『平成23年度第6回地域力創造セミナー』開催概要

開催日

平成24年2月22日(水)

参加者数

134名  (自治体職員、団体職員、民間企業、学生等)

次第

13:15〜13:20
主催者挨拶
総務省地域力創造グループ 地域力創造審議官 門山 泰明
13:20〜13:30
総務省事業の説明
総務省地域力創造グループ 地域自立応援課 課長 牧 慎太郎
13:35〜14:35
基調講演
テーマ:アートによる地域振興の可能性
講師:財団法人アサヒビール芸術文化財団事務局長 加藤 種男氏
14:40〜15:20
リレーセッション1
テーマ:地域づくりとアートの接点を考える
講師:鳥取大学地域学部地域文化学科 教授 野田 邦弘 氏
15:35〜16:15
リレーセッション2
テーマ:地域づくりに向けたアートマネジメントを考える
講師:東京芸術大学音楽部音楽環境創造科教授 熊倉 純子氏
16:20〜17:20
パネルディスカッション
テーマ:アートによる地域振興の道筋〜地域振興に向けたプロセスとポイントを考える
コーディネーター 加藤 種男 氏
パネリスト 野田 邦弘 氏、熊倉 純子 氏
17:25
閉会挨拶
総務省地域力創造グループ 地域自立応援課 課長 牧 慎太郎
17:30〜18:00
名刺交換会

