地方自治体で公害苦情処理を担当されている方々が、取扱いに悩まされている「野焼き」。
今回は、「野焼きに関する諸問題と対応等」をテーマに、地方自治体における対応状況やその課題等を共有いただきながら、野焼きが例外的に認められるか否かをどのように判断し、公害苦情・紛争処理を行っていくのかについて、地方自治体担当者、有識者等に御議論いただきました。(令和3年6月24日 ウェブ開催)
相馬 本日は本座談会に御参加いただきまして、ありがとうございます。
令和元年度公害苦情調査における公害苦情受付件数の内訳を公害の種類別にみると、「騒音」が最も多いのですが、発生原因で最も多いのは「焼却(野焼き)」(以下「野焼き」という。)で、全体の75,476件中12,551件、16.6%でした。
この野焼きに関する公害苦情については、地方自治体で公害苦情処理を担当されている方々がその取扱いに悩まされております。野焼きは、廃棄物の処理及び清掃に関する法律(昭和45年法律第137号。以下「廃棄物処理法」という。)による規制にかかわらず、都道府県や市区町村の判断によって例外的に認められる場合もありますが、どういう場合に認めるべきなのかという判断が難しいこと、また、対応する部署が警察、消防なども含め多岐にわたっていること、さらには、大気汚染、悪臭、ダイオキシンの問題として捉えるのかなど、対応する根拠も様々であることなどの事情があるようです。
また、一応適法ではあるとみなされる事案であっても、住民から苦情相談が寄せられるごみ焼却炉の構造基準を満たした焼却炉を使用している事業者への対応など、どのように苦情処理を進めていくのか、また紛争解決のためにどのような形で双方に働きかけていくのか、非常に苦慮しているという話もあるようです。
本日の座談会では、この「野焼きに関する諸問題と対応等」をテーマに、都道府県及び市区町村における現場での対応状況、それからその課題等を共有いただきながら、野焼きについての公害苦情処理等をどのように行っていくのかについて御議論いただく中で、野焼きへの対応に苦慮する市区町村等における今後の取組の方向性を見いだすための機会としていきたいと考えております。
相馬 公害苦情調査では、「焼却(野焼き)」を「法令で定められた焼却施設を用いず、野外で廃棄物を焼却することによる公害」と定義※1しております。また、野焼きには、農作業に伴う作物残渣だけでなく、家庭や事業者のごみなどを野外で焼却したことによる煙やにおいも含めております。
冒頭に申し上げたとおり、公害苦情調査では野焼きは発生原因としては最も多く、また、公害の種類としては、大気汚染の例として「野焼き」を、悪臭の例として「焼却臭」を記載していることもあり、発生原因が野焼きであるものについては、大気汚染が78.4%と最も多く、次いで悪臭が14.4%となっております。
一方で、この野焼きについて地方自治体に話を伺うと、農家が稲わら、枯れ木などを田畑で燃やした場合や、たき火その他日常生活で通常行われる焼却で軽微な場合は、例外的に認められることもあるため、市区町村の中には公害苦情には至っていないという判断から公害苦情調査の受付件数には入れていないところがありました。
また、野焼きは複数の担当にまたがっており、役所に寄せられた苦情のうちどこまでを公害苦情としてカウントして良いかが分からないため、野焼きの苦情件数や何を燃やしているのか等の状況を十分に把握できていないという市区町村もありました。
このように、野焼きによる公害苦情については、公害苦情調査では把握できない課題があるのではないかと考えておりますが、本日ご参加いただいている地方自治体の皆さんから、まずは野焼きの公害苦情の現状を教えていただきたいと思います。
中村 大阪府八尾市では、年間100件ほどの野焼きの苦情を受け付けており、その内訳としては農業が約5割と一番多く、次いで家庭などの草などが約2割で、そのほか産業廃棄物や事業系の一般廃棄物となっております。廃棄物の野焼きにつきましては、廃棄物部局と連携して対応しております。
廃棄物処理法の除外規定に当たる農業などの野焼きが多いことから、指導が難しく、対応に苦慮しております。
永M 兵庫県三田市では、昭和62年頃からニュータウンの開発が進み、それまでの人口3万2,000人台から、現在人口11万人となり、既成市街地と新興住宅地、農業振興地域が近接しております。
