4 地方経費の内容

歳出決算額について、支出の対象となる主な行政の目的に従って、生活・福祉の充実(民生費、労働費)、教育と文化(教育費)、土木建設(土木費)、産業の振興(農林水産業費、商工費)、保健衛生(衛生費)、警察と消防(警察費、消防費)に分けてその状況をみると、以下のとおりである。

(1)生活・福祉の充実

ア 社会福祉行政

地方公共団体は、社会福祉の充実を図るため、児童、高齢者、障害者等のための福祉施設の整備及び運営、生活保護の実施等の施策を行っている。

これらの諸施策に要する経費である民生費の決算額は28兆6,942億円で、生活福祉資金の貸付事業、ひとり親世帯臨時特別給付金給付事業等の新型コロナウイルス感染症対策に係る事業の増加や幼児教育・保育の無償化に伴う児童福祉費の増加等により、前年度と比べると8.1%増となっている。

また、決算額を団体区分別にみると、市町村は都道府県の約2.31倍となっている。

これは、児童福祉に関する事務及び社会福祉施設の整備・運営事務が主として市町村によって行われていることや、生活保護に関する事務が市町村(町村については、福祉事務所を設置している町村に限る。)によって行われていること等によるものである。

民生費の目的別の内訳をみると、第29図のとおりであり、児童福祉費が最も大きな割合を占め、以下、社会福祉費*2、老人福祉費、生活保護費の順となっている。また、各費目の決算額を前年度と比べると、児童福祉費が6.5%増、社会福祉費が17.0%増、老人福祉費が8.7%増、生活保護費が1.8%減となっている。

これを団体区分別にみると、都道府県については、後期高齢者医療事業会計、介護保険事業会計への負担金を拠出していることから、老人福祉費の構成比が最も大きく、以下、社会福祉費、児童福祉費の順となっている。市町村については、上述のとおり、児童福祉に関する事務及び社会福祉施設の整備・運営事務を主として行っていることから、児童福祉費の構成比が最も大きく、以下、社会福祉費、老人福祉費、生活保護費の順となっている。

民生費の目的別歳出額の推移は、第30図のとおりである。

10年前(平成22年度)と比べると、児童福祉費は1.4倍、社会福祉費は1.6倍、老人福祉費は1.3倍、生活保護費は1.1倍となっており、民生費総額は1.3倍となっている。

これを団体区分別にみると、都道府県においては、老人福祉費が1.4倍、社会福祉費が1.8倍、児童福祉費が1.5倍となっている。これは、後期高齢者医療事業会計、介護保険事業会計、国民健康保険事業会計への負担金の増加及び幼児教育・保育の無償化に伴う市町村への負担金等の増加を背景に、老人福祉費、社会福祉費及び児童福祉費に係る補助費等が増加していること等によるものである。

また、市町村においては、児童福祉費が1.4倍、社会福祉費が1.4倍、老人福祉費が1.3倍、生活保護費が1.1倍となっている。これは、児童手当制度の拡充、幼児教育・保育の無償化、自立支援給付費の増加等を背景に、児童福祉費及び社会福祉費に係る扶助費が、また後期高齢者医療事業会計や介護保険事業会計への繰出金の増加等を背景に、老人福祉費に係る繰出金が、それぞれ増加していること等によるものである。

民生費の性質別の内訳をみると、第31図のとおりであり、児童手当の支給や生活保護等に要する経費である扶助費が最も大きな割合を占め、以下、国民健康保険事業会計(事業勘定)、介護保険事業会計、後期高齢者医療事業会計等に対する繰出金、補助費等の順となっている。

また、各費目の決算額を前年度と比べると、ひとり親世帯臨時特別給付金給付事業等の新型コロナウイルス感染症対策に係る事業の増加や幼児教育・保育の無償化に伴う児童福祉費の増加等により、扶助費が2.6%増、後期高齢者医療事業会計や介護保険事業会計への繰出金の増加等により、繰出金が0.6%増、生活福祉資金の貸付事業の増加等により、補助費等が50.5%増となっている。

近年の民生費の財源構成比の推移は、第32図のとおりである。

昭和50年代においては一般財源等(*)と国庫支出金の割合がほぼ同じであったが、民生費における単独事業(*)の充実、民生費に係る国庫補助負担率の引下げ、国庫補助負担金の一般財源化等を背景に、民生費の増加分の多くを一般財源等の充当で対応してきた結果、平成19年度には一般財源等の割合が70.5%まで増加していた。平成20年度から23年度までは国の経済対策の実施、子ども手当の創設、東日本大震災への対応、28年度は年金生活者等支援臨時福祉給付金の創設、令和元年度は幼児教育・保育の無償化等、令和2年度はひとり親世帯臨時特別給付金給付事業等により国庫支出金の割合が増加した。

なお、地方公共団体の決算額において、社会福祉行政や保健衛生(本項目(5))等のうち、社会保障施策に要する経費は19兆8,009億円となっており、うち社会保障4経費*3に則った範囲の社会保障給付に充てられる経費は15兆5,607億円となっている。

