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「東日本大震災とICT」インタビュー
【岩手県大船渡市】

話者:大船渡市総務課ICT推進係
(新型コロナウイルス感染症の拡大を踏まえ、書面でのインタビューとなっています。)

1.復興に関しICTが果たした役割(新たなまち作りにおけるICTの役割)について

  大船渡市は、東日本大震災で震度6弱を観測するとともに、綾里湾では局所的に40.1mの遡上高が観測されるなど、巨大な津波が発生し、甚大な被害が発生しました。その後、市民一丸となって復興に取り組まれた結果、復興は着実な歩みを重ね、中心市街地の賑わいが増すなど、復興の進捗を広く実感できる状況となっているとお聞きしています。
 大船渡市では、地震と津波により、被災時に市内で固定・携帯電話、インターネット等の情報通信が使用不能となりました。
 そうしたことを受けて、復興の総合的な計画となる「大船渡市復興計画」(平成23年10月)では、「災害時に強い情報通信基盤を整備する」とされ、光ファイバ網の復旧・整備などが計画されるなど、情報通信基盤整備に取り組まれてきました。
 大船渡市の復興や新たな街づくりにおいて、情報通信はどのような役割を担ってきたのでしょうか。


 震災発生直後は、テレビやインターネット等が不通となったため、住民が必要とした行政情報を始めとした様々な情報の発信は、紙や消防団車両を活用した広報等によって行われ、地域によっては多少なりとも情報格差が生じました。
 こうした状況を受け、当市の震災後のまちづくりにおいては、早急な情報格差の是正を図りつつ、災害時においても住民が必要とする情報を途切れることなく提供できる環境が必要であると考え、市内全域への光ブロードバンドの提供や避難施設におけるWi-Fi環境の整備に力を注ぎました。

大船渡駅前の様子

現在の大船渡駅前の様子

 平成23年以降、順次整備を進め、震災以前は市内に5つあった光ブロードバンド未整備地域が、現在はほぼ全域で解消されている状況となりました。
 こうしたことにより、住民一人一人がインターネットに接続し、容易に情報を取得することができ、また、WEB上で提供される様々なサービスを受けることができる環境となったことで、住民の利便性の向上に寄与することができたと思います。

 現在、新型コロナウイルス感染症の影響が全国的に拡大しており、行政活動や市民生活においても新たな生活様式が求められています。今後、テレワークやオンラインによる行政手続など、ますます情報通信の果たす役割が大きくなってくるものと考えています。

 そのような中で、当市としましては、時代の潮流に乗り遅れないよう、しっかり情報通信技術を活用し、より一層の住民の利便性向上に努めていきたいと考えています。

2.復興に関し、残された課題について

  「大船渡市復興計画」は本年度(令和2年度)で計画期間の最終年度を迎えられますが、復興完遂までの道のりは、これからも続いていくと思います。
 「大船渡市復興計画」に代わる、新しい総合計画策定のため、「復興後のまちづくりに向けた市政懇談会」を開催されるなどの取組が始まっているとお伺いしています。
 大船渡市の将来都市像「ともに創る 三陸の地に輝き躍動するまち 大船渡」の実現に向けて、今後の課題についてお聞かせください。


 まもなく東日本大震災から10年が経過しようとしており、当市の復興計画も完遂に近い状況にありますが、ふと全国または県内の特に内陸部の自治体に目を向けると、行政内部はもとより市民サービスのデジタル化が着々と進んでいるように見受けられ、当市は未だスタートラインにさえ立てていない状況にあると思います。

 国が行政のデジタル化を積極的に進めようとしている中、当市は紙による文書回覧や出退勤管理、時間外手当の手続きなど、行政内部のデジタル化さえまだ実現できていない状況にあります。

 今後は、行政内外を問わず様々な手続きを紙から電子に変えていく必要があると感じており、当面はAIやRPAを活用しながら、行政事務全般のデジタル化に向けて積極的に取り組んでいきたいと考えています。

3.今後、ICTを活用して実施したいこと

 近年では第5世代移動通信システム(5G)や、AIといった新しい技術が登場しています。我が国は「課題先進国」と称されるように、諸外国に先んじて人口減少・少子高齢化が進んでおり、ICTを導入・利活用することで雇用や生活の質の向上などを進めていくことが必要であると言われています。
 大船渡市の今後のまちづくりに際し、今後、ICTを活用して実施したいことについて、お聞かせください。  


 少子高齢化による人口減少に伴い、生産年齢人口が減少していくと言われる中、行政サービスを維持しながら市民ニーズに応えていくためには、AIやビッグデータ、5Gなどが果たす役割は今後ますます大きくなってくるのではないでしょうか。

 特に、地方は人口減少による影響を顕著に受けやすい環境にあると感じており、住民の移動手段である公共交通機関等の地域の足が減少してしまうことも危惧されますし、また、当市の基幹産業である水産業の担い手や市内工場の従業員の不足によって産業の衰退が避けられない状況になってしまう可能性もあります。
 このような状況を解決する手法の一つとして、多様な分野におけるICT技術の活用は有効であると考えています。

 ただし、その実現にはまだ社会全体として適応していない部分も多くありますので、市民生活への5Gの実装やAI技術の更なる進歩などの情勢を見据えながら、現状においては国等の補助事業等を活用した実証実験などによってスモールスタートを図りつつ、次のステップに素早く移行できるよう準備ができればと思っています。

4.後世に向けて伝えたいこと

 東日本大震災は千年に1度と言われる大災害でした。甚大な被害を受けられた経験を通して、後世に向けて伝えたいこと、残したいことについてお聞かせください。


 近年全国で多発する自然災害に対する備えは万全なものでなければならないと考えており、特に、自治体は住民の生命、財産を守る立場にありますので、一人でも多くの住民の命を守れるよう不断の努力を続けていく必要があります。

防潮堤

大船渡市の防潮堤

 しかし、いざ災害が起きたときには誰もがその場で即座に判断し行動しなければならず、当市出身の山下文男氏がその著書で「津波てんでんこ」と語ったように、まず自分の命は自分で守るというこの考え方がなによりも重要なのではないかと思います。そのためには、児童教育の段階から、災害に対応した生き抜く力を獲得させるべく、何度も繰り返し教えていく必要があると思います。

 東日本大震災から10年を経過しようとしておりますが、震災時に全世界の方々から多くの温かい御支援、御協力をいただいたことに対する感謝の念を忘れず、その貴重な経験を全国の方々や後世に向けてしっかりと伝えていきながら、今後とも自然災害において一人でも多くの命が救えるよう、被災自治体としての役割をしっかりと果たして参りたいと考えております。

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