地方行革をともに考えるシンポジウム in 静岡

日時:平成19年1月31日(水)13時30分〜16時30分
場所:グランシップ交流ホール
主催:総務省、静岡新聞社・静岡放送、全国地方新聞社連合会
後援:静岡県、静岡県市長会、静岡県町村会、共同通信社

基調講演

明治大学公共政策大学院教授   北大路 信郷 氏
テーマ:「これからの自治体経営と政策マネジメントの考え方」

生産性向上志向への転換に必要な「作戦マネジメント」という概念

 行政改革というと、日本では業務や人員をカットすることだと受け止められがちですが、本来、行政改革とはもっと質のいいものをつくり出すというものであるべきです。したがって、支出削減志向から生産性向上志向への転換が必要ではないかと思います。
 地方行革において最も重要なのは「作戦マネジメント」という概念です。マネジメントとは生産性向上のための活動です。そして「作戦マネジメント」とは、「作戦」を単位として、 PDCA マネジメントの機能を発揮することです。それは決して予算や人員の管理の仕組みを強化しようとすることではありません。
  PDCA サイクルの本来の意味におけるP( Plan )とは作戦策定、つまりどうやってよりよい成果をあげるのかという作戦をつくることであって、予算を付けることではありません。また、 Do で実施した後に、 Check として評価する対象も、予算ではなく作戦です。作戦が本当に優れていたのか、思ったように作戦が展開されたのかを評価し、見直すのです。このように「作戦」というのが基本的な単位であり、 PDCA マネジメントの対象です。
 そういった「作戦」を基本とする評価の考え方は、英米では「プログラム評価」と呼ばれていますが、むしろ「作戦評価」と呼ぶのがぴったり合うと思います。これは、いい作戦をつくるために、 1. ニーズの把握と評価、 2. 目的に合った手段が用意されているか、 3. 作戦がうまく遂行されているか、 4. 作戦が成果を出したか、 5. どれだけ費用対効果があったか、という一連の流れで政策評価を行う考え方で、グローバル・スタンダードになっています。
 ところが、日本ではそのような作戦評価が行われていません。それはどうも「支出削減志向」が邪魔をしているからだと思います。

民間企業経営と自治体経営の違い

 民間企業の TQM (総合的品質マネジメント)は、生産性を高める手段として公共経営にも活用できます。ただしストレートに使うわけにはいかない理由が4つあります。
 1つ目は、民間企業の場合はあくまで会社が成果を実現するのに対して、公共経営では社会全体が主体となって結果を出すということです。したがって、行政はパートナーたちと作戦を共有して、一緒に働くことが必要です。
 2つ目は、民間企業と異なり、行政は100とか200の全く違う種類の成果を追求する組織であるということです。それら一つひとつの成果をあげるためには、それぞれ別々の、100種類、200種類の作戦が必要となります。
 3つ目は、追求する成果が時代や社会情勢とともにどんどん変化していくことです。このことに対応するためには、新たな課題に柔軟に対応できる組織体制をもって、迅速に新たな作戦マネジメントを行う仕組みが大事です。
 そして4番目が、支出に対する外部統制が非常に厳しいということです。公金ですから、何にどれだけ使うかを詳しく説明できなければなりません。この統制を緩めるためには、何より作戦とその期待成果を十分に説明し、信頼をかち取ることです。

作戦共有によるパートナーシップ

 今後の公共経営で一番大事なのはパートナーシップだと思いますが、その際ポイントになるのは、1つには最大の成果が期待できるパートナーを選んで、その主体が独自の経営努力によって持続的に生産性を向上させることです。そのためにはマネジメントができるように最大限権限を移譲し、任せることです。2つ目に、任せっぱなしではなく、常時政策の見直しができ、政策の説明責任を果たせる仕組みとして、パートナーと協働の作戦マネジメントを行うことです。
 これからの自治体ガバナンスとして、分権型社会では各自治体が独自の環境に最も適した個性的な地域ガバナンスの体制や運営形態をとることが原則です。ただし、基本となるマネジメントの仕組みは個性的であったり変則的であったりする必要はありません。地方政府が持つ共通の任務特性に由来するマネジメントの仕組みは普遍的なものであり、根幹に関わるものは適当に変わっていいようなものではないのです。

