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令和2年版
地方財政白書
(平成30年度決算)

第3部 最近の地方財政をめぐる諸課題への対応

1 社会保障の充実と人づくり革命等

(1)社会保障・税一体改革による社会保障の充実

社会保障と税の一体改革は、社会保障の充実・安定化に向け、安定財源確保と財政健全化の同時達成を目指すものである。

消費税率の引上げ分は、全額社会保障の財源に使われることとされている。消費税を巡る税制抜本改革については、平成24年8月に「社会保障の安定財源の確保等を図る税制の抜本的な改革を行うための消費税法の一部を改正する等の法律」(平成24年法律第68号)及び「社会保障の安定財源の確保等を図る税制の抜本的な改革を行うための地方税法及び地方交付税法の一部を改正する法律」(平成24年法律第69号)が成立し、消費税率を平成26年4月より8%に、平成27年10月より10%に段階的に引き上げることとされた。その後、8%への引上げは平成26年4月に行われたが、8%から10%への引上げは二度にわたり延期され、令和元年10月に10%へ引き上げられた。

社会保障制度改革については、平成24年2月に閣議決定された「社会保障・税一体改革大綱」(以下「一体改革」という。)において、社会保障の機能強化を確実に実施するとともに社会保障全体の持続可能性の確保を図ることにより、全世代を通じた国民生活の安心を確保する「全世代対応型」社会保障制度の構築を目指すとされ、その基本的考え方や子ども・子育て支援、医療・介護及び年金に係る具体的改革内容が示された。その後、平成24年8月に成立した「社会保障制度改革推進法」(平成24年法律第64号)に基づき、内閣に設置された社会保障制度改革国民会議における審議の結果等を踏まえ、平成25年8月に「社会保障制度改革推進法第4条の規定に基づく「法制上の措置」の骨子について」が閣議決定された。この骨子に基づき、「法制上の措置」として、社会保障制度改革の全体像・進め方を明示するものとして、平成25年12月に「持続可能な社会保障制度の確立を図るための改革の推進に関する法律」(平成25年法律第112号。以下「プログラム法」という。)が成立し、改革に向けた具体的な検討事項とその実施時期・法案の提出時期の目途について定められたほか、改革推進体制(社会保障制度改革推進本部及び社会保障制度改革推進会議の設置)や地方自治に重要な影響を及ぼす措置に係る協議なども定められた。

その後の改革の推進に際しては、一体改革において示された改革項目や工程といった具体的内容に基づき、子ども・子育て支援については、地域の実情に応じた保育等の量的拡充、幼保一体化などの機能強化を行う子ども・子育て新システムの創設等、医療・介護については、地域の実情に応じた医療・介護サービスの提供体制の効率化・重点化と機能強化や、保険者機能の強化を通じた医療・介護保険制度のセーフティネット機能の強化等といった改革に取り組むことで、社会保障の機能強化を図ることとされており、プログラム法の規定に基づいた関連法の成立等を踏まえ、消費税率の引上げによる増収分及びプログラム法等に基づく重点化・効率化による財政効果を活用し、順次、社会保障の充実が図られた。

具体的には、子ども・子育てに関しては平成27年4月から支援新制度が実施され、待機児童の解消などの量的拡充と質の向上が図られた。また、医療・介護に関しては、医療・介護サービスの提供体制改革として平成26年以降、病床の機能分化・連携、在宅医療の推進等が順次実施されるとともに、医療・介護保険制度の改革として平成27年以降、医療保険制度の財政基盤の安定化のための措置等が順次実施された。

令和2年度の「社会保障の充実」においては、子ども・子育て支援分野に0.70兆円程度(国:0.32兆円程度、地方:0.38兆円程度)、医療・介護分野に1.45兆円程度(国:0.95兆円程度、地方:0.50兆円程度)、年金分野に0.56兆円程度(国:0.56兆円程度、地方0.00兆円程度)の財源を確保することとしており、国・地方合計で2.71兆円程度(国:1.83兆円程度、地方:0.88兆円程度)となっている。

