近年、海洋プラスチックごみ問題を始めプラスチックを巡る地球規模の環境問題への対応が世界的課題となっている。これを受け我が国では、「3R+Renewable」(3Rの徹底と再生可能資源への代替)を基本原則とした「プラスチック資源循環戦略」を昨年5月に策定し、持続可能な循環型社会の構築に向けたプラスチックの3R等に関する野心的なマイルストーンを設定した。
今般、そのマイルストーン達成に向けた具体的施策の第一歩として、本年(令和2年)7月1日より全国一律でのレジ袋有料化の導入を決定した。国としては、国民生活に身近なレジ袋の有料化をきっかけとして、使い捨てのプラスチックに頼った国民のライフスタイル変革を目指していく。
プラスチックは短期間で経済社会に浸透し、我々の生活に利便性と恩恵をもたらしてきた。一方で、中国を始めとしたアジア諸国の廃棄物の輸入禁止措置を受けた資源・廃棄物制約や地球温暖化といった、生活環境や国民経済を脅かす地球規模の課題が一層深刻さを増している。特に近年急速にクローズアップされている海洋プラスチックごみ問題については、プラスチックの不適正な処理のため、世界全体で年間数百万トンを超えるプラスチックが陸から海洋に流れ込んでいると推計され、このままでは2050年までに魚の重量を超えるプラスチックが海洋に流出するという予測まである。
我が国は、循環型社会形成推進基本法に規定する基本原則(※1)を踏まえ、これまでプラスチックの3R(リデュース、リユース、リサイクル)や適正処理を率先して進めてきており、その結果、容器包装等のリデュースを通じたプラスチック排出量の削減が図られ、廃プラスチックのリサイクル率27.8%と熱回収率58.0%を合わせて85.8%の有効利用率(※2)を達成するなど、陸上から海洋へ流出するプラスチック量が抑制されてきた。一方で、UNEP(国連環境計画)の報告書によると、プラスチック容器包装廃棄量(1人当たり)が主要な国・地域の中で2番目に多いと指摘されていること(※3)、中国を始めとするアジア各国による輸入規制が拡大しておりこれまで以上に国内資源循環が求められていること(※4)等を踏まえれば、これまでの取組をベースにプラスチックの3Rを一層推進することが不可欠である。
そこで関係9省庁は、昨年5月、上記のようなプラスチックを巡る諸問題の解決及び持続可能な循環型社会の構築に向け、プラスチックの資源循環を総合的に進めていくため「プラスチック資源循環戦略」(以下「本戦略」という。)を策定した(資料1)。本戦略では、「3R+Renewable」(3Rの徹底と再生可能資源への代替)を基本原則とし、目指すべき方向性として、「2030年までにワンウェイプラスチックを累積25%排出抑制する」等の3Rやバイオマスプラスチックの導入に関する野心的なマイルストーンを設定している。そしてレジ袋有料化は、本戦略において、「リデュース等の徹底」のための施策の一つとして位置付けられ、国民生活に身近なレジ袋の有料化をきっかけとして消費者のライフスタイル変革を促していくことを方針として掲げた。
以上を踏まえ、関係省庁では、本戦略で設定したマイルストーン達成に向けた施策の第一歩としてレジ袋有料化に着手し、その具体的な制度内容について昨年9月以降検討を開始した。その結果、できる限り早くこの海洋プラスチックごみ問題等に対処するため、既存の法制度の枠組みを最大限活用するという方針の下、昨年12月に容器包装に係る分別収集及び再商品化の促進等に関する法律(以下「容器包装リサイクル法」という。)に基づく小売業に属する事業を行う者の容器包装の使用の合理化による容器包装廃棄物の排出の抑制の促進に関する判断の基準となるべき事項を定める省令(以下「省令」という。)を改正し、本年7月1日から全国全ての小売業者に対してレジ袋の有料化を義務付けることとした。なお、レジ袋有料化は、これまでスーパーマーケットを始めとする様々な事業者や自治体等が、プラスチックの削減のため自主的に取組を進めてきており、レジ袋の辞退率も年々上昇していたが、ここ数年は削減が思うように進まない状況となっていた。今回、コンビニエンスストアを始め、これまで有料化がほとんど実施されていない様態の小売店も含め全国一律でレジ袋有料化が実施されることで、不必要なレジ袋の使用削減が一層進むと期待している。
以下、制度の主なポイントについて簡単に解説する。
資料1:「プラスチック資源循環戦略」(令和元年5月31日)概要
今般の制度改正においては、コンビニエンスストア等の大手小売事業者から地域の商店街の専門店まで、事業者の規模を問わず商品を消費者に提供する際にプラスチック製のレジ袋を用いる全ての小売業者が対象となる(※5)。
また、食品製造業者が製品をショッピングモールで一時的に販売する場合等、主たる業種が小売業ではない事業者が、事業の一部として小売事業を行う場合も、有料化の対象となる(資料2−1)。
一方、クリーニング業などレジ袋と同等のプラスチック製の袋を事業活動の中で使用している場合であっても、小売業に該当しないために、省令の対象から外れてしまう業種もある。しかし、不必要な使い捨てプラスチックをできる限り削減し、国民のライフスタイルを変革するという制度の趣旨・目的を考えれば、あらゆる業種においてプラスチック製の袋の削減に向けた措置が講じられることが望ましく、国としては、省令の対象事業者でなかったとしても、事業者の自主的取組として有料化と同様の措置を講じることを推奨している。
資料2−1:対象となる事業者