概要

<基調講演>
 アートによる地域振興の可能性
 加藤 種男 氏 (財団法人アサヒビール芸術文化財団 事務局長)
加藤 種男 氏 アートによる地域振興の成功事例の一つとして別府が挙げられる。数年前まではおよそ関心を持たなかったはずの若い女性がやってくる街になった。5年前、様々な文化が混浴するような街にしたいと「混浴温泉世界」をキャッチコピーとした現代アートの国際展が始まった。街並みを大幅に整備した訳ではなく、商店街の幾つかの空き店舗などの建物をリノベーションして、展示スペースやステージにしたが、それだけで街のイメージが変わった。アートをやっている街として、いろいろな雑誌やメディアで紹介され、観光雑誌で別府特集が組まれた。その結果、若い女性が訪れるようになり、経済効果ももたらした。今や温泉街のみなさんも応援してくれている。もともと温泉街や観光の再生について考えていた地域の経済人の活動の中にアートが入ったことによって一気に飛躍できたのだが、いずれにしてもアートが別府のイメージを変えた。
 このように芸術や文化に対する投資は、大きな効果をもたらすと考えている。そして、別府では、民間のアーティストが投資を呼び込む係をやり、国や県、市など行政に対して様々な提案をして投資を引き出している。アートによる地域振興が成功しているところでは、たいてい民間がイニシアティブをとって、行政とパートナーを組んでいる。横浜市の創造都市も、民間と行政が対等の関係でパートナーを組んで行政側が相当投資している。事前質問に総合プロデューサーを外部から呼んでくるのと、地元で人材を育てていくのとどっちが重要かという質問があったが、外から呼んでくることは手段として悪くはない。ただ、外から来た人のやるプロセスを地元は大抵理解できない。あの偉大なる北川フラムさんも十日町の「大地の芸術祭」では、最初「何をやっている」と地元に反対されたと聞く。しかし、アートという新しい表現活動を導入することによって若い人が喜ぶ。若い人から理解が始まり、これを見て地元が喜ぶ。別府の例でも若い人が来るきっかけはアートだ。「大地の芸術祭」や「瀬戸内国際芸術祭」も外から来る若い人たちにまず支持された。アートにはそういうインパクトがあって、期待が寄せられる時代になってきた。
 震災の復興にも、アートは大きな力を発揮している。宮城県南三陸町では「切子」という切り絵細工を街中すべての家一軒一軒に下げることをやっていた。ここの食堂はエビ、ここの家は招き猫など、ちょっとした説明を書いて家の前に展示していた。それが全部流されてしまった。そのとき、アサヒ・アートフェスティバルに参加していた全国のNPOがそれぞれ切子を作って必要な物資と一緒に地元へ届けた。このネットワークが地元の皆さんの心の支えになった。先日立ち上げたGBFundという芸術文化による復興支援ファンドでも、89件の助成先のうち20件が郷土芸能で、地域の人たちのつながりや生きる力の源としても機能している郷土芸能の復活にこれが貢献したと思っている。
 そんな事柄を考えていくにつれ、地方では特に若い人がいなくなって、これまで培ってきたコミュニティが機能しなくなりつつある。一方、都市では、みんな孤立している。そこでコミュニケーションをとる新しいツールとしてアートは相当大きな力となると私は期待をしている。横浜では、そうした創造的な活動が成功している。
 現在、企業メセナ協議会では「ニュー・コンパクト」という小さなエリア経済の復活を提唱している。大きな経済を目指さない、製造販売の一体化、地産地消、顔見知りの顧客関係、こうした経済の状態を生みだすためにも、文化が力を発揮する。たとえば、若い女性が地域に入ったときに一番欲しい必須アイテムは雑貨屋さんと聞いた。若いクリエイターやプロデューサーがそうした雑貨屋さんのようなものを生み出す。文化というものが大きな役割を果たし、それが最終的に地域の振興につながっていくのではないかと思う。
<リレーセッション(1)>
 地域づくりとアートの接点を考える
 野田 邦弘 氏 (鳥取大学地域学部地域文化学科教授)
野田 邦弘 氏 横浜市の創造都市は、1985年に始まった「欧州文化都市」をベースにしている。この取組はEUが指名した都市が1年間集中的にいろいろな文化事業を行うもので、財源はEUが負担し、都市は公募され審査を経て決定される。今は年間2都市でやっている。この事業は当初、文化や芸術の活性化のために始まったが、次第に地域再生に効果があることがわかり、次第に条件不利地を指名するようになった。この映像は2009年の欧州文化首都になったドイツのエッセンのプログラムのひとつだ。開催都市は都市を売り込む絶好のチャンスであるため、世界に向けてプロモーションビデオを作る。欧州文化首都の全てが上手くいっている訳ではないが、これをきっかけに元気になっている都市も多い。
 これを理論化したのがチャールズ・ランドリーで、95年に「The Creative City」を発表し、チャード・フロリダが「創造階級の台頭」(邦訳「クリエイティブ資本論」)で「クリエイティブ資本論」を発表する。アメリカでは就業者の3割が科学者やエンジニア、エンターテイナーなどの知的創造階級で、彼らがリーダーになっている地域や都市は活力があるという理論だ。
 この創造性を取り入れる政策は、日本では金沢市が最初にはじめた。横浜市は2004年から始めた。横浜は、埋立地に「みなとみらい21」という新しい都市をつくったところ、関内エリアの衰退が始まり、古い洋館がマンションに変わっていった。そこでフロリダの考え方を採用して、ある特定エリアにクリエイティブな人たちが活動できる拠点を作った。その推進組織として庁内に横断的で強い権限を持った「文化芸術都市創造事業本部」を設置した。設置から7年を経て、今は文化観光局になっている。
