙沼市立病院の成田徳雄科長

気仙沼市立病院の成田徳雄科長

 今後の超高齢化社会では、医療提供体制として多種多様な専門職種の協働が必要となる。地域医療では、連携基盤がない状態のままでの「機能分化」、平均寿命と健康寿命との差が約10年ある「人生ラスト10年問題」などの問題がある。また、東日本大震災による医療情報の喪失は、大規模災害時の医療実施不能を顕在化させた。こうした問題の解決へ向けて、ICTを用いた地域医療連携のため「みやぎ医療福祉情報ネットワーク協議会(MMWIN))を開始した。
 このシステムにより、急性期、回復期、慢性期、生活維持期など、施設や支援する職種が変わっても情報の共有・閲覧ができるようになり、特に「思い」の共有のため、メモ機能や画像添付などアナログデータも取り込めるよう柔軟にした。医療ではアナログ情報もデジタル情報も取り込むことが大事である。個人健康情報や薬歴情報なども管理しており、現在登録しているデータを情報に変化させて、これを評価することで次の地域医療の対策になるベースを作っている。
 今後は自助互助を支える役割を情報システムで支援する予定で、医療ビックデータによる地域医療の問題解決策の立案をして、人生ラスト10年をよりよく生きるため個々の意識を変えるシステムにしていきたい。

【石巻市被災者自立支援システムの構築−講演要旨】

石巻市の笹野健副市長

石巻市の笹野健副市長

 現在当市で力を入れているのが、被災者に仮設住宅から自立してもらう取り組みである。被災者の仮設住宅入居の際から入居者同士のコミュニティを重視してきており、災害公営住宅でのカーシェアリングもコミュニティ醸成のひとつである。
 平成25年6月には改正災害対策基本法が成立し、従来の個人情報保護制度の壁を取り払って、被災者支援制度の申請状況、災害公営住宅の希望状況や健康指導の状況など、市役所内部はもとより、他の関連機関でも被災者台帳を作って情報の共有が可能となり、トータルでケアできるようになった。データ連携による地域包括ケアの状況や被災者の健康状態などの見える化が可能となり、NPOなどの活動支援の結びつける新しい統合事業に移行している。
 今後はさらに充実させて、住民同士の活動を活発にする仕組みを作り、被災者の心身のケアや住民同士が支えあう力を強化させ、仮設住宅等から災害公営住宅への移転など、被災者の自立支援へ寄り添って活動したい。

【タブレット活用による浪江町のきずな再生・強化への挑戦−講演要旨】

浪江町の小島哲主幹

浪江町の小島哲主幹

 浪江町は、東日本大震災及び原発事故の影響で、住民が県内外に分散されてしまい、住民間のつながりの喪失、世代や男女による必要情報の相違、情報取得環境の相違などが課題となった。 町としてこれらの課題に対応するため、町民へのタブレット端末の導入に取り組んだ。導入に当たっては、他の自治体では利用がうまく進んでいない状況もあった事から、利用する町民中心の設計とするため、専門家集団との連携や専門人材の採用などを行った。そうした人材の力で、住民参加によるアイデアソン、実現可能性を確認するハッカソン、アプリ開発の公募型プロポでの調達などを行うことによって質の向上が実現できた。また、公募型調達と競争入札を効率的に行う業務の切り分けやベンダーロック解除による競争性確保などはコスト削減につながった。さらに、アプリだけでなく操作性や見た目なども町民の意見を聞きながら修正するアジャイル開発が可能となった。
 利用講習会の参加者は1,700名以上、本年4月の利用率は87%で、「生きがいが出来た」との声もいただいている。今後は利用状況を踏まえた町民ヒアリング、町主体の運営のためスタッフ強化を行い、町民同士で講習会ができるなど、町民主体の体制構築に向けて取り組むこととしている。

