地方行革をともに考えるシンポジウムin茨城

日時:平成19年1月16日(火)13時30分〜16時30分
場所:茨城県庁講堂
主催:総務省、茨城新聞社、全国地方新聞社連合会
後援:茨城県、茨城県市長会、茨城県町村会、共同通信社、 NHK 水戸放送局、茨城放送

基調講演

関西学院大学経済学部教授  林 宜嗣 氏
テーマ:「最少の経費で最大の効果をあげるための行政改革の展開」

自治体は最少の経費で最大の効果をあげる努力を

 自治体は企業と同じく、最少の経費で最大の効果をあげるようにしなければなりません。市民が何を望んでいるのかをリサーチし、できるだけ安いコストでサービスが提供できる方法を考えることが大切です。しかし、自治体のサービスは税金で財源を調達しなければならず、企業でいう売り上げがない。そこが難しい点です。そのような障害をどう取り除いていけばいいのか。それが行政改革であると思います。
 市民のニーズが高度化、多様化し、社会や行政が解決していかなければならない問題はますます多くなり、行政の守備範囲が拡大してきました。しかし、本当にそれらのことを、行政が税金を使ってやるべきことなのかという観点から、行政の守備範囲を見直していかなければなりません。民に任せられるのならば任せた方がいいのではないか。むしろ、行政にしかできないものに守備範囲を絞っていくことが求められています。
 行政が税金を使う上では、その税金が公正・妥当に使われていることが非常に重要なポイントです。
 「行政需要」という言葉が言われますが、限られた資源で有効にその需要を満たしていくためには、市場メカニズムをうまく使うことが、非常に有効な手段になります。
私たちの欲求は無限でありますが、支払う意思が伴わなければ需要とはなりません。行政需要と言われるもののすべてが、支払う意思を伴ったものになっているかどうかということを、もう一度考えなければなりません。
 行政が提供しているサービスにかかっているコストをきちんと計算し、市民に分かりやすく提示することが非常に重要な行革のポイントです。
自治体を企業とみなし、住民を消費者とみなして、うまく取引していくためには、相互に情報が十分に伝わっていかなければなりません。情報が不完全であればマーケットはうまく機能しません。
 国から地方への税源移譲は非常に重要です。分権改革を進めるためには、権限と財源を地方に移譲し、歳出と歳入に関する地方の自由度や裁量を大きくしていくことが不可欠だからです。
一方で、市民のニーズが多様化・高度化する中で、税金をいかに公平に使うかということを考えると、受益者負担をもっと真剣に検討することも、今後の地方行政にとって重要な課題であると思います。
 住民参加というのは、一部の方だけが参加するということではなく、サイレント・マジョリティの情報をきちんと収集することが大切です。そのような情報のリサーチをするためには、まず行政側が情報を提供しなければなりません。

地方分権と行政改革は表裏一体

前向きの、攻めの行政改革を

 地方財政というのは、分かりやすいものであるべきです。しかし、地方財政を難しいと思っている市民は非常に多いのではないかと思います。その大きな原因の1つは、中央集権的なシステムにあると思います。意思決定をどこがやっているのかよく分からない。企画立案は国、実施は地方、財源は国と地方が分担しているというのが実態です。
地方のサービスは地方で意思決定し、行政改革も住民の判断の中でできるようにする。これが地方分権の1つの大きな流れであって、行政改革のためにも地方分権を進めなければならないのです。
 行政改革というのは、スリム化することだけではありません。地域経営やまちづくりの1つの側面であるということを考えて進めなければなりません。
前向きの、攻めの行政改革こそが必要で、ただ単にカットしやすいところをカットするとか、先送りしやすいところを先送りするといったことではなく、痛みを伴うかもしれないけれども、市民、納税者にも負担をしてもらうという行政改革を、勇気を持って進めていくことが、今の時代には非常に重要なことだと思います。

事例プレゼンテーション

横浜市行政運営調整局財源課 広告事業推進担当係長  齋藤 紀子 氏
テーマ:「財源は自ら稼ぐ! 横浜市広告事業のチャレンジ」

 横浜市では市が持っている資産や印刷物、施設、ネーミングライツなどを活用して財源を稼ぐという広告事業を推進しています。広告事業には大きく分けて3つのパターンがあり、1つ目は印刷物などに広告枠を設けて広告料収入を得るパターン、2つ目は広告入りの給与明細や図書館の貸出票、レシートのロールペーパーを企業に提供してもらうパターン、そして3つ目は防災パンフレットの作成・配布などの事業を企業とタイアップして行うパターンです。
 広告事業については、専任の部署を設けて窓口の一元化を図るとともに、業務マニュアルを作成することで各部署の職員の負担を軽減し、事務の効率化を図っているほか、歳入確保や経費節減の努力をした部署には、財政的な優遇措置をとっています。
広告事業は、それ自体が目的ではなく、あくまで自主財源の確保や経費節減のための手段です。
 市民から預かっている資産を有効に活用するべきであるという観点から、広告事業の企画実施の検討に当たっては、それが市民のためになるのかどうかを一番のポイントにして判断しています。