 関内エリアのなかでも「馬車道」では、クリエイティブなクラスターを作るため、倉庫や歴史的な建築物など使われなくなった建物を活用した。「黄金町」では集積していた違法風俗店を撤去し、そこにアーティストが住み、作品や商品開発、地域と交流する拠点を作った。横浜市立大学もサテライトキャンパスをこの中に作り、大学生と教員、地域、行政が話し合いながら地域の未来を考えている。現代アートを中心としたイベントも行われ、たくさんの人で賑わっている。この取組が順調に推移し、トータルで20近くの拠点が関内エリアにできた。約1千人の若いアーティストやクリエイターが移り住み通っている。この結果、2004年に底を打っていた地価が上昇に転じた。2007年には約240億円の経済効果があると算出された。改修工事やNPOへの助成など一定の投資も行ったが、こういう効果が出ている。この取組では古い倉庫やビルなど減価償却は終わっている施設を利用した。運営もNPOを公募し、事業期間も2年、3年として、その間の成果で評価する目標評価制度を導入した。ただ、スピーディーに進めたため、市民全てがこの取組を認知している訳ではない。しかし、目的とした旧市街地の衰退に一定の歯止めがかかった。鳥取でも、廃病院で現代アートの展示やワークショップ等を行う「Hospitale Project」を行う。鳥取大学と、その学生、別途キュレーターを呼び展開する。
 チャールズ・ランドリーが挙げた創造都市になる条件として、行政組織には透明性や親しみやすさ、頼りがいを挙げている。政策的には学習機会が多様にあること、公共交通やIT環境、意見交換や議論する場所を重視している。また、市民文化には、多様な価値観と表現がぶつかり合う寛容性や開放性が大事だとしている。人材面では戦略的リーダーの必要性を指摘している。そして、創造都市最大の目的は生活幸福度。住んでいる人たちの暮らしやすさ、安全・安心が必要だと言っている。
 それぞれの地域で文化による活性化を進めていく時、ソーシャル・イノベーションのための交流のスペースが必要だ。ただし、多くの文化会館や市民ギャラリー、美術館はすべて鑑賞型だ。何かモノを作っていくという機能は基本的にはない。また、単独の都市だけで取り組む時代ではなく、できるだけ違うところと組んで、一緒になって取り組むほうがより効果が高いだろう。
<リレーセッション(2)>
 地域づくりに向けたアートマネジメントを考える
 熊倉 純子 氏 (東京藝術大学音楽学部音楽環境創造科 教授)
熊倉 純子 氏 各地で盛んに行われているアートプロジェクトには、市民の手弁当の予算50万円くらいのものから、「越後妻有アートトリエンナーレ」や「瀬戸内国際芸術祭」など10億円規模のものまで様々だ。経済効果は規模が大きければ得られる。ただし、集客には有名なアーティスト、見栄えのする作品、期間が必要となり、必然的にお金がかかる。しかし、ほとんどのアートプロジェクトは小規模で、文化イベントは首都圏でも集客はせいぜい3千人くらいだ。集客だけならアートでない方が良い。お金をかけずに行うアート活動の意義についてよく考えることが大切だ。
 現在関わっている「取手アートプロジェクト」は、市民と取手市、東京藝術大学の三者が協働で1999年から行っており、一昨年の秋にNPO法人が主体となっている。25歳〜30歳くらいの有給スタッフが4人事務局におり、2名がこのプロジェクトで取手に移住した。コアプログラムの「アートのある団地」は、イベントのほか、URに家賃を優遇してもらい、取手市の老人福祉課と団地自治会と一緒に、高齢者見守り施設「いこいーの」というカフェを運営している。もう一つは「半農半芸」プログラムだ。活動が13年と長いので、小学校へのアーティスト派遣やワークショップ型授業、ガスタンクのイラストなど様々な形で街に溶け込んでいる。また、企画段階から当日運営まで一緒に取りくむ市民がたくさんいることも強みだ。イベントの時だけ出てくれる人もいれば、週に2〜3回手伝ってくれる人もいる。
 埼玉県北本市の「北本ビタミン」は、トップダウン型のプロジェクトで2008年から始まった。ここは早々に実働部隊をNPO法人化した。取手アートプロジェクトで事務局経験のあるスタッフを市の期限付き職員として雇用し、プログラムの協力者を見つけながら活動を立ち上げた。しかし、市との連携が中々大変で当初は思うように動けなかった。これまで紆余曲折、形態をあれやこれやと変えながら実施をしているが、市民の認知度はこれからだ。活動の一つの「おもしろ不動産」は、アーティストたちと一緒に作りあげてきたプランで、シェアアトリエやライブ、アーティストの展示を行っている。
 青森県八戸市の「南郷アートプロジェクト」は今年度から本格スタートした。市長の肝いりで実行力に富む担当チームが編成され、時間をかけて展開のストーリーを作った。ここには中核となるコーディネーターを送り込み、彼女が十分に実力を発揮できたのは、市職員のバックアップと、ホール関係者の協力があったからだ。この地区はジャズフェスティバルを22年間行っており、アマチュアバンドもたくさんある。その一つとアーティストのコラボレーションを行ったほか、アウトリーチのレクチャーやプロモーションビデオの製作も行った。一番おもしろかったのは、ダンサーが小学校でアウトリーチを行った後に村を練り歩くパレードで、村人たちがたくさん出てきて「何やってんだ」と見てくれた。今後は市民に企画や運営に関わってもらい、どう発展させていくかが課題だ。
 「アートアクセスあだち」は、東京藝術大学と足立区、NPOの協働事業で、優秀な4人の事務局スタッフがいる。東京卸売市場の魚市場での即宴会や、商店街でのシャボン玉イベントを行う予定だ。3月には銭湯でコンサートを開く予定で絶賛出演者募集中。ここはボランティアを募集したら20〜30代のサラリーマン、OLがたくさん出てきてくれて、「ヤッチャイ隊」というチームが結成された。それぞれのアーティストチームもメンバーを募集している。北千住の人たちは非常に熱くて、勝手にどんどんドライブがかかっていく。
 行政の方はアートプロジェクトを始めると必ずちょっと後悔する。街を面白くしていくためには、専任の事務局がいろいろな人たちをつなげて、かき回し続けるからだ。おもしろいアーティストを連れてきて、パートナーシップを築いていく。このため、事務局の体制づくりが重要で、雇用環境をつくることが必要だ。
<パネルディスカッション・会場質疑>
 テーマ:「アートによる地域振興の道筋〜地域振興に向けたプロセスとポイントを考える」
 コーディネーター: 加藤 種男 氏:
 パネリスト: 野田 邦弘 氏、熊倉 純子 氏

