特集
環境騒音の測定・ 評価について

1 JISにおける環境騒音の測定・評価

 日本国内における環境騒音の測定方法に関する規格として、JIS Z 8731:騒音レベル測定方法が1957年に制定されました。その内容は、騒音計を用いて一般環境および作業環境における騒音の測定方法を規定したものです。一般の環境における騒音の評価尺度としては、騒音レベルの中央値が採用されました。
 1983年には、等価騒音レベルが環境騒音の評価尺度として国際的に採用されるようになったことを踏まえ、規格は改正されました。その中で、ISO 1996-1: 1982を対応国際規格とし、主要な評価量として等価騒音レベルが規定されました。
 1999年には、等価騒音レベルが主要な評価尺度として日本でも採用されてきたこともあり、2回目の改正が行われました。ISO規格に可能な限り整合させることで、規格の国際整合化を図るとともに、その題名も「環境騒音の表示・測定方法」に改正されました。
 その後、前回の改正から20年が経過し、内容の見直しや確認、この期間に公表された各種の騒音測定マニュアルなどにおいて採用されている騒音評価量の追加など、規格改正の必要性が生じてきました。これに先立ち、対応国際規格であるISO 1996-1及びISO 1996-2が、それぞれ2016年、2017年に改正されました。しかしこれらのISO規格の内容は、改正前に比べて大幅に変更されており、日本の一般的な騒音測定方法とは異なる点が多々見られました。そのため、ISO規格をそのまま整合化させることは、日本国内における環境騒音の測定の実務に大きな支障をきたす恐れが生じていました。このような状況を踏まえて、国際整合化の上で、必要な騒音表示量、その記号などの基本的な事項だけを規定することにして、2019年に改正されました。以後本稿では、2019年に改正された“JIS Z 8731:2019 環境騒音の表示・測定方法”を、単にJIS Z 8731と記します。

神奈川県環境科学センター
 神奈川県環境科学センター

2 環境基準における測定・評価

 環境基準は、環境基本法(平成5年11月19日法律第91号)第16条の規定に基づき、人の健康の保護及び生活環境の保全のうえで維持されることが望ましい基準です。大気の汚染、水質の汚濁、土壌の汚染及び騒音に係る環境上の条件について、それぞれ定められています。環境基準は、「維持されることが望ましい基準」で、行政上の政策目標です。これは、人の健康等を維持するための最低限度としてではなく、より積極的に維持されることが望ましい目標として、その確保を図っていくものになります。
 騒音分野の環境基準としては、以下が告示されています。
 (1) 騒音に係る環境基準について(平成10年9月30日環境庁告示第64号)
 (2) 航空機騒音に係る環境基準について(昭和48年12月27日環境庁告示第154号)
 (3) 新幹線鉄道騒音に係る環境基準について(昭和50年7月29日環境庁告示第46号)

 環境省は、環境基準の対象となっている騒音の実態を適切に把握・評価することを目的に、それぞれの騒音に係る測定・評価マニュアルを公表しています。具体的には、(1)から(3)それぞれに対応したものとして、「騒音に係る環境基準の評価マニュアル」(平成27年10月)、「航空機騒音測定・評価マニュアル」(令和2年3月)、及び「新幹線鉄道騒音測定・評価マニュアル」(令和7年6月)があります。いずれのマニュアルでも、測定・評価に関する技術的な視点も含めた改正が実施されており、最新の技術情報が提供されています。

