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都道府県と市町村の連携事例 
「騒音・振動・悪臭等公害苦情処理担当者研修会」にみる大分県の取組

 公害苦情相談は、公害に関する苦情を紛争に発展する前の段階で解決することにより、苦情や相談の申立者はもとより、地域住民の健康と生活環境を保持するという極めて重要な役割を担っています。また、公害苦情相談は、公害紛争の簡易迅速な解決を目的とする公害紛争処理制度の広大な底辺を支える土台として極めて重要な役割を果たしています。
 大分県では、令和6年7月19日、県内の公害苦情相談窓口の職員の解決力の向上を目的として騒音・振動・悪臭等公害苦情処理担当者研修会を開催しました。公害等調整委員会事務局では、同研修会に公害等調整委員会事務局職員及び公害苦情相談アドバイザーを講師として派遣致しました。
 本記事では、同研修会の概要とともに研修会の意義等に関する公害苦情相談アドバイザーへのインタビューの内容をご紹介いたします。研修会の取組は、公害苦情相談の適切な処理を取り巻く様々な課題や公害審査会と市町村との連携に当たって参考になると考えます。本記事が皆様の今後の取組の参考になれば幸いです。

1.大分県主催「騒音・振動・悪臭等公害苦情処理担当者研修会」について

(1)研修会の目的と構成

 大分県環境保全課では、県内の公害苦情相談窓口の職員の解決力の向上を目的として、「騒音・振動・悪臭等公害苦情処理担当者研修会(以下「研修会」)」を毎年開催しています。本年の研修会は、大分県環境保全課、大分県内の保健所及び各市に所属する職員26名(参加者の多くは、配属1年目の職員や2年目、3年目の職員)が参加して行われました。
 研修会は、公害等調整委員会事務局が毎年秋に開催しているブロック会議(公害紛争処理関係ブロック会議及び公害苦情相談員等ブロック会議)を参考に構成されており、まず公害紛争処理制度及び公害審査会に関する説明並びに公害苦情相談アドバイザーによる講演が行われ、その後、参加者による公害苦情処理事例研究(グループ討議)が行われました。
 なお、今年度の研修会は、別途、九州リオン株式会社からも講師を招いて、騒音規制法及び振動規制法の概要、騒音・振動測定の概要、騒音・振動測定実習(測定及びデータ解析)並びに悪臭防止法の概要に関する研修を行うとのことで(本年8月19日に開催)、大分県環境保全課では、毎年、取組内容の充実を図っていることがうかがわれました。

大分県庁舎

【開催概要】
○日時:令和6年7月19日(金)10:00〜15:30
○場所:大分県庁
○次第:(午前の部)
    ・挨拶:大分県環境保全課 課長 嶋ア 晃
    ・公害紛争処理制度について(45分)
     講師:総務省公害等調整委員会事務局総務課課長補佐(広報・申請相談担当)  橋本 隆介
    ・大分県公害審査会について(10分)
     講師:大分県環境保全課主査  小池 明仁
    ・公害苦情相談の対応について(1時間)
     講師:総務省公害等調整委員会 公害苦情相談アドバイザー  利光 泰和(大分市環境部環境対策課 調査官)
    (午後の部)
    ・公害苦情処理事例研究(グループ討議)(2時間30分)

大分市内の様子

(2)公害等調整委員会事務局による講演

 公害等調整委員会事務局より、公害紛争処理制度に関する講演が行われました。説明の主なポイントは、次のとおりです。

【公害紛争処理制度の全体像】
・公害紛争の迅速・適正な解決を図るため、司法的解決とは別に公害紛争処理法に基づき公害紛争処理制度が設けられており、同制度は、市区町村の公害苦情相談窓口、都道府県の公害審査会等及び国の公害等調整委員会からなっており、相互の連携を図ることで、公害紛争処理制度全体として解決力の総和を高めている。
・各機関では、公害紛争処理制度で解決されるべき紛争が未解決のまま放置されないよう、特色を活かした運用を行い、適切な事件を汲み上げるとともに、解決が困難な事案についてはふさわしい機関で処理されるよう、相互の連携と役割分担を図ることが必要である。