一方、平成26年4月1日及び令和元年10月1日に引き上げられた税率に係る令和2年度の地方消費税収入の額は2兆8,627億円、令和2年度の消費税の地方交付税法定率分は4兆894億円で、その合計は6兆9,521億円となっている。

イ 労働行政

地方公共団体は、就業者の福祉向上を図るため、職業能力開発の充実、金融対策、失業対策等の施策を行っている。

これらの諸施策に要する経費である労働費の決算額は3,264億円で、事業者に対する雇用維持支援等の新型コロナウイルス感染症対策に係る事業の増加等により、前年度と比べると33.6%増となっている。

労働費の性質別の内訳をみると、第33図のとおりであり、物件費が最も大きな割合を占め、以下、人件費、補助費等、貸付金の順となっている。また、各費目の決算額を前年度と比べると、物件費が6.8%増、人件費が3.7%増、補助費等が62.7%増、貸付金が11.0%増となっている。

(2)教育と文化

地方公共団体は、教育の振興と文化の向上を図るため、学校教育、社会教育等の教育文化行政を行っている。

これらの教育施策に要する経費である教育費の決算額は18兆961億円で、GIGAスクール構想の推進に伴う事業の増加等により、前年度と比べると3.3%増となっている。

教育費の目的別の内訳をみると、第34図のとおりであり、小学校費が最も大きな割合を占め、以下、教育総務費*4、中学校費、高等学校費の順となっている。また、各費目の決算額を前年度と比べると、小学校費が4.6%増、教育総務費が9.8%増、中学校費が2.4%増、高等学校費が0.7%増となっている。

目的別の構成比を団体区分別にみると、都道府県においては、政令指定都市を除く市町村立義務教育諸学校の人件費を負担しているほか、私立学校の振興や高等学校の管理・運営を主に行っていることから、小学校費が最も大きな割合を占め、以下、教育総務費、高等学校費、中学校費の順となっており、市町村においては、義務教育諸学校の管理・運営や給食等に要する経費を主に負担していることから、小学校費が最も大きな割合を占め、以下、保健体育費*5、教育総務費、中学校費、社会教育費の順となっている。

教育費の性質別の内訳をみると、第35図のとおりであり、人件費が最も大きな割合を占め、以下、物件費、普通建設事業費の順となっている。また、各費目の決算額を前年度と比べると、人件費が1.8%増、物件費が13.3%増、普通建設事業費が5.7%減となっている。

性質別の構成比を団体区分別にみると、都道府県においては、都道府県立学校教職員の人件費のほか、政令指定都市を除く市町村立義務教育諸学校教職員の人件費を負担していることから、人件費が大部分を占めている。市町村においても、人件費が最も大きな割合を占め、以下、物件費、普通建設事業費の順となっている。

(3)土木建設

地方公共団体は、地域の基盤整備を図るため、道路、河川、公園、住宅等の公共施設の建設、整備等を行うとともに、これらの施設の維持管理を行っている。

これらの諸施策に要する経費である土木費の決算額は12兆6,902億円で、防災・減災、国土強靱化対策に係る道路橋りょう費、河川海岸費の増加等により、前年度と比べると4.6%増となっている。

土木費の目的別の内訳をみると、第36図のとおりであり、道路橋りょう費が最も大きな割合を占め、以下、都市計画費*6、河川海岸費の順となっている。また、各費目の決算額を前年度と比べると、道路橋りょう費が9.5%増、都市計画費が0.7%減、河川海岸費が15.3%増となっている。

土木費の性質別の内訳をみると、第37図のとおりであり、普通建設事業費が最も大きな割合を占め、次いで補助費等となっている。また、各費目の決算額を前年度と比べると、普通建設事業費が6.3%増、補助費等が25.3%増となっている。

さらに、土木費における普通建設事業費の内訳をみると、補助事業費が37.5%、単独事業費が20.0%となっている。また、各費目の決算額を前年度と比べると、補助事業費が9.0%増、単独事業費が0.3%減となっている。

なお、地方公共団体は、交通事故等の防止を図るため、交通安全施設の設置及び補修、交通安全運動の推進等の道路交通安全対策事業を実施している。道路交通安全対策事業として支出された経費(土木費以外の費目に係るものを含み、人件費を除く。)は5,159億円で、前年度と比べると2.1%増となっている。

道路交通安全対策事業の内訳をみると、横断歩道や道路標識等交通安全施設の設置費の構成比が最も大きな割合(72.0%)を占め、以下、交通安全運動等に要する経費(15.1%)、施設補修費(12.8%)の順となっている。

(4)産業の振興

ア 農林水産行政

地方公共団体は、農林水産業の振興と食料の安定的供給を図るため、生産基盤の整備、構造改善、消費流通対策、農林水産業に係る技術の開発・普及等の従来の施策に加え、6次産業化等の推進、人口減少社会における農村漁村の活性化等の施策を行っている。