野焼きの主な発生源につきましては、畦や溜池等の刈草、野菜等の作物残渣でありますが、平成29年頃から、消防署、市役所、警察への野焼きに対する市民からの通報が相次ぎ、その度に職員が現場に出向いて対応しておりました。平成30年度に野焼きの内訳を調べたところ、農業に伴うものが67%、産業廃棄物等が13%、現場が確定できず原因不明が20%程度となっておりました。農業に伴う野焼きの通報が増加したことによりマスコミにも取り上げられました。また、市議会での質問、市役所への情報公開請求等の対応にも追われておりました。
過去においては、野焼きは公害苦情であるという意識はしていなかったのですが、平成30年5月には、オンブズパーソン制度の調査結果通知があり、「農業に伴う野焼きの煙と悪臭に関する市民からの苦情について、三田市はそれが公害苦情であると言う事を認識し、典型7公害及び複合型公害の大気汚染、悪臭に該当するものとして、適正な苦情受付及び苦情処理を行う様に」という意見をいただいております。そのため、平成30年度以降、野焼きを公害苦情としてカウントするようにいたしました。
利光 大分県大分市の令和元年度の野焼きの苦情処理件数は120件となっており、一般廃棄物を所管する課と産業廃棄物を所管する課がそれぞれで、あるいは両方で処理を行っております。この120件のうち一般廃棄物が全体の8割で残り2割が産業廃棄物です。
一般廃棄物に係る苦情の概要といたしましては、畑、私有地、庭先等での草や剪定枝の焼却によるものが多くありました。対応としては、一般ごみの指定された収集日にゴミステーションに排出するようにお願いしております。
産業廃棄物に係る苦情の概要としましては、建設業者が建設廃材の木くずなどを焼却したケースが多くございました。産業廃棄物ですので、事業者、あるいは排出者と申し上げた方がよろしいかと思いますが、自らの責任として適正処理をその都度指導しております。
上野 東京都板橋区では、ごみの焼却に関する苦情の申し立てはありますが、農家の野焼きについては殆ど寄せられたことはありません。板橋区の農業委員会に確認したところ相談は時折ありますが、紛争まで行くケースはないとのことでした。
ごみの焼却については、都民の健康と安全を確保する環境に関する条例(平成12年条例第215号。以下「環境確保条例」という。)による公害規制の中で、平成12年頃までは小型焼却炉等でごみを燃やすことを推奨していたのですが、あるときからダイオキシン問題が発生し規制強化されたことで一斉に取締りを行った結果、年間を通して件数として表れるような大きな苦情にまで発展することは少なくなってきております。
私どもとしては、農家の野焼き苦情は殆どありませんが、ごみを燃やすという苦情があった場合には、現場に行って厳しく指導しております。
小熊 東京都公害審査会には、野焼きによる調停の申請は近年はなく、また、苦情相談もあまりありません。環境確保条例による規制権限が区や市に移譲されているところもありますので、まずは区や市に話が行って、それからというお話になりますので、我々の方には話があまり上がってこないというところです。
相馬 野焼きは原則として禁止されているのに、行為者はどうして野焼きを行うのでしょうか。
利光 大分市が産業廃棄物の野焼きの原因者に話を聞いた結果では、廃棄物処理法による規制についての認識がある人とそうでない人の割合が半々程度でした。廃棄物処理法の認識のない方には、法律の趣旨、目的といったものをお話しし、行政指導によって再発を防ぐことができているケースも多々ございました。ただ、コストの話というのも、現実には事例の中にはあると思っております。
橋本 八尾市では、現場に行き燃やしている方々に実際にお話を伺いますと、御高齢の方が多く、昔からやっているのに何が悪いのかと言う方や、畑における野焼きについては、燃やした後に土にすき込んで肥料にすると言う方が非常に多いです。また、処分するに当たっても、どうしたら処分できるのかと言う方もおります。
処分を依頼すると、当然費用面の問題もあり、廃棄物処理法の例外規定であるという点もさることながら、昔からやっているのに何が悪いのかといった認識をお持ちの方が多いように感じています。指導の範疇の中で、法令の趣旨などは現場で説明を行い理解を求めています。
辻下 コストや手間の問題もありますが、昔から行っているのでそれが当たり前という認識だと思います。先ほど稲わらをすき込むというお話がありましたが、三田市の場合は、畦や溜池の雑草が多いので、そのまますき込むと田畑が荒れてしまうという考え方もありますので、理解されることは難しいと思っております。
農業以外の野焼きについては、コストや手間の問題から行っている人もいますので、警察と連携を取りながら、指導や啓発をしているところです。