【公害苦情相談窓口が果たしている役割】
・最近は、都市型・生活環境型の公害の比較的規模の小さな事件が増え、紛争内容も多様化している。多くの公害紛争は、全国の公害苦情相談窓口において処理されており、制度全体に占める公害苦情相談窓口の役割は大きい。

【公害紛争処理機関による調停及び裁定】
・公害苦情相談とは別に、国に公害等調整委員会が、都道府県に公害審査会等が置かれており、調停と裁定により紛争の解決を図っている。
・調停及び裁定の特性と有用性 ※詳細は割愛
・公害苦情相談窓口において解決できない場合、調停及び裁定の特性と有用性を知っておくことで、必要に応じて、相談者に制度を紹介することもできる。
・公害等調整委員会で扱った事件の紹介

 公害等調整委員会事務局では、公害紛争処理制度の理解促進を図るため講演資料を新たに用意しました。参加者アンケートでは、説明が「分かりやすい」、講演内容が「役に立つ」といった回答が多く寄せられ、公害紛争処理制度の強みと特性に関する理解促進に関して、一定の成果を得ることができました。

講演の様子(公害等調整委員会事務局)

(3)大分県環境保全課による講演

 大分県環境保全課より、大分県公害審査会に関する講演が行われ、大分県公害審査会及び過去の対応事例について説明が行われました。

【講演項目】
・公害とは
・大分県の公害苦情の状況
・公害紛争処理制度
・大分県公害審査会
・過去の対応事例

 参加者アンケートでは、説明が「分かりやすい」、講演内容が「役に立つ」といった回答が多く寄せられました。

(4)公害苦情相談アドバイザーによる講演

 公害苦情相談アドバイザーより、公害苦情相談の対応について講演が行われ、公害苦情処理のフローに沿った各処理段階の対応のポイント、悪臭及び騒音に関する事例や苦情処理で心掛けたいことなどについて説明が行われました。

【講演項目】
・新人職員の頃の思い出
・市町村職員の位置づけ
・苦情処理に関する事務の内容
・公害苦情の処理の流れとそのポイント
・大分市の公害苦情の現状と特徴
・悪臭苦情の特徴と課題の考え方
・悪臭事例の紹介
・騒音苦情の特徴と課題の考え方
・騒音事例の紹介
・苦情処理で心掛けたいこと
・最近の公害苦情の特徴
・参加者へのメッセージ

 質疑も活発に行われ、参加者アンケートでは、説明が「分かりやすい」、講演内容が「役に立つ」といった回答が多く寄せられました。参加者からは、「ノウハウ、心がまえの面を含めてのアドバイスが参考になった」、「経験は少ないが、自分でできる最大限のことで苦情対応していく心構えができた」といった声もあり、実務に即した講演内容は、今後の公害苦情処理の対応を考える際に大いに参考になると考えられます。

講演の様子(公害苦情相談アドバイザー)

(5)公害苦情処理事例研究(グループ討議)

 最後に、参加者が5つのグループ(1グループ4人から5人で構成)に分かれて、公害苦情処理事例研究(グループ討議)が行われました。
 今回は、3つの事例が取り扱われました(騒音事例が2つ、悪臭事例が1つ)。事例は、実際の事例を参考にしたものや大分県環境保全課が考えた想定事例からなっており、事例ごとに「公害等の種類」、「苦情受付年月日」、「終結年月日」、「苦情者及びその概要」、「発生源及びその概要」、「苦情の概要」、「調査・測定」、「苦情内容」、「苦情者主張」、「発生源主張」、「論点等」に関する情報が整理されていました。また、公害等調整委員会事務局が作成している『公害苦情処理事例集』掲載事例を参考に作成された悪臭に関する事例では、「苦情処理の経過」に関する情報も記載されていました。
 参加者は、各事例の自治体職員の対応に関して、良かった点と改善点について討議を行い、その後発表が行われました。公害苦情相談アドバイザーからは、各グループの発表内容について、的確な指摘であることを評価するコメントや、豊富な経験から別の視点もあることについて助言が行われました。
 どのグループも活発に討議が行われており、参加者アンケートでは、「役に立つ」といった回答が多く寄せられました。参加者からは、「日頃抱えている問題などを考えさせられる内容だった」、「グループで考えながら意見を出すことができて良かった。自分の考えとは異なる対応も考えることができた」といった声があり、事例研究(グループ討議)が公害苦情相談窓口に従事する職員の実務に役立つ内容であることが感じられました。