町田市企画部広報広聴課副参事 コールセンター担当  加藤 茂樹 氏
テーマ:「コールセンターの活用による市民サービスの向上と業務の効率化」

 コールセンターの業務は、主に問い合わせに対する回答・案内業務や、個別・集中的な案内・回答業務、イベントや講座の受付業務、調査などアウトコールを伴う案内・回答業務、宿日直時の電話業務です。問い合わせは電話・ FAX ・ E メールで受け付けています。 運営形態は民間企業へのフルアウトソーシングで、運営日は年中無休、午前7時から午後11時まで運営しています。コールセンターは町田市から約30km離れた港区に設置しており、その間は IP 電話により接続することで、市内通話料金での問い合わせが可能となっています。
 問い合わせ電話の担当部署への転送をなくし、年中無休で問い合わせを受け付けてワンストップサービスを実現しているほか、市民の意見や要望などを受け付ける相談窓口としても機能し、市民サービスの向上に大きく寄与しています。
また、担当部署への個別の電話が減少し、事務効率の向上や経費の節減を実現しています。 今後は、 FAQ の充実とコール数の増加に加え、コールセンターに集まる市民の声を施策へ反映させることや、代表電話とコールセンター電話の統合などが検討課題です。

世田谷区政策経営部行政経営担当課 行政経営担当係長  福島 恵一 氏
テーマ:「外部委員による全事務事業点検」

 全ての事務事業について「区民の目線で見直す」ことに主眼を置き、学識経験者2名と区民委員3名からなる委員会を設け、事務事業の点検作業を進めました。従来実施していた ABC 評価のデータを活用するとともに、2,600の事務事業を、イベントや補助金といった手法の構造により23のグループに分けて評価を実施しました。そうすることで、分野間の重複や問題点を明らかにし、効果的に見直しを行うことができました。なお、区民委員の3名は、公認会計士や民生委員、デパートの店長で、それぞれの区の事業にも詳しく、自分の物差しでバランスよく点検・分析をしていただくことができました。
 事務事業点検の結果は予算に反映され、平成16年度の予算反映で4億6,000万円、平成17年度予算反映で3億2,000万円の削減効果がありました。しかし、何より職員が事務事業の見直しを通して「区民の視点」を学ぶことができたのが将来に向けた大きな効果です。
 一方で、外圧依存になり、職員の自信や意欲を削いでしまうというリスクもあります。
 さらにコストを下げることも考えながら、お金をかけなくても工夫してサービスを充実させるといった、「削る行革」から「高める行革」への転換が求められていると思います。

パネルディスカッション

テーマ:「分権型社会に求められる新しい地方自治体のすがた」

パネリスト
●林 宜嗣 氏 関西学院大学経済学部教授
◆平塚 知真子 氏  NPO 法人ままと―ん理事長
■林 孝 氏 茨城県総務部次長兼行財政改革・地方分権推進室長
▲門山 泰明 氏 総務省官房審議官
コーディネーター
○池谷 忍 氏 共同通信社論説委員兼内政部長
○池谷
「地方行革に関する意見交換をしていきたいと思います。
行政コストの情報をどう市民に伝えていくかということが行革を進めていく上で重要な課題ということですが、そのことについての考えをお聞かせください。」
●林(宜)
「1つはやはり受益者負担です。受益者負担というある種の「価格」を通じてコスト情報を提供することが必要だと思います。ただ、問題なのはコスト情報を流す以前に、コスト情報それ自体が分からないということです。
コストを正しく計算するためには、何より分析が欠かせません。財政収支の予測を、行政内部でやってみるべきだと思います。そうすれば財政運営の問題点がはっきりと見えてきます。分析力を高めるためには、自治体のシンクタンク機能が非常に重要です。ところが財政状況の悪化とともに、自治体のシンクタンクはどんどん閉鎖されてしまっています。これでは分権時代に逆行していると思います。行政というものは総合的に考えていかなければならない部分が多いので、内部で徹底的に分析をし、どこが問題なのかを洗い出せば、大きなメリットになります。」
◆平塚
「自治体の情報は住民に相当程度公開されています。しかし、情報があったとしても、それと自分との関係がよくつかめない。ですから住民の方が、自分たちの住んでいる自治体の情報にもっと関心を持てるような情報提供の仕方を工夫することがまずは大事だと思います。」