上野 野焼きは例外的に認められているといいましても、実際に役所に「窓が開けられない」だとか、「洗濯物ににおいがついて困る」とか、「体調の悪い人がいるので困る」とかいう苦情を受け付けており、やむを得ずだから周りに対して迷惑をかけて良いという話にはならないと思います。
板橋区では、このような苦情があった場合、風向きなどを十分に考慮していただくことや、広い土地であれば住宅の近くでは焼却しないことなどを指導することになります。また、草木などはよく乾かして煙の発生量を抑えるとか、近隣に迷惑がかからないように配慮するよう指導しておりますが、理解いただけないこともあります。
相馬 環境省が平成29年度に実施した「野焼きの実施状況に関するアンケート結果」をみると、野焼きの防止に係る対策、取組等については、多くの自治体が実施しているとのことですが、そのうち半数以上がホームページによる周知などの住民への周知でした。野焼きの防止に係る対策や取組としては、どのようなことを行っているのでしょうか。
上野 農業が盛んな新潟県では、「稲わら等適正処理に関する指導要綱」を整備しており、すき込みという方法を採られて、周りの住民と上手くやっていると聞いております。新潟県のホームページを確認すると、農業の方に対しては、極力、稲わらのすき込みなどを活用しながら周りと上手くやってくださいという旨が記載されておりました。
板橋区では、農家が土地の一部を切り売りし住宅が整備されると、農地の周りに新たに住んだ人から土埃が飛んできて洗濯物が汚れるとか、網戸に土が付いてしまうという苦情が入ることがあります。農地に宅地ができてしまうので、用途地域という考え方を持っていくのは無理がありますが、事実上のすみわけが行われることが望ましいと思っています。
永濱 三田市では、令和2年4月より農業に伴う野焼きを減らすための取組として、刈り草回収モデル事業や防草シート設置補助を行っており、野焼きの苦情通報件数は徐々に減少しております。
刈り草回収モデル事業は、主に通報が集中した地域の農業者等住民の協力を得て、地元自治会・農会と市の間で協定を結び、苦情通報対象となった野焼きの主な発生源である畦、溜池等の刈草、野菜等の作物残渣について、依頼を受けて回収する取組を行っております。また、畦等への防草シート設置補助により、畦草等の発生抑制に一定の効果が得られています。
これらの取組等により、野焼きの苦情通報の減少に大きな効果が出て、農業者は安心して農作業が行うことができる一方、刈草・作物残渣等の回収においては、回収対象であるフレコンバッグに集め入れる作業を農業者が行っており、多大な労力が払われております。なお、刈り草回収モデル事業は、今後の事業継続に課題があります。
利光 苦情処理を実際に行う職員が現場で抱えている課題を少し紹介させていただきます。1点目として、苦情処理では、一般廃棄物なのか産業廃棄物なのか、あるいはその両方なのか、そのように何を焼却しているのかを現場で確認する必要があることが課題です。先ほど少し触れましたが、一般廃棄物と産業廃棄物では、一般に指導の方法だけでなく、所管する担当部署も異なるという背景がございます。それぞれの担当部署の連携が、解決のキーになると考えております。
2点目の課題として、焼却禁止の例外となる焼却行為の中で、「日常生活を営む上で」「通常」「軽微なもの」の判断を行為者から問われた場合に、返答に窮する場面があると聞いております。
相馬 担当部署間の連携が解決に向けての1つ目のキーとなるというお話がありましたが、具体的にはどのような連携が望ましいのでしょうか。
利光 一般廃棄物の処理は市町村が、また産業廃棄物の処理は事業者が責任を有するということが原則ですので、一般廃棄物を所管する部署と産業廃棄物を所管する部署、それぞれが相互に連携することが、このような野焼きの苦情の改善に繋がるというのは、皆さん御認識のとおりであると思います。
特に産業廃棄物に関しましては、中核市以上は、産業廃棄物の処理施設や業の許可権者になっておりますので、基本的には同じ組織の中での連携ということになろうかと思います。それ以外の市町村につきましては、都道府県と良好な連携関係がないと、対応が難しいのではないかなと考えております。
中村 八尾市では、野焼きについては、廃棄物部局のほか消防や警察とも連携しており、消防からの連絡で現場に行き、指導などを行っております。
