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特集 公害審査会委員へのインタビュー
 静岡県公害審査会 松田康太郎会長に聞く“公害審査会の特性”、“弁護士に対する周知と利用促進”について

 公害等調整委員会事務局は、静岡県公害審査会の松田康太郎会長にインタビューを行いました。松田会長は、弁護士として藤枝市の市民相談であるよろず相談に関与しており、その取組内容について、令和4年5月19日に開催した「公害等調整委員会設立50周年記念シンポジウム」において紹介があったところです。インタビュー実施のきっかけは、藤枝市のよろず相談において、公害に関連するあるいは関連すると思われる相談者がいた場合に公害審査会を案内している松田会長の取組が公害審査会と市町村との連携の在り方を考える上でヒントになると思ったためです。その他、公害審査会の特性や弁護士に対する周知と利用促進などについても伺いました。
 公害紛争処理制度全体の解決機能を強化し、各機関がその特性を活かして、それぞれがふさわしい事案(事件、苦情相談)を処理するためには、本来、公害紛争処理制度で解決されるべき紛争が未解決のまま放置されないように環境を整えることが重要です。本インタビュー記事が公害審査会の関係者の皆様、また、日頃、公害苦情相談に従事している職員の皆様の今後の取組の参考になれば幸いです。
画像(松田会長)
聞き手:公害等調整委員会事務局総務課課長補佐(広報担当)  橋本 隆介
インタビュー実施:令和5年11月30日 静岡県・共和法律事務所にて

 

公害等調整委員会事務局広報担当 橋本(以下、橋本) 公害紛争処理制度は、窮極的な民事裁判による司法的解決以前に、簡易迅速に行政的解決を図るため、市町村及び都道府県に公害苦情処理体制を整備しています。そして、苦情処理によって解決できない公害紛争を処理するために都道府県に公害審査会、国に中央委員会として公害等調整委員会(以下「公調委」という。)を置いています。私は今年の4月に公調委事務局に着任したのですが、公害審査会と市町村がどのように連携しているのか、その実情についてはなかなか分からないところがあります。市民は困ったときは身近な公害苦情相談窓口に相談することが多いと思います。相談を受けた公害苦情相談窓口では、まずは自分のところで何とかしようとします。しかしながら、対応に困ったとき、それから対応に限界があって相談者に納得いただけないとき、そういった相談が典型7公害やそれに近しいものであった場合に市町村から県の公害審査会に相談しやすい仕組みが果たしてあるのか、その仕組みが機能しているのかが気になっています。
 松田会長には、公調委の50周年のシンポジウム1にご登壇いただきましたが、その時にご紹介いただいた弁護士として藤枝市のよろず相談に関与されていることが、他の公害審査会の関係者の取組の参考になるのではないかと思いまして、そういったことから話を伺わせていただきたいと思っていました。

“話を聞いて、公害問題なのかもしれないと思ったものは、公害審査会に相談してみたらどうですかと伝えています。”

松田康太郎静岡県公害審査会会長(以下、松田氏) 都道府県はどこも同じような枠組みだと思いますが、市町村の相談の場合は、各市町村によって運用の仕方が全然違います。騒音や振動の問題は、対企業であれば動くけれども、個人だと動かないという市町村もあります。その場合、生活騒音が入りませんよね。ではどうするかというと、藤枝市の場合でいうと、一つの選択肢として「よろず相談というところで弁護士が来るから相談してみてはどうか?」と振る場合もあります。
 市民の相談が本当に公害問題かどうかというと、正直、私は話を聞いているだけでは分かりません。当事者はエビデンスを用意していないので、証拠に基づいた理論構築ができないからです。話を聞いて、公害問題なのかもしれないと思ったものは、公害審査会に相談してみたらどうですかと伝えています。ただ、そういった案内をしているものの静岡県公害審査会で調停事件として受け付けられていないところを見ると、公害問題に該当しないという判断を県でしているか、当事者も、あくまでも調停なので強制力がないということで、「仕方ないね」、「今までやってきたことと同じだね」ということで諦めているのか、実際のところ、その理由までは分かりません。
 ただ、公害審査会と市の連携についてシステムとして何かがあるかというと、私も一個人の活動でしかありません。藤枝市のよろず相談をやっているときも、どの立場でやるのか、公害審査会の会長をやっているということは説明の中で申し上げますけれども、公害審査会の正式な委員としてよろず相談をやっているわけではないので、制度的な枠組みはありません。ですから、藤枝市のよろず相談が公害審査会の取組事例として評価されると恥ずかしいところがあります。

橋本 市に寄せられる相談でふさわしい相談があった場合、公害審査会にどう持ってくるかを考えるヒントを、こういった取材などを通して公調委から提供していくことができればと考えています。

松田氏 市民相談というと、静岡県弁護士会だけではなく他の都道府県でも市町村役場の無料法律相談で弁護士を派遣しているはずです。他の公害審査会の委員の中にも市民相談に関与している弁護士は多いと思います。そこで連携を図ると効果的なのかもしれません。
 また、静岡県弁護士会には公害対策・環境保全委員会がありますが、静岡県公害審査会との連携はしていません。ここでも連携を図ることができれば、さらに効果的かもしれません。

橋本 公害紛争処理制度は、色々な主体が関わっています。市民はどこに相談してもいいわけです。自治体の苦情相談窓口に行ってもいいですし。公調委の申請相談ダイヤルに相談する方もいます。直接、公害審査会や公調委に申請しても結構です。また、司法的解決に行ってもいいわけです。今は、市民の相談先それぞれに公害紛争処理制度があるということが知れ渡っているとは言えないと感じており、引き続き制度を周知する必要があると思っています。

