1.復興に関しICTが果たした役割について | 2.ICTの活用で重視されたことについて | 3.後世に向けて伝えたいこと | 4.「第9次大槌町総合計画」基本理念の実現について | 5.ICTを活用して実施したいこと |
震災前、町民の情報通信格差解消のために地上波テレビを受信できない地域や通信事業者 がインターネットブロードバンド用光ファイバ網を整備しない地域を対象にケーブルテレビとデータ通信用光ケーブルの整備をすすめておりました。しかし、その事業が完了しようとしていた矢先に東日本大震災津波に見舞われ、整備が進んでいた設備の一部が津波で被災し、町民が必要とする情報の入手に支障がでる事態となりました。
震災後は被災した光ケーブルの復旧を急ぎ、町民の情報入手手段の確保に努めました。また、新たに造成された防集団地(防災集団移転団地)への光ケーブル整備を進め、町内の居住地域全域で地上波テレビの受信環境の確保と光ケーブルによるインターネットブロードバンドを利用できる環境を整備することができました。
情報の入手手段として、古くからあるラジオの活用も重要ですが、町内のラジオ受信状況は良いとはいえない状況でした。震災後、臨時災害放送局(災害FM)による情報発信も行いましたが、災害FMは臨時かつ一時的な放送のため、恒久的な対策としてFMラジオ中継局を新たに整備しラジオ受信状況の改善を図りました。中継局の整備後、日常からラジオを聴くようになったと町民からの声もあり、ラジオの重要性を再認識したところです。
大槌町の携帯電話不感地域に整備された基地局
さらに、現在では携帯電話やスマートフォンなどのモバイル機器が普及し、そうした情報機器が活用されています。しかし、当町には携帯電話不感地域が依然として存在しており、モバイル機器を利用できない地域が存在します。
モバイル機器は災害時の有効な情報入手手段であることはもちろんのこと、今後見込まれるオンライン行政手続きやテレワークに欠かせないツールであると考えております。
そのため、携帯電話不感地域を解消すべく、携帯電話基地局の整備を進め、整備した基地局を移動通信事業者が活用することで、不感地域の解消に務めております。
当町としましては、町民が情報を入手したり発信したりする手段を確保することが、ICTを活用していく大前提と考えております。その根幹となる情報通信インフラの整備を進め、5G等の新たな情報通信技術についても注視し、町民の情報通信環境の向上に努めて参ります。
東日本大震災津波により庁舎が被災したことから、町の情報システムもすべて流される事態に陥りました。また、バックアップデータも被災したことからシステムの復旧には困難を極め、システムの復旧までに1ヶ月以上を要することとなりました。復旧までの間、町民の基本的な情報でさえ把握することができなくなり、復興の大きな足かせとなりました。
こうした事態に2度と陥らないとの決意のもと、震災後に沿岸部13市町村で結成された岩手県沿岸市町村復興期成同盟会のなかで議論を重ね、主要業務は内陸の堅牢なデータセンターに移行することで、役場庁舎が被災したとしても情報システムを維持できるよう対災害性を確保するとともに迅速に業務を復旧できる体制を構築する重要性の認識を新たにしました。
しかし、情報システムの構築には多額の費用がかかります。そこで、沿岸市町村で自治体クラウドグループを結成し、システムの構築を行うことによりコストの低減を目指しました。この自治体クラウド構想に賛同のあった3町村(野田村、普代村、大槌町)で自治体クラウドグループを結成し、自治体クラウドによる情報システムの再構築を実現することができました。この自治体クラウドグループは後に「岩手県自治体クラウド共同利用協議会」と名称を変更し、現在は田野畑村が加わり4町村で運営しております。
町の情報システムは行政機能に直結し、町民サービスに密接に関係していると考えております。当町では東日本大震災津波の経験を経て、災害時においても情報システムを維持することの重要性を再認識したところです。
町では、町内の津波の教訓を伝える石碑や津波避難など防災・減災の取り組みを踏まえ、二度とこのような悲惨な被害に見舞われないため、津波の記録を正確に残し、これを学び、将来に「防災文化」として継承していくため、震災津波の伝承の基本的コンセプトを3つにまとめております。
