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令和2年版
地方財政白書
(平成30年度決算)

6 財政マネジメントの強化

(1)地方公会計の更なる活用の促進

地方公会計は、現金主義会計による予算・決算制度を補完するものとして、発生主義・複式簿記といった企業会計的手法を活用することにより、現金主義会計では見えにくいコスト情報(減価償却費、退職手当引当金等)やストック情報(資産等)を把握することを可能とするものであり、中長期的な財政運営への活用が期待される。人口減少・少子高齢化が進展している中、財政のマネジメント強化のため、地方公会計を積極的に活用し、地方公共団体の限られた財源を効果的・効率的に使用することは重要である。

地方公会計の整備については、「統一的な基準による地方公会計の整備促進について」(平成27年1月23日付け総務大臣通知)において、統一的な基準による財務書類等を原則として平成27年度から29年度までの3年間で全ての地方公共団体において作成するよう要請したところであり、平成31年3月31日時点では、第55表 のとおり、平成29年度末時点の状況を反映した固定資産台帳については都道府県及び市区町村の81.7%にあたる1,460団体が整備済みとなり、平成29年度決算に係る財務書類については都道府県及び市区町村の80.5%にあたる1,440団体が作成済みとなっている。

また、平成31年3月31日時点における財務書類等の活用状況については、第56表 のとおり、「財務書類等の情報を基に、各種指標の分析を行った」団体が約4割、「簡易に要約した財務書類を作成するなどし、住民に分かりやすく財政状況を説明した」団体が3割弱となっているが、「財務書類や固定資産台帳の情報を公共施設等総合管理計画又は個別施設計画に反映するなど、公共施設の適正管理に活用した」と回答した団体は4%程度と一部の団体に限られている。

こうした状況を踏まえ、まずは、各地方公共団体において、毎年度、統一的な基準による財務書類等の作成・更新を行い、わかりやすく公表することが求められる。引き続き、財務書類等の作成・更新に要する経費に対する地方交付税措置を講じるほか、各地方公共団体が作成した財務書類等を比較可能な形で「見える化」することとしている。

また、地方公会計を資産管理や予算編成等に積極的に活用している具体的な事例をとりまとめ、公表を行うこととしている。

(2)地方財政の「見える化」の推進

地方財政の「見える化」については、「地方財政白書」や「決算状況調」、「財政状況資料集」等により積極的な情報開示が行われてきた。

「財政状況資料集」について、平成27年度決算からは、住民一人当たりのコストについて性質別や目的別で網羅的に公表するとともに、施設類型別の有形固定資産減価償却率などのストックに関する情報についても、固定資産台帳の整備に合わせて順次充実を図り、経年比較や類似団体比較を行うことができるようにした。また、平成29年度決算からは、基金の使途・増減理由・今後の方針等について、新たに項目を追加し、公表している。

地方公共団体においては、住民等に対する説明責任をより適切に果たし、住民サービスの向上や財政マネジメントの強化を図る観点から、「財政状況資料集」等の活用による住民等へのより分かりやすい財政情報の開示に取り組むとともに、公表内容の充実を図っていくことが求められる。

地方単独事業(ソフト)の決算情報については、地方財政状況調査において、平成25年度決算から各都道府県・市町村の歳出額を「民生費」、「教育費」等の目的別で把握・公表し、平成28年度決算からは地方公共団体間の重複部分を控除した決算額(純計額)を把握・公表している。また、平成30年度に、「経済財政運営と改革の基本方針2018」(平成30年6月15日閣議決定)等を踏まえ、「地方単独事業(ソフト)の「見える化」に関する検討会」において、地方単独事業(ソフト)の決算情報について平成29年度決算に係る試行調査の結果等をとりまとめるとともに、年度末に検討会報告書を取りまとめたところである。令和元年度においては、平成29年度決算に係る試行調査で明らかになった課題に対応しつつ平成30年度決算に係る試行調査を行い、全国の状況についてより詳細に把握・分析を進めているところであり、今後、地方公共団体の意見も踏まえながら、引き続き「見える化」のあり方を検討することとしている。

(3)地方公営企業等の経営改革

公営企業は、料金収入をもって経営を行う独立採算制を基本原則としながら、住民生活に身近な社会資本を整備し、必要なサービスを提供する役割を果たしている。今後の急速な人口減少等に伴うサービス需要の減少や施設の老朽化に伴う更新需要の増大など、公営企業を取り巻く経営環境が厳しさを増す中にあって、各公営企業が将来にわたってこうした役割を果たしていくためには、経営戦略の策定や抜本的な改革等の取組を通じ、経営基盤の強化と財政マネジメントの向上を図るとともに、公営企業会計の適用拡大や経営比較分析表の活用による「見える化」を推進することが求められる。また、第三セクター等については、財政的リスク状況を踏まえ、各地方公共団体における経営健全化のための方針の策定・公表を推進することが求められる。こうした一連の取組は、「新経済・財政再生計画 改革工程表2019」にも位置付けられている。

