「公害」は、環境基本法(2条3項)により、
と定義されており、3に列挙される、大気汚染、水質汚濁、土壌汚染、騒音、振動、地盤沈下及び悪臭の7種類の公害は、「典型7公害」と呼ばれています。
なお、上記2に規定される「相当範囲にわたる」については、人的・地域的に広がりある被害を公害として取り扱うという趣旨で、被害者が1人の場合でも、地域的広がりが認められる場合は、公害として扱われます。
また、被害は、既に発生しているもののほか、将来発生するおそれがあるものも含まれます。
公害紛争処理の対象は、こうした公害に関する紛争です。例えば、低周波音による紛争もそれ単独では先述の公害類型には該当しませんが、騒音・振動に関係するものと考えられる場合は公害類型に該当し、制度の対象になります。
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何らかの汚染物質(窒素酸化物や粉じんなど)が大気中に排出されたり、飛散してその質を悪化させること。
水中に汚染物質が排出され、水質を悪化させること。
土壌中に汚染物質が持ち込まれる現象
一般には、不快な音、好ましくない音
土地、建物等の上下縦横の揺れのこと
地下水のくみ上げ等による地盤それ自体の沈下をいう。
人に不快感を与える臭いをいう。
公害をめぐる紛争は、戦前においても足尾銅山の鉱毒事件を始めとして幾つかの例がありましたが、これが大きな社会問題としてとらえられ、その解決が国民的課題とされるようになったのは、昭和30年代後半以降のことです。この時期、我が国は、高度経済成長を遂げつつありましたが、公害の発生も増加し、水俣病、四日市ぜんそく、イタイイタイ病など、大気汚染、水質汚濁等による悲惨な疾病が多発し、その被害住民と発生源とされた企業との間で大規模な紛争が生じました。
このような公害に係る紛争には、(1)当事者が多数にわたること、(2)その被害が単に財産的なものにとどまらず、直接人の生命や健康に及ぶこと、(3)被害の認定、加害行為と被害との因果関係の究明、被害額の算定が困難であること等、特有の間題がありました。
公害紛争を解決する主要な手段としては、従来から、裁判所における司法的解決がありましたが、民事裁判は、(1)被害者にとって、原因と被害発生との因果関係の立証が困難な場合が多いこと、(2)訴訟に多額の費用を要すること、(3)手続が厳格なために、判決の確定による最終的な解決までに相当の年月を要すること等により、被害者救済のためには必ずしも十分とは言えず、公害紛争の迅速かつ適正な解決には限界がありました。
こうした民事裁判とは別に、行政上の紛争処理制度として、公共用水域の水質の保全に関する法律(昭和33年法律第181号)、大気汚染防止法(昭和43年法律第97号)及び騒音規制法(昭和43年法律第98号)には、それぞれ和解の仲介の制度が規定されていましたが、公害全般についての統一的な制度ではなかったこともあり、利用件数が少なく、所期の効果を挙げていませんでした。
このような社会情勢の下で、公害に関する法制の整備が急がれるとともに、民事裁判による司法的解決とは別に、手続の形式的厳格性を緩和し、紛争の迅速かつ適正な解決を図ることを旨とする公害紛争処理制度の確立が要請され、昭和42年に制定された公害対策基本法(昭和42年法律第132号)において「政府は、公害に係る紛争が生じた場合における和解の仲介、調停等の紛争処理制度を確立するため、必要な措置を講じなければならない。」(同法第21条第1項)と規定されるに至りました。
さらに、同法制定後、中央公害対策審議会での審議等を経て、公害紛争処理法(昭和45年法律第108号)が昭和45年に制定され、同法によって、国には総理府の機関として中央公害審査委員会を、都道府県には都道府県公害審査会を設置して、公害紛争の処理を行うこととし、これによって、行政機関による公害紛争処理制度が確立されるに至りました。
また、公害苦情は一種の生活相談として従来から地方公共団体が処理に当たってきましたが、社会経済の高度化に伴って急増した公害苦情を、住民にとって最も身近な機関が簡易、迅速、適正に処理することの重要性にかんがみ、公害紛争処理制度の一環として、公害紛争処理法により公害苦情処理制度の整備が図られることとなりました。
公害紛争処理法の制定当初から、中央公害審査委員会を国家行政組織法(昭和23年法律第120号)第3条の行政委員会とすること及び中央公害審査委員会の行う紛争処理手続に裁定を加えることを検討することが、両議院の附帯決議において指摘されていました。
この附帯決議の趣旨及び公害紛争処理制度の一層の充実強化を図るという観点から、公害等調整委員会設置法(昭和47年法律第52号)が制定され、中央公害審査委員会と土地調整委員会(昭和26年1月設置)とを統合して公害等調整委員会が発足するとともに、同法の附則において公害紛争処理法の一部が改正され、公害紛争について法律的判断をする裁定制度が導入されるなど制度の充実強化が図られました。
また、昭和49年には、公害紛争処理法の一部を改正する法律(昭和49年法律第84号)により、紛争を放置すれば社会的に重大な影響をもたらすような事件については、当事者からの申請を待っことなく、できるだけ早い機会に紛争処理機関があっせん等に乗り出し、紛争の早期解決に力を貸す制度として職権あっせん制度が導入されるなど、制度の一層の充実強化が図られて今日に至っています。
なお、平成5年11月19日に制定された環境基本法(平成5年法律第91号)においては、今日においても、国民が健康で文化的な生活を確保するためには公害の防止は極めて重要であり、公害に係る紛争処理を行うことは依然として重要であるとの認識の下、「国は、公害に係る紛争に関するあっせん、調停その他の措置を効果的に実施し、その他公害に係る紛争の円滑な処理を図るため、必要な措置を講じなければならない。」(同法第31条第1項)と規定されました。
「ちょうせい」は、総務省公害等調整委員会が発行する機関誌です。
年に4回(2月、5月、8月、11月)、公害紛争事件を分かりやすく解説・紹介する特集記事や公害対策関連の最新情報をお届けしています。