公害苦情処理事例研究(グループ討議)の様子1

公害苦情処理事例研究(グループ討議)の様子2

2.公害苦情相談アドバイザーへのインタビュー

 公害苦情相談アドバイザーの利光泰和氏(大分市環境部環境対策課 調査官)にご協力いただき、都道府県主催の研修会の意義等について、インタビューを行いました。
 ※聞き手 公害等調整委員会事務局総務課課長補佐(広報担当) 橋本 隆介

【これまでの経験】
(公害等調整委員会事務局総務課課長補佐(広報担当) 橋本(以下、橋本))まずは、環境担当・公害苦情相談担当のご経験について、教えていただけますでしょうか。

(公害苦情相談アドバイザー 利光氏(以下、利光アドバイザー))就職したら水処理に関わりたいと考えていました。大分市採用後に配属されたのは、し尿処理場でした。文字通り水を得た魚の日々であったことを記憶しています。水処理技術を現場で6年学んだ後、工場の大気汚染や水質汚濁などの公害対策行政に21年間携わり、規制事務と並行して多様な公害苦情の処理にも関わってきました。

(橋本)環境担当配属後、公害苦情相談の対応は、大変だったのではないでしょうか。

(利光アドバイザー)そうですね。苦情処理を初めて経験した頃は、苦い思い出ばかりです。市民と接触する機会のなかった職員がいきなり苦情の現場でコミュニケーション力を試され、知識不足や関わる人の心の綾が読めずに恥ずかしいくらい悩んだことを覚えています。 退職して再任用職員となって以降、今でも若い職員と現場で苦情処理に関わっていますが、適宜、今後の展開や解決シナリオの想定などをアドバイスしています。そのような時、ふと若い職員以上にかつての未熟で落ち着きのなかった自身のことを思い出すことがあります。

(橋本)続いて、これまでご対応された事例の中で、特に印象に残っている事例について教えていただけますか。

(利光アドバイザー)個別の事例の中でも、ぜひ、お話ししたいヘビーなものがありますが、守秘義務がありますので控えます(笑)。ただ、ヘビーなものほど、周りの先輩や同僚が関わってくれて助けてくれました。関わってくれた方に対しては、今でも感謝しています。これは苦情処理はもとよりあらゆる課題に共通するものではありますが、“当事者を一人にしない”ということは、大切な仕組みだと思います。そうでなくても最近の苦情事例は、規制になじまなかったり、構図が複雑であったり、時間がかかったりと、心の負担が大きいわけですから、周りに頼ることは決して恥ずかしいことではないと思っています。

(橋本)そうですね。自分自身の経験を振り返ってみても、上司や同僚に恵まれていると、何とか頑張ろうと、やってこられたように思います。公害苦情相談を含む環境行政においても個々の事案に関して、組織的に対応する雰囲気が職場にあることが大事ですよね。それには、上司自身が住民の皆様と接する職員の心理的負担を理解して、意識的に組織作りをすることが必要ではないかと思います。
 この仕事を通して、気付いたことについて教えていただけますか。

(利光アドバイザー)学んだことは、いくつもあります。その一つに、苦情処理では、とても大変なこと、その瞬間は八方塞がりなこと、とても憂鬱なことに巡り合いますが、引いて見てみると、半年後、一年後に「あのつらい経験は一体何だったんだろうか」と思うことばかりになるということです。
 もう一つは、これは私固有のものかもしれませんが、困難な苦情処理の中ではその瞬間は申立人や原因者の方に対して、ネガティブな心情を抱くこともあるかもしれませんが、先々の仕事の中で振り返ってみると、その方々から今の自身の発想力や胆力を育ててもらったと思い起こす事例があります。日々の辛い様々なことは、目線を変えれば自らの糧になるということでしょうか。