加藤種男氏
加藤種男氏 今、世の中では市場や競争だけが正しいという風潮がある反面、相互扶助も重要だという認識も強くなっている。功利的には何の効果もないが故にアートは、社会の中でみんなが助け合って生きていこうとするときには結構力強い味方になる。その一方で、先ほどの話のとおり、アートには外から人を呼ぶインパクトも秘めている。
 アートプロジェクトには、民間が主導するタイプと行政が主導するタイプがあるが、いずれにせよ、両者がうまくかみ合っているケースは、批判も含め議論を丁寧にしている。アートの一番おもしろいところは、意表を突かれるというか、まったく想定していないものが生まれてくること。これがアートの価値だ。そこを双方がキチンと議論した上で認識することが大切だ。
 また、アートによる地域振興を進めるには、たとえば、行政とアーティスト、たとえば、現場の若い専門家たちと決定権のある人々など、ものの見方や価値観が異なる両者を如何につなげるが重要だ。両方の言語を駆使しながら通訳をして、双方を繋いでいくことがポイントとなろう。

野田邦弘氏
野田邦弘氏 官と民それぞれWin・Winの関係にすることが絶対に必要で、これがないと持続可能にはならない。それができない一つの理由は、行政の担当者が人事異動でどんどん変わるからだろう。当然、民間にも課題は沢山ある。その中でうまく組んでいる事例を見ると、やはり目標を共有している。目標が共有されているわけだから、成果が出なかったら交代いう約束がちゃんとできる。そういう仕組みを考えること。横浜がうまくいったのは、委員会で目標評価制度を作って、それで動かし始めた。そして、始まったらNPOや民間の人に任せてゴチャゴチャ言わない。その代わり2年、3年後にチェックさせてもらいました。制度設計をきっちりやって、目標を共有して、あとは任せて口を出さないが評価はする。これが大切な一つのポイントだと思っている。
 あと、外から人を呼ぶためには、レベルの高いものがないと来ない。それには費用がかかる。観光客を呼んで経済効果を上げるにはコストがかかるという点を行政は理解することが大切だ。

熊倉純子氏
熊倉純子氏 欧米には、作品プロジェクトはあるが、行政と市民と若いアーティストたちが街を一緒に共創する文化はない。アーティストが市民と同じ目線で物を考えるという発想は日本人にしかない。これからの市民文化というのは、出し物の観客として住民を呼ぶのではなく、街でプロジェクトを一緒に行い、文化でどう地域に働きかけていくのかを一緒に考えていくスタイルが重要かと思う。その方が皆生き生きし、もっと地域とつながると考えている。
 一方、プロを活かす場合は、動いてもらうために、あの手この手を尽くすのがマネジメントだろう。それには街の人を必死にさせる。その前に担当者が必死になる。そして、「どうしてもやりたい」という意識をキチンと作る。
 そして、やるのだったら、ちゃんと汗かいて、どこにニーズがあるのかを探る。ほかにはないプライスレスという演出を考える。おもしろいことに仕立ててくれるプロフェッショナルを企画に入れるのも一つの方法だ。

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