橋本 八尾市では、苦情の受付について統計を取っており、野焼きに関する相談の約半分位は消防で受け付けております。火災予防の観点から消防に連絡が入り、消防で指導したという旨の報告を公害部局にいただいております。残りの約半分は、住民から畑で野焼きが行われているため、布団ににおいがついて困っているといった苦情を、公害部局で直接受け付けております。
辻下- 産業廃棄物は基本的に県の所管になっておりますが、三田市では、野焼きや不法投棄も含め県と綿密に連絡を取っており、市内で起こっていることに県がすぐに対応できないときは、市が早急に現場を確認することにより、被害を最小限にとどめ、県、市とコミュニケーションを取りながら対応しております。
庁内の連携では、例えば、野焼きを減らすために農作業が増えてくるというようなことがあれば、農業部局との連携も必要かと考えます。
八尾市と同様、消防や警察との連携をとっておりますので、野焼きや不法投棄の連絡があれば、一緒に出向くようにしております。
なお、三田市では平成30年8月から、不法投棄も含めて野焼きの通報を専用ダイヤルで土曜日や日曜日も受け付けるようにしております。このため、土日であっても消防、警察から連絡があればすぐに出向いて、現場で警察、消防とも連携しながら、野焼きしている行為者に対しても対応しております。
相馬 2つ目の課題として、焼却禁止の例外となる焼却行為の中で、「日常生活を営む上で」「通常」「軽微なもの」の判断についての話がありました。野焼きは原則禁止となっておりますが、野焼きを行っている人はどのような認識を持っているのでしょうか。
中村 八尾市では、実際現場に行き指導等をしておりますが、農業者は廃棄物処理法の除外規定に当たるということを分かっている方が多いので、適法であると認識して行っているのが現状です。周辺に家があることを分かりつつ、配慮して行っていただいている方が多いのですが、配慮していない方もいます。昔から農業を行っている人の中には、後から周りに家が建ったので困っているという方もいます。
辻下 三田市では、農業上やむを得ないという例外規定があるので、農業者は一定範囲内であれば燃やすのは仕方がないと思っています。
野焼きについての環境省の解釈で「農業に伴うやむを得ないものの判断については、当該地方公共団体において個別具体的」というような記載があります。これについて、私たちも何となくイメージとして持っているものとして、例えば、農業に伴うごみを個別具体的に焼却しているものとして判断するものなのか、それとも、農業者が高齢だから身体的にも燃やさないと仕方がないということなのか。農業に伴うごみをごみ焼却施設に持って行くことが困難であるという場合には、個別具体的な事情として考えて良いのでしょうか。
北村 今までのお話からは、行政対応の基準について非常に御苦労なさっている印象を受けました。現在の法律に基づく関係について整理をしていく必要があるという気がいたします。
廃棄物処理法第16条の2は「何人も、次に掲げる方法による場合を除き、廃棄物を焼却してはならない。」と規定しています。また、同法第3項は「公益上若しくは社会の慣習上やむを得ない廃棄物の焼却又は周辺地域の生活環境に与える影響が軽微である廃棄物の焼却として政令で定めるもの」と規定しています。市区町村のご担当の方々が御苦労されている原因が、この第16条の2第3号を受けた廃棄物処理及び清掃に関する法律施行令(昭和46年政令第300号。以下「施行令」という。)第14条第4号で「やむを得ないもの」と規定されている点にあることがよく分かりました。これについては、同号は「農業、林業又は漁業を営むためにやむを得ないものとして行われる廃棄物の焼却」となっていますが、同条第5号は「たき火その他日常生活を営む上で通常行われる廃棄物の焼却であって軽微なもの」と規定しています。要するに農業については、量は不問なのです。これは非常に興味深い違いです。
その理由を考えてみます。第5号は、通常の一般廃棄物を念頭に置いています。これについては、基本的には市区町村に処理責任があります。市区町村に処理責任があるために、少し位ならば御自分でというようなことかもしれません。ところが第4号は、事業者が事業活動として出すものですから、そうしたロジックではないのです。
何故何も書いていないかというと、恐らく、昔から行われていたからです。廃棄物処理法の方が後から来た。生活環境に支障が生じない範囲ですよという暗黙の前提がここにはあることを確認しておくべきでしょう。そう考えると、農業者が野焼きをするというのは権利でも何でもなく、現在では、生活環境に影響がない程度において認められるにすぎない点を理解する必要があります。