【知識・技術の学び方】
(橋本)私は、公害紛争処理機関であり制度の中央委員会として地方公共団体との連携も図っている公害等調整委員会事務局に異動して2年目になりました。この一年、公害苦情相談アドバイザーの皆様、そして自治体職員の皆様のお話を伺って感じたことは、仕事の進め方、やり方というものに唯一の正解はないということです。知っておかなければならない知識や技術はもちろんあります。ただ、それをどう使って、事案ごとに異なる住民や事業者と対応するのかは、試行錯誤をしながら、また過去の事例や同僚と相談しながら取り組むしかない。考えられることをやりきった上で、よい結果になればいいですが、納得してもらえないことも多々あるということです。ケース・バイ・ケースの対応で、皆様本当にご苦労されていると感じました。
 そこで、お伺いしたいのですが、公害苦情相談の対応に関して、いわゆる“型”、仕事をする上で必要となる土台づくりに関して、職員はどのように取り組んだらよいとお考えでしょうか?

(利光アドバイザー)苦情処理もほかの事務と同様に、基本となる処理手順があります。私は職場で新人研修の際には冊子『公害苦情相談の手引き』1 を使っています。残念ながら今は廃版となっています。公調委で何らかの工夫をしていただき、苦情処理の現場で市町村職員がバイブルとして平易に活用できるようにしていただければと思います。手引きには、苦情の受理、現場調査、申立人や原因者との接触、両者の意向のすり合わせ、対策の実施とその後の確認など、それぞれの要点が紹介されています。この要点を意識しつつ実際の苦情処理でOJTを積み重ねていく。うまくいかないこともありますが、どのような経験も糧になりますので、PDCAで高みを目指すことがよいと思います。
 ある程度の経験を積んだ方は、いつもの定番処理でいいのか、例えば三者協議のやり方にもう一工夫することがより良い解決策につながるのではなど、こだわりの試行錯誤が大切だと思います。我々がよくやらされている事務改善と同じです(笑)。併せて、後輩への助言や意欲的な人材育成は「情け?(心構えや技術の伝承)は人のためならず」だと思っています。

【組織の環境の変化】
(橋本)知識と技術、それから現場経験。それぞれを好奇心をもって継続して学ぶこと。そして学び続ける中で、自身の考えや行動を柔軟に変えていくことも大事なのではないかと思います。一方で、組織体制のスリム化や業務の多様化により、その他の業務に割く時間も増えており、職員は学ぶ時間がないという実情もお聞きします。
 今後も相談の件数自体が大きく減ることは考えられませんし、住民からは質の良い行政サービスの提供を求められます。全国の公害苦情相談窓口では、能力を引き上げること、学ぶことに関して、課題を感じているところも多いのではないかと思います。このあたりいかがでしょうか。

(利光アドバイザー)確かに全国の公害苦情の処理を担当する約1.1万人の職員は、公害関係法令の施行のほか、自治体によっては家庭ごみなどの廃棄物、昆虫そ族、動物愛護、墓地など、多様な事務を専らとしているわけですが、いったん、苦情を受理すれば、場合によってはその仕事を中断して、直ちにその処理に出向くなど、苦情処理という事務の優先度は高い方だと感じています。増え続ける本来の担当事務と並行しながら苦情処理についても自らの知識を増やし、スキルを磨かなければならない、しかも時間のない中でのご苦労は、とても大変だろうと思っています。

【苦情相談対応の姿勢】
(橋本)過去の事例、他の自治体の事例から学ぶことも多い一方で、今まさに抱えている事案というのは、当事者も違えば、状況も違う。そして対応する職員自身の経験や性格も違うので、他の事例と全く同じように対応できることはまずないと思います。ただ、対応するときの姿勢というか、心構えについては、共通する部分もあるのではないでしょうか。日頃、職員に対してアドバイスしていることなどありましたら、教えていただけますでしょうか。