3 騒音規制法における測定・評価

 騒音規制法(昭和43年法律第98号)の目的は、工場・事業場における事業活動及び建設工事に伴って発生する相当範囲にわたる騒音について必要な規制を行うとともに、自動車騒音に係る許容限度を定めることなどにより、生活環境を保全し、国民の健康の保護に資することとです。同法では、主に、1)特定工場等、2)特定建設作業、3)自動車騒音を規制しております。そして同法第21条の2において、「市町村長は、指定地域について、騒音の大きさを測定するものとする。」ことが規定されています。そのため、市区町村の環境部局の担当者は、特定工場等及び特定建設作業に関する騒音規制について、それぞれの大きさと規制基準との対比、また自動車騒音の大きさと要請限度との対比を求められる場面が多々あると思います。
 特定工場等に係る規制及びその測定・評価方法については、「特定工場等において発生する騒音の規制に関する基準」(昭和43年11月27日厚生省・農林省・通商産業省・運輸省告示1号)で規定されています。特定工場等に係る規制は、個々の特定施設から発生する騒音だけではなく、特定施設以外の施設や作業も含めたすべての騒音を対象としています。特定建設作業に係る規制及びその測定・評価方法については、「特定建設作業に伴って発生する騒音の規制基準」(昭和43年11月27日厚生省・建設省告示第1号)で規定されています。特定建設作業に係る規制は、特定工場等とは異なり、特定建設作業以外の作業から発生する騒音は対象外としています。
 特定工場等及び特定建設作業に関する騒音の測定・評価に関してですが、昭和43 (1968)年の告示から、基本事項は変更されてはいません。例えば、いずれの告示においても、備考の3には、「騒音の測定方法は、当分の間、日本工業規格(現在は日本産業規格)Z 8731に定める騒音レベル測定方法によるものとし、騒音の大きさの決定は、次のとおりとする。」と記載されています。しかし、このJISは1983年版を指していますので、現状では、告示の測定・評価を補完するものとして十分とはいえません。
 さらに、いずれの告示についても制定から50年以上が経過し、測定機器や解析手段等の高速化、デジタル化等により関連技術は大幅に向上しています。告示された当時は、5秒間隔、100個の騒音レベルを読み取り、測定時間における5パーセント時間率騒音レベルなどで評価している事例が多かったと思います。その一方、近年の騒音計では、記憶媒体の容量に依存しますが、サンプリング間隔を0.1秒、測定時間を24時間以上として、騒音レベルを連続で測定かつ記録することが可能です。しかし、このようにして得られた多量のデータを用いた評価に関しては、上記の告示で示されている情報だけでは不十分ではないでしょうか。
 一方、自動車騒音に係る限度及びその測定・評価については、「騒音規制法第17条第1項の規定に基づく指定地域内における自動車騒音の限度を定める省令」(平成12年総理府令第15号)に規定されています。この省令は、騒音の評価手法が、騒音レベルの中央値から等価騒音レベルへ変更されたことに伴い公布されたものです。関連して、「騒音規制法第17条第1項の規定に基づく指定地域内における自動車騒音の限度を定める命令の改正について(技術的助言)」(平成12年07月17日環大一102号)にも、自動車騒音を測定する上で、参考及び留意する点が示されています。自動車騒音に係る要請限度は排出規準、自動車騒音に係る面的評価は曝露規準であることから、両者における測定・評価には共通する面が多いです。そのことから、技術的助言に記載されていない事項に関して、「騒音に係る環境基準の評価マニュアル(道路に面する地域編)」を参考にすることは有効であると筆者は考えています。
 以上、騒音規制法における測定・評価を概観しましたが、特定工場等及び特定建設作業に関しては、環境基準における測定・評価マニュアルのように、測定者が参照できる公的な技術資料は存在していません。話は変わりますが、筆者の所属する神奈川県環境科学センターは、主に市町村環境部局に対して、騒音などに係る苦情対応における測定・評価の技術支援を実施しています[1]。この業務を通して筆者が問題として捉えていたことの一つに、条例で規制している騒音も含め、工場・事業場及び建設作業から発生する騒音を対象とした測定・評価方法について、技術的見地からは適切といえない手順や処理を行っていることです。同様に、環境騒音に係る測定・評価の原則が記載されているJIS Z 8731に関しても、基本的事項に対する認識が不十分であることを感じており、同じく測定・評価上の問題と捉えていました。
 これらの問題を解決するためには、マニュアルの作成が最善の方策ではないかと思いますが、筆者一人では限界があります。そこで、JIS Z 8731も含め、測定・評価を実施する上で、技術的な視点での注意点や留意点を整理し、広く周知することも、有効な方策の一つでしょう。そのことにより、測定・評価に対する理解を一層深めることができると思います。

筆者(横島アドバイザー)
 筆者(横島アドバイザー)
 