“自分の問題が法律的に解決できるのか分からないという方がいるわけです。そもそも相談していいのかということ自体、迷っている方が沢山いるわけですね。”

松田氏 私は公調委のホームページの整備には感心しています。4年くらい前は見にくかったですし、情報量というか、市民が見ると表現が堅すぎて理解しづらいところがありました。今もまだまだ改善できるところはあると思いますが、それにしてもホームページは改善されてきていて、情報提供の流れとしてはいいと思います。結局、ある程度理解力のある方は、公調委のホームページを見ると、この問題についてはこういった方式があるのだということが分かるようにはなっています。
 藤枝市のよろず相談でもそうですが、自分の問題が法律的に解決できるのか分からないという方がいるわけです。そもそも相談していいのかということ自体、迷っている方が沢山いるわけですね。そういう方はホームページを見てもなかなか理解できない面があるので市町村に相談に行くわけです。
 今、公調委では自治体の職員を対象にブロック会議を開催して、制度説明や事例を取り上げて意見交換をしているということで、公害苦情相談窓口から公害審査会に上げていく仕組みを取っております。しかし、残念ながら具体的な問題意識をもって参加していないと、こういう問題が来た場合なかなか繋がっていかない。そういう難しさがあって、そこはまだまだ工夫がいると思います。

橋本 今年の6月になりますが、機関誌「ちょうせい」の関係で、自治体の公害苦情相談窓口の担当者に野焼き苦情に関する対応状況についてヒアリング2をしました。当事者間でこじれた場合にどこを案内しているのかを聞いたところ、公調委の申請相談ダイヤルを紹介するという方もいましたが、法テラスや市の無料法律相談を案内するという方も多かったように思います。残念ながら、調停・裁定の制度をそもそも知らなかったという職員もいました。そこは引き続き周知をしていく必要がありますが、今後は法テラスにも働きかけていくことが必要と思いました。そういった地道な働きかけを続けることで、少しずつ公害紛争処理制度の認知度が上がり、利用が促進されていく仕組みが作れればと考えています。

松田氏 今の話ですが、法テラスの事務方が把握していても、結局、相談を担当する法テラスの弁護士が公害紛争処理制度を知っていないと駄目だと思います。中には、相談メモを見て、2回目、3回目に相談に来たときに、担当の弁護士に「実はこんな制度があるみたいです」と助言する事務員もいるかもしれませんが、ほとんどは言わないと思います。そこは弁護士が知っていないといけない。公調委では弁護士会に対する研修も行っていますよね。

橋本 弁護士会へはこちらからプッシュ型ではなく、依頼があれば研修会に裁判官出身の審査官を講師として派遣するというやり方をしています。

“公調委から積極的に弁護士会にアプローチしていくスタンスが必要かもしれません。”

松田氏 なるほど。日弁連も研修のコンテンツをいろいろと作って会員向けにサービスを無料で提供しているのですね。そういう中で公害紛争処理制度についてやるというのは手段としてあります。ただ、静岡県弁護士会の会員を見ると、そういう研修を熱心に受ける方が少ない。また、WEBだと不思議と身に付かないところがある。ライブで聞くのと違ってWEBだと「忙しいからいいか」と簡単に考えがちなところがあると思います。
 弁護士会には日弁連のコンテンツとして提供するやり方もありますが、単位弁護士会に売り込んでいくのも選択肢としてあると思います。例えば日弁連交通事故相談センターというのがありまして、年に何箇所か巡回研修というのをやっています。同センターから打診があると弁護士会の執行部が研修の機会を設けます。ですから、公調委としても弁護士会から依頼があればやりますだけでは、恐らく積極的にやろうという弁護士会は少ないと思います。弁護士会の運営は、我々弁護士がほぼ無償でやっています。仕事が増えて得することはあまりないので、あえて作らないですよね。会長としてその問題に特別な問題意識を持っていれば別ですが、公調委から積極的に弁護士会にアプローチしていくスタンスが必要かもしれません。

橋本 公調委では毎年、日弁連の会長と各県の弁護士会会長宛てに通知を発出しています。研修会の講師派遣は依頼があればということでやっています。通知には記載しているものの、依頼の状況からするとなかなか見てもらえていないのかもしれません。また、届いたとしても環境委員会で受けることが多いと聞いたことがあります。先日、公調委内で意見交換をしたとき、環境委員会ではない弁護士にいかに知ってもらうかも考える必要があるという意見もありました。公害審査会にはどこも弁護士の委員がいますので、各公害審査会から県の弁護士会に何らか働きかけてもらって、公調委から講師を派遣するといった公害審査会を通した働きかけをしてもらえるといいのではないかと思います。そういったこともあり、弁護士会への働きかけについてもご意見を伺いたいと考えていました。

松田氏 問題意識が高い人だとそういうことはできるかもしれませんが、私は今までやってきませんでした。それはなぜかというと、まずはきっかけがないということだと思います。公調委から県に「こういう企画をやりたいけれども」と「公害審査会の委員になっている弁護士を通して県の弁護士にそういう話を持ちかけてもらえないか」と言われれば、私なら「それでは、やりますか」という動きになるけれど、そういう動きがない中で私が進んで「そういうのをやりませんか」というのもなかなか動きづらいところがあります。
 それから、弁護士会では通知が届いても流してしまうかもしれないですね。弁護士会の文書というものは、静岡県弁護士会の場合だと、事務局長が執行部に見せるべき書類かどうか、事務局で処理してしまうかどうか、いろいろあります。会長の性格にもよりますが、細かい人だとチェックする場合もあるし、「こういうのが届いています」と聞いて、「では、お任せで処理しておいて」で終わっちゃう人もいるし、会長の個性にもよるところがあります。だから、大部分は通知するだけだと組織的にはそれ以上は進まないと思います。何かアクションが必要です。やってみませんか程度だと都道府県は動かなくて、巡回研修で周りたいのですけどというくらいでないと駄目だと思います。年に2箇所くらい実施しても何年もかかるのでなかなか難しいところはありますが。