なお、具体的な事業内容については、第52表 のとおりであり、拡充された主なものは以下のとおりである。

【令和2年度に拡充された主なもの】

  • 地域医療介護総合確保基金(医療分) (1,194億円、対前年度比160億円増)
  • 医療情報化支援基金 (768億円、対前年度比468億円増)
  • 国民健康保険への財政支援の拡充(保険者努力支援制度等) (3,936億円、対前年度比500億円増)
  • 介護保険の1号保険料の低所得者軽減強化 (1,572億円、対前年度比672億円増)
  • 介護保険保険者努力支援交付金 (200億円、対前年度比皆増)
  • 年金生活者支援給付金の支給 (4,908億円、対前年度比3,049億円増)

(2)「人づくり革命」の実現に向けた取組

「新しい経済政策パッケージ」(平成29年12月8日閣議決定)では、「人づくり革命」を断行し、子育て世代、子供たちに大胆に政策資源を投入することで、社会保障制度をお年寄りも若者も安心できる全世代型へと改革し、子育て、介護などの現役世代の不安を解消し、希望出生率1.8、介護離職ゼロの実現を目指すとされ、また、「経済財政運営と改革の基本方針2019」(令和元年6月21日閣議決定)では、一人一人の人材の質を高めるとともに、人生100 年時代に向けて誰もが生きがいを感じてその能力を思う存分に発揮できる社会を構築するため、「人づくり革命」を推進するとされた。

「人づくり革命」では、幼児教育・保育の無償化、待機児童の解消・保育士の処遇改善、高等教育の無償化、介護人材の処遇改善等の施策を推進するとされており、施策を推進するための安定財源として、消費税率8%から10%への引上げによる増収分の一部を活用することとされた。

令和2年度におけるこれらの施策に係る所要額については、国・地方合計で1.59兆円程度(国:0.92兆円程度、地方:0.67兆円程度)となっている。内訳としては、幼児教育・保育の無償化が0.89兆円程度(国:0.34兆円程度、地方:0.54兆円程度)、待機児童の解消が0.07兆円程度(国:0.04兆円程度、地方:0.04兆円程度)、高等教育の無償化が0.53兆円程度(国:0.49兆円程度、地方:0.04兆円程度)、介護人材の処遇改善が0.1兆円程度(国:0.05兆円程度、地方:0.05兆円程度)となっている。

ア 幼児教育・保育の無償化

幼児教育・保育の無償化については、「子ども・子育て支援法の一部を改正する法律」(令和元年法律第7号)の施行に伴い、令和元年10月から実施されており、3歳から5歳までの全ての子ども及び0歳から2歳までの住民税非課税世帯の子どもの認定こども園、幼稚園、保育所等に係る利用料が無償化(一部施設については、一定額まで無償化)されている。

また、幼児教育・保育の無償化に係る財政措置については、国と地方の協議、「幼児教育・高等教育無償化の制度の具体化に向けた方針」(平成30年12月28日関係閣僚合意。以下「具体化方針」という。)等を踏まえ、以下のとおり対応を行っている。

(ア)臨時交付金の増額

令和元年度においては、幼児教育・保育の無償化に係る地方負担を措置する臨時交付金(子ども・子育て支援臨時交付金)を創設し、全額国費により対応することとされ、当初予算において0.23兆円程度を計上した。その後、保育所の利用者の増加等により所要額が当初予算額を上回ることが見込まれたため、令和元年度補正予算において増額(0.03兆円程度)されている。

(イ)無償化に要する財源の確保

幼児教育・保育の無償化に係る地方負担額については、令和2年度の地方財政計画において、幼児教育・保育の無償化に係る地方負担額(0.54兆円程度)を全額計上し、一般財源総額を増額確保した上で、地方交付税の算定上も地方負担額の全額を基準財政需要額に算入することとしている。

(ウ)無償化に係る事務費の措置

令和2年度における事務費及び令和3年度から令和5年度までにおける認可外保育施設の無償化に係る事務費については、全額国費による負担として措置することとされていることを踏まえ、令和2年度において所要額(0.04兆円程度)を一括して「子育て支援対策臨時特例交付金」として都道府県に交付し、安心こども基金の積増しを行うこととされている。

イ 待機児童の解消

未就学児に係る保育の受け皿整備については、平成29年6月に策定された「子育て安心プラン」において、令和2年度末までに約32万人分の保育の受け皿整備を行うこととされており、企業主導型保育による整備量である約6万人分を除いた約26万人分が市区町村による整備量となっている。これを踏まえ、令和2年度当初予算案において市区町村が約5.5万人分の保育の受け皿整備を行うための整備費用等が計上されている。