相馬 令和元年度公害苦情調査では、発生原因が野焼きとなっている場合の発生源をみると、「個人」が67.0%と最も多く、次いで「不明」が11.6%となっており、主な産業のうち「農業・林業」は5.5%となっておりました。
そのため、いくつかの市区町村に、公害苦情の発生源を「農業・林業」とせずに「個人」としている理由を確認したところ、市場に販売しているかどうかで農家であるかどうかを判断しているため、「個人」が多くなってしまうとのことでした。この場合には、農家ではなく家庭菜園として個人が行っているという扱いになるため、農業を営むためにやむを得ないものとして行っている野焼きではないという判断を行っているとのことでした。
また、農家の野焼きの中には、稲わらだけでなく、プラスチックや家庭ごみも一緒に燃やしていることもあるので、その場合には、例外的に認められる野焼きではないという判断を行っているとのことでした。
そのため、農業を営むためにやむを得ないものとして行っている野焼きかどうかは、現場に行って確認することができれば判断に迷うことはないが、苦情を受けて実際に現場に行くと、空振りの場合が多いという意見もありました。
北村 役所が介入することで、上手くいくならば良いのですが、そうではなくて被害が発生し、役所も決定的なことが言えないとなると、我慢できない人は訴訟を提起します。そのときには、裁判所は受忍限度という枠組みで判断をします。要するに原告が我慢の限界を超えた被害を受けているかどうかということです。(1)侵害行為の態様・程度、(2)被害の内容・程度、(3)公法上の規制との関係、(4)地域性、(5)被害者の生活状況と侵害行為の関係のような基準を裁判所は立てまして、これに事案を当てはめていくのです。
恐らく野焼きでは、前述(3)の公法上の規制との関係が非常に大きなポイントになってくると考えられます。生活環境に影響がない範囲でならば認めているということでしたので、その基準を明確にするのが非常に重要です。
また、燃やせるものは、区分けで言いますと、産業廃棄物のほかに事業系一般廃棄物となるものが多いようです。そのため、事業系一般廃棄物に関しては、その処理の責任を持つ市町村の一般廃棄物処理計画の中でどう受け止めるのかということも重要で、これは部局間連携にとって大きなポイントです。
相馬 2つ目の課題へのもう1つの対応として、法令解釈では説明がしづらいのであれば、根拠となる条例を制定するということもあり得ますが、廃棄物の関係法律と条例との関係ということで考えた場合、地方の実情に合わせて条例で強く規制していくという方向性はあり得るとお考えでしょうか。
北村 その際には、廃棄物処理法第16条の2との関係が問題になり得ます。同条のもとでは、屋外焼却行為が原則禁止です。しかし、例えば農業を営むためやむを得ないものは認められている。このように言われますと、認めているものを条例規制するのは、違法ではないか。こういう議論に繋がっていくのです。そういう整理も当然ありますが、廃棄物処理法第16条の2を含めた、施行令14条第4号の規定はかなり曖昧性が高いため、どこまで認めるのかを条例で具体化するのは、廃棄物処理法との関係でも違法性はないと私自身は考えます。
上野 青森県では、稲わらの有効利用の促進及び焼却防止に関する条例を制定されており、秋田県では稲わらは燃やしては駄目という厳しい条例を設けていました。各地で農家と上手くやるように苦労されていると思います。
小熊 東京都では、環境確保条例の中で、野外焼却も含めて、焼却炉は火床面積0.5m2未満の焼却炉は使用禁止としておりますが、農業関係で言うと、例えば害虫駆除などであれば条例でもやむを得ないと認められる焼却行為として扱っています。なお、そのような場合でも、例えば家庭ごみやプラスチック等を一緒に燃やさないよう指導も行っています。このように何かあれば、条例を基に指導をしているところです。
橋本 八尾市では、周辺の生活環境を損なってはならない旨の規定を条例中に設けています。また、廃棄物処理法と同様に、農業等については、その条例中でも除外規定を設けていますが、除外された野焼きにつきましても、周辺の生活環境に影響を及ぼすことのないよう努めることという努力義務規定を設けています。この条例につきましては平成30年に改正を行っておりまして、野焼きの条項を改正するに際し、廃棄物処理法における除外規定に当たるような野焼きによる周辺への影響を少しでも低減させることができないかといった検討を行い、周辺に配慮するよう努力義務規定を設けた次第です。努力義務規定については罰則はありませんが、その焼却行為により周辺に甚大な影響を与えている場合については、命令の後、罰則があるといった状況です。