事例プレゼンテーション

静岡県総務部行政改革室 主幹   八木 敏裕 氏
テーマ「業務棚卸表を活用した行政評価」

 本県では、「日本版 NPM (新公共経営)」とも言えるような、目的志向型の行政運営システムを展開しており、その中心的な役割を果たしているのが業務棚卸表です。
 業務棚卸表は、総合計画に対する実施計画や実績報告書としても機能しており、総合計画を頂点として計画・実施・評価・改善というサイクルを回す仕組みがあるわけですが、業務棚卸表はその中のエンジン的な存在であると言えます。
 業務棚卸表は、いわば目的や目標、及び目標達成の手段を体系的に示した作戦書のようなものですが、その特徴として次の5つが挙げられます。1つ目は、最重要事項が「顧客(県民)満足」であるということです。2つ目は、達成すべき目的やその手段を、樹木構造で表していること。3つ目は、目標と実績を評価するための管理指標となっていること。4つ目は、事業費と並んで人件費も投入資源として記入していること。そして5つ目が現状分析や改善措置を行う際の評価情報を加えていることです。
 今年度で業務棚卸表を導入して10年目を迎えますが、職員の間にも、アウトプット(出力)ではなく、アウトカム(成果)の実現を追求する目的志向の意識とスタイルが浸透してきています。

各務原市都市戦略企画推進部 情報推進課長  五島 次郎 氏
テーマ「電算システムの包括アウトソーシング」

 本市では、以前はホストコンピュータ、汎用コンピュータで業務を実施していましたが、業務ごとにツギハギになった、縦割りの情報システムだったためコストも高く、全体的な仕様が欠如していました。
 また、 BPR の観点から行財政基盤を強化し、効率的な行政運営をするためには、 IT をツールとして適切な形で提供しなければなりませんが、その意味では従来のホストコンピュータはもはや限界に来ていました。
 そこで、より質の高い行政サービスを実現するため、組織全体の「全体最適」の観点から、情報システムの包括アウトソーシング事業に取り組みました。
 それにより総合窓口やワンストップサービスなどの市民サービスの向上や、中間事務のコンピュータ化による事務改善、オープンなパッケージシステムの採用による経費の削減、セキュリティの向上といったことを図っています。
 事業内容は、システム開発と運用・維持管理、情報システム全般のヘルプデスク業務、市の情報化全般のコンサルティング、パソコンの導入やネットワークの改良、管理です。
 情報システム改革による効果見込みは6年半で約19億円に上ります。また、職員の事務時間削減効果が1年間で2万4千時間と、大きな効果をあげています。

静岡市市民環境局市民生活部市民生活課 NPO 担当主査  宮城島 清也 氏
テーマ「協働パイロット事業・市民活動協働市場」

 社会が複雑化、高度化する中で、地域の問題に行政だけでは対応しきれないという状況も出てきました。そのような中、「誰がやればうまくいくのか」を考えて、市民と行政が力を持ち寄って協働しながら社会全体の問題解決に取り組むことが大事だと思います。
 本市では2つの協働事業提案制度があります。1つは「協働パイロット事業」という制度です。これは1事業につき50万円の予算を市が確保し、その額で実行できる協働事業を募集するというものです。審査は民間の委員にお願いし、公開のプロポーザル方式で審査しています。
 2つ目が「協働市場」という制度です。これは NPO と市とが相互に協働事業を提案できる制度です。この事業は事前に予算を設けず、いつでも提案できます。協働の形態も、委託に限らず事業内容に合わせて自由に設計できるものです。
 協働事業を成功させるためのポイントは4つあります。1つ目は、 NPO などの応募団体による、地域の問題への現状把握と問題提起が的確であること。2つ目は応募団体が優れたノウハウと情熱を持っていること。3つ目は協働事業を行う所管課が、協働に対して積極的な姿勢を持つこと。そして4つ目が、 NPO 担当課が応募団体と所管課双方の立場に立って、よりよい協働ができるようコーディネートすることです。