また、未就学児だけでなく就学児童についても平成30年9月に策定された「新・放課後子ども総合プラン」において、令和3年度末までに約25万人分の受け皿を整備して待機児童を解消するとともに、その後も女性就業率の上昇を踏まえ、令和5年度末までに合計約30万人分の受け皿を整備することとされており、令和2年度当初予算案においてその整備費用等が計上されている。

ウ 高等教育の無償化

高等教育の無償化については、「大学等における修学の支援に関する法律」(令和元年法律第8号)の施行に伴い、令和2年4月から実施される。

これにより、国又は地方公共団体により一定の要件を満たすことの確認(機関要件の確認)を受けた大学・短期大学、高等専門学校、専門学校(以下「大学等」という。)に在学する学生のうち住民税非課税世帯及びそれに準ずる世帯の学生を対象に、修学支援(学資支給、授業料等減免)が行われる。

また、高等教育の無償化に係る財政措置については、「具体化方針」を踏まえ、以下のとおり対応を行っている。

(ア)無償化に要する財源の確保

高等教育の無償化に係る地方負担額については、令和2年度の地方財政計画において、公立大学等及び私立専門学校に係る授業料等減免に要する経費の地方負担額(392億円)を全額計上し、一般財源総額を増額確保した上で、地方交付税の算定上も地方負担額の全額を基準財政需要額に算入することとしている。

(イ)無償化に係る事務費の措置

令和2年度まで全額国費による負担として措置することとされている事務費については、令和2年度において、所要額(2.8億円)を「高等教育負担軽減実施体制整備費補助金」として都道府県に交付することとされている。

エ 介護人材の処遇改善

「新しい経済政策パッケージ」において、介護人材確保のための取組をより一層進めるため、経験・技能のある職員に重点化を図りながら、介護職員の更なる処遇改善を進めることとされている。

具体的には、他の介護職員などの処遇改善にこの処遇改善の収入を充てることができるよう柔軟な運用を認めることを前提に、介護サービス事業所における勤続年数10年以上の介護福祉士について月額平均8万円相当の処遇改善を行うことを算定根拠に処遇改善を行うこととされ、消費税率の引上げに伴う報酬改定において対応し、令和元年10月から実施されている。

また、障害福祉人材についても、介護人材と同様の処遇改善が実施されている。

(3)全世代型社会保障への改革

ア 全世代型社会保障検討会議の設立

令和元年9月より、安倍内閣総理大臣を議長、関係閣僚及び民間有識者(経済財政諮問会議、未来投資会議、社会保障制度改革推進会議、社会保障審議会及び労働政策審議会の各政府内会議を代表して参加)を構成員とした全世代型社会保障検討会議が開催された。本会議においては、少子高齢化と同時に、ライフスタイルが多様となる中で、人生100年時代の到来を見据えながら、お年寄りだけでなく、子供たち、子育て世代、さらには現役世代まで広く安心を支えていくため、年金、労働、医療、介護など、社会保障全般にわたる持続可能な改革が検討されている。

同年9月20日に第1回検討会議が開催され、その後の検討会議において、医療関係者、若者・女性からのヒアリング(第2回検討会議)や、労働界の代表者、働き方改革や兼業・副業に関する有識者からのヒアリング(第3回検討会議)が行われるなど、全世代型社会保障の在り方について検討が進められた後、中間報告に向けた具体論についての議論(第4回検討会議)を踏まえ、同年12月19日に開催された第5回検討会議において、中間報告が取りまとめられた。

イ 中間報告の主な内容について

全世代型社会保障検討会議における中間報告において整理された各分野の具体的方向性のうち、地方財政と特に関係の深い医療・介護に係る内容及び最終報告の取りまとめに向けた検討の進め方については、以下のとおりである。

