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豊島産業廃棄物水質汚濁被害等調停申請事件(平成5年(調)第4号・第5号・平成8年(調)第3号事件)

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1 事件の概要

 香川県小豆郡土庄町豊島に長期間にわたり大量の産業廃棄物が不法投棄されたとして,平成5年11月11日,豊島の住民438人から,香川県知事に対し調停を求める申請があり(公害紛争処理法第27条第1項),同月15日,同島の住民111人から参加の申立てがあった。
 この調停申請は,香川県,同県職員2人,不法投棄を行った廃棄物処理業者,その実質的な経営者及び同人の父親並びに21の廃棄物排出事業者を被申請人(相手方)として,(1)共同して豊島内の家浦字水ヶ浦3151番地の1外49筆の土地(面積約28.5ヘクタール,以下「本件処分地」という。)上に存在する一切の産業廃棄物を撤去すること,(2)連帯して申請人ら各自に対し金50万円を支払うことを求めるものであり,その理由は,被申請人らが,違法な産業廃棄物の処理を行い,又はこれに関与し,あるいは廃棄物処理業者に対する適切な指導監督を怠ったために,本件処分地に有害物質を含有する膨大な量の産業廃棄物が放置され,申請人らに水質汚濁による被害が生ずるおそれが生じており,現に申請人らは多大の有形無形の不利益を被り続けているというものである。

2 公害等調整委員会による事件の担当

ア 本事件は,被申請人となった排出事業者の所在地が福井県,大阪府,兵庫県,鳥取県,岡山県,愛媛県,香川県に及び,県際事件(公害紛争処理法第 24 条第1項第3号)に該当することから,香川県知事は,これら関係府県の知事と連合審査会の設置について協議した(公害紛争処理法第 27 条第3項)。しかし,この協議がととのわなかったため,香川県知事は,平成5年12月20日,本事件の関係書類を公害等調整委員会に送付し(公害紛争処理法第27条第5項),同委員会が本調停事件を担当することとなった(平成5年(調)第4号事件・第5号事件)。
 公害等調整委員会は,直ちに調停委員会を設け,調停委員会は,平成6年1月24日,前記参加を許可し,調停手続を開始した。
イ 本調停手続の過程において,平成8年10月23日,申請人らのうちの5人から,国(代表者厚生大臣)を被申請人(相手方) として,本件処分地に存在する一切の産業廃棄物及び汚染土壌を撤去することを求める調停申請があった(平成8年(調)第3号事件)。これは, 廃棄物の処理及び清掃に関する法律(以下「廃棄物処理法」という。) 上の都道府県知事の事務の管理執行は国の機関委任事務であるから, 国は香川県知事の行為の結果について責任を負うことを理由とするものである。