4 騒音測定・評価の注意点及び問題点

  本章では、JIS規格で定義されている用語の解説とともに、騒音規制法及び条例に係る環境騒音の測定・評価を行う上での注意点や留意点について概説します。

4.1 騒音レベル
 騒音レベルは、A特性を掛けて測定した音圧の実効値の2乗を、基準の音圧の2乗で除した値の常用対数の10倍で表されます。ここで、A特性は、人間の聴覚を近似的に模した周波数特性です。騒音レベルの量記号はdBですが、時折、dBAやdB(A)の表記を見かけます。このような表記は、騒音レベルを音圧レベルと区別するために便宜的に用いていると思いますが、dBだけで問題ありません。また、騒音レベルの呼称について、ISO 1996での定義“A-weighted sound pressure level”に従い、「A特性音圧レベル」ともいいます。

4.2 等価騒音レベル
 等価騒音レベルは、ある時間T(t1〜t2)について、変動する騒音の騒音レベルをエネルギー的な平均値として表した量で、時間平均騒音レベルともいます。等価騒音レベルの量記号はdBとなります。等価騒音レベルは、騒音分野の環境基準の評価指標として、自動車騒音に係る限度及び騒音に係る環境基準で採用されています。しかし、特定工場等及び特定建設作業に関する騒音の評価指標としては、後述のとおり、時間変動特性別に4パターンの方法が示されていますが、いずれも等価騒音レベルとは異なるものです。そのため、等価騒音レベルで変動騒音を評価することは、例えば他の音源との比較ということで参考評価であれば問題ありませんが、規制基準と対比することは適切ではありません。

4.3 環境騒音の分類
 環境騒音の状況は一般に極めて複雑ですが、JIS Z 8731ではその構成要素に着目して、「総合騒音」、「特定騒音」、「残留騒音」、及び「背景騒音」の4分類が明記されています。
 総合騒音とは、着目している場所で観測される全ての騒音のことです。そのうち、騒音源が音響的に特定できる騒音が特定騒音となります。一方、残留騒音は、総合騒音から全ての特定騒音を取り除いた騒音のことになります。背景騒音は、ある一つの特定騒音に着目した場合、それ以外の全ての騒音のことです。なお、以前の規格では、特定騒音の備考として暗騒音が記載されていましたが、今回の改正では背景騒音を用語として定義し、暗騒音を注記としています。今後は、用語としては、背景騒音を用いるように留意してください。

神奈川県環境科学センター(館内)
 神奈川県環境科学センター(館内)

 ここで、上記の用語について、図を参照しながら説明します。例えば、工場に設置されている施設A、B及びCから発生する騒音(特定騒音A、B及びC)の測定において、これらの施設以外の騒音は明確に特定できない(定常的な騒音レベルが非常に低い)場合を想定します(図左)。施設からの騒音はいずれも特定騒音であり、その他の騒音は定常的な残留騒音となります。また、残留騒音は背景騒音の一部を構成するので、この場合には背景騒音は残留騒音と同じとなります。続いて、施設Aから発生する騒音(特定騒音A)の測定において、測定対象以外の施設Bからの騒音(特定騒音B)及び鳥の鳴き声(特定騒音C)も特定できる場合を想定します(図右)。この場合、残留騒音は、特定騒音A〜C以外の騒音、すなわち明確に特定できない騒音となります。背景騒音は、特定騒音B、特定騒音C及び残留騒音となります。

 用語として、残留騒音を背景騒音と混同していることが多々あります。残留騒音の概念はもちろん、用語そのものが、環境騒音の測定実務者に浸透していないことも一因でしょう。対象騒音の測定においては、背景騒音は除外する、又は背景騒音の影響が少ないと思われる地点又は時間帯を選定することが原則です。ただし、残留騒音は、地域に固有の騒音であることも多いので、残留騒音も含めて対象騒音を測定することになります。また、残留騒音を除外して測定することは基本的にはできません。
 最後に、特定施設から発生する間欠騒音を予測するにあたり、実環境を考慮して、その予測値の算出にあたり、当該地点での残留騒音の大きさ(例えばLA95,F,10min)を加えることがあります。しかし、時折、対象騒音や背景騒音を含む騒音の大きさ(例えばLA50,F,10min)を用いている事例を見かけます。先ほど述べたように、地域に固有の騒音を加えることが目的ですので、残留騒音に対する理解を深めてください。

