ワークショップという手法で約20年、気楽で形式ばらない話し合いの場づくりを行ってきた。たとえば、相手の顔が間近にあると、前の人の発言を無視した話をする人は現れない。机を合わせるだけで言葉は重なり合い、議論が活発になっていく。
山梨県の早川町は、面積の96%が森林で、人口が1,300人弱、高齢化率が48%と過疎・高齢化の著しい地域だ。上流文化圏研究所は、町の総合計画の重点施策という位置づけで平成8年に設立された機関で、早川らしい暮らしや文化を際立たせながら、都市や下流域との関係を築き、早川で暮らし続けられる環境をつくることを使命としている。平成18年にNPO法人になり、地域資源の掘り起こしと外部への情報発信、山の暮らしの担い手を育てる住民活動のサポート、山の暮らしの課題解決を3つの柱として取組を行っている。
スキルやテクニックだけを磨いても地域振興は成り立たない。「地域の活性化」という言葉には、人それぞれに色々な姿が思い描かれる。全国各地が地域おこしに取り組んでいる中で、自分たちの地域は何を目指すのか、すなわち「志(こころざし)」を考えることが大切だ。地域振興の要はお金ではない。関わる人びとの想いや情熱、作り上げる楽しさや苦しさを共有することを通じて、地域に価値が生まれていく。畠中智子氏
「住民のやる気と行動、モチベーションを育む留意点とポイントを考える」というテーマを「やる気スイッチをONにするツボ」、「行動につなげるプロセスの編み出し方」、「モチベーションを保ち続ける工夫」の3の視点に分けて議論したい。
やる気のスイッチをオンにするツボは、それほど難しいものではなく、誰かがその思いを受け止め、聞くことが第一歩だ。以前、平均年齢83歳のワークショップで車いすのお年寄りたちに子ども時代の話を聞いたら、話しているうちに顔が生き生きしてきて、最後には全員車いすから立ち上がって話をしていた。人は自分の思いを聞いてもらうことで、ものすごくパワフルになると実感した。
行動につなげるプロセスの編み出し方としては、小さい達成感が大切だろう。その効果を外のちょっと違う目線で意味付けする人がいると喜びは倍増する。ただ、このプロセスでは、産みの苦しみも必要で、急ぎすぎない、時間を丁寧にかけることも必要だ。
モチベーションを保ち続ける工夫の一つに、子ども社会の中に位置づけることがある。「とさっ子タウン」のお手本であるドイツのミュンヘンでは、子どもが関わっていないプロジェクトは1つもないと言い切るくらい子どもの視点、目線をあらゆるプロジェクトに生かしている。子どもには大人を動かす力がある。子どもと一緒に活動するということも一つの方法だろう。
鞍打大輔氏
やる気のスイッチをオンにするツボは、住民の人たちが持っている想いを汲み取る機会や場を作り上げることだと考えている。
行動につなげるプロセスの編み出し方は、議論を進めていく中で、毎回毎回、積み上がりやステップアップしていくことが実感できるような機会のデザインが重要だろう。もう一方で、急ぎすぎないことも重要。住民は行政のスピード感に慣れていないし、即決できないことも多い。少し行ったり来たりしながら徐々に住民の気持ちが高まってくるのを待つということもすごく重要だと思う。
モチベーションを保ち続ける工夫としては、初めの段階ではハードルをあまり高く設定せずに、できることを一つずつクリアしながら自信をつけてもらうことが重要だ。また、簡単に満足させないことも重要だと思う。満足した途端に停滞するケースも少なからず見受けられる。
住民がやりたいことに寄り添うということがものすごく重要だ。こちらが企画したものに本気で取り組む人は少ない。住民から何かアイデアが出てくるまで、しっかり待って、出てきたものをしっかり育てるということがすごく重要だろう。
砂田光紀氏
やる気のスイッチをオンにするツボは、それぞれの得意分野を持ち寄れる仕掛けが一番いいのではないか。そのような取組は楽しい。楽しいことが非常に大切だ。
行動につなげるプロセスの編み出し方は、そこに暮らすそれぞれの人が自分の居場所を実感できる取組にすること。役割を作るということがポイントだ。あと、地域の人がつながる仕組み。お互いに何ができるのかが解れば、自然に取組は広がっていく。
モチベーションを保ち続ける工夫としては、憧れや誇りがある。例えば、いい祭り、続いている祭りは、子どもたちが憧れを抱く祭りだ。おそらく祭り以外も同じだと思う。本質を磨き高めれば、憧れや誇りが高まっていく。これに加えて、その本質を伝える語学力アップが必要だ。その素晴らしさ・魅力を皆がイメージできる言葉で伝えられるかによって、地域のイメージまで決まってくる。対外的にも、次の世代にも「大事にしなきゃダメなんだ」というのを明確に伝えるためにも、言葉を考えてほしい。