  • アイデアソン
    特定のテーマについてグループ単位でアイデアを出し合い、それをまとめていく形式のイベント。アイデア(Idea)とマラソン(Marathon) を合わせた造語。
  • ハッカソン
    ソフトウエア開発者が、一定期間集中的にプログラムの開発やサービスの考案などの共同作業を行い、その技能やアイデアを競う催し。ハック(hack)とマラソン(Marathon) を合わせた造語。
  • アジャイル開発(Agile Development)
    ソフトウエアやコンピューターシステムの開発手法のひとつ。顧客の要求案件や経営環境の変化に対し、俊敏かつ柔軟に対応することに主眼を置く。

【トークセッション要旨】

  • 進行役
    総務省地域情報化アドバイザー 酒井 紀之 氏
    パネリスト
    気仙沼市立病院 脳神経外科 科長 成田 徳雄 氏
    宮城県石巻市 副市長 笹野 健 氏
    福島県浪江町 復興推進課 主幹 小島 哲 氏
「ICT利活用による被災者生活支援」トークセッション(進行役左)酒井紀之地域情報化アドバイザー

トークセッション(進行役左)酒井紀之地域情報化アドバイザー

酒井氏 講演を終えて補足があれば。

成田氏 被災地では継続的な支援が必要。訪問リハビリステーションで、医師がいなくてもリハビリをできるようにICTの活用を進めている。動けないと食べられなくなり、認知症になって寝たきりとなる。運動と栄養管理の大切さを訴えながら、リハビリを進めていきたい。

酒井氏 福祉という観点で今回のシステムを使って目指すものは?

笹野氏 仮設住宅にお住まいの方でも、再建が見いだせない方にどう向き合うかが難しい問題。保健師さんや見守り隊の方にシステムを適切に使っていただきたい。また、再建されている方とうまく結び付けられるようにしたい。

酒井氏 他の自治体ではタブレットの利用率がうまく伸びない状況で、導入することとなった思いは?

小島氏 事前に利用が進まないことは把握していたが、県外に避難している町民をケアできていない状況を改善するため、何としても導入して町民のきずな維持を図ろうと考えた。色々な方々と接触している中で、専門家集団の「Code for Japan」と出会い、良い進め方ができた。

酒井氏 今後のMMWINシステムの展開は?

成田氏 他の団体とも連携し、データを相互に、アナログもデジタルも共有させることが大事。こうすることで発展性が増すと思っている。

酒井氏 事業の申請などで苦労はあったか?

笹野氏 本システムの導入に当たって何がしたいのかを理解していただくのに苦労したが、腹を割って話し合ったことで理解が得られた。

酒井氏 被災地ではマンパワーが不足して、単一の復興事業のみを扱う専門家がいない。事業申請のお手伝いについて、本日参加のベンダーさんにも協力をお願いする。

会場からの質問 システム導入に当たっての意識改革とビジネスプロセスの苦労を教えていただきたい。

笹野氏 多くの復興支援事業を取り組んできて、様々な苦労があったので職員の意識は高かったが、役割分担やどういった情報をシステムに取り込むのかを決めるのに時間を要した。全員の認識は統一されており、リーダーシップが重要と感じている。

会場からの質問 ICTによる被災地支援事業を活用されているが、ICTをどのように位置付けしているか?

成田氏 医療、介護、福祉の情報が分断しており、これを統合するにはICTしかないと思っている。震災後の地域医療再生にも活用できる。

笹野氏 コミュニティが崩壊している状態にあって、SNSが使えない市民でも、健康や趣味などでお互いに助け合える「つながる」ツールになればと思っている。

小島氏 離れていた町民同士がタブレットでつながって、今まで出来なかった事を始めようとするきっかけになっている。提供側として意図していなかったが、直接会う機会も作れている。今後につながる可能性のあるツールであると感じている。

酒井氏 ICTは通信回線と電源が生命線であるが、被災地の復興は我々自信とご参加の皆さん自身が生命線を担う。「きずな」という言葉を改めて思い出し、皆さんも一体となって被災地の後押しをよろしくお願いしたい。

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