図 環境騒音(総合騒音、特定騒音、背景騒音及び残留騒音)の構成
  図 環境騒音(総合騒音、特定騒音、背景騒音及び残留騒音)の構成
  ※JIS Z 8731:環境騒音の表示・測定方法 (2019)から引用

4.4 マイクロホンの位置
 騒音規制法及び多くの条例は、排出基準の観点から規制を行っています。そのため、騒音規制法における測定地点は、特定工場等において発生する騒音に関しては、特定工場等の敷地の境界線上となっています。特定建設作業に伴い発生する騒音に関しては、特定建設作業の場所の敷地の境界線上となっています。
 マイクロホンの高さに関して、「特定工場等において発生する騒音の規制に関する基準」、「特定建設作業に伴って発生する騒音の規制基準」いずれの告示でも規定されてはおりません。一方、JIS改規格では、屋外の測定について、「測定点の高さは、目的に応じて個々に設定するものとするが、特に指定がない限り、地上1.2 m〜1.5 mとする。」ことが規定されています。
 しかし、騒音発生源の地上からの高さが、建物高さで2階以上に相当する場合には、注意が必要になります。例えば、4階建ての集合住宅の屋上に設置されている施設(空気圧縮機)からの騒音に対して、隣接する集合住宅の5階の居住者が、苦情を申し立てている場合を想定します。ここで、発生源4階屋上と受音側5階は、ほぼ同じ高さにあるとします。騒音規制法又は条例における規制基準と対比する場合、マイクロホンは、発生源の敷地境界線上で、地上から高さ1.2 m〜1.5 mの位置ではなく、発生源の敷地境界線上で、4階屋上から高さ1.2 m〜1.5 mの位置に設置することが望ましいです。このように、発生源、受音側いずれでも、地上からの高さを考慮する必要がある場合には、それぞれの状況に応じて、マイクロホンの高さを設定してください。もちろん、物理的にマイクロホンを設置することが難しい場合もあります。その場合には、代替点での測定、当該点での推計などにより、騒音の発生状況を把握することで問題はありません。
 また、敷地境界上に防音塀が設置されている場合ですが、発生源と受音側の位置状況を踏まえて、マイクロホンの設置位置を決めることになります。原則は、防音塀の遮音効果を含めて評価することになりますので、防音塀の背後で地上高さ1.2 mまたは1.5 mの位置になります。ただし、前述のとおり、発生源または受音側が防音塀よりも高い位置にある場合には、伝搬経路上における防音塀の遮音効果は小さくなるので、必要に応じて、防音塀の上部にマイクロホンを設置することも検討してください。

4.5 反射音の影響について
 JIS Z 8731では、屋外での測定において、「反射の影響を無視できる程度に小さくすることが必要な場合には、可能な限り、地面以外の反射物から3.5 m以上離れた位置で測定する。」ことが規定されています。しかし、住宅が密集している状況では、この条件を確保することは難しくなります。
 ここで、特定工場等から発生する騒音を対象とした測定で、敷地境界を接する住宅の居住者が苦情を申し立てている場合を想定してください。具体的な状況としては、敷地境界から住宅外壁までの距離が1mとすると、この敷地境界上でのマイクロホンを設置すると、住宅外壁による反射音の影響は避けられません。そのために、当該測定点の設定が適切なのか、非常に難しいところです。このような場合ですが、筆者は、反射音の影響については「騒音に係る環境基準の評価マニュアル(道路に面する地域編)」を参考に、当該位置で測定を行うことを勧めています。同マニュアルには、「反射の影響が無視できないような位置でやむを得ず測定を行う場合には、実測値を補正するなど適切な措置を行う。」ことが規定されています。具体的には、測定地点が建物の外壁面の直前1m〜2mの位置にある場合は、当該建物による反射音補正値は-2dBと示されています。補正により大凡の測定結果を確認することが可能となり、規制基準を達成しているのか、それとも超過しているのか、その判断材料の一つとして十分に活用できると思います。

4.6 騒音レベルの時間変動特性
特定工場等から発生する騒音及び特定建設作業に伴い発生する騒音の大きさの決定について、時間変動特性別に、以下の4パターンの方法が示されています。
  1.  定常騒音

