5 社会保障制度改革

少子高齢化など人口構成の変化が一層進んでいく中、年金、医療、介護などの社会保障を持続可能なものとするためには、社会保障制度を見直し、給付・負担両面で、人口構成の変化に対応した世代間・世代内の公平が確保された制度へと改革していくことが必要である。

また、子育て、医療、介護など社会保障分野のサービス・給付の多くが地方公共団体を通じて国民に提供されていることから、国と地方が一体となって安定的に実施していくことが重要であり、社会保障制度改革は国・地方が協力して推進していく必要がある。

(1)社会保障の充実と人づくり革命

社会保障と税の一体改革は、社会保障の充実・安定化に向け、安定財源確保と財政健全化の同時達成を目指すものである。

消費税率の引上げ分は、全額社会保障の財源に使われることとされている。消費税を巡る税制抜本改革については、平成24年8月に「社会保障の安定財源の確保等を図る税制の抜本的な改革を行うための消費税法の一部を改正する等の法律」(平成24年法律第68号)及び「社会保障の安定財源の確保等を図る税制の抜本的な改革を行うための地方税法及び地方交付税法の一部を改正する法律」(平成24年法律第69号)が成立し、消費税率を平成26年4月より8%に、平成27年10月より10%に段階的に引き上げることとされた。その後、8%への引上げは平成26年4月に行われたが、8%から10%への引上げは二度にわたり延期され、令和元年10月に10%へ引き上げられた。

「社会保障の充実」については、消費税率5%から10%への引上げによる増収分の一部及び「持続可能な社会保障制度の確立を図るための改革の推進に関する法律」(平成25年法律第112号。以下「社会保障改革プログラム法」という。)等に基づく重点化・効率化による財政効果を活用して実施することとされた。

令和4年度における「社会保障の充実」の施策に係る所要額については、国・地方合計で2.80兆円程度(国:1.90兆円程度、地方:0.90兆円程度)であり、内訳としては、

  • 子ども・子育て支援分野に0.70兆円程度(国:0.32兆円程度、地方:0.38兆円程度)、
  • 医療・介護分野に1.50兆円程度(国:0.98兆円程度、地方:0.52兆円程度)、
  • 年金分野に0.60兆円程度(国:0.59兆円程度、地方:0.003兆円程度)、

となっている。

なお、具体的な事業内容については、第63表のとおりであり、拡充された主なものは以下のとおりである。

【令和4年度に拡充された主なもの】

  • 看護職員の処遇改善(診療報酬改定における消費税増収分等の活用分の内数として144億円、対前年度比皆増)
  • 不妊治療の保険適用(診療報酬改定における消費税増収分等の活用分の内数として本体分120億円、薬価分54億円、対前年度比皆増)
  • 介護職員の処遇改善(313億円、対前年度比皆増)
  • 子どもに係る国民健康保険料等の均等割額の減額措置(81億円、対前年度比皆増)

「新しい経済政策パッケージ」(平成29年12月8日閣議決定)では、「人づくり革命」を断行し、子育て世代、子供たちに大胆に政策資源を投入することで、社会保障制度をお年寄りも若者も安心できる全世代型へと改革し、子育て、介護などの現役世代の不安を解消し、希望出生率1.8、介護離職ゼロの実現を目指すとされた。また、「経済財政運営と改革の基本方針2019」(令和元年6月21日閣議決定)では、一人一人の人材の質を高めるとともに、人生100年時代に向けて誰もが生きがいを感じてその能力を思う存分に発揮できる社会を構築するため、「人づくり革命」を推進することとされた。

「人づくり革命」では、待機児童の解消・保育士の処遇改善、幼児教育・保育の無償化、高等教育の無償化、介護人材の処遇改善等の施策を推進することとされており、施策を推進するための安定財源として、消費税率8%から10%への引上げによる増収分の一部を活用することとされた。

令和4年度におけるこれらの施策に係る所要額については、国・地方合計で1.62兆円程度(国:0.95兆円程度、地方:0.67兆円程度)であり、内訳としては、

  • 待機児童の解消・保育士の処遇改善が0.07兆円程度(国:0.04兆円程度、地方:0.04兆円程度)、
  • 幼児教育・保育の無償化が0.89兆円程度(国:0.34兆円程度、地方:0.54兆円程度)、
  • 高等教育の無償化が0.56兆円程度(国:0.52兆円程度、地方:0.04兆円程度)、
  • 介護人材の処遇改善が0.10兆円程度(国:0.05兆円程度、地方:0.05兆円程度)、

となっている。

(2)全世代対応型の持続可能な社会保障制度の構築

全世代対応型の持続可能な社会保障制度の構築については、「全世代対応型の社会保障制度を構築するための健康保険法等の一部を改正する法律」(令和3年法律第66号)の規定を踏まえ、「経済財政運営と改革の基本方針2021」(令和3年6月18日閣議決定)において、医療、介護、年金、少子化対策を始めとする社会保障全般の総合的な検討を進めることとされたこと、また、令和3年10月の内閣総理大臣所信表明演説(以下「所信表明演説」という。)において、人生百年時代を見据えて、子供から子育て世代、お年寄りまで、全ての方が安心できる、全世代型社会保障の構築を進める旨の発言がなされたことを踏まえ、同年11月に有識者を構成員とする全世代型社会保障構築会議が、令和4年1月には内閣総理大臣・関係閣僚を構成員とする全世代型社会保障構築本部が、それぞれ設置された。その後、同月に開催された、第1回全世代型社会保障構築本部において、全世代型社会保障構築会議が同本部の下に位置づけられた。

今後は、全世代型社会保障構築会議において、男女が希望通り働ける社会づくりや、若者世代の負担増の抑制、勤労者皆保険など、社会保障制度を支える人を増やし、能力に応じてみんなが支え合う、持続的な社会保障制度の構築に向け、議論が進められることとなる。

また、公的価格の見直しについては、所信表明演説において、看護、介護、保育などの現場で働いている方々の収入を増やしていくため、公的価格評価検討委員会を設置し、公的価格の在り方を抜本的に見直すこととされた。全世代型社会保障構築会議の下に位置づけられた同委員会は、令和3年12月までに3回開催され、公的価格の在り方についての中間整理(以下「中間整理」という。)がとりまとめられた。

これに先立ち、「コロナ克服・新時代開拓のための経済対策」を踏まえ、令和4年2月から9月までの間、保育士等・幼稚園教諭、介護・障害福祉職員を対象に、賃上げ効果が継続される取組を行うことを前提として、収入を3%程度引き上げるための措置を実施するとともに、地域でコロナ医療など一定の役割を担う医療機関に勤務する看護職員を対象に、賃上げ効果が継続される取組を行うことを前提として、収入を1%程度引き上げるための措置を実施することとされており、その経費について、令和3年度補正予算(第1号)において、全額国費(2,600億円)による措置を講じることとされた。

また、「コロナ克服・新時代開拓のための経済対策」や中間整理を踏まえ、令和4年10月以降は、保育士等・幼稚園教諭、介護・障害福祉職員、地域でコロナ医療など一定の役割を担う医療機関に勤務する看護職員を対象に、診療報酬、介護報酬等において、収入を3%程度引き上げるための措置を実施することとされており、その地方負担について、令和4年度から、地方交付税措置を講じることとしている。

公的価格に関する今後の処遇改善の方向性については、中間整理を踏まえ、職種ごとに仕事の内容に比して適正な水準まで賃金が引き上がり、必要な人材が確保されるかといった観点から検討されることとなる。

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