ア 公営企業の更なる経営改革の推進について

(ア)経営戦略の策定・改定の推進

経営戦略については、令和2年度までに策定を完了するよう各地方公共団体に要請している。第57表のとおり、平成31年3月31日時点では、57.4%の事業が策定済み、95.3%の事業が期限内に策定を完了する予定となっている。

また、策定済の経営戦略についても、取組の進捗と成果を一定期間ごとに評価、検証した上で、収支均衡を図る具体的な取組を再検討し、経営戦略の改定を行うことが必要である。

そのため、地方公共団体に向けた支援策として、策定した経営戦略の改定も見据え、平成31年3月に、「経営戦略策定・改定ガイドライン」(平成28年1月作成、平成31年3月最終改訂)や、事業ごとの具体的な策定・改定実務の手引書となる「経営戦略策定・改定マニュアル」(平成31年3月作成)を公表するとともに、引き続き、経営戦略の策定・改定に要する経費に対する特別交付税措置を講じるほか、全国ブロック単位での経営戦略の策定・改定に係る実務講習会などを実施することとしている。

なお、病院事業は、平成27年3月に、「新公立病院改革ガイドライン」(平成27年3月31日付け総務省自治財政局長通知)により、経営戦略に代えて、「新公立病院改革プラン」の策定を要請し、全ての公立病院が策定済みである。

(イ)抜本的な改革の推進

各公営企業が不断の経営健全化等に取り組むに当たっては、事業ごとの特性に応じて、事業廃止、民営化・民間譲渡、広域化等及び民間活用といった抜本的な改革に取り組むことが求められる。

その取組状況は、第58表 のとおり、平成30年度の1年間で、事業廃止106件、民営化・民間譲渡16件、広域化等47件などとなっており、各事業の特性に応じた取組が行われている。これらのうち、特に他の地方公共団体において参考となる取組について先進・優良事例集を作成しており、毎年度更新の上、地方公共団体への周知を行っている。

水道事業及び下水道事業については、広域化等を推進するとともに、公共施設等運営権制度を含むPPP/PFI手法や民間委託など更なる民間活用を推進している。

また、病院事業については、再編・ネットワーク化、地方独立行政法人化や指定管理者制度の導入を含む経営形態の見直し、経営の効率化等を推進している。具体的には、平成27年度から平成30年度までの間に、再編・ネットワーク化は42病院、地方独立行政法人化は12病院、指定管理者制度の導入は9病院で実施されている。

(ウ)公営企業の経営状況の「見える化」の推進

公営企業の経営状況の「見える化」については、平成26年度に会計制度の全面的な見直しを行ったほか、各公営企業の経営基盤の強化等のために、公営企業会計の適用拡大及び経営比較分析表の活用を推進している。

a 公営企業会計の適用拡大

公営企業会計の適用については、「公営企業会計の適用の更なる推進について」(平成31年1月25日付け総務大臣通知)及び「公営企業会計の適用の推進に当たっての留意事項について」(平成31年1月25日付け総務省自治財政局長通知)等により、第133図のとおり、下水道事業及び簡易水道事業を重点事業とし、人口3万人以上の地方公共団体における令和元年度までの公営企業会計への移行を引き続き推進するとともに、人口3万人未満の地方公共団体においても令和5年度までに公営企業会計に移行することとするなど、一層の取組を推進している。併せて、市区町村における公営企業会計への移行が円滑に進むよう、都道府県に対して、個別の市区町村の取組状況を踏まえた助言等を要請している。

第133図 公営企業会計の適用拡大に向けた新たなロードマップ

平成31年4月時点における全都道府県・市町村等の公営企業会計適用への取組状況は第59表のとおりであるが、引き続き、各地方公共団体における取組状況のフォローアップや、外部専門家の支援の実施等により、更なる取組を促進することとしている。

b 経営比較分析表の活用

各公営企業において作成・公表している経営比較分析表については、これまで、水道事業、簡易水道事業、下水道事業、交通事業(自動車運送事業)、電気事業、観光施設事業(休養宿泊施設事業)、駐車場整備事業及び病院事業の8分野を対象としていた。令和元年度から、新たに工業用水道事業を作成・公表対象に加えることとしている。

経営比較分析表が、各公営企業の経営分析に当たって、更に有効に活用されることが期待される。

(エ)外部専門家による支援

経営戦略の策定・改定、抜本的な改革の検討及び公営企業会計の適用等の取組を推進するため、総務省においては、各公営企業等がこれらの取組について検討を進めるに際し、公営企業等の経営に精通した外部専門家の助言等を受けることができる支援制度を設けている。

a 公営企業経営アドバイザー派遣事業

地方公共団体の要請に基づき、総務省が委嘱した公認会計士等の外部専門家を派遣し、必要な助言を行うことを目的として、平成7年度から実施している。令和元年度から、本事業を活用し、公営企業会計の適用について、人口3万人未満の市町村等を対象とし、年間を通じ複数回派遣するモデル事業を実施している。

b 公営企業経営支援人材ネット事業

地方公共団体が、対応可能な地域や取組分野等ごとにリスト化した外部専門家を招聘し、継続的な指導・助言を求めることを目的として、平成28年度から実施している。また、令和元年度から、諸課題への対応のため、外部専門家の充実を図っている。