    騒音計の指示値が変動せず、又は変動が少ない場合は、その指示値とする。

  2.  最大値が一定の間欠騒音

    騒音計の指示値が周期的又は間欠的に変動し、その指示値の最大値がおおむね一定の場合は、その変動ごとの指示値の最大値の平均値とする。

  3.  不規則かつ大幅に変動する騒音

    騒音計の指示値が不規則かつ大幅に変動する場合は、測定値の90%レンジの上端の数値とする。

  4.  最大値が一定でない間欠騒音

    騒音計の指示値が周期的又は間欠的に変動し、その指示値の最大値が一定でない場合は、その変動ごとの指示値の最大値の90%レンジの上端の数値とする。

 しかし、実際に測定している騒音が、いずれのパターンに該当するものなのか、明確に区分できないことが多々あります。例えば、(1)について、変動幅が何dBであれば定常騒音として評価できるのでしょうか。また、(3)と(4)の区分については、測定により得られた騒音レベルの時間変動データが変動騒音なのか、それとも最大値が一定でない間欠騒音なのか、明確でないことは往々にしてよくあることです。さらに、(2)と(4)の区分についても、指示値の最大値の変動幅が何dBを境として判断としているのでしょうか。筆者も含め、それぞれの測定実務者の経験等に基づいた判断に委ねられているものと思います。どの時間変動特性を当てはめるかにより、得られる測定結果は異なりますので、規制基準ぎりぎりの数値が得られる場合には、非常に悩ましい問題です。このような判断は、測定の目的、立場、背景騒音の状況、対象の特定騒音の継続性、騒音レベルの分布なども加味して決められるもので、何らかの基準はありません。やはり、現場を担当する測定実務者が、どのような基準を持って測定データの変動を判断したのか、論理的に説明できることが重要であると考えます。
 最後に、工場・事業所に設置されている複数の施設それぞれから、騒音が発生している場合を想定してください。このような状況では、すべての騒音を対象に変動騒音として評価することは妥当な判断です。ただし、特定の施設から発生する騒音が卓越するなどの理由により、個別の防音対策を行う可能性がある場合には、個々の施設からの騒音の測定・評価を行うことが望ましいです。対策前後における防音対策の効果を定量的に把握することは、技術資料としても非常に価値が高いものです。

4.7 背景騒音の影響に対する補正
 背景騒音の補正は、対象の特定騒音と背景騒音を区別しないで測定している騒音レベルの測定値に対して、背景騒音だけの騒音レベルがどの程度の影響を及ぼしているのか、測定中に得られる情報等から推測し、補正の有無を判断することが原則です。その場合でも、対象騒音が定常騒音の場合でも、背景騒音が変動騒音の場合には、騒音レベルの差が10 dB未満であったとしても、JIS規格に記載の通り、背景騒音の真の測定値を得ることはできませんので、補正により大きな誤差を生じる恐れがあります。
 一方、実測時間における統計量を用いて、背景騒音の影響に対する補正を行っている事例をしばしば見受けます。例えば、10分間の実測において、対象となる特定騒音が発生している時間帯でのLA5,F,10minが60 dBとします。その特定騒音は発生していないものの、特定騒音以外の騒音の発生状況は変化していないと見なせる時間帯で測定した場合、すなわち背景騒音のLA5,F,10minが52 dBとします。両者の差が8 dBであることから、対象の特定騒音だけのLA5,F,10minを59 dBと評価している事例を見かけることがあります。
 また、特定騒音と背景騒音も含めた10分間での実測において、LA5,F,10minが65 dB、LA95,F,10minが54 dBの場合、対象となる特定騒音だけのLA5,F,10minをそのまま65 dBと評価している事例も見たことがあります。これらの補正は、一見すると正しいようにも思えますし、間違っていないこともあります。しかし、以下の理由から補正を行うべきでないことは明らかです。
 いずれにしろ、定常騒音でない場合には、統計量である時間率騒音レベルの補正に関しては、エネルギーベースに基づくレベル和も原則は成り立ちませんので、エネルギーベースに基づく補正も適切ではありません、このことは、単純に騒音レベルの最大値(最大値もある意味では統計量です)の測定事例から、簡単な説明を試みます。敷地境界のある地点で、施設Aから発生する騒音が変動騒音として測定され、その騒音レベルの最大値が70 dBであったとすします。同様に、施設Bから発生する騒音も変動騒音として測定され、その騒音レベルの最大値は72 dBであったとします。この場合に、両施設を同時に稼働するときの騒音レベルの最大値は、当該地点で、施設A、Bそれぞれの騒音レベルの最大値が、同時に測定されれば74 dBになりますが、そうでなければ74 dBになるとはありません。
 以上、繰り返しになりますが、騒音レベルの統計量ではなく、騒音レベルの測定値に対して、背景騒音の時間変動特性を見定めて、補正が適用できるかを判断することが重要です。