3 香川県との間の調停手続の経過

ア 調停委員会は,平成6年3月23日,第1回調停期日を開催し,以後申請人ら及び参加人ら(以下「申請人ら」という。)と香川県から事情聴取を重ねたところ,両者の間には,本件処分地の産業廃棄物の実態認識についての食い違いのため,主張に大きな隔たりがあることが明らかになった。そこで,調停委員会は,同年7月29日に開催した第4回調停期日において,専門委員により本件処分地の産業廃棄物等の実態調査を行い,その結果を踏まえて,科学的・技術的知見に基づいた撤去及び環境保全に必要な措置並びにこれらに必要な費用の検討を行う方針を明らかにし,同年8月,廃棄物や地下水汚染を専門とする大学教授,研究者3名が専門委員に任命された(平成11年法律第102号による改正前の公害等調整委員会設置法第18条)。
 この調査(公害等調整委員会設置法第16条)は,地質調査等を専門とする会社に委託してボーリングや掘削等を行い,本件処分地の廃棄物の量や種類を明らかにし,更には地下水や周辺環境等をも調査するという極めて大規模なもので,同年12月13日から平成7年3月末まで行われ,その費用は,国費から2億3,600万円余が支弁された。この調査の結果,本件処分地に残された廃棄物は,汚染土壌を含め,量にして約49.5万立方メートル,56万トンにものぼり,約6万9,000平方メートルの範囲に分布していること,その中には,鉛,水銀等の重金属やダイオキシンを含む有機塩素系化合物等の有害物質が相当量含まれており,影響は地下水にまで及んでいることが判明した。
 専門委員は,この調査結果に基づき,現状においても本件処分地内の有害物質が北海岸から海域に漏出していると考えられるとし,本件処分地をこのまま放置すると,生活環境保全上の支障を生ずるおそれがあるので,早急に適切な対策が講じられるべきであるとの実態認識を示した上,廃棄物及び汚染土壌に焼却等による減量化,安定化,無害化を目的とした中間処理を施すかどうか,中間処理及び最終処分を豊島内で行うか豊島外で行うか,あるいは現状のまま環境保全措置を施すかといった選択肢に応じて7つの案を示した。これらの案のうち,中間処理又は最終処分を行う案による場合には,施設建設に約134億円ないし191億円の費用を要し,処理には約10年の期間を要すると試算された。
 調停委員会は,これらの案をもとに調整を進めた結果,平成9年7月18日,申請人らと香川県との間で,香川県が本件処分地に存する廃棄物及び汚染土壌(以下「本件廃棄物等」という。)に中間処理を施すことによりできる限り再生利用を図ることなどを内容とする別記1別ウィンドウで開きますのとおりの中間合意が成立した。
 本事件において,実態調査及び専門委員が事件の解決のために極めて大きな役割を果たしたが,これが可能であったのは,こうした調査費用が当事者の負担とならず,国庫の負担で行うことができるという公害等調整委員会及び公害紛争処理制度の大きな特色によるものである。
イ 香川県は,この中間合意に基づき,「香川県豊島廃棄物等処理技術検討委員会」(以下「技術検討委員会」という。)を設置し,同委員会は,同年8月以降,20回にわたる会議を開催して検討を重ね(第1次,第2次),平成11年5月,その結果を最終報告書にまとめた。同委員会は,中間処理の方式として焼却・溶融方式を採用すれば,生成されるスラグ,飛灰などの副成物の再利用が可能である旨の見解を表明し,併せて中間処理が完了するまでの間に講ずべき暫定的な環境保全措置の内容を示した。
ウ 中間合意においては,中間処理施設は豊島内に建設し,本件廃棄物等の処理が終了した後には撤去することが前提となっていた。しかし,香川県は,同年7月,施設の有効活用という観点から,中間処理施設を豊島の約5キロ西方にある直島の△△株式会社敷地内に建設することを提案した(以下「直島案」という。)。
 この直島案を実現するためには,本件廃棄物等の海上輸送の方法や,直島に中間処理施設を建設し,運転することに伴う周辺環境や漁業等への影響といった諸問題を検討する必要があった。そこで,香川県は,技術検討委員会(第3次)を設置し,同委員会は,同年10月から上記のような事項についての検討を重ね,平成12年3月,所要の対策を講ずることにより,本件廃棄物等の中間処理を直島に建設する中間処理施設において二次公害を発生させることなく実施することができる旨の見解を表明した。
 直島町は,このような検討結果を受け,アンケートなどにより住民意思を把握した上,同月,中間処理施設の受入れを表明した。
エ 調停委員会は,こうした状況を踏まえ,同年4月4日,準備期日を設け,この期日において,申請人らと香川県は,今後直島案を前提に調停手続を進行させることに合意し,併せて香川県は暫定的環境保全措置を最終合意の成立に先行して実施することを明らかにした。その後,調停委員会は,申請人らと香川県との間で密度の濃い調整を進め,その結果,最終合意に向けての見通しが得られたため,同年5月26日,第36回調停期日を開催し,それまでの調整の経過を踏まえて作成した調停条項案を申請人らと香川県の双方に提示した。
 調停委員会は,香川県議会における調停条項案の議決及び申請人側の内部的な意思確認を経て,同年6月6日,第37回調停期日を開催し,同期日において,申請人らと香川県との間に,別記2別ウィンドウで開きますのとおりの調停が成立した。この調停は,香川県が申請人らに謝罪し,香川県は平成28年度末までに本件廃棄物等を豊島から撤去し,直島に設置される施設において焼却・溶融処理を行うことを骨格とするものである。
 この調停期日は,申請人らの要望により,現地の豊島小学校の体育館において開催し,申請人側は,本人及びその家族ら約600人が出席した。合意書への署名押印が行われた後,申請人ら代表と香川県知事が握手を交わし,両当事者は,合意内容の実現に向けて歩き出した。
 本件廃棄物等の搬出には長期間を要し,しかも搬出するのは有害物質を含む廃棄物及び汚染土壌である。そこで,調停条項においては,本件事業(6項(1)参照)の実施について協議するため申請人らの代表者等及び香川県の担当職員等による協議会を設置すること(同項(3))及び香川県は専門家の指導・助言等のもとに本件事業を実施すること(7項)を定め,これらの条項に基づいて,別記3別ウィンドウで開きますのとおりの「豊島廃棄物処理協議会設置要綱」及び別記4別ウィンドウで開きますのとおりの「専門家の関与に関する大綱」が定められた。また,上記のような本事件の特殊性にかんがみ,公害等調整委員会としては,豊島廃棄物処理協議会が円滑・適切に機能するように支援を行っていくこととしている。

4 香川県以外の被申請人との間の調停手続の経過

ア 調停委員会は,平成9年2月26日に開催した第15回調停期日において,被申請人となっていた排出事業者に対し,廃棄物処理法及び同法施行令に定める委託基準に違反した廃棄物の処理委託を行った結果,受託者により不適正な処理が行われた場合には,排出事業者は処理責任を果たしたといえず,適正な処理をすべき責任が残存している旨を指摘するとともに,対策に要する費用等について応分の負担をするように求め,引き続き個別協議を重ねた。その結果,平成12年1月までに19の排出事業者が解決金の負担に応ずることを認め,申請人らとの間で,別記5別ウィンドウで開きます(14業者),別記6別ウィンドウで開きます(2業者),別記7別ウィンドウで開きます(2業者)及び別記8別ウィンドウで開きます(1業者)のとおりの調停が順次成立した。これら排出事業者が負担に応ずることを認めた解決金の総額は,3億7,819万8,000円にのぼり,香川県との間の調停成立時点において,そのうち3億2,500万8,000円が既に支払われていた。このように,廃棄物の不法投棄に係る事件において,廃棄物の排出事業者が紛争の解決のため負担に応じた事例はなく,本調停は,この点において先例を開くものであった。
イ 調停委員会は,残る排出事業者2業者,廃棄物処理業者,その実質的な経営者(調停係属中に父親の地位を相続により承継)との間については,同年6月6日,当事者間に合意が成立する見込みがないとして,公害紛争処理法第36条第1項の規定に基づき調停を打ち切った。
 一方,申請人らは,香川県との間の前記調停成立に先立ち,同年5月29日,被申請人となった同県職員2人を被申請人とする申請を取り下げるとともに,平成8年(調)第3号事件(国を被申請人とする申請)の申請人らは,平成12年6月6日,同事件の申請を取り下げた。
 我が国で最大規模の産業廃棄物不法投棄事件といわれてきた豊島の産業廃棄物をめぐる調停事件は,香川県との間で調停が成立した同日をもって全面的に終結した。

事件年表

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