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サイバー空間の在り方に関する国際議論の動向

サイバー空間とその役割

 インターネットは、その上で多様なサービスのサプライチェーンやコミュニティなどが形成され、いわば一つの新たな社会領域(「サイバー空間」)となっている。このようなサイバー空間の持つ重要性や価値の認識が高まっていく中、近年、サイバー空間の在り方に関して様々な国際機関や国際会合で議論が繰り広げられている。

新興・途上国における規制・管理強化の動き

 2010年(平成22年)12月から2011年(平成23年)1月にかけて、チュニジアにおいて「ジャスミン革命」と呼ばれる民主化運動が起こり、長期政権に終止符が打たれた。この革命に端を発し、中東・北アフリカ地域の多くの国において、いわゆる「アラブの春」と呼ばれる民主化運動が発現し、エジプト・リビアなどにおいても長期政権が崩壊した。 平成23年版情報通信白書(第2節)において、先進国以外でも、インターネット利用率は低いものの、チュニジア等ソーシャルメディアの利活用が進展している国が存在していることを指摘したが、これらの一連の動きにおいては、市民同士のリアルタイムな連絡や国内外への情報の発信などにおいて、インターネットやソーシャルメディアが大きな役割を果たしたといわれている(平成24年版情報通信白書トピック「『アラブの春』とソーシャルメディア別ウィンドウで開きます」参照)。 アラブの春においてインターネットやソーシャルメディアが民主化運動に大きな役割を果たしたことを受けて、新興・途上国においては、ネットへの規制や政府の管理を強化する動きが強まっている。

サイバー空間の在り方に関する諸外国の取組状況

 このような新興・途上国のネット規制や政府管理強化の動きに対して、2011年(平成23年)に入って、欧米諸国は、首脳や閣僚が主導して情報の自由な流通やインターネットのオープン性等の基本理念を表明している。

 米国のクリントン国務長官は2010年(平成22年)1月を皮切りに、インターネット上における人権保護やインターネットへのアクセスの自由を守る必要性に関するスピーチを行っているが、2011年(平成23年)2月からは、インターネットがアラブの春において果たした役割を強調しつつ、その主張を強めている。

 2011年(平成23年)5月には米大統領府が「サイバー空間の国際戦略別ウィンドウで開きます」を公表した。この戦略は、(1)開放的な、(2)相互運用可能で、(3)安全な、(4)信頼性の高いサイバー空間を将来にわたり維持発展させることを目的として、幅広い課題を認識した上で包括的に国際連携に向けた方針を示した米国初の戦略である。(1)基本的自由、(2)プライバシー、(3)情報の自由な流通の3つを中核的な原則とし、経済やネットワークの保護、インターネットの自由等の領域について優先すべき政策課題として取組を実施することとした。

 英国では2011年(平成23年)2月、ヘーグ外相がミュンヘン安全保障会議において、「全ての人がサイバー空間にアクセスする能力を持つ必要性」や「サイバー空間のイノベーションのオープン性と思想、情報、表現の自由な流通の保障」などを含むサイバー空間における「7つの原則別ウィンドウで開きます」を提唱した。さらに英国政府は、同年11月に「英国サイバーセキュリティ戦略別ウィンドウで開きます」を公表した。この戦略においては、2015年(平成27年)をターゲットとした英国におけるサイバーセキュリティのビジョンを掲げるとともに、当該ビジョンを達成するための目標、官民等のパートナーシップでの取組並びにセキュリティと自由及びプライバシーの両立等の基本原則、個人・民間セクター・政府それぞれの役割及び責任が言及されている。

サイバー空間の在り方に関する国際的な議論の状況

 2011年(平成23年)はインターネットに関わる様々な国際会合が開催され、サイバー空間の国際ルールの在り方に関する議論が活発に行われた。

 同年5月にドーヴィル(フランス)で行われたG8ドーヴィル・サミット別ウィンドウで開きますでは、3つの優先課題の一つとしてインターネットが取り上げられた。首脳宣言においてインターネットがグローバル経済成長の牽引力であることが確認されるとともに、(1)クラウドコンピューティング等の新たなサービスによるイノベーション・成長機会の認識、(2)知的財産侵害への対応、個人情報保護、セキュリティ等における国際協力の推進、(3)児童のための安全なインターネット利用環境整備等について盛り込まれ、採択された。