橋本 巡回研修をしますと言って、協力を依頼するということですね。

松田氏 そうです。そうじゃないと多分動いていかないと思います。そのときに県の職員と地元の弁護士会の方とか、誰に声をかけてほしいのか対象者を特定することが大切です。そうしないと、運営する側がどのように運営してよいか迷ってしまう。公務員の方は、そういうところを真剣に悩んでしまうので、依頼する側である程度の仕組み、枠組みを作ってあげたほうが楽に進めることができます。公務員の方は能力が高い人が多いので、こういう枠組みでこういうふうにやってくれませんかと頼めば、パッとできると思いますが、巡回研修をやりたいのですがそちらで設営してくれませんかと漠然とした内容で依頼すると、「どのように設営したらよいのか」、「参加対象者としてどの程度に声をかけたらよいのか」と、そういうことを真剣に悩んでしまう方が多いと思います。だから、枠組みを作って提案しないと実際動かないと思います。

橋本 ある程度枠組みを示してあげないと受け手としても動きづらいということは、今の話でよく分かりました。

松田氏 だから、1つは県の公害審査会の事務局とコミュニケーションを常時とるような形があるといいですね。研修の企画に積極的に取り組んでくれそうな人に、「1回試しにやってみてはどうですか。」と提案してみて、実際に1回やってみて問題点がないかを探って徐々に制度化していく。そういう流れが一番いいのでしょうね。
 今はなかなかコミュニケーションをとる機会がないから県との繋がりがありませんよね。年に1回会うくらいだと、さしたる交流もなく終わってしまう。それ以上となると、お忙しいので大変でしょうけれど。人と人との間でやらないとそういうことは上手くいかないかもしれないですね。

橋本 公調委ができて50年経ちました。公調委、公害審査会、公害苦情相談窓口、それぞれが公害紛争処理制度で取り組んでいます。受付事件の件数を増やそうと思っているわけではありませんが、困っている方が取り残されたままになっていないか、そういった方がいれば制度の中で拾えるよう、これからできることは何だろうかと、それぞれの主体に働きかけて取組を考えてもらうことも大事なのではないかと思っています。

“弁護士、特に公害問題を普段扱っていない弁護士が相談の中でどれだけ拾えるかというのは確かに重要です。”

松田氏 先ほどの指摘は大事だと思います。弁護士、特に公害問題を普段扱っていない弁護士が相談の中でどれだけ拾えるかというのは確かに重要です。そういった弁護士に届ける仕組み、それは日弁連の研修でコンテンツを作りたいとアプローチする方法もありますが、やはり県の弁護士会に声をかけてもらって研修会をやっていくことも検討した方が良いと思います。生の講義だと少なからず参加すると思います。ただ、WEBだけの研修だとほとんど参加者がいないと思います。
 もう1つは、50周年のシンポジウムで、パネルディスカッションでも言及しましたが、公害とは何かという問題がありますよね。典型7公害を国としては公害として扱いますが、今はそれに当てはまらない問題がたくさんあります。そういうのを拾っていくのかどうかという選択があります。今は多くが近隣トラブル、生活トラブルになっているけれども、その中で公害に該当しないけれども対応した方がいいよねということで仕組みを見直すかどうかです。50周年のシンポジウムでも申し上げましたが、それができるのは公調委しかないだろうと思っています。ただ、橋本さんが話されたように、ただ件数を上げたい訳ではないということであれば、そこまではやる必要はないと思います。現実に困っている人の問題について、弁護士としても何かお役に立ちたいけれども裁判には余り馴染まない問題については、やはり受け難いです。枠組みがあると受け易くなりますから、希望としては新たな公害分野として解決の準則を提示してもらいたいということはあります。また、現に困っている人がいる場合でも、困っている人の相手方が悪いかというと、必ずしもそうとも言うことができない。なかなか難しい問題もあります。

橋本 公害審査会が果たしている役割、それが公害審査会の特性にもなるわけですけれども。改めて公害審査会の役割、静岡県公害審査会に限定してということでも構いませんので、どういった特性、意義があると思われますか。

“当事者としては対決しているのではないというイメージを持ちやすいのと、司法以外の専門家による知識を借りることで話合いを促進できる。端的にいうとそこがメリットだろうなと思います。”

松田氏 そうですね。公害審査会の特徴ですが、まず、裁判所ではなく行政機関が関与するものであるということが挙げられます。裁判所というとどうしても一般の方は対決というイメージがあります。行政はあくまでも中立的なイメージで、より紛争性の高くないところでやれるというのがまずメリットです。
 それから弁護士や裁判官といった法曹関係者だけではなく、公害問題の専門家とか、衛生問題の専門家とかが調停委員として関与できる仕組みだということがあります。弁護士とか裁判官だと司法的判断で硬直的な結論になりがちなところを柔軟な提案を受けたりします。実際、私が関与した事件でもそういうことがありました。やはり司法関係者だけではない、公害関連問題の専門家が最初から入っているということで、話合いによる幅広い解決が促進されるイメージを持っています。
 当事者としては対決しているのではないというイメージを持ちやすいのと、司法以外の専門家による知識を借りることで話合いを促進できる。端的にいうとそこがメリットだろうなと思います。