(利光アドバイザー)行政職員は、あまりご自身に自覚はないと思いますが、社会の中では責任感の強い方の集団のような気がします。市民など全体へのより良い奉仕者として、その姿勢はすごく大事なことですが、苦情処理ではかえって大きな負担になることもあります。少し肩の力を抜く方がよいのかもしれません。
 先ほども申し上げましたが、多様な行政事務の中でも苦情処理は、一人で抱え込む性質のものではなく、みんなで受け止め、知恵を出し合い、ともに行動する共同作業なんだと考えることが大切です。苦情処理の手続きが円滑に進み、併せて組織のチームワークが強化されていく。内部のコミュニケーションが活性化し、理想的な職場づくりにも繋がるのではないかと思います。
 一方で、相談できる人が組織の外にもたくさんいることも、大きな助けになります。都道府県や近隣市町村などの担当者と顔の見える関係があり、硬いイントロは抜きで苦情の解決に向けて知恵を交換し合える関係があるとよいと思います。このネットワークは、多くの場合、ご自身の積極性の強度で広がりに差が生じるものだと思っています。
 ネットワークを広げる一つの機会として、全国で2分の1程度の都道府県が開催している市町村の公害苦情処理担当者を対象とした研修会は、苦情処理の基礎を研鑽しあえる場という意味においても、できるだけ多くの都道府県で開催され、たくさんの方が参加されることが望ましいと思っています。

【研修の意義】
(橋本)過去の対応事例を学ぶということでは、今回の大分県主催の研修会のような機会はとても大事だと思います。参加者同士で名刺を交換して、研修が終わったあとも、個人間で連絡を取り、相談できる関係を築くこともできます。都道府県が主催する市町村職員を対象とした公害苦情処理の研修会の意義について、どのようにお考えでしょうか。

(利光アドバイザー)都道府県研修会には、私や他のアドバイザーもそれぞれ参加して、苦情処理に関する講演を聞いていただいたり、持ち寄った事例の研修(グループワーク)ではコメンテーターを務めています。参加された多くの市町村職員の方からは、他の市町村職員と直接、意見交換した結果、「解決のヒントを得た」、「同じ悩みを共有できた」、「知り合えたことで心強い」、「このような研修会は定期的に開催してほしい」など、好意的な感想が寄せられています。
 開催している都道府県の工夫やご配慮で、市町村職員が苦情処理の現場で求めていることに的確に応える、意義の大きい研修会になっているのだと思っています。

【公害苦情相談アドバイザーの意義】
(橋本)公調委では、研修講師の派遣、秋のブロック会議の開催、昨年からは年度初めにwebセミナーも開催しています。公調委では、公害苦情相談の経験の豊富な方々にお声がけして、公害苦情相談アドバイザーになっていただき、全国の現場職員の皆様に対して、ご自身の経験を活かした公害苦情相談に関するアドバイスや経験した事例の紹介をしていただいております。公害苦情相談アドバイザーの講演や事例研究における助言、講評は参加者の満足度も高いです。
 公害紛争処理制度を運用する中央委員会として、公調委は今後もこうした活動を継続していけるよう体制を整えていかないといけませんが、公害苦情相談アドバイザーの意義については、どのようにお考えでしょうか。

(利光アドバイザー)私もアドバイザーとして委嘱を受けた当時は、どのようなことでお応えすべきか、迷いもありました。公調委の方から過去のアドバイザー業務の資料などをいただく中で、自治体で育ててもらったことを、苦情処理の現場で頑張っておられる皆さんに、お返しすることがその役割だと考えるようになりました。今日の苦情処理では、関わる職員は苦労が多くて、悩んだり負担が大きい。皆さんに寄り添って、少しでもヒントを提供し、元気を取り戻してもらう、それがアドバイザーの務めだと思っています。
 そうはいっても、今日の時代の変化とともに公害苦情のあり様も変わっていきますので、どのようなアドバイスがふさわしいのか、答えに迷うこともあります。幸い、アドバイザーは、私を含めて全国に8名が委嘱されていて、得意分野も違いますので、困ったときは助け合いと意見交換を常としています。17時以降の意見交換もありますので、チームワークの大切さは、苦情処理と相似形です(笑)。