これらの諸施策に要する経費である農林水産業費の決算額は3兆4,106億円で、農地費*7の増加等により、前年度と比べると2.8%増となっている。

農林水産業費の目的別の内訳をみると、第38図のとおりであり、農地費が最も大きな割合を占め、以下、農業費、林業費、水産業費の順となっている。また、各費目の決算額を前年度と比べると、農地費が2.6%増、農業費が2.9%増、林業費が3.0%増、水産業費が3.9%増となっている。

農林水産業費の性質別の内訳をみると、第39図のとおりであり、普通建設事業費が最も大きな割合を占め、以下、人件費、補助費等の順となっている。また、各費目の決算額を前年度と比べると、普通建設事業費が2.5%増、人件費が1.9%増、補助費等が16.7%増となっている。

イ 商工行政

地方公共団体は、地域における商工業の振興とその経営の強化等を図るため、中小企業の経営力・技術力の向上、地域エネルギー事業の推進、企業誘致、消費流通対策等様々な施策を行っている。

これらの諸施策に要する経費である商工費の決算額は11兆5,336億円で、制度融資や営業時間短縮要請等に応じた事業者に対する協力金の支給等の新型コロナウイルス感染症対策に係る事業の増加等により、前年度と比べると141.2%増となっている。

商工費の性質別の内訳をみると、第40図のとおりであり、貸付金が最も大きな割合を占め、次いで補助費等となっている。また、各費目の決算額を前年度と比べると、前述のとおり、新型コロナウイルス感染症対策に係る制度融資の増加等により、貸付金が149.0%増、営業時間短縮要請等に応じた事業者に対する協力金の支給等の新型コロナウイルス感染症対策に係る事業の増加等により、補助費等が316.1%増となっている。

(5)保健衛生

地方公共団体は、住民の健康を保持増進し、生活環境の改善を図るため、医療、公衆衛生、精神衛生等に係る対策を推進するとともに、ごみなど一般廃棄物の収集・処理等、住民の日常生活に密着した諸施策を行っている。

これらの諸施策に要する経費である衛生費の決算額は9兆1,202億円で、医療提供体制の確保等の新型コロナウイルス感染症対策に係る事業の増加等により、前年度と比べると43.5%増となっている。

衛生費の目的別の内訳をみると、第41図のとおりであり、公衆衛生費*8が最も大きな割合を占め、次いで清掃費*9となっている。また、各費目の決算額を前年度と比べると、公衆衛生費が67.9%増、清掃費が3.0%増となっている。

目的別の構成比を団体区分別にみると、都道府県においては、公衆衛生費が大部分(92.1%)を占め、市町村においては、一般廃棄物の収集・処理等を行っていることから、公衆衛生費が50.4%、清掃費が46.9%となっている。

衛生費の性質別の内訳をみると、第42図のとおりであり、補助費等が最も大きな割合を占め、以下、物件費、人件費、普通建設事業費の順となっている。また、各費目の決算額を前年度と比べると、新型コロナウイルス感染症対策に係る病床確保支援事業や医療従事者への慰労金交付事業の増加等により補助費等が196.1%増、宿泊療養施設の運営費の負担等により物件費が13.5%増、医療機関の設備整備等により普通建設事業費が13.1%増となっている。

(6)警察と消防

ア 警察行政

都道府県は、犯罪の防止、交通安全の確保その他地域社会の安全と秩序を維持し、国民の生命、身体及び財産を保護するため、警察行政を行っている。

これらの諸施策に要する経費である警察費の決算額は3兆3,211億円で、人件費の減少等により、前年度と比べると1.0%減となっている。

警察費の性質別の内訳をみると、第43図のとおりであり、警察官の職員給等である人件費が最も大きな割合を占め、次いで物件費となっている。また、各費目の決算額を前年度と比べると、人件費が0.9%減、物件費が1.4%減となっている。

イ 消防行政

東京都及び市町村等は、火災、風水害、地震等の災害から国民の生命、身体及び財産を守り、これらの災害を防除し、被害を軽減するほか、災害等による傷病者の搬送を適切に行うため、消防行政を行っている。

これらの諸施策に要する経費である消防費の決算額は2兆1,250億円で、消防施設の整備、消防自動車の購入等に要する経費である普通建設事業費の増加等により、前年度と比べると1.6%増となっている。

消防費の性質別の内訳をみると、第44図のとおりであり、人件費が最も大きな割合を占め、以下、普通建設事業費、物件費の順となっている。また、各費目の決算額を前年度と比べると、人件費が1.1%減、普通建設事業費が11.5%増、物件費が10.5%増となっている。



*2 障害児等の福祉対策や他の福祉に分類できない総合的な福祉対策に要する経費

*3 「消費税法」(昭和63年法律第108号)第1条第2項に規定された、制度として確立された年金、医療及び介護の社会保障給付並びに少子化に対処するための施策に要する経費

*4 教職員の退職金や私立学校の振興等に要する経費

*5 体育施設の建設・運営や体育振興及び義務教育諸学校等の給食等に要する経費

*6 街路、公園、下水道等の整備、区画整理等に要する経費

*7 農業基盤整備等に要する経費

*8 保健衛生、精神衛生及び母子衛生等に要する経費

*9 一般廃棄物等の収集処理等に要する経費

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