四国総合通信局は、電波の安全性に関して正しい知識を広めるとともに正しい理解を深めていただくため、平成28年12月11日(日)、中国四国厚生局、愛媛県、松山市、愛媛県医師会、松山市医師会、愛媛県臨床工学技士会の後援を得て、松山市内において「電波の安全性・利用環境整備に関する説明会」を開催しました。
開催に先立ち、塩崎 恭久(しおざき やすひさ)厚生労働大臣からのメッセージの紹介に続き、佐藤 裁也(さとう たつや)四国総合通信局長から、「近年、医療機関において、医用テレメータ、無線式ナースコール、電子カルテ用端末などの各種医療用機器のみならず、事務用の無線LANなど利用は急速に進んでいる。併せて、入院されている方々についてはQOLの点からスマホ等が欠かせないものになっており、外来、お見舞いなどで病院を利用される方々についても院内でスマホなどを利用したいというニーズが高まっている。このような中、適切な電波の管理がなされない場合、電波の受信不良等に起因するトラブルが発生し、医療用機器の安心安全な使用に多大な影響を与えるおそれがある。そこで、電波環境協議会の『医療機関における電波利用推進部会』が本年4月、『医療機関において安心・安全に電波を利用するための手引き』として取りまとめた。本手引きによって電波利用環境の整備の必要性についてより多くの方々に御理解いただき、それぞれの医療機関において安心・安全に電波利用機器を活用していただくことを期待している。」と挨拶がありました。
主催者挨拶 佐藤局長
講演では、まず、総務省 総合通信基盤局 電波部 電波環境課の篠澤 康夫(しのざわ やすお)課長補佐から、「電波の安全性に関する総務省の取組」と題して、電波の安全性に係る最新の制度や調査研究の状況などについて紹介しました。
会場の様子
電波の安全性とは、電波を使用する際に、人体に対して健康を害さないようにすること、医療機器に対してその動作に影響を与えないようにすることを意味する。より安心して安全に電波を利用できる環境を確保するため、総務省では電波防護指針を策定し、電波法に基づく規制をおこなっているほか、疫学調査やラット等の動物実験などを介して生体影響を調査し、科学的なデータに基づいて客観的・中立的に信頼性の高いデータをWHOの国際電磁プロジェクトに反映するなど、国際的なリスク評価に貢献している。電波防護指針は、刺激作用や熱作用が起きないような電波の強さを決めたもので、携帯電話の基地局や放送局等に適用する電磁界強度指針と、携帯電話端末等に適用する局所吸収指針などがあり、生体に影響を及ぼす電波の強さの閾値に10倍の安全率を乗じて管理環境(職業的な管理環境)での指針を決定し、さらに5倍の安全率を乗じて一般環境(一般の住環境)での指針を定めている。これにより、ラジオ、テレビや携帯電話などで用いられる電波は、基準値を下回るよう規制されているために安全な環境が確保されていること、今後も科学的なデータの蓄積を継続的に取り組んでいくことなどが紹介されました。
篠澤(しのざわ)課長補佐 講演の様子
医療分野では、「各種電波利用機器の電波が植込み型医療機器へ及ぼす影響を防止するための指針」において、植込み型医療機器の装着部位からの推奨離隔距離について、携帯電話は国際規格で担保された15cm程度以上、松山で使われているICい〜カードの読み書き装置等は12cm程度以上離すこととしていることなどが紹介されました。
医用テレメータをはじめ、医療機関における電波利用が進んでいる中、高市 早苗(たかいち さなえ)総務大臣の指示により、電波利用機器と医療機器が混在している状態において電波を適切に利用するための検討を加納(かのう)先生に座長をお願いして開始した。全国の3000病院を対象にアンケート等を実施したところ、約1/4の病院が電波の利用に伴うトラブルを経験していること、その原因・対策に関する情報や、病院内で電波を管理する体制が不十分であることなどの実態が明らかになった。これらの検討結果を整理して、「医療機関において安心・安全に電波を利用するための手引き」をまとめていただいた。今後、病院ではIoT技術を用いたサービスなど、ICTの利活用が進み、電波を利用する機会もますます増大する。手引きでは、トラブルの事例、対応策や電波管理体制の構築などがわかりやすく解説されているので、関係者の皆様に活用いただきたいと紹介がありました。
【講演資料1】電波の安全性に関する総務省の取組(PDF 3.6MB)続いて、埼玉医科大学大学院医学研究科/保健医療学部医用生体工学科の加納 隆(かのう たかし)教授より、「医療機関において安心・安全に電波を利用するために」と題して講演がありました。
1990年代のスウェーデンでの障害事例報告をきっかけに、世界各国で携帯電話による医療機器への影響に関する調査が始まった。日本でも当時10人に一人が携帯電話を所持するようになったことから、この問題への取組が始まった。平成9年に初めて指針が策定された当時は、携帯電話の出力が今より高く、医療機器の電磁耐性も十分でなかったことから、「携帯電話全面使用禁止」の病院が大多数であった。平成24年、医療機器への影響が大きかった第2世代携帯電話のサービスが終了したことから、平成25年1月、植込み型医療機器に対する推奨離隔距離は、22cmから15cmに見直された。これをきっかけに多くの鉄道事業者のルールも「電源オフ」から「混雑時オフ」に表現が緩和されることにつながった。更には、平成26年8月に「医療機関における携帯電話等の使用に関する指針」が公表され、特定機能病院においてはEMC管理者を配置するなど、より安全な管理が望まれていることなどが紹介されました。
また、「医療機関において安心・安全に電波を利用するための手引き」については、高市(たかいち)総務大臣が自ら体験された医用テレメータの事案がきっかけでスタートしたもので、テレメータの電波管理が十分でない実態を知りながら、そのことを病院関係者に周知できていなかったことが分かっていただけに、大臣の今回の御指摘にはたいへん感謝している。全国3,000カ所の病院を対象としたアンケート、実地調査、関係者のヒアリングも実施された。その結果、5割近くの医療機関が使用している医用テレメータについては、電波が届かない、不適切なチャンネル設定による混信やアンプが正しく設定されていないため自己ノイズの増加、他機器等からの電磁ノイズによる干渉などのトラブル事例があげられている。無線LANについては、7割を超える機関が使用しており、電子レンジや高周波治療器による干渉、不適切なチャンネル設定、外部環境からの干渉などのトラブル事例があげられている。共通事項として、その原因や対策に関する情報が不足していること、対策を行うインフラ整備に係るコストの問題、電波管理等に関する知識を持つ関係者が少なく横断的な管理体制整備ができてないことなどが課題としてあげられている。医用テレメータに関しては、無線チャンネル管理、設置環境調査あるいは電波障害調査と対策を統括する無線チャンネル管理者を置くことが必要であり、それには工学知識を有する臨床工学技士が適任であることなどが紹介されました。
最後に、病院内の電波管理体制として、医用テレメータなどを扱う臨床工学部門、携帯電話などを扱う施設管理部門及び無線LANを扱う情報システム部門が横断的につながる「電波利用安全管理委員会」を設置し、電波管理責任者が窓口となった、指針や手引き、講習会参加に伴う情報提供を行い、関連事業者との連携を可能とする取組が必要であると話されました。
加納(かのう)教授 講演の様子