(オ)主な事業における経営の取組

a 水道事業

水道事業を取り巻く経営環境が厳しさを増す中、広域化、適切なストックマネジメント、料金収入の確保、民間活用、ICT等の利活用などに取り組むことで持続的な経営を確保すべきである。

特に広域化については、「「水道広域化推進プラン」の策定について」(平成31年1月25日付け総務省自治財政局長・厚生労働省大臣官房生活衛生・食品安全審議官通知)を発出しており、都道府県において、「水道広域化推進プラン」を令和4年度までに策定するよう要請している。なお、「水道広域化推進プラン」の策定に向けた取組を支援するため、「水道広域化推進プラン策定マニュアル」(平成31年3月)を発出し、策定に当たっての実務上の参考資料として、プランの全体像や標準的な記載事項等を示している。また、引き続き多様な広域化に伴う施設の整備等に対する地方財政措置を講じることとしている。

b 下水道事業

下水道事業を取り巻く経営環境が厳しさを増すことを踏まえ、広域化・共同化、汚水処理施設の最適化、適切なストックマネジメント、使用料収入の確保、民間活用、ICT等の利活用、公営企業会計の適用などに取り組むことで持続的な経営を確保すべきである。

特に、広域化・共同化の推進に当たっては「汚水処理の事業運営に係る「広域化・共同化計画」の策定について」(平成30年1月17日付け総務省自治財政局準公営企業室長等通知)を踏まえ、都道府県において、令和4年度までに「広域化・共同化計画」を策定するよう要請している。また、引き続き広域化・共同化に伴う施設の整備費等に対する地方財政措置を講じることとしている。

c 病院事業

公立病院は、地域における基幹的な公的医療機関として、へき地医療・不採算医療や高度・先進医療を提供する重要な役割を果たしているが、多くの公立病院において、経営状況の悪化や医師不足等のために、医療提供体制の維持が厳しい状況になっている。また、人口減少や少子高齢化が急速に進展する中で、医療需要が大きく変化することが見込まれており、地域ごとに適切な医療提供体制の再構築に取り組んでいくことがますます必要になっている。

このため、公立病院を経営する地方公共団体においては、「新公立病院改革ガイドライン」を踏まえ、「新公立病院改革プラン」を策定した上で、再編・ネットワーク化、経営形態の見直し、経営の効率化等の経営改革の取組が進められている。

また、令和2年夏頃を目処に「新公立病院改革ガイドライン」を改定し、令和3年度以降の更なる改革プランの策定を要請することとしている。

公立病院に対する財政支援措置については、へき地医療や、不採算・特殊部門に係る医療を担う公立病院の役割を踏まえ、再編・ネットワーク化や、医師確保対策を含め、所要の地方財政措置を講じている。

加えて、地域医療構想の更なる推進に向け、過疎地等で経営条件の厳しい地域において、二次救急や災害時等の拠点となる不採算地区の中核的な公立病院の機能維持のための特別交付税措置を新たに講じるとともに、現行の不採算地区病院に対する特別交付税措置について、特に病床数が少ない病院を中心に措置を拡充することとしている。

さらに、公立病院が果たしている役割を踏まえ、周産期医療、小児医療、小児救急及び救命救急センターに対する特別交付税措置を拡充することとしている。

イ 第三セクター等の経営改革の推進について

各地方公共団体においては、財政規律の強化と財政的リスク管理の一環として、関係を有する第三セクター等について、自らの判断と責任により経営効率化・健全化に取り組むことが必要である。

総務省においては、平成30年度決算で、地方公共団体が出資又は出えん(以下「出資等」という。)を行っている第三セクター等7,325法人の中で、地方公共団体が25%以上の出資等を行っている法人のうち債務超過である法人や損失補償等を行っている1,161法人について財政的リスクの調査を実施し、地方公共団体別に、調査対象法人全ての結果を公表したところである。

この調査対象法人のうち、290法人において一定以上の財政的リスクが存在するものとなっている。具体的には、<1>債務超過の法人は233法人、<2>時価評価した場合に債務超過になる法人は7法人、<3>土地開発公社で債務保証などの対象となっている5年以上の長期保有土地の簿価総額が標準財政規模の10%以上のものは33法人、<4>地方公共団体の標準財政規模に対する損失補償などの額の割合が実質赤字比率の早期健全化基準相当以上の法人は49法人となっている(複数項目に該当する法人あり)。

このような法人については、「第三セクター等の経営健全化方針の策定と取組状況の公表について」(令和元年7月23日付け総務省自治財政局公営企業課長通知)により、関係を有する地方公共団体に対して、経営健全化のための具体的な対応等を内容とする経営健全化方針を作成し、着実な取組を実施するとともに、取組状況を公表するよう要請している。

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