 また、同年11月にロンドン(英国)で開催されたロンドン国際サイバー会議別ウィンドウで開きますにおいては、サイバー空間の経済的・社会的便益、サイバーセキュリティの確保、サイバー空間における国際安全保障等が議題となった。特にサイバー空間の(1)経済成長・発展、(2)社会的便益、(3)サイバー犯罪、(4)安心・安全なアクセス、(5)国際安全保障について分科会が設けられ議論が行われた。

 同会議の議長声明においては、(1)世界規模での自由な情報流通、思想・表現の自由を推進・保護し、投資を促進するとともに、国境を越えたサービスの発展を支える政策が求められる旨が確認されたこと、(2)人権保障を阻害しない範囲でのサイバーセキュリティの確保、言語・文化・思想の多様性の尊重、プライバシー・個人データの保護、デジタル・ディバイドの解消等についての必要性が確認されたこと、などの内容が盛り込まれた。

 また、このフォローアップとして、2012年(平成24年)10月にハンガリーでブダペスト国際サイバー会議別ウィンドウで開きますが開催された。 同会議では、サイバー空間において、(1)社会・経済的便益性と安全性を確保することのバランス、(2)そのための人材育成や官民連携、国際連携の重要性、(3)表現の自由や情報の自由な流通の重要性を強調し、マルチマルチステークホルダー構造の重要性、(4)キャパシティ・ビルディングの必要性について共通認識が得られた。

 このほかにも、2011年(平成23年)には、6月にパリ(フランス)で開催されたOECDインターネット経済に関するハイレベル会合別ウィンドウで開きますや同年10月にパリで開催されたNew World2.0(インターネット大臣級セミナー)、同年11月にアヴィニヨン(フランス)で開催されたアヴィニヨン文化サミット2011(G8文化大臣会合)、12月にハーグ(オランダ)で開催されたフリーダムオンライン閣僚級会合別ウィンドウで開きます等において、インターネットやサイバー空間の在り方に関する議論が行われた。これらのうち、ハーグで開催されたフリーダムオンライン閣僚級会合においては、インターネット上の表現の自由の保護を目的として形成された有志による共同宣言別ウィンドウで開きます(Joint Action)が発表された。また、12月のOECD理事会においては、前述のOECDハイレベル会合で策定されたインターネット政策立案のための原則が勧告化別ウィンドウで開きますされた。

 国連総会第一委員会(国際安全保障・軍縮担当)は、2010年(平成22年)12月、「国際安全保障の文脈における情報及び電気通信分野の進歩」に関する政府専門家グループを設置して国家のICT利用に関する規範について2012年(平成24年)から2013年(平成25年)にかけて議論することを決定した。これを受け、2011年(平成23年)9月、ロシア・中国・ウズベキスタン・タジキスタンの4か国が、国連総会に「情報セキュリティのための国際行動規範(案)別ウィンドウで開きます」の共同提案を行った。この行動規範(code of conduct)案においては、(1)テロリズム、分離主義、過激主義を扇動する情報や、他国の政治、経済、社会的安定性や精神的・文化的環境を弱体化させる情報を阻止するために協力すること、(2)他国の政治経済社会の安全保障に脅威を与えるためにそのリソース、重要インフラ、中核技術やその他の優位性を使用することを防ぐため、ICT製品やICTサービスの安全を確保するよう努力すること、(3)情報スペースにおける権利及び自由については、関連する国内法令に従うという前提で十分に尊重すること、といった事項が盛り込まれており、情報セキュリティの確保に関し、各国の主権の尊重を強調する内容となっている。

 国連総会第二委員会(経済・金融担当)においては、委員会はもとよりその委託を受けた経済社会理事会(ECOSOC:Economic and Social Council)下部の「開発のための科学技術委員会」(CSTD:Commission on Science and Technology for Development)においても、世界情報社会サミット別ウィンドウで開きます(WSIS)のフォローアップの一環としてインターネットガバナンスの在り方に関する議論が行われている。2005年(平成17年)のWSISチュニス会合における成果文書に基づき国際連合が事務局を設置した、インターネットガバナンスフォーラム別ウィンドウで開きます(IGF:Internet Governance Forum)においても、インターネットに関する国際的な政策課題について議論されている。