橋本 公害苦情は、最初は市の公害苦情相談窓口で対応しますよね。そこで当事者同士で対立みたいになる場合が出てきます。まずは市の職員が間に入ってメッセンジャー的に動きますが、ケースによっては加害者のほうも「じゃあ、どうすればいいの?」となることもあります。そこで当事者が歩み寄る余地があるときにこの調停という制度が使えると思うということを50周年のシンポジウムでご発言いただきました。

松田氏 そういうことですね。司法だと「お金を払え」とか「やめろ」とか。そういう端的な結論しかない中で、「こういうふうに工夫すれば騒音をもっと和らげることができる可能性がある」などというアドバイスがあります。弁護士は騒音の軽減の仕方や方策について知識はありません。そういうことを知っている方が調停委員会の中で一緒にやると方向性が柔軟になり、解決の幅が広がると思います。そこがすごくいいんですね。

橋本 実際に採れる対策があれば、お金の費用負担の問題を調停委員が間に入って上手くやればまとまるのでしょうか。

松田氏 お互いに出し合うという柔軟な解決もできると思います。

橋本 それが裁判だと難しいというか、なかなかそこに持っていけません。

松田氏 そうですね。持っていけないですよね。騒音を出しているところに対して責任があるよって言えるケースもありますが、それはその人だけが悪いわけではないでしょとかね。そういう事案も多い中で解決ができるというのはやはり公害審査会の調停のいいところですよね。

橋本 こういったことは、市の職員の皆様にも知っていただきたいですね。公害紛争処理制度は、苦情処理によって解決できない公害紛争を処理するために都道府県に公害審査会、国に公害等調整委員会を置いているわけです。「今、当事者間でこじれていますので。じゃあ、一度県に相談してみようか」と。

“客観的なデータが取れない状態で議論するよりも、客観的なデータに基づいて議論した方がやはり話合いはスムーズに行きます。納得感が違います。国の基準だとこうなっていて、現状はこうでというエビデンスに基づいた議論でなければ感情論だけになってしまいます。”

松田氏 それから、典型7公害の中でも騒音、振動の相談が多いのですが、静岡県では騒音、振動の測定器を持っています。市も持っているケースは多いですが、測定の方法もある程度、経験を積んで知識を持った方が職員にいらっしゃるので、ある程度客観的なデータが取りやすいと思います。客観的なデータが取れない状態で議論するよりも、客観的なデータに基づいて議論した方がやはり話合いはスムーズに行きます。納得感が違います。国の基準だとこうなっていて、現状はこうでというエビデンスに基づいた議論でなければ感情論だけになってしまいます。
 弁護士の場合は、相談が来ると、騒音や振動などの専門業者に頼むかどうか、しかし、頼むとお金かかってしまうといった発想になってしまいがちです。測定結果に基づいて話合いを進めやすくするという方策があるんですよね。そこもいいですよね。

橋本 測定の結果、基準値を超えていないことも多いと思います。でも、基準値を超えていなくても、被害があるから何とかしてほしいと言われたときに、裁判よりも調停のほうが加害者側には言いやすいですよね。

松田氏 そのとおりです。

橋本 そういった事案を市で抱えている場合には、是非、都道府県の公害審査会の調停の利用を案内してほしいと思います。私自身、広報担当のほかに申請相談の対応で、日々、電話とメールで公害に関する相談を受けています。公調委の申請相談ダイヤルの認知経路としては、インターネットの検索サイトが多いです。例えば「騒音 困った 悩み」といったキーワードで検索をすると上位に公調委のWEBサイトが表示されるので、ホームページを見て電話をしましたと。もう1つが市に相談しました。でも、改善されません。市の職員から公調委のリーフレットをもらったので電話しました。あるいは公調委を案内してもらいましたと。一般の方の認知の仕組み自体は整ってきていると感じています。検索すれば出てきます。市でも紹介してもらえるということになっています。
 そこでお伺いしたいのですが、公害紛争処理制度と法律相談、裁判の違いといったところを分かりやすく伝えるとしたらどう伝えますでしょうか。

松田氏 すごく難しい問題ですね。

橋本 松田会長は公害審査会と法律相談を両方ご担当されていますが、違いはありますでしょうか。

松田氏 私は、公害問題だったらとりあえず公害審査会を勧めると思います。何故かというと、まず費用がかからない。申し立て費用もそうなのですが、公害問題を訴訟にする場合、弁護士を付けないと絶対に無理です。訴訟を本人で行うという本人訴訟は、事件類型によっては可能です。能力がある人でしたら自分でできてしまう類型もあります。けれども、公害問題は弁護士的なスキルがないと訴訟が提起できない。非常に難しい。そういった意味で弁護士費用がかかります。
 それから弁護士が受けるとしてもそれが騒音問題で基準値の範囲内なのかとか、そこの判断ができないので専門業者に見てもらう必要があります。そこでも費用がかかるし手間もかかるという問題が出てきてしまう。それなので、とりあえずは公害審査会で話合いという前提でやってもらって、それでも駄目なら、そこで調停の中で、訴訟に耐えられるかどうかという判断材料も弁護士としてもらえるわけですね。訴訟に耐えられるか耐えられないかっていうのは、これは国の法律に違反しているかどうかしかないのです。そこしかないので。そこはクリアできるのかどうかっていうのは、やりながら分かっていくというところがあります。弁護士が付くとしても、やはり最初は公害審査会でやったほうがいいのではないかと思います。
 ただ、相談してきた方にどう紹介しますかというときに、弁護士を紹介しても弁護士が公害紛争処理制度を知らないとたどり着けないので、そこが先ほど話したこととつながると思うんですけれど、弁護士がこういう制度をよく知っているという前提だったら、弁護士に直接相談に行った方がいいということになりますし、弁護士の中で周知が図られていないのであれば、直接、公害審査会の方に申し立てていくということになるのではないでしょうか。

