(1) 「責任裁定」
公害に係る被害についての損害賠償に関する紛争が生じた場合に、損害賠償責任の有無及び賠償額について判断する手続である。
ア 申請の受付(法42条の12)
(注:「法」……公害紛争処理法)
・ 申請できる者
損害賠償を請求する者、つまり被害者とされる側に限られる。加害者とされる側からの申請はできない。
・ 責任裁定を求めることができる事項
損害賠償責任の有無及び賠償額(例えば、被申請人○○は申請人△△に対して損害賠償金として○○万円を支払え)に限られ、汚染源である工場の操業停止あるいは工場の建設計画差止めなどを求めることはできない。
・ 申請手数料
損害賠償の請求額に応じて決められており、裁判(民事訴訟)に比べ、申請手数料は2割前後と低く抑えられている。なお、原因裁定があった後3ヶ月以内に当該原因裁定申請を行った事件について改めて責任裁定を申請する場合の申請手数料は、原因裁定の申請手数料として納めた額だけ控除される(政令18条)。
・ 代表当事者の選定
裁定手続を円滑かつ能率的に進行させるため、代表当事者制度が規定されている。この制度は調停にもあるが、裁定の場合は代表当事者を選定した者は当事者としての地位を失い、代表当事者を通じて間接的に手続に関与しなければならない。ただし、裁定の効果は当然代表当事者を選定した者にも及ぶ(法42条の7)。
イ 裁定委員会の設置(法42条の2)
・ 裁定委員会
申請の受付後、直ちに裁定委員会が設置され、手続は裁定委員会により行われる。裁定委員会は3名又は5名で構成され、弁護士資格を持つ者が少なくとも1名含まれる(法42条の2(3)、39条(3))。
・ 除斥、忌避
裁定手続の中立性、公正性を確保するとともに、当事者の裁定委員会に対する信頼に応えるため、委員長及び委員の除斥・忌避の制度が法律上規定されている(法42条の3〜42条の5)。
ウ 証拠調べ等の実施(法42条の14〜18、公害等調整委員会設置法15条〜16条、18条)
・ 証拠調べ等の手続
調停は当事者の話合いによる合意に基礎を置く制度であり、因果関係など事実関係全てを明らかにすることは必ずしも必要とされない。他方、「裁定」は司法に代わり行政が当事者の権利義務関係について独自の判断を下し紛争解決を図る制度である。このため、裁定制度においては、審問や証拠調べ等により必要な証拠資料を収集し事実関係を明らかにすることが要請されるとともに、その手続、判断の中立性、公正性をなお一層確保するため、審問、証拠調べ等の手続が法律上明確に規定されるなど、裁判ほどではないが、調停と比較すると厳格な手続となっている。
・ 手続の公開、非公開
審問手続は、手続の適正さを担保するため原則公開とされているが、プライバシーや企業秘密等の保護が必要な場合には非公開とすることが可能。
除 斥 | 裁定委員が事件の当事者と特別な関係(例:4親等内の親族)にある場合に、裁定委員としての職務を法律上行うことができなくなること |
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忌 避 | 裁定委員に除斥事由には当たらないが裁定の公正を妨げる事情(例:裁定委員の配偶者が事件の当事者の代理人である)がある場合に、裁定委員の職務から排除する制度 |
審 問 | 当事者の主張を聞き、裁定委員会が主張や争点、証拠の整理を行う手続 |
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尋 問 | 事件の当事者、参考人に出頭を求め、意見陳述をさせる手続 |
鑑 定 | 学識経験者に専門的事項についての判断結果を報告させる手続 |
文書等の 提出 |
事件に関する文書等の保有者にその提出を求め調べる手続 |
立入検査、事実調査 | 相手方の工場等で文書等を検査したり、被害発生地などの調査を行うこと |
調査委託 | 専門委員、国の行政機関、試験研究所、民間事業者等に専門的事項の調査を委託すること |
関係行政機関との協力 | 関係行政機関から資料提出、技術的助言等を受けること |
申請の 時期 |
裁定の種類 | 事 件 番 号 | 事 件 の 概 要 |
---|---|---|---|
事件の 係属中 |
原因 裁定 |
東京都8年(調)7号・9年(調)1号 | 不燃ゴミ中継施設により健康被害を受けているとして、施設の運転中止を求めた事件 |
事件の 終結後 |
責任 裁定 |
三重県8年(調)2号 | トンネル工事の残土処理により受けた養殖真珠被害に対する損害賠償を求めた事件 |
公害等調整委員会事務局
(参考)公害等調整委員会に係属した主な裁定事件
ア 道路騒音等被害責任裁定申請事件
申請人:
東京都の住民
被申請人:
国、東京都、首都高速道路公団
請求事項:
国道、都道、首都高速道路を走行する自動車の騒音、振動及び大気汚染により財産被害、健康被害を受けているため、損害賠償を求める。
処理経過:
永続的な効果のある公害防止対策という方向での合意による紛争解決の気運が高まったことなどから、職権で調停手続へ移行し、両当事者間に以下の内容の合意が成立した。
(主な合意内容):
被申請人が防音壁の設置、路面の適切な維持修繕、植樹帯の整備、住宅防音工事助成制度の適切な周知徹底を行う。
イ 小田急線騒音被害等責任裁定申請事件
申請人:
東京都の住民
被申請人:
小田急電鉄株式会社
請求事項:
列車の走行に伴う騒音、振動により受忍限度を超える被害、家屋への被害を受けているため、これら被害に対する損害賠償を求める。
処理経過:
生活環境の悪化を改善することが真の問題解決につながることを考慮し、職権で調停手続に移行し、調停案(小田急電鉄が騒音・振動対策を実施する等を主な内容とする)の受諾を勧告し、一部の申請人がこれを受け入れ、調停が成立。受諾勧告を受け入れなかった申請人については裁定手続が再開され、請求事項の一部を認める責任裁定を行った。
ウ 飯塚し尿処理場等悪臭被害原因裁定申請事件
申請人:
福岡県飯塚市の住民
被申請人:
飯塚市
請求事項:
申請人が受けている悪臭被害は、飯塚市が設置管理するし尿処理場及び下水道終末処理場からのものとの原因裁定を求める。
処理経過:
当事者間に話合いによる紛争解決の気運が高まったことから、職権で調停手続に移行し、両当事者間に以下の合意内容が成立した。
(主な合意内容):
被申請人が地域住民と公害防止協定を締結し、同協定の実施の確認のため環境保全協議会を設置する。