パネルディスカッション

テーマ「分権型社会に求められる新しい地方自治体のすがた」

パネリスト
●北大路 信郷 氏 明治大学公共政策大学院教授
◆鈴木 通代 氏  SBS パーソナリティ
■山村 善敬 氏 静岡県都市住宅部長
▲門山 泰明 氏 総務省官房審議官
コーディネーター
○池谷 忍 氏 共同通信社論説委員兼内政部長
○池谷
「静岡県ではどのような地方行革の取り組みを進めてこられたのでしょうか。」
■山村
「静岡県は昭和50年代から行革に取り組んできました。当時はまさに節約型の行革でしたが、平成6年度から、リエンジニアリングの考え方をベースにした目的志向型の新しい行革の取り組みを進めてきております。これは、行政の生産性向上を目指せというメッセージを、知事自身が盛んに発していたことが1つの大きな要因だと思います。」
○池谷
「住民側から見て、地方自治体の行革についてどうお考えでしょうか。」
◆鈴木
「私たちが求めるのは、健全な財政、安全な生活、安心して暮らせる環境です。以前、県の広報番組で台本に10個ぐらい確認印を押す欄があり、間違いをなくすために必要だと思いながらも、たくさんの手を経なければ物事が進まないということは、すぐ対応してほしいというスピードを求められた時に大丈夫かと感じたことがあります。ここ10数年で行革もものすごく進んで、色々な面で変わってきている実感はあります。しかし、治安の問題や災害対策、子育ての問題や、山間地の医療の面について、もっと取り組んでいただきたい部分はあります。」
●北大路
「各地方団体がやっている取り組みの中で、大変無駄だなと思うものがあります。その1つが評価のために膨大な資料をつくっていることです。どれだけ達成できたかという情報といくら使ったかという情報の2つが揃えば、次年度の予算の増減を判断できると思っているのですが、できるはずがないわけです。業績に対して予算が多いか少ないかは政治が判断する。マネジメントの責任とは、生産性を追求して必ずよくしていくことなのです。」
○池谷
「今後、地方行革を進めるためにどうしていけばよいのでしょうか。」
●北大路
「一番重要なのはトップの考えだと思いますが、危機意識をどれぐらい組織が共有できるかということがあります。
 道路行政については今、行政の中に危機感があって、いかに利用者に有効に道路を使っていただくかという考え方のもと、追求すべき重要な成果、目標を明確にした上で費用対成果を高めるというマネジメントが始まりました。これにより、利用者の声を真剣に聞こうという具体的なアクションが次々に出てきています。地方行革においても、そのようなマネジメントの仕組みを取り入れることが重要です。」
○池谷
「行革というと廃止とか、利用料の値上げという不安を抱く方もいらっしゃると思いますが、いかがですか。」
◆鈴木
「人員削減が進んでいるということを聞くと、サービスが低下するのではないかという不安はあります。民間委託が進んだ場合も、利用料金が上がるのではないかという心配がありますね。」
○池谷
「静岡県の行政改革の場合は、そのように住民の方が不安に思うような事態にならないようにしていくための取り組みであると考えてよろしいでしょうか。」
■山村
「そのとおりです。要するに「県民満足度の向上」が最終目標です。アウトカムを明確にし、その実現のために色々な作戦手段を用いるわけです。そしてアウトカムが住民に理解されたときに、行政が担う部分や民間の色々な団体との協働で行う部分などに分かれてくるのだと思います。」
○池谷
「これからの行革は、自治体だけではなく住民や NPO とも連携していかなければならないという気がします。そのようなパートナーとの連携において重要な点は何でしょうか。」
●北大路
「パートナーに任せる。つまらないことを干渉しない、ということです。
 指定管理者制度や PFI 、市場化テストは、全部ルーツが同じなんです。いずれも任せることを前提にした制度なのですが、これが日本では経費節減のための手段になってしまったわけです。新公共経営の概念ではよりよい結果、より高い成果を出してもらうことが大きなねらいであって、そのためにはやり方を任せることが重要です。」
▲門山
「指定管理者制度をつくるときに、従来の発想ですとその具体的な内容について政令や法律で細かいところまで決めてしまいますが、そこは思い切って枠組みの大きなところだけを決めることにしました。ですから、それぞれが使い方を創意工夫していただくことによって本当に生きてくる制度ではないかと思います。」
○池谷
「住民と自治体とが連携するためには、住民が変わるべきなのか、自治体が変わるべきなのか、どうお考えですか。」
◆鈴木
「やはりパートナーですから、両方が歩み寄らなければならないと思います。これまで私たちは、公共サービスというものは受けて当たり前という意識があったと思います。しかしこれからは、自治体が何をしようとしているのか、自分達の生活をどうしたいのかといったことを、それぞれ突き合わせて話し合っていかなければならないと思います。行革といっても行政だけではなく、私たち自身も変わらなければいけないのだなと感じました。」
○池谷
「住民参加については今後どう広がりを持たせていこうとお考えですか。」
■山村
「1つには行政の情報を住民の方に知っていただいて、共有した上で、行政ができる部分と住民が自らの生活の中で実践しなければできない部分について我々から投げかけることも必要かもしれません。また、住民参加というのは、行政のある分野をやってもらうという発想ではなく、1つの目的を達成するために、行政だけではなく、住民も一緒になって動いてもらう部分もあるという考え方が背景にありますから、そういう意味での関わり方をどうつくっていくのかということが、大きな課題ではないかと思います。」
○池谷
「地方行革を進めていくために重要なことについて、改めて伺います。」
▲門山
「やはり目的意識をしっかり持って、「新しい公共空間」の中で作戦マネジメントができる自治体になっていかなければならないと思います。行革というのは1つの大きな運動であって、それを進めていくためにはリーダーが必要ですし、何より職員の皆さんが参画意識を持って運動をしていく。それぞれの自治体で行政改革を、きちっとしたサービスを提供していくための運動として盛り上げていただけるようにお願いしたいと思います。」
○池谷
「ありがとうございました。これでパネルディスカッションを終わらせていただきます。」

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