インターネット・ガバナンス・フォーラム京都2023の開催について

 2011年(平成23年)9月には、ナイロビ(ケニア)において第6回会合が開催され、インターネットに関する様々な公共政策課題について議論が行われた。同会合に併せて、高級閣僚フォーラムが開催され、世界各国の閣僚等により、モバイルインターネットやサイバーセキュリティ等の課題について議論が行われた。

 我が国は、政府、企業、市民社会などのマルチステークホルダーによる「対話の場」であるIGF等の役割を支持するとともに、積極的に会議へ参加している。

 また、ITU憲章や条約を補完する業務規則であり、国際電気通信業務の提供、料金決済等について取り決めている国際電気通信規則(ITR)が、2012年(平成24年)12月にドバイ(アラブ首長国連邦)にて開催される世界国際電気通信会議別ウィンドウで開きます(WCIT-12)において、1988年(昭和63年)に制定されてから初めて見直されることとなっている。当該会合では、インターネットに関連する新たな課題を盛り込むかどうかが焦点のひとつとなっている。

我が国の対応と今後の課題

 我が国は、米国、英国、欧州委員会等との二国間会合において議論を行っており、また、多国間会合においても積極的に議論に参画している。

 米国との間では、2012年(平成24年)1月に「日米情報通信技術(ICT)サービス通商原則別ウィンドウで開きます」を策定し、その原則の一つとして、国境を越える情報流通を妨げるべきではないことを掲げた。同年3月にはインターネットエコノミーに関する日米政策協力対話(第3回局長級会合)別ウィンドウで開きますにおいてインターネットのオープンな特性と相互運用性の維持の原則を再確認した。また、同年4月の日米首脳会談別ウィンドウで開きますで公表されたファクトシートにはサイバー空間に関する問題についての連携深化が盛り込まれた。さらに、同年10月のインターネットエコノミーに関する日米政策協力対話(第4回局長級会合)別ウィンドウで開きますでは、インターネットの世界におけるマルチステークホルダープロセスの重要性を確認し、WCIT-12に向け、マルチステークホルダープロセスへの理解の一層の拡大が必要との認識で一致した。

 英国との間では、同年4月に公表された日英両国首相による共同声明別ウィンドウで開きますにおいてサイバー空間に関する二国間の協議の強化等が盛り込まれたことを受け、同年5月に川端総務大臣とハント文化・オリンピック・メディア・スポーツ大臣との会談において、インターネット政策課題における日英間での連携を確認する共同声明別ウィンドウで開きますを発表した。この声明では、(1)インターネットガバナンスについて、マルチステークホルダーアプローチが最善の方法である、(2)インターネット政策が、国際レベルで首尾一貫性があり、整合的であることを確保する、(3)現在の情報の自由な流通を享受し続けることができるよう国際的なコンセンサスを実現するために相互に協力する、といったことが確認された。

 さらに、欧州委員会との間においても、同年5月に川端総務大臣と欧州委員会クルース副委員長との間でインターネットに係る政策課題における日EU間での連携等を内容とする共同声明別ウィンドウで開きますを発表した。この声明では、(1)インターネット政策が、国際レベルで首尾一貫性があり、整合的であることを確保する、(2)情報の自由な流通が不当に制約されることのない国際的なコンセンサスを実現するために相互に協力することについて確認されたほか、サイバー空間におけるセキュリティ確保に向けて連携するために日EUインターネット・セキュリティフォーラム別ウィンドウで開きますの開催に合意したこと等が盛り込まれ、同年11月に東京で開催された。

 サイバー空間の在り方の国際的な議論は、今後、インターネットが果たしている国民生活や経済活動の土台としての役割、社会経済システムにイノベーションをもたらす重要な社会基盤としての役割、民主主義の発展や基本的人権の保障のための支えとしての役割、プライバシー・個人情報の保護、情報セキュリティの確保、知的財産権の保護など、多角的に行われる可能性がある。我が国としても、今後の我が国の目指すべきビジョンに資する国際ルールづくりがなされるよう積極的に議論に参加している。

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