騒音を計測している様子のイラスト

4.8 長時間測定における測定結果の取扱い
 その他にも、工場・事業場から発生する騒音を長時間にわたってモニタリングする場合を想定してください。観測時間と実測時間の定義は、JIS Z 8731にも規定されていますが、50年以上前の告示では概念すら整理されていません。そのため、実測を複数回にわたり行った場合については、測定結果の処理方法は規定されていませんので、測定者の経験に委ねられることが多い事項です。 例えば、不規則かつ大幅に変動する騒音を対象に、1時間にわたり、10分間の測定を6回連続で実施した場合を想定してください。それぞれ6回のLA5,F,10minの数値が、測定順に56.1 dB、60.4 dB、58.9 dB、59.7 dB、54.3 dB、55.6 dBであったとします。この場合に、皆さんであれば、どのようにして測定結果を算出しますか。
 ところで、特定工場等や特定建設作業を対象とした騒音の大きさ(測定結果)は、原則として、騒音が発生している時間帯における評価です。そのため、騒音が発生していない時間帯における評価は考慮せず、安全側の観点から、騒音がなるべく大きい時間帯における評価が必要とされます。そのことを踏まえると、筆者であれば、2回目の測定で得られた60.4 dBを用いて評価を行います。ただし、この一連の測定における、測定時間は10分間となっていますが、本当に10分間でよいとは限りません。複数の施設が稼働している場合も含めて、一連の作業の開始から終了までの実時間(以下「作業時間」と記す)を踏まえて、作業時間より短くなるように測定時間を設定します。そして、設定した時間内における測定結果が最も大きくなるような時間帯を抽出し、結果を算出します。

4.9 騒音測定結果の表示方法
 本節では、測定結果の表示方法を整理します。特定工場等、特定建設作業に関するいずれの告示においても記載はありませんので、「騒音に係る環境基準の評価マニュアル」を参照にします。同マニュアルでは、最終的な測定結果の表記は、小数点一桁以下を四捨五入して整数表示とします。そして、規制基準と対比する場合には、整数化した騒音レベルを用いて行うことになります。前章で示した60.4 dBの場合には、整数値とした60 dBを規制基準と対比します。そのため、規制基準が60 dBの場合には、規制基準に適合していることになります。

筆者(横島アドバイザーが講演している様子)
 筆者(横島アドバイザー)

5 おわりに

 特定工場等及び特定建設作業に関する騒音の測定・評価に関しては、環境基準における測定・評価マニュアルのように、測定者が参照できる公的な技術資料は公表されておりません。そのことを踏まえ、安定した測定・評価に資することを目的に、注意点及び留意点を整理しました。このことが、地方公共団体、特に市区町村環境部局の担当者にとって、測定・評価に対する理解を一層深めることにつながり、日常業務の一助となれば幸いです。


<参考文献>

[1] 横島潤紀「地方公共団体における騒音・振動・低周波音に係る苦情対応について」日本音響学会騒音・振動研究会資料、N-2025-15 (2025).

<参考>

「神奈川県環境科学センター」公式ホームページ
https://www.pref.kanagawa.jp/docs/b4f/index.html別ウィンドウで開きます

環境省の環境基準やマニュアル等は以下のURLからご覧いただけます。
環境省ホームページ「騒音対策について」
https://www.env.go.jp/air/noise/noise.html別ウィンドウで開きます

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