【組織体制】
(橋本)住民や事業者など様々な人から相談や主張を聞くこと。そして、こちらの説明に対して理解を求めていくこと。これは、とても大変な仕事であり、デスクワークとは違ったストレスがあると思います。私自身も公調委公害相談ダイヤルで、日々、国民の皆様からの相談を受けていますが、こちらに相談するまでにある程度の期間、我慢されていた方、悩まれていた方とお話しする大変さというのは、経験しないと分からないと思います。傍から見ている以上に職員は疲れていることもあるのではないかと思います。
 相談対応をする職員の精神面のケアも大事だと思いますが、組織体制の在り方(職員一人一人の負担を軽くするための工夫)や管理職、上司が意識したほうが良いことなどがあれば教えてください。

(利光アドバイザー)最近は多くの職場で再任用職員が配置されていて活躍されていると思います。苦情処理では老練な職員の、それまで培われてきたコミュニケーション力や落着きなどが役立ちますし、こうした人材が苦情処理に関わることで、間違いなく若手の職員の負担軽減と学びの機会につながると思います。
 また、苦情の受理は電話によることが大半だと思います。私の職場では、電話を受けた職員の周りの職員が状況を見て住宅地図を用意し、過去の経過があればパソコン画面を選択して、サポートするようにしています。上司は、担当職員から、苦情の現場に出向く前に対応案の相談を受け、同意と場合によっては追加の助言をして、一体感を大切にしています。管理職は、現場に行こうとする担当職員によく声をかけ、帰庁後は労をねぎらっています。
 やはり担当職員にとって上司や管理職の言葉は栄養剤です。上司や管理職は寄り添う心と感謝の気持ちを持ち、困難事例のミーティングにはタイムリーに関与することが大切ではないかと思います。

【公害審査会の調停について】
(橋本)公調委では、公害紛争処理制度のビジョンと全体構想を整理したところです。公調委は、公害紛争処理機関としての役割もありますが、中央委員会として、市区町村の公害苦情相談窓口、公害審査会及び公害等調整委員会からなる公害紛争処理制度全体としての解決力の総和を高めていく役割もあります。
 全体としての解決力の総和を高めるというのがポイントだと考えています。公害紛争処理制度ができて半世紀経ちましたが、改めて個々の機関がその特性を自覚すること、制度全体として事案を解決していく関係を再構築することで、公害紛争処理制度で解決されるべき紛争が未解決のまま放置されずに、ふさわしい機関で処理されるようになっていくのではないかと考えています。
 利光アドバイザーには、過去の連絡協議会においてご登壇いただき、市の職員の視点から公害苦情や公害紛争処理、特に市区町村と公害審査会との関わりについてご発言いただきました。そこでは都道府県公害審査会の認知度が低いというご指摘をいただいたところです。公害審査会の調停や公調委の裁定にふさわしい事案が実際にあるかどうかは、市区町村の公害苦情相談窓口の皆様が一番ご存じですので、こうした研修の機会を活かして、行政ADRとしての公害紛争処理制度の特性と強みについて理解してもらうこと、どういった事案が公害審査会や公調委で扱われているのかを知ってもらうことが必要不可欠です。なかなか解決できずに長期化している事例などがあれば、相談者に調停や裁定を案内していただき、申立てにつなげいくことができると良いと考えています。
 公害苦情相談窓口から公害審査会や公調委への申立ての誘導ということからも県主催のこうした研修の意義というのはとても大きいと感じていますがいかがでしょうか。