○池谷
「住民ニーズが多様化、高度化する中で、行政だけで対応するのは難しくなってきているのではないかと思いますが、例えば NPO との連携などは行政としてどう考えているのでしょう。」
■林(孝)
「社会の変化が非常に早く、また厳しい財政状況にある中では、従来のやり方では通用しないというか、効果が出てこないと思います。そうすると、民間にできることは民間に、という流れの中で、民間活力をどう使うかが課題になります。その場合、県や市町村の役割についてまだうまく整理されていない面もありますが、地域の団体や NPO と連携して行政の効果を上げていこうという動きもあります。」

○池谷
「地方行革と今後の自治体の姿について、お聞かせください。」
●林(宜)
「自治体の色々な財政情報や行政評価の結果なども、確かに公表されています。しかし、それを一般の市民が見ても分からないわけです。他の自治体と同じ基準で比較できる形で、市民に分かりやすい情報を流し、そのことをもっと言わなければならない。
それから、今後の行革は単なる効率化、スリム化ということではなく、例えば PFI にしても財政悪化緩和型ではなく、ビジネスチャンスを民間に与えるという意識が必要だと思います。つまり、行政の論理ではなく民間企業の論理で考えなければいけない。
行革は地域づくりと一体であって、税財政の改革と行政改革、地域の活性化、これらをあわせて三位一体の改革ととらえていくのが前向きの行政改革だと思います。」

○池谷
「地域づくりというのは自治体だけではなく、多様な主体が参画するのがこれからの姿であると思いますが、どのようにお考えですか。」
◆平塚
「 NPO にはやる気とかボランタリー意識の強い人が多くいます。行政の下請けとか業者とかいった関係ではなく、パートナーとして地域づくりに参画できればと思います。行革といっても色々なパートナーがいるので、行政もそれに対して柔軟に、一緒にまちをよくしていこうというスタンスでやっていただけたらうれしいです。」
■林(孝)
「地域のことは地域の方々が一番よく知っているわけですから、行政がやるよりもむしろ地域にお願いした方がいい成果が出る部分が相当あります。そういう意味で、 NPO や地域の色々な団体と連携するケースや領域は、今後ますます広がっていくと思います。」
▲門山
「地方行革の取り組みは、やはり行政だけでは限界があります。これからは、地域の企業や NPO といった色々な団体と連携して「新しい公共空間」をつくっていくことが大切です。市役所や県庁はそのためのいわば戦略本部のような役割を果たしていくべきだと考えています。行政改革は、それだけでは目的にならないのであって、それによって暮らしをどうやってよくしていくかを考えなければなりません。やはり自分たちのまちのことを自分たちで決められるような体制を整備していく1つの大きな手段が地方行革なのではないかと思います。」

○池谷
「最後に、今後地方行革を進めるために最も重要なこと、あるいは言い残したことでも結構ですのでお願いします。」
●林(宜)
「 PLAN 、 DO 、 CHECK 、 ACTION をうまく機能させるためにも、目標は具体的でなければいけないと思います。また、1つの政策手段に複数の目的をくっつけてはいけません。複数の目的をつけると、チェックができなくなってしまいます。百の目的があるのなら百の手段が要るのだと考えなければならないと思います。」
◆平塚
「 NPO 活動をしていて、市や県に協力しようという気持ちになるのは、県庁や市役所の職員の方々と直接つながりがあり、地域のためにがんばっている姿を見て知っているからだと思います。行政の皆さんも、人と人とのつながりを大切にしていただけたらうれしいです。」
■林(孝)
「行革を進めていく際に基本になるのは、職員が、県の財政状況も含め、諸情報をきちんと把握して、置かれている状況をはっきり理解することです。そのことによって危機意識や問題意識を共有していくことがとても大事だと思います。また、県の情報をどんどん県民の方に得ていただくことも大切なので、これからも積極的な情報発信を心掛けていきます。」
▲門山
「「分かりやすく説明する」ということが1つのキーワードであり、行政改革を進めていく上で非常に大事だと考えます。」
○池谷
「ありがとうございました。これでパネルディスカッションを終わらせていただきます。」

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