この規定によりまして、農業における廃棄物処理法の除外規定に当たるような野焼きにつきましても、本条例の努力義務規定に基づく行政指導が可能となり、苦情が生じた際には、周辺住民に配慮するように指導を行っている次第です。
相馬 八尾市の条例については、野焼きをする方々に周知されているのでしょうか。
橋本 ホームページや市政だより等で、野焼きを禁止するという周知を行っていますが、なかなか浸透は難しい状況であると認識しております。そのため、現場に行き少しずつ、草の根的な広報活動を今続けているところでございます。
辻下 三田市では、廃棄物処理法の趣旨に従って、ガイドラインで具体的に野焼きする時間や季節などを事細かに決めることによって、農業者が安心して野焼きをできるルールを決めようとしたのですが、逆に農業者の負担が増えることなど、農業者からの反対が多くありました。このため、成案にはなりませんでした。
ですから、廃棄物処理法の解釈の中で、できるだけ周辺に影響を及ぼさないように、もし通報があれば周りに影響があるということなので、気をつけて燃やしてくださいよというような啓発を行っております。
北村 何とかクリアに一線を引こうと試みた。立派だったと思います。その反面、やはり屋外焼却に伴う被害については、未然防止は非常に難しいのです。必然的に事後対応になる点で、悪臭防止法とよく似ています。この点を未然防止のルールとして、具体的に農業者の方に対して、例えばJAを通じて伝えていくのか。八尾市では必ずしも十分には伝わっていないということでしたが、この辺りが非常に重要な点であるように感じます。
相馬 野焼きを防止するための取組等を踏まえて、苦情処理という観点からは、どういうところを重点に行っていくことが効果的だとお考えでしょうか。
辻下 まずは通報を減らすためにも、原因を減らすための工夫をすることが重要です。
三田市では、今まで行ってきた事がなぜダメになったかなど農業者の方へどのように理解をしていただくかが課題ですが、この2、3年は、苦情の多い地域で雑草の刈草を回収していることもあり、野焼きの通報が少なくなりました。
しかし、時限的な施策として考えていますので、来年以降にどのような形にしていくかというところを、今からもっと検討、研究していかないといけないと思っております。
橋本 苦情を少なくするためには、アプローチの仕方としては2つあると考えています。
野焼きについては、苦情が入って現場に行き、何か燃やしている行為者に対して、条例や廃棄物処理法などの法規制に基づいて規制を受けていますよと伝える、そういった指導を行うのが一つのアプローチです。
もう一つのアプローチとしては、受忍限度の話が出ていますが、野焼きが行われている現場を把握するきっかけとなるのが苦情です。苦情を言ってこられる方に、農業における野焼きについては一定程度認められているのだというお話を、例えば電話で苦情を受け付けるときには説明するといった苦情者へのアプローチです。
この2点から攻めていくことが必要ではないかと考えております。
相馬 苦情処理の観点からは、野焼きでお困りの方が、野焼きが公害であることを認識してもらうこと、公害苦情相談窓口の担当職員の方にも、農作業に伴う作物残渣を野外で焼却したときだけでなく、家庭や事業者のごみなどを焼却したことによる煙やにおいも、公害になる場合があるという認識に立っていただく必要があると考えておりますが、今後の取組についてのアドバイスはありますでしょうか。
上野 公害という観点、切り口でいけば、野焼きは煙を吸い込むことによって、健康被害というのが当然一番の問題になってくるかと思いますが、洗濯物ににおいがつくという悪臭であるという切り口で周知することに力を入れれば良いと思います。また冒頭で、公害等調整委員会では、野焼きによる公害苦情の状況を公害苦情調査では十分には把握できていないとお話がありましたが、その要因を分析し、例えば、公害苦情調査の調査項目の見直しなどを行うことによって、把握できるようにすべきではないかと感じました。
利光 焼却を行ったとしても周辺の生活環境が損なわれることがない軽い程度だから例外的に認めるという解釈については、現実に悪臭や煙害に関する一般的な苦情が発生すれば、それはもう軽度とは言えない焼却行為というように、現場で苦情処理に携わる方は認識されても良いのではないかなと考えております。
