ア スパイクタイヤは主として凍結路面における制動性能に優れていることから,積雪寒冷地域の都市部及びその近郊において,モータリゼーションの進展とともに近年急速に普及してきた。
しかし,反面,スパイクタイヤの利用は,これらの地域において「わだちぼれ」,道路標識(白線等)の消失等路面を著しく損耗するほか,道路沿道を中心に多量の粉じん及び騒音を発生させ,最近においては,地域住民の生活環境の悪化及び粉じんによる健康への影響を懸念する声も高まり,大きな社会問題になってきている。
イ 本事件は,まず,昭和62年4月4日,長野県在住の弁護士62人から長野県知事に対し,スパイクタイヤメーカー7社を相手方(被申請人)として,スパイクタイヤの使用によって生ずる粉じん被害の発生を防止するため,長野県内におけるスパイクタイヤの販売停止を求める旨の調停申請がなされ,その後,同年10月24日,長野県から公害等調整委員会に引き継がれたものである。
ウ 長野県知事は申請を受け付けた後,62年5月6日の第1回の調停期日から,8回に及ぶ調停期日を開催したが,その手続の進行過程において,申請人らからは,スパイクタイヤの販売停止に加えて,製造停止を求める主張があった。申請人らは,スパイクタイヤの製造停止は,長野県に限らず積雪寒冷地に共通する問題であると主張し,一方被申請人も,本件が一県のみの問題にはとどまらない旨主張して,双方から公害等調整委員会への事件の引継ぎの要望があった。
これを受けて,長野県知事から,同年10月12日,公害等調整委員会に対し,本事件の引継ぎについて協議があった。
エ 公害等調整委員会は,申請人らの主張するスパイクタイヤの製造停止の問題は,全国的,広域的見地に立って解決する必要があると認め,62年10月19日,本事件の引継ぎを決定した。