橋本 続いて解決の考え方について伺います。公調委には公害苦情相談アドバイザーがいます。公害苦情相談の経験のある自治体OBあるいは現役の職員の方なのですが、あるアドバイザーの方からこうすれば解決というものはなく、相談者本人に納得してもらえるまで考え続けることが公害苦情相談の仕事だと聞きました。「白黒はっきりしないんだ」、「加害者側も悪いわけじゃないこともある」、「でも相談者が納得しない限りは苦情が続く」ということでした。公害苦情に対する調停も恐らく同じ要素があると思います。訴訟と調停を比較したときに、それぞれ解決の考え方についてどういった違いがあるのかというところをお伺いさせてください。

“裁判の場合は、要はある判決、例えば金銭的な賠償とか、操業停止とか、そういった結果に向けて原告側が主張立証を組み立てなければならない。”

松田氏 裁判の場合は、要はある判決、例えば金銭的な賠償とか、操業停止とか、そういった結果に向けて原告側が主張立証を組み立てなければならない。それで、「あなた、これどうですか。」と、聞かれたくもないことを聞かれてしまうのです。苦しんでいるのにね。そんなことも言わなくては駄目なのかということも言わなければならない。そういう苦しみもあります。
 調停のいいところは、結局、困っている方は共感してくれるとか、話を聞いてくれるとか、これでかなりの部分で心が和らぐところがあります。私も簡易裁判所の調停委員をやっていまして、調停委員のやり方ってすごく重要だなと思います。その際に気をつけていることは、できるだけ法的評価に基づく判断は提供しないことです。どういうことかというと、「これは訴訟だとこうなってしまいますよね」とその枠組みだけで判断してしまうと、突き放されたというイメージを持ってしまう方が多い。そうではなくて、「あなたはこういうことを言いたいのですね」、「そういうところが困っているのですね」、と聞いてあげて、「この場合は相手方がこうで、だからちょっとなかなかこういう解決は難しいと思います」と言ってあげると、大満足ではないけれども多少心が和らぐというところがあると思います。そういったところが調停のいいところです。訴訟と比較すると、調停ではそういうところが評価されると思います。なかなか良い制度だと私は思います。

橋本 公害苦情もまずは話を聞くというところで、相談したことで相談者の方が相談する前とは気分が変わっているケースが沢山あるかもしれません。

松田氏 現場の職員の方々は本当に大変だと思います。真面目な方が多いので、ちゃんと話を聞いてくれますし。

橋本 現地にも行きますし。

松田氏 静岡県の公害審査会も、私の事件を担当してくれた事務局の方は、何回も調停申請の前に相談の段階で現地に赴いています。それで、こういう状況でしたと委員に教えてくれます。そういう意味で来てくれたことに困っている方が喜びを感じるところはあると思います。その意味でも公害審査会はなかなか良いのではないかなと思います。

橋本 最近、臨床心理師の方の本を読んだのですが、抱えている悩みをどうするかというとき、スッキリさせるというのと、モヤモヤした状態を抱えたまま、それを受け入れるという、補助線を引くと2つあるということが書いてありました。モヤモヤをスッキリさせないで抱え続けます。そのモヤモヤを受け入れるまで、納得するまでには時間がかかるんですけれども、この本を読んでいるときに、公害苦情相談で職員の皆さんが時間をかけてやれることを尽くしてくれていることで、当初の状況とは変わってはいないけれども、相談者はモヤモヤを受け入れられるようになることもあるのではないかと思いました。

松田氏 おっしゃるとおりですね。分析的に言っていただくとそういうことですね。結果が良ければそれに越したことはないのですが、必ずしもみんなの期待に添える結果になるとは限らないのでね。少なくともそういったところで精神的に楽になっている方もいるのではないかと思っています。

橋本 解決に限らずに、まずやれることを尽くすというのが1つですよね。それで公害審査会の委員の方もそれを踏まえて話を聞いて、「では、こういうやり方があるんじゃないか」と一緒に悩んであげる、考えてあげることが調停のいいところだということですかね。

松田氏 そうですね。そのとおりです。

橋本 続いて藤枝市のよろず相談についてお伺いいたします。よろず相談自体は50周年のシンポジウムで話をいただいているので中身は理解しているんですけれども、松田会長が関与された経緯や公害審査会と藤枝市の関係を考えたときによろず相談が果たしている役割について、コメントをいただきたいと思います。

松田氏 私がなぜ関与しているかですが、元々法律相談を持っていた自治体もありますけれども、無かった自治体も結構ありまして。昭和の終わり頃か平成の初め頃に、静岡県弁護士会の中部の話に限ってということになりますが、困っている人のために弁護士相談を無料で提供したいと各市町村や商工会議所などに働きかけて法律センターというのを作りました。弁護士会が関与して弁護士を相談員として派遣するのですが、藤枝市の場合は元々弁護士会の活動とは関係なく法律相談とよろず相談というのを設けていました。どちらの担当弁護士も藤枝市に関連する人とかに声をかけてやっていたのです。たまたま私が弁護士登録をしたときに代わってくれって言われて、私も藤枝市役所の仕事を是非ともやりたいと思っていたので、それでお受けしたという経緯です。よろず相談に関与したというのはたまたまです。

