地方行革をともに考えるシンポジウムin熊本

日時:平成19年2月6日(水)13時30分〜16時30分
場所:熊本市国際交流会館ホール
主催:総務省、熊本日日新聞社、全国地方新聞社連合会
後援:熊本県、熊本県市長会、熊本県町村会、NHK熊本放送局、RKK、FMK、共同通信社

基調講演

地方財政審議会委員  木村 陽子 氏
テーマ:「地方行財政運営の新たな展開 三位一体改革を顧みて」

国と地方の主張が対立した三位一体改革

 平成14年から平成18年にかけての三位一体改革において、生活保護が国と地方の間で大きな論争点になりました。国は、「生活保護率の上昇や地域格差の拡大は地方自治体の生活保護の窓口が悪いからで、地方の生活保護の財政負担を増やせば改善される」と主張し、厚生労働省は平成15年秋、生活保護を税源移譲の対象にすると言い出したのです。それに対して地方は「保護率の上昇や地域格差は社会経済的影響によるものであり、それを窓口のせいにするのは間違っている。生活保護はナショナルミニマムであり、本来なら国が責任をもって実施すべき」と主張し、両者譲りませんでした。
 そこで、平成17年に生活保護についての国と地方の協議会が設けられ、さらにその下に実証分析を行うための「共同作業チーム」がつくられました。メンバーは国から8人、地方から8人で、地方団体側のメンバーは現場の課長クラスに加え、全国市長会、全国知事会の本部事務局から1名ずつ、それに総務省の調整課長と私が入りました。
 協議会では、なぜ生活保護率が高くなっているのか、地域格差の原因は何かといった点を調べようとしましたが、まず厚生労働省側から「データの分析は我々に任せてほしい。地方団体の皆さんは我々の分析にコメントしてください。我々はそのコメント通りに計算し直して、お示しします」という申し出がありました。
 私はそれを拒否しました。なぜなら、自分でデータ解析をしなければきちっと反論できないからです。もしその時、譲っていたなら、話はまったく別のことになっていたと思います。今きちんと反論しなければ「地方団体の窓口が悪い」ということになり、生活保護行政だけでなく、他の行政分野でも同じことが言われることになりかねません。だから、自分たちが頑張って反論しなければいけないと決断したのです。

共同作業チームで確信した「現場」の力

 実証分析などの仕事を通して、私たちのチームは変わっていきました。地方団体にはきちんとしたシンクタンクはないけれど、県や市町村が力を合わせれば、かなりのことができるのだと思うようになりました。
 結果的に、私たちは国への反論に加え、生活保護制度についての政策提言まで行うことができました。しかし、そこまで反論や政策提言をしたにも関わらず、私たち地方団体側に断りもなく、政府の中では三位一体改革に伴う3兆円の税源移譲の対象に生活保護を入れる方向で最終的な話が決まりそうになっていたのです。
 私はショックを受けました。日本は地方団体の仕事が多く、優秀な人が集まり、総合行政を行っているのにこのような扱いを受けている。地方団体は国にとって圧力団体ではなく、政策のパートナーなのです。それをわかってもらわなければダメだと思いました。

これからの自治体職員に求められるもの

 行政改革を進めていくに当たっては、地方自治体の職員の能力をいかに高めるかが大きな課題であると思います。新たなことをするときは批判だけでは何もできません。当事者意識のない人や改革マインドのない人には行政改革を進めることは無理です。求められるのは、度胸があって誠実で調整能力のある人。そして新たなことに対して「不可能だ」と決め付けず、絶対に諦めない人です。それから、上司にしっかりと鍛えられている人はすばらしい。反面、部下が上司を超えられないことも事実です。ですから、上司の役割と責任はとても重大です。
 私たちは今回の三位一体改革での仕事を通して、大変な勉強をしましたが、いろいろなキャンペーンに騙されず、自分の足元を見据え、問題解決のためにどうしていけばよいのかが分かるようになるためには、やはり勉強するしかないのです。
 「共同作業チーム」というプロジェクトを通して、私たちの仲間は大きく成長できたと思います。

事例プレゼンテーション

熊本県総務部行政経営課 主幹   深川 元樹 氏
テーマ:「外郭団体への関与の見直し」

 外郭団体への関与の見直しを行った背景には、地方公社等の破綻問題や三位一体改革に伴う地方行財政制度の変革、総務省の「第三セクターに関する指針」の改定、指定管理者制度導入への対応などがあり、熊本県では平成16年度から具体的な見直しに着手しました。
 見直しの目的は大きく3点あります。1点目は、外郭団体が実施していた県の施策を見直し、県の経営資源(人とカネ)を真に必要な事業に再配分すること。2点目は、県の公共サービスの提供手法(担い手)を見直し、公共サービスの維持・充実を図ること。そして3点目は、外郭団体への県の関与を適正化し、団体の自主性、自立性を確保しつつ、適切な運営を指導・助言していくことです。団体そのものの見直しではなく、あくまで外郭団体に対する県の関与の在り方を見直すということです。
 具体的な見直し方法ですが、まず、外部の専門家を加えた会議でオープンな議論を行うとともに、県議会の財政対策特別委員会でも団体ごとに個別に審議を行い、平成17年3月に全庁的な「モノサシ」となる指針を作成しました。さらに、その指針の中で、外郭団体への県費支出と県職員派遣数について明確な削減目標を設定しました。
 見直しの成果を平成18年度の実績で見ますと、平成11年度に146億円あった県費支出が53億円にまで抑制され、県職員派遣数も平成11年度の3分の1にまで削減されています。