しかも実際の苦情は、現場で処理に携わっている公害苦情相談員の皆さんが御存じのとおり、焼却の量だけではなく、現場の地域性、煙、悪臭の影響がどの範囲まで及ぶのか、苦情者と原因者の位置関係など、お困りの具体的な内容により、大変処理が難しいということがあるかと思います。そのようなことから、まずは苦情を訴えた方のお困りの程度を現場調査で客観的に把握して、それを踏まえた、原因者への指導を行うべきと思います。
私も経験があるのですが、具体的には、原因者が焼却をしているその場の状況を現認する機会を捉えるということが、ポイントとなることが多いように思います。苦情者の訴えが大げさなのか、あるいは訴えは控えめでも本当に困っているケースなのか、あるいはごくごく一般的なケースなのかを現認すれば判断できると思います。
それから、野焼きの原因者に対して何らかの対応、工夫、周辺への配慮をお願いする場合などは、行為の最中にお願いする方が良いと考えております。もう一つ苦情者の訴えの程度をどのように判断するのかというのは、処理の中で大変ポイントになるわけですが、これはそれぞれの公害苦情相談員が、現場の処理を一定数こなし、この蓄積された行政経験が良い判断を生むのではないかなと思っております。
相馬 現場調査で客観的に把握できるようするためには、経験が大事ということですが、経験を積むためにはどうしたら良いのでしょうか。
利光 事例の程度を判断するのは、五感の物差しを磨くということだと思います。まずは多くの事例を経験するということがあろうかとは思いますが、少ない事例経験であっても、1つの経験の中でしっかりした振り返りを行うことや、他の市区町村が既に解決した公害苦情相談事例の処理経過等を参考とすることによって磨くことができますし、併せて自らのスキルアップにも繋がってくるのではないかと思います。
もう1点、野焼きの事例に限らず、公害苦情処理がどうしてもそのセクションでは難しいということであれば、これは庁内、あるいは庁外の関係機関と上手く連携していくということが、解決に繋がってくるのではないかなと思っております。よく言われることですが、連携する職員とは日頃から意見交換などを通じて、お互いの顔の見える関係を構築していくことが大切だと考えております。
上野 本筋を確認する、客観的な事実を確認するという点では、私も同意見と思います。ただ一方で、何故野焼きをしてしまうのかという根本的なところなのですが、農業に伴うごみをどうしたらいいかという切実な問題もあるようです。
生活環境の支障という点では、規制基準値をどう捉えるかという話になろうかと思います。臭気として捉えるのか、煤煙として捉えるのかという点も踏まえて、それが実際に被害の実態としてどのように付近へ影響を及ぼしているか、被害者の数がどの位なのかという点を捉えたときに、公害苦情という点で客観性を持つのは重要なことと思っておりますので、今後も非常に難しい、扱いづらい公害苦情対応になるかと思いますけれども、その辺は今後もお互い自治体を超えた形で助け合っていければいいなと思っております。
環境確保条例の中でも、この野焼き等に関して罰則規定もございますが、実際そこまでやるのはほとんどないと思いますので、先ほど北村先生からありました「農業者が野焼きをするというのは権利でも何でもなく、生活環境に影響がない程度であれば認めるということでしかない」というコメントも踏まえながら、公調委のアドバイザーの立場としても取り組んでいきたいと考えております。
北村 やっているのは焼却ですので、廃棄物処理法の視点からは、中間処理をしていることになります。要するに減量化ですが、部分的には土壌づくりということも言えるでしょう。そうである限りにおいては、違う評価もあるかもしれません。しかし、同じことを処理業者が行うと違法だと言われるにもかかわらず、何故、排出事業者である農業者が行うと適法と言われるのか。「やむを得ない」という言葉の中身の補強が必要と思いました。
農業は、この国では益々大事にされる産業になってきます。大事な産業であるがゆえに何とか地域で合意できるルールをつくる。それを地域内のコミュニケーションのガイドラインなり条例により具体化することが不可欠だと考えます。
誰もが合意できる内容を、条例なり基本指針なりでまず明確にする。その枠組みの下で個別の紛争処理に役立てていくというアプローチが良いのではないでしょうか。一発で決めるのではなくて、多段階で着地点を見いだしていく。まさに紛争処理は互譲の精神がモットーです。規制ではなく、共存の模索です。そういうものの一つとして実験的な場面であると理解いたしました。
相馬 そろそろお時間が参りましたので、この辺りで終了とさせていただきます。お忙しい中、ありがとうございました。