(利光アドバイザー)県主催の研修会では、主催者から必ず公害審査会など紛争処理の制度の紹介があります。今日の公害苦情は、私が若いころ(35年くらい前)と比べても、難問奇問の事例が増えているように感じます。55年ほど前にできた公害紛争処理法ですが、このような事例を抱える市町村にとって行政ADRの特徴がより発揮される新たな時代背景の中で、この制度の価値が再評価されることになったのではないか、と私は感じています。その意味でも、制度の認知度と使いやすさが向上すれば、これからは、都道府県の公害審査会の申請事例が増えていく必然があるようにも思っています。
 これに加えて都道府県の研修会では、地域の苦情事例を素材としたグループワークがありますが、出席者参加型の研修として好評で、市町村間の連携の横ぐしをさす役目と、都道府県との関係の強化など、多様な効果を生んでいます。
 いささか横柄ですが、われわれアドバイザーは、グループワークで取り上げられる事例へのアプローチのヒントなどを、事前の講演ではお話しできるよう準備と努力をしています。もっともさらに皆さんのお役に立てるようにブラッシュアップすべきと内省もしていますが。
 ところで苦情は、市町村の現場で発生し、それが行政対応の起点となります。解決が困難な場合は、その後の都道府県との連携の良否、国との連携の良否がいかに重要かは論を待ちません。アドバイザーの目線で見ると、その最初の連携のキーとなる市町村と都道府県の関係を強化する最も近道で手堅い方法が、都道府県の研修会であると思っています。
 繰り返しになりますが、できるだけ多くの都道府県が関係市町村の職員のための研修会を定期的に開催することを私を含め多くのアドバイザーが望んでいます。研修未開催の県が一から研修会を立ち上げるのはなかなかご苦労もあるかと思います。ですので、こうした研修会が全国どこでも、毎年開催されていることが当たりの風景となるよう、公調委側から都道府県の担当者に話を持ちかけていただき、必要な情報を提供してもらうことがポイントになります。公調委には、現場で日々奮闘している職員のためにも、しっかり取組をお願いしたいと思います。その機会として毎年の連絡協議会や秋のブロック会議を活かされてはどうかと思います。

【最後に】
(橋本)公害苦情処理に従事されている全国の職員に対するメッセージをお願いします。

(利光アドバイザー)ブロック会議や都道府県研修会でもよくお話しさせていただくんですが、「おおよそすっきり感や達成感のない苦情処理を通じて、我々は職員として一体何を会得するのか」、これは大きなテーマだと思います。
 でもよく考えてみると苦情処理とは、構図を俯瞰する力、関係者と対話する力、今後の展開を想定する力、合意形成を図る力などを場面、場面で磨く作業ともいえるわけで、これは何も苦情処理に限ったことではなく、これからいろいろな職場に異動になっても、どのような行政課題に取り組んでも、職員としてあらゆる分野、場面で試され、求められる総合的な力であるといえます。大げさに言えば退職までの財産ともいえます。悲観からは生まれるものは少ないので、前向きにことに当たる方がよいと思います。
 私は少しずつですが、知識やスキルが増えるように、いわゆる勉強をしてきました。少しずつでいいので、日々の自己研鑽が大切だと思います。そしてそれを独り占めではなく職場でシェアすることが大切だと思っています。仕事は組織で当たるものですので、組織の本当の強さづくりに役立ちます。
 最後に一言、持論ですが、仕事は文字通り三つのワークが大切だと考えています。フットワークとチームワークとネットワークです。苦情処理では、お一人の負担を減らすためにも、チームワークとネットワークを強くしてください。さらに加えれば、心を癒すために、例えばスポーツ、旅行、音楽など、なんでもいいので夢中になって、大いにオフタイムを楽しんで、一人一人の心の健康を大切にしていただければと心から願っています。

(橋本)貴重なお話をたくさん頂戴しました。インタビューにご協力いただき、誠にありがとうございました。私自身、大変勉強になりましたし、今回のインタビューは、公調委、そして全国の自治体職員の皆様の参考になると思います。本日はお忙しい中、誠にありがとうございました。
以上

 
1 『公害苦情相談の手引き』 (財団法人日本環境協会編、公害等調整委員会事務局監修、平成11年)

  

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