佐賀県最高情報統括監(CIO)   川島 宏一 氏
テーマ:「県民満足度向上を目指した協働化テスト」

 「協働化テスト」とは、行政からの積極的な業務情報の開示によって、民間(市民社会組織(CSO*)、企業、大学)から広く提案を求め、提案者と対話を重ね、県民満足度が高まるよう、公共サービスの担い手の多様化を図っていくプロセスです。
その特徴は、(1)県が実施しているすべての事業を対象に公開し、CSOとの協働や外部委託の提案を募集すること、(2)官民が切磋琢磨し、オープンに議論していくアプローチを導入していること、(3)「事業仕分け」のように業務の担い手についてゼロベースで見直していく考え方を導入していること(4)行政と提案者の間で合意のあったものから予算化していくこと、そして(5)民間企業のみならず、自治会などを含むCSOにも呼びかけていること、であると考えています。
まず県の業務を職員が自己点検し、それらをすべて公表して意見交換を行った後、提案書を受け付け、業務内容を再度協議して提案書への回答を出します。それから外部委託などが決まった事業については、契約を結んで品質管理を徹底し、評価して、それをさらに公表していきます。
協働化テストにより、行政サービスに対する県民満足度の向上や民間活力の活用による地域経済振興、地域の課題解決力の向上、行財政体質の一層の健全化などを期待しています。

* CSO:市民社会組織 Civil Society Organization
  ・・・志縁組織(NPOなど)に地縁組織(自治会など)を加えた概念の呼称

薩摩川内市企画政策部 コミュニティ課長  橋 三丸 氏
テーマ:「地区コミュニティ協議会」

 「地区コミュニティ協議会」とは、従来の地区内における連絡協議会などの機能や体制の強化を図りながら、より充実した横断的な地区コミュニティ組織を確立し、運営する仕組みです。市は協議会の設立に向けて、各地区に対して準備委員会の設立や協議会の組織構成の協議、事業計画・予算の協議、規約の整備などを支援しました。そして平成17年4月、市内の小学校区を単位に48の地区コミュニティ協議会が設立されました。
 地区コミュニティ協議会では、事業の基本計画である「地区振興計画」を、住民自らが話し合い、それぞれの地区の現状や課題に応じてまとめています。市としては、協議会に対して円滑な活動・事業を推進していただくために財政支援、活動支援を行っています。
 地区コミュニティ協議会を設立したことにより、類似団体等の統合・再編や、関係団体の横断的な連携強化、住民参画意識・協働意識の醸成、重複していた地域活動や事業の整理・一元化、地区間の競争意識の向上による地域活動の活性化といった成果が期待できます。
 今後の課題としては、1つには役割が特定の人に偏る傾向があるため、地区住民の参画意識を高め、住民総ぐるみの活動が展開される土壌をつくることです。特に高齢化社会が進展する中、若者の積極的な参加促進が重要課題です。また、事業の推進と安定した運営基盤の継続のため、専門的知識や技能、情報の収集、及び資金の確保を図る必要があります。