(ア)医療

a 医療提供体制の改革

地域医療構想の推進、医師偏在対策、医師・歯科医師等の働き方改革、外来機能の明確化とかかりつけ医機能の強化等に取り組む。

b 後期高齢者の自己負担割合の在り方

  • 団塊の世代が令和4年には75歳以上の高齢者となり、現役世代の負担が大きく上昇することが想定される。元気で意欲ある高齢者が生涯現役で活躍できる社会を創る中で、75歳以上の高齢者であっても、一定所得以上の方については、その医療費の窓口負担割合を2割とし、それ以外の方については1割とすることで、現役世代の負担上昇を抑えながら、全ての世代が安心できる制度を構築する。
  • 最終報告に向けて、高齢者の疾病、生活状況等の実態を踏まえて、具体的な施行時期、2割負担の具体的な所得基準とともに、長期にわたり頻繁に受診が必要な患者への影響を見極め、適切な配慮について検討を行う。令和2年夏までに成案を得て、速やかに必要な法制上の措置を講じる。

c 大病院への患者集中を防ぎかかりつけ医機能の強化を図るための定額負担の拡大

  • 外来機能の分化とかかりつけ医の普及を推進する観点から、他の医療機関からの紹介状なしで大病院を外来受診した場合に定額負担を求める制度について、これらの負担額を踏まえてより機能分化の実効性が上がるよう、患者の負担額を増額し、増額分について公的医療保険の負担を軽減するよう改めるとともに、大病院・中小病院・診療所の外来機能の明確化を行いつつ、それを踏まえ対象病院を、現在の特定機能病院・病床数400床以上の地域医療支援病院から病床数200床以上の一般病院に拡大する。
  • 最終報告に向けて、具体的な増額幅や対象病院の範囲等について検討を行う。来年夏までに成案を得て、速やかに必要な法制上の措置を講じる。

(イ)予防・介護

保険者努力支援制度及び介護インセンティブ交付金の抜本的強化

公的保険制度における位置付けを高めるため、保険者努力支援制度及び介護インセンティブ交付金の抜本的な強化を図る。(令和2年度当初予算案:国保・保険者努力支援制度500億円分、介護保険保険者努力支援交付金200億円)

(ウ)最終報告に向けた取組

今後、医療保険制度改革の具体化等について、検討を進める。特に、地域医療構想、医師の働き方改革、医師偏在対策を三位一体で推進する。持続可能かつ効率的な医療提供体制に向けた都道府県の取組を支援することを含め、地方公共団体による保険者機能の適切な発揮・強化等のための取組等を通じて、国と地方が協働して実効性のある社会保障改革を進める基盤を整備する。

ウ 地域医療構想に係るこれまでの経緯等

全世代型社会保障検討会議での検討事項とされている地域医療構想に係るこれまでの経緯等は以下のとおりである。

地域医療構想は、都道府県が、地域の病床の機能分化・連携を進めるために、令和7年に向けて医療機能ごとの病床の必要量を定めるもので、平成28年度中に全ての団体で策定されている。

平成29年度以降、個別の病院における転換する病床数等を内容とする「具体的対応方針」の策定に向けて、概ね二次医療圏ごとに設けられた地域医療構想調整会議で議論が進められており、「経済財政運営と改革の基本方針2019」においては、「地域医療構想の実現に向け、全ての公立・公的医療機関等に係る具体的対応方針について、診療実績データの分析を行い、具体的対応方針の内容が、民間医療機関では担えない機能に重点化され、2025年において達成すべき医療機関の再編、病床数等の適正化に沿ったものとなるよう、重点対象区域の設定を通じて国による助言や集中的な支援を行うとともに、適切な基準を新たに設定した上で原則として2019年度中に対応方針の見直しを求める。」とされている。

これを受けて、令和元年9月に、厚生労働省から具体的対応方針の再検証の対象となる公立・公的医療機関名が公表されたが、地域医療構想を進めるに当たっては、地域の実情を十分に踏まえることが重要であることから、同10月には、地方三団体、厚生労働省及び総務省により、第1回の「地域医療確保に関する国と地方の協議の場(以下「協議の場」という。)」が開催された。協議の場は、国と地方が共通の認識をもって取組を進めるため、<1>地域医療構想、<2>医師の地域偏在対策、<3>医師の働き方改革の3点を協議事項としており、その後令和元年中に2回行われ、民間医療機関のデータの取り扱い、医師偏在対策、財政支援措置などについて議論が行われた。今後も引き続き議論を行うこととしている。

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