今回の制度の基本理念として、消費者のライフスタイル変革を促すべく、省令の対象となるか否かにかかわらず、あらゆるレジ袋について有料化することにより過剰な使用を抑制していくことを基本としている。「レジ袋」と言えばスーパーマーケットやコンビニエンスストアでもらう袋を想像しやすいが、百貨店や書店でもらうプラスチック製の袋も対象である。
また同時に、本戦略に掲げた基本原則である3R+Renewableの観点から後述のような一定の環境性能が認められる買物袋への転換を推進することとしている。
この基本的な考え方を基に、「消費者が購入した商品を持ち運ぶために用いる、持ち手のついたプラスチック製買物袋」を省令で有料化を義務付ける対象の袋と定義し、一定の環境性能を有するプラスチックのフィルムの厚さが50マイクロメートル以上で繰り返し使用可能な袋、海洋生分解性プラスチックの配合率が100%の袋、バイオマス素材の配合率が25%以上の袋の3種類については省令で有料化を義務付ける対象からは外している。ただし、一定の環境価値を有する袋についてもむやみに無償配布を推奨する趣旨ではなく、これらについてもむしろ、市場の中でその環境価値が適切に評価され、消費者と事業者との間はもちろん、企業間取引も含め適正な価格の支払いがなされることが期待される(資料2−2)。
省令の対象とならない一定の環境性能を有するプラスチック製の袋を配布する場合は、消費者が一見してその袋の環境性能を判別できなくてはならない。そこで今回の制度改正においては、これらの袋を配布する場合にはそれぞれ以下のようにその環境性能を示すマーク等を袋ごとに記載することを求めている。
なお、バイオマスプラスチックについては、既に国際標準の技術評価手法が確立しており、国内にも同基準に基づき認証を行っている機関があるが、海洋生分解性プラスチックについては、現時点でそのような国際標準の技術評価手法が確立されていない。海洋生分解性プラスチックの普及促進のためにも、できる限り早く国際標準化された技術評価手法の確立が必要である。
その他、省令の対象となるか否かの判断基準としては、社会通念上形状として袋と言えるか否か、中身が商品であるか否か、持ち運ぶための袋と言えるか否か(持ち手の有無)等の基準がある。ここでは詳細な説明は省略するが、いずれにしても省令の対象となるか否かにかかわらず、上述の基本理念のとおり、あらゆるレジ袋について有料化することにより過剰な使用を抑制していくことが基本である。
資料2−2:対象となる袋
今回の制度改正において、袋1枚当たりの価格については、袋のサイズ・用途や仕入れ主体・方法などにより、様々なケースが考えられることから、各事業者が消費者のライフスタイル変革を促すという本制度の趣旨・目的を踏まえつつ、自ら設定することとし、国が統一の価格設定しているわけではない。ただし、1枚当たり1円以下の価格設定としている場合や、2枚目以降無料配布といった、消費者のライフスタイル変革という制度の趣旨目的に逆行するような場合は「有料化している」とは認めないこととした。
また、「有料化」とは、レジ袋を提供するに当たって、一定の対価を徴収することを指している。そのため例えば、レジ袋を辞退した場合の現金値引きやポイント付与、その他の利益供与を行うことはここでいう有料化には当たらない(事業者の自主的取組として、一定の対価の徴収と併用してポイント付与を行うこと等は当然妨げられない)。また、商品と袋の価格を一体で表示すること自体は妨げられるものではないが、その場合でも、表示されている価格のうち、レジ袋の価格がいくらであるのかが表示され、レジ袋を辞退した場合にはその分が全体価格から差し引かれなければならない。
レジ袋の売り上げの使途についても、国がその使途を限定しているわけではなく、事業者自らが判断できる。既にレジ袋有料化に取り組んでいる事業者の例を見ると、売り上げを環境保全活動や社会貢献活動に充てている例も多く、消費者理解の観点からも、使途についても事業者が自主的に情報発信することを国として推奨している(資料2−3)。
なお、具体的な設定価格についてはこれまで自主的取組として先行実施している事業者の事例を、関係省庁が策定したレジ袋有料化に係るガイドラインの中で示している。これらの先行事例を見ると、1枚当たり2〜3円であったとしても、レジ袋の辞退率は80%を超えている事例もあり、レジ袋の辞退率向上のためには必ずしも価格設定だけが重要な要素ではなく、声かけの推進やマイバッグ等の代替手段の提示も非常に重要であると思われる。
資料2−3:価格設定と売り上げの使途について
日本から毎年排出される廃プラスチックのうちレジ袋が占める割合は2%程度と言われており、プラスチックごみ全体の量から見ればごく僅かである。しかし、レジ袋は、我々の生活の中に深く浸透し、我々の生活の中にある使い捨てプラスチックを象徴するものと言える。今般のレジ袋有料化の真の目的は、レジ袋を有料化することではなく、そのレジ袋の有料化をきっかけに(レジ袋以外のものも含めて)使い捨てプラスチックに頼った国民のライフスタイル変革を促していくことである。国民の皆様にはこの制度趣旨を是非御理解いただき、不必要な使い捨てプラスチックの削減の御協力をお願いしたい。
また、レジ袋の排出抑制の取組は、これまでも地方自治体や環境意識の高い事業者等において実施されてきた。本年7月1日から全国一律でレジ袋有料化が開始されるが、引き続き、地方自治体や事業者等の皆様におかれては、それぞれの実情を踏まえ、レジ袋を始めとする使い捨てプラスチックの更なる排出抑制に向け、創意工夫ある取組を積極的に行っていただきたい。