一つ目のコンセプトは、「忘れない」として、津波の悲劇を「忘れない」、困難に直面しながらも歩みを進めてきた姿を「忘れない」、多くの人に支えられ復興を進められたことへの感謝を「忘れない」としております。
二つ目は「伝える」として、二度と悲劇を繰り返さないため、加速的に発達した技術も活用し、もの、記録、写真や映像などを活用した方法で「伝える」としております。
三つ目は「備える」として、これまでの経験・教訓が、防災の知恵や知識を身に付け、いずれまた起こる震災に「備える」としております。
町の取り組みでは、復興拠点施設で整備した大槌町文化交流センターにおいて、震災時の状況と復興への歩みの記録を映像や写真などの展示を行っているほか、犠牲者のご遺族から故人への想いを綴った「生きた証」と町の被災と復興の過程を克明に記録した「生きる証」を編纂いたしました。
また、大槌川・小鎚川と大槌湾を一望できる大槌町中央公民館の一角には身元不明者の納骨堂を整備し、安置されているところです。
そのほか、インターネット上では、町独自のデジタルアーカイブ「つむぎ」を整備し、震災前の町の様子から復興過程を記録や映像を発信しているところです。
現在は、災害の記録を風化させない事業で、町全体の「追悼・鎮魂の場」となる(仮称)鎮魂の森の整備と被災した“民宿あかぶ”と“観光船はまゆり”の震災伝承に向けて、進めているところです。
これらの取り組みも、東日本大震災津波の教訓を継承し、将来の大災害に備えことの重要性を認識させることに繋がるものと考えており、更には「防災文化」の醸成に繋がるものと考えております。
東日本大震災津波による被害から町の復旧・復興は、第一義的に暮らしの安定・再建を目指し、大槌町東日本大震災津波復興計画のもと復興事業を推し進めてまいりました。震災津波から10年目を迎え、本年3月末に町内48箇所で設置していた応急仮設住宅は閉鎖となり、着実に復興が進められてまいりました。
一方、震災前からも重要課題である人口減少の加速化や少子高齢化の進行は、まちづくりにおいて喫緊の課題であり、現状と将来の見込みをしっかり捉え、適時、適切な取り組みを進めていかなければならないところです。
大槌町中心部の街並み
このような状況のもと、町では、復興計画の後継となる総合計画を策定し、持続可能な安全安心なまちづくりを目指し、基本理念の実現に向け、震災からこれまで取り組んできた魅力あるまちづくりをさらに進め、町独自のにぎわいを創出するためにも、人との繋がりを大切に町民一人ひとりがお互いを大切に支え育て合い、新たな視点で町の魅力創出を実践していく取り組みを進めて参りたいと考えております。
そのためにも、町内産業の育成と経営の持続性の確保や、住民同士で支え合える環境づくり、そして創造力を高める人材育成に取り組むことが重要であり、これらの各施策を連動させることが、更に地域経済や地域産業の活性化が図られ、基本理念の実現に繋がるものと考えております。
震災前と比較して人口は平成27年度の段階でも2割ほど減少しており、他市町村と比較しても人口減少・少子高齢化が一段と進んでいると感じております。そうした状況の中、新型コロナウイルス感染症の蔓延を受けて、都市部集中の働き方からテレワークや遠隔会議システムなどを活用して地方に分散した働き方にシフトするとも聞き及んでおります。こうした動きを支える要素の一つとして5Gなども含めた情報通信インフラの果たす役割は大きくなっていくと考えています。
行政手続きデジタル化の観点では、当町で各種行政手続きを行うためには役場へ来庁する必要があり、町民にはその都度、ご足労いただいている状況です。そのため、国が進めようとしている行政のデジタル化には、まだほど遠い状況にあると認識しております。今後、町民サービスを向上していくための手段の一つとして、行政のデジタル化は重要なポイントになるととともに、行政の効率化につながると考えております。
こうした情報通信インフラの整備や行政のデジタル化を進めるにあたって、人的資源や財源も必要となりますが、限られた資源の中で最大限の効果を発揮できるよう、技術動向や他市町村の導入事例などを注視しながら進めていきたいと考えております。