パネルディスカッション

テーマ:「分権型社会に求められる新しい地方自治体のすがた」

パネリスト
●木村 陽子 氏 地方財政審議会委員
◆藤井 誠 氏 国際理解教育情報センター代表
■川島 宏一 氏 佐賀県最高情報統括監(CIO)
▲加瀬 コ幸 氏 総務省自治行政局行政体制整備室長
コーディネーター
○池谷 忍 氏 共同通信社論説委員兼内政部長
○池谷
「行政のあり方を変えて地域行政力を強化していくというのが、佐賀県の行革における基本的な考え方なのでしょうか。」
■川島
「地域の目指すべき経済や生活のあり方、それに基づく公共的な資金の使い方についての大きな方向性は、行政が企画経営力を発揮して決定する必要があります。それが地域の雇用や産業にとって大きな影響力を及ぼすことになります。したがって、そういった力がある地域とそうでない地域とでは、大きな違いが出てくると思います。この企画経営力を「地域行政力」と称しています。
 職員全体の意識を変え、ニーズの変化に対応できるようになるためには、住民の視点で行政が行っていることをオープンにし、常にコミュニケーションして、自らやっていることの価値を見直せるかどうかに掛かっています。
 「協働化テスト」をやる上では、トップや議会、地域社会が、協働化テストの取り組みをどのように受け止めているかといったことを、対話をくり返しながら受けとめ、間違ったら修正をしながら進めていけばいいと考えています。100%正解ではなく、80%で進めるという感覚で行うよう心がけています。」
○池谷
「住民から見た地方行革の現状や必要性などについてお話しください。」
◆藤井
「私たちはこれからの行革のあり方を、行政だけでなく、住民や事業者も含めて、皆で考えていかなければならないと考えます。
 行革や地域づくりで一番大事なのは、心の問題だと思います。行政にも地域住民にも、「自分たちのまちのことは自分たちでやるんだ」という気概と根性が必要だと思います。」
●木村
「バブルの時、地方自治体はいろいろなハコモノをつくりました。そのような自治体の体質というのは、今もあの時と基本的には変わっていないと思います。なぜなら、当時「シンクタンクがやれるというからやってみる」と言って公共事業などを進めた地方自治体が、現在、それらの事業をやめようとする際「シンクタンクが、採算が合わないというのでやめます」といったように、当時と同じ発想で説明をするからです。地方自治体も、勉強すれば自分たちで将来予測はできるのです。そういったところから変えなければなりません。
 以前、三位一体改革による税源移譲で公立の保育所が一般財源化されましたが、市町村の担当部署に話を聞くと、「国からのお金が来なくなったので、保育所の修繕をあきらめました」とか、「財政課を説得できなかった」という回答が目立ちました。実は税源移譲の際、保育所については市町村に損が出ないような措置が講じられていたのです。しかし、市町村の財政課はそういう説明を現場にはしておらず、一方で、現場の方は財政課を説得できなくなったと言っている。これでは分権は進みません。事業の必要性から説明できるようになることが行革の第一歩なのです。
 「変えたいという意識が内から湧き出てこなければ、行政改革も分権も進まない」というのが率直な感想です。」
○池谷
「佐賀県では全事業を対象にした「協働化テスト」を行っていますが、これが最終的に進んだ場合、県庁の役割はどのように変わっていきますか。
■川島
長期的には行政の役割は、「船の艪を漕ぐ行政から、舵を取る行政へ」向かっていくと考えています。県の役割は地域の産業のありようとか、活力をどのような方向に持っていくべきか、そのために地域の人たちや産業界、教育界の人たちの人材開発や、インフラ整備も含めてどのような方向に持っていくべきかを考えましょうというものですね。
 ですから、今後県が行うべき事業は、企画経営的な部分、県全体のシンクタンク的部分、また予算をいかに使っていくかを管理、運営する部分にますます重点が置かれていくだろうと思います。」
○池谷
「今後、地方行革を進めていくために、地方自治体に何が求められているとお考えですか。」
●木村
「私は今後、地方団体は国の政策の動向などについて注意深く見守らなければならないと思います。「われわれの改革マインドはこうで、なぜこれを提言するか」ということを説得できなければ押され続けるだけです。世論はきついですが、それに対応するには自ら襟を正して、「われわれはこれだけの行政改革をする」と提示していかなければなりません。」
○池谷
「指定管理者制度で民間の指定が進まない背景にはどのような問題があるのですか。」
◆藤井
「1つには身内の保護が多く、自分のところの外郭団体から指定管理者にしようという傾向にあるのではないかと思います。2つ目は既存のNPOや企業の中から選ぼうとしていることです。NPOは公共施設を受託するために立ち上げているのではなく、自分たちのミッションでやっているのです。そして企業にとって、指定管理者制度は利益面でのリスクが大きいですね。「委託は委託でしかない」で終わっている。これが大きな問題です。
 自治体は施設の種類と規模に応じてどのような方法を選択するのかをはっきりするべきだと思います。あまり指定管理者制度にとらわれることなく、特長を活かした公共施設の管理・運営を考えていくのが重要だと思います。」
○池谷
「これからの行政はNPOなどの民間との連携が重要だとお考えですか。」
●木村
「私が地方自治体に今後期待することは、もっと勉強しようということと、地方団体以外の人と連携できる人間的魅力を持った集団になろうということです。これからはいろんな人が協力し合わなければできないことがいっぱいあると思うのです。ですから、故郷を想う人を育て、いろんな人と連携できる、考える、勉強する人の集団を都会ではない地方でつくってほしいと思います。」
◆藤井
「地域づくりも、行革も人の仕事です。「まちづくりは人づくりから」とよく言われますが、NPOの育成であれ、民の育成であれ、日常的な学習活動をきちっとしていくことが基本だと思います。
 それから、地域の人に参加してもらう、活動してもらうときに、メリット感をきちっと出さなければ、誰もなかなか動かないと思います。企業もまた利益にならないことでは動かないのが基本です。ですから、企業も社会に参加しやすいルールづくりを進めていくことが大きな力になると思います。」
○池谷
「これからの新しい自治体像をどのようにお考えですか。」
▲加瀬
「これからの地方自治体は地域の企画立案戦略本部のような位置づけになると思われます。一方、民間企業やNPO、自治会その他の住民団体も「公」の中に入ってくるだろうと思います。そういう方々にきちんと「こういう形でわれわれは事業を進めています」ということを示しながら、そういう方々が得意とする分野についてはお任せしていくというのがこれからの自治体の姿になるだろうと考えています。」
○池谷
「ありがとうございました。これでパネルディスカッションを終わらせていただきます。」

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