橋本 縁あってということですね。

松田氏 ええ。それで公害の関係で言うと、静岡県の公害審査会の委員になるまで公害問題をそれほど扱ったことがなかったんです。私の事件の相手方が当時の静岡県公害審査会の会長をやっていたことがあって、公害紛争処理制度があるというのを裁判のときに知りました。具体的に静岡県公害審査会の委員になるまで、ほとんど公害とは関わりがありませんでした。本当にたまたまなのですよね。
 ただ、公害審査会の委員になって公害審査会の制度っていう素晴らしい制度があると知ったので、よろず相談に来た相談者に適用可能性があると判断すれば紹介する。よろず相談って“よろず”と書いてあるとおり法律相談だけじゃなくて、困りごとがあった場合、まずはそこに来てくださいっていう制度設計なのです。今は、いろいろと他にも専門相談ができたし、事務局の方も相談類型について知識がついてきたので、こういう悩みはここの窓口と割り振っているものですから、よろず相談の相談件数は総体としては減っていますけれども、「これって相談していいの?」「どこに相談したらいいの?」「どういう形で相談していいの?」という方には好評なわけです。それで、相談を聞いて「これは公害問題としては扱えるかもしれない」と思ったら、公害紛争処理制度の中で処理するということですね。

橋本 クリティカルにこの悩みはこの相談窓口だということが分からなくても、とりあえずここに相談してみてくださいと言える窓口があるといいですね。

松田氏 そうなのです。これって「法律問題なの?」、「市のサービスの問題なの?」とかあるじゃないですか。よろず相談に来る人の中には、生活保護の関係、母子手当の関係とか、弁護士は知らないけれども担当になっている行政相談委員の方達には知識があるので、そういう割り振りができるのがいいところなのです。

橋本 私が藤枝市に聞いたところでは、日によって30分とか1時間とか並んで待ってもらうこともあるとのことでした。すごくニーズがありますね。

松田氏 このよろず相談でもそうなのですが、話を聞いてもらうことである程度解決してしまう人もいます。藤枝市の場合、法律相談は少し短めで枠が20分なのです。20分だと事情を聞いて弁護士が回答してそれで終わり。弁護士もあまりスキルが高くないと20分で終わらない。そういう感じですけれども、よろず相談は30分から40分あるので、喋りたい方には十分な時間があります。相談者は同じことを何回も何回も言いたい。その人はそれが言いたいことなのですね。それを聞いてもらえたことで、ある程度溜飲を下げるところがあります。

橋本 同じことを繰り返すということは、それを言いたい、聞いてほしいということなのですね。よろず相談は二人一組で相談対応に当たっているのですよね。

松田氏 そうですね。行政相談委員や民生委員、それから人権擁護委員が二人一組になります。そういった人達に加えて我々弁護士が対応しています。皆さんいろいろな知識をお持ちです。民生委員だったら生活保護に繋げるような知識がありますし。そういう意味では、私が知らないことに関して質問がきますが、皆さんが回答してくれます。よろず相談はとてもいい制度だとは思います。

橋本 藤枝市のよろず相談が果たしている役割は、公害審査会の特質をよく分かっている松田会長が対応しているので、ふさわしい相談があれば公害審査会を紹介することができる。その先を紹介できるということに意義があるということでしょうか。

松田氏 そうですね。そういう意味で意義があると思います。

橋本 関連で県の公害審査会を紹介する相談にはどういったものがあるのでしょうか。当事者間でこじれているもので典型7公害に該当すれば公害審査会を案内しているのでしょうか。

松田氏 私は基本的に典型7公害であれば公害審査会を勧めています。紛争が発生している場合はもちろんですが、潜在的な場合もあると考えています。近隣住民でお互い協力していきたいけれども、なかなか解決の糸口が見つからないといったケースも有り得ます。記憶している相談としては該当するものはありませんが、そういったものでも公害審査会を案内すると思います。 先ほどお答えしましたけれども、やはりある程度知識のない弁護士に相談を持っていってもそこで終わってしまう。無駄になってしまうかもしれない。そこの知識が上がってくれば弁護士に紹介するというのは選択肢になってくると思いますが、今のところは全て公害審査会を勧めるという感じです。

橋本 まずは調停に持っていき、その後でも裁判はできますよね。

“行政を使った制度というのは印象がソフトであるということですね。そこが結構重要なのです。日本人は紛争を嫌いますから。”

松田氏 しかも、行政を使った制度というのは印象がソフトであるということですね。そこが結構重要なのです。日本人は紛争を嫌いますから。紛争の当事者になったというだけで、周りからあの人は紛争を抱えているらしいと、そういう評価になってしまいます。

橋本 そうですね。特に近隣問題だと当事者はそこに住み続けないといけないですし、近所の評判もありますよね。

松田氏 私は島田簡易裁判所の調停委員もやっています。その中で公害問題ではありませんが、隣の家の小学生の子どもが昼間に遊んでいる音がうるさいという問題がありました。これらは、公害審査会には持っていくのは難しいなと思います。 典型7公害に当たるかどうか。当たる可能性があると思えば、とりあえず公害審査会を紹介するようなイメージです。公害審査会で話合いの場を設けることはやはりいいことなのでしょうね。裁判所を使うと「何だ、お前訴えるのか」みたいなこともありますし。調停でもそういう捉え方をされる方もいるので。公害審査会がいいかもしれないですね。

橋本 続いて、市民の相談を公害審査会に繋ぐ仕組みというまでのものではないとしても、松田会長ご自身が藤枝市のよろず相談に参加されて、ふさわしい相談があれば公害審査会を紹介しているということは、他の公害審査会の委員、特に着任したばかりの方には参考になると思っています。市民の相談を公調委や公害審査会に繋ぐための取組が他にもありましたらお伺いしたいのと、他の市で参考になる取組をご存じでしたら教えていただきたいと思います。

松田氏 難しいですね。特に私が申し上げたこと以外に取り組んでいることはありません。あるとすれば公調委の職員による説明会を弁護士会でやるとすれば繋ぐことはできます。ただ、なかなか難しいのは、私は静岡県公害審査会の会長ですけれども、県の職員の負担になるようなことはなかなかできません。その県の公害審査会の会長として弁護士会に申し入れることを仮にするとなると県の組織的な決定をしないといけない。そのための資料作りは個人では重荷だと思っています。きっかけがあれば、弁護士会を入れて、県の職員、市町の職員を集めて何か研修会をやるというのはできればいいとは思います。

橋本 制度に関する資料は公調委にあります。全国の弁護士会への通知でも送付している資料もありますし、そういったものを提供することはできます。

松田氏 講演の内容は、公調委でしっかりとしたものがあるのでいいですね。ホームページのコンテンツもしっかりとある。ただ、問題はどこで誰が主体になって企画するのかといったところです。そこを静岡県主体にしてやりましょうと私が言えるかというとなかなか言えない。それから、静岡県弁護士会に対して言えるかというと、私は、現在、静岡県弁護士会の役員でも何でもないので難しいです。静岡県弁護士会の役員を知っているので繋げることは不可能ではありませんが、枠組みがないと言いづらいところがあります。例えば、公調委の事務局のどなたかと静岡県で定期的に協議の場を設けて、この人だったら受けてくれそうだなという人に、例えば「静岡県の弁護士とか、市役所、市町村の職員に向けた講演をやりたいんですけれどどうですかね?」と持ちかけてもらって、担当の人が「じゃあやりましょうか」とならないと、なかなか前に進まないと思います。

橋本 公調委主体で進めるというのがいいのですね。静岡県を通して弁護士会を紹介してもらえないか検討してみます。例えば、松田会長に紹介先はここだよというのを、県を通じて教えてもらって、私が直接コンタクトをします。そして県の方に協力いただきながら場をセッティングして、当日、公調委からも職員を派遣し、審査会の代表としてどなたかにご出席いただいて話をしていただくみたいな形を作っていけると静岡県の職員の方の負担も軽減が図れますし、少しずつ公害紛争処理制度の認知が浸透していくと思います。

松田氏 こういうのは雑談をしながら「この人だったらやれそうだな」と探っていく方法はありますよね。今は雑談をする機会がないので、そこのきっかけ作りがなかなか大変です。静岡県公害審査会の事務局にコンタクトを取っていただいて、そういうのを探りつつというやり方が一番実現性があると思います。

橋本 松田会長ご自身が弁護士であり、今は公害審査会の委員もされていますけれども、そもそもの活動の原点についてお伺いしたいと思います。

“人の役に立つにはどうしたらいいかというのを基本に据えて考えていくっていうことが重要だと思います。調停は法律機関によって判断提供するのではなくて、「こうしたほうがいい」ではなく、「あなたがしたいことは何ですか?」と丁寧に聞くこと。これは調停だけでなく弁護士の活動全般的にそういうところがあるのだろうなと思っています。”

松田氏 すごく難しいですね。私は理念に燃えて弁護士になったわけではないのでかっこいいことは言えません。ただ、やっていて嬉しいと思うところは、依頼者に喜んでもらえることですね。これは何でもそうだと思いますが。例えば、勝ったら喜んでもらえる、これはもちろんなのですが、負けた場合でも先生に頼んで良かったと言ってくれる人は少なからずいるんですよ。頼んで良かったと言っていただけるとそれはかなりのモチベーションになります。
 静岡で不動産会社をやっている方の受け売りですが「四求(しぐ)」という言葉があります。褒めてもらいたい、認めてもらいたい、愛してもらいたい、そしてお役に立ちたい。人は誰でもこの4つを求めるところがあるという言葉です。人の役に立ちたいって誰でも思っているという話でした。弁護士というのも仕事をしながらお役に立てるところがあるものですから、そこにやりがいがあると感じているところです。
 私は気が短いので被害者の言うことを遮って、「こういうことでしょ」と要約してしまう傾向にありますが、たまには我慢して聞き続けることができます。そうすると依頼者の納得感が得られやすい。そういうことを繰り返すことによって、私が「こうだと思うよ」、「こうしたほうがいいんじゃないの」とアドバイスすると、「あぁ、そうかもしれない」と思ってもらう率が高くなる。
 だから、人の役に立つにはどうしたらいいかというのを基本に据えて考えていくっていうことが重要だと思います。調停は法律機関によって判断提供するのではなくて、「こうしたほうがいい」ではなく、「あなたがしたいことは何ですか?」と丁寧に聞くこと。これは調停だけでなく弁護士の活動全般的にそういうところがあるのだろうなと思っています。

橋本 ありがとうございます。私は公調委に異動してくるまで公害に知識や関心があったわけではありません。広報担当というポストについたものですから、じゃあ、自分が貢献できること、できることはなんだろうと考えて、やれることをやっています。今はその先に市民の方の悩みがある、悩みの解決に向けて頑張っている職員がいるというところにやりがいを感じています。

松田氏 そうですね。その中で生きるしかないので、困っている人がいれば助けたいって思うことは重要なことかなと思います。

橋本 相談業務や調停に関しても、人の話を聞くことが大事ですよね。

松田氏 できるだけ聞いてあげるってことですね。なかなかできないのですが。自慢する訳ではないですけど、別の弁護士に相談したけれども、そこに頼まずに私のところに来てくれる方がいます。合う、合わないの問題があるので、私のところに来る理由は単純ではありません。私は、そういう中で、結構厳しめなアドバイスをするのですが、「分かりやすく説明してくれた」と評価してくれる方もいます。真摯に聞いて、良いことばかりを言うのではなくて、かなり厳しいことを最初から言ってしまうのですが、そういうところで評価いただける場合もあります。簡単に言うと誠実に対応するということなのですけれども、そういった姿勢は今後もとっていきたいと思っています。信頼は重要なものですから、相手にも信頼してもらえるような処理をしていくというのは心がけています。

橋本 今後の審査会の在り方について話を伺いたいのですが。公害審査会がその特性を活かして事件を処理するためにはどうしたらいいかを考えると、公害審査会だけの問題じゃなくて、周囲との連携が出てくると私としては思っています。市町村との関係だったり、それは公害苦情相談だけでなく、藤枝市のよろず相談のような行政相談が様々ありますけれども、そういったところの相談の中からどう吸い上げていくかというのが1つあると思います。

松田氏 やはり市町で人材に限りがある中で、公害問題にリソースを割くという決断をトップがするかどうかの問題ではあると思うんですよね。だからそれはもう首長の考え方次第になります。多分、専任ではなくて兼任がほとんどですよね。そういう中でどれだけ担当の方達が自分の仕事として、そういうものを吸い上げようと思うかというところもかなり大きいと思います。県と市町が定期的な懇談会を持つことができればいいと思いますけれども、職員の負担になるものですから、なかなか難しいですね。

橋本 まずは場を持つということですね。県独自でやっているところもありますけれども、今日、明日(令和5年11月30日、12月1日)と静岡でブロック会議をやっていますので、そういった場も活用してということですね。

松田氏 そうですね。そういう場で静岡県、静岡市が中心になって市町の担当者と懇談会を、形だけでなくて身になるような懇談会をね。お互いの担当者が知り合って電話相談ができるだとか、そういった関係を築ける懇談会ができれば一番いいのだろうなと思います。

橋本 現場で問題を抱えないで、横の繋がりで相談できるところがあると先に進むきっかけになるんじゃないかというところですね。

松田氏 市は県に相談して、県は国に相談してと、そういうシステムにならざるを得ないですよね。ならざるを得ないから気軽に相談できるようなネットワーク作りがあると良いと思います。

橋本 そうですね。システムとしてネットワークができるといいと思います。職員も異動で変わっていきますし、仕組みがないと。人に左右されるのが一番良くありませんので。

松田氏 そうですね。

橋本 続いて、今日のテーマになってしまいましたけれども弁護士会への周知について、誰がどう働きかけるかというところですが、公害審査会から弁護士会への働きかけについて何ができるかというところですが。

松田氏 コンテンツは公調委にあるのでそこは問題ないですが、公害審査会から弁護士会に持っていくには何か枠組みがないとできませんよね。

橋本 枠組み作りを公調委ですることで、公害審査会や県の事務局職員も動きやすいと。

松田氏 「事実上、こういう研修があるのですが、どうですか?」と言われれば弁護士会の特定の人に伝えていくことはできると思います。

橋本 関連で法テラスも、法テラスの地方事務所の職員ではなく、法テラスに所属している弁護士に知ってもらうことが必要ということですね。

松田氏 それはニアリーイコールですね。法テラスの問題も静岡県弁護士会の会員に対する問題も。地方だとほぼ若手は法テラスを登録しているので。

橋本 法テラスには、コールセンターのスタッフへの周知も考えていかないといけないと思っています。仙台にあるようなので制度説明に行こうかと考えています。これは法テラスとも調整しないといけませんが。

松田氏 それは重要ですね。割り振りの担当者も知っていないと駄目ですね。

橋本 最後の質問です。静岡県の相談業務に関わっている職員、藤枝市のよろず相談も含めて、職員の方へのメッセージをいただけないでしょうか。

松田氏 地方公共団体の相談業務に携わっている方は、困っている市民の方達が最初に接触するファーストコンタクトをする方達ですから、非常に重要な役割だと思います。適正な知識を持つことによって、その問題を解決に導ける可能性があるものですから、基礎知識を持っていただくということと、丁寧な対応をしていただくということを心掛けていただきたいと思います。

橋本 ありがとうございます。現場の担当者も考えが一人一人違うと思いますので、少しずつこういうことをしていきたいと思っています。私自身も関係者がどう考えているのかということが分からないものですから。オンラインもいいのですが、直にこうして話ができると相手の言いたいことや状況がよく分かります。本日は取材へのご協力に感謝いたします。

松田氏 何か協力できることがあればご相談してください。

橋本 本日はお忙しい中、お時間をいただき誠にありがとうございました。

注釈

1公害等調整委員会設立50周年記念特設サイト
 URL: https://www.soumu.go.jp/kouchoi/50th_anniversary.html
 公害等調整委員会設立50周年記念シンポジウム「50年を迎える公害等調整委員会」 第2回パネルディスカッション(1):公害紛争処理制度の現状及び課題において、静岡県 公害審査会会長 松田康太郎氏より藤枝市のよろず相談の取組について紹介があった。 その内容は機関誌「ちょうせい」第111号(令和4年11月)に掲載。

2大気汚染の苦情受付件数に関する自治体ヒアリングを通して得られた「焼却(野焼き)」に関する苦情の傾向、特徴及び今後の課題の内容は、機関誌「ちょうせい」第115号(令和5年11月)掲載の誌上セミナー「大気汚染について」第3回「焼却(野焼き)」に関する苦情の傾向(前編)及び本号掲載の誌上セミナー「大気汚染について」第4回「焼却(野焼き)」に関する苦情の傾向(後編)を参照。

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