総務省トップ > 政策 > 白書 > 27年版 > 総括及び今後の課題
第1部 ICTの進化を振り返る
第1節 通信自由化30年―制度、サービス、市場の変遷

(4)総括及び今後の課題

1985年の通信自由化から2015年の今日までの30年間で、民間事業者を中心に積極的なネットワーク投資が行われた結果、大都市圏だけでなく日本全国のほとんどの地域でブロードバンドが利用可能になった。我が国におけるICTは、こうしたインフラの高度化により、従来のコミュニケーションツールから情報を生成、蓄積、処理し付加価値を生み出す新たな経営資源と言えるまでにその役割が変化した。

そのような中、センサー技術などの発達によりモノがネットワークにつなげられ、M2M通信が現実化しつつある。スマートフォンの普及は個人をインターネットにつなげ、そしてM2Mでモノがインターネットにつながることになり、ネットワークが社会インフラとしてより重要性を増してきている。

一方で第2期以降の通信業界の再編により、通信事業者は、現在では、NTTグループ、KDDIグループ、ソフトバンクグループの3グループ体制へほぼ収斂しており、こうした事業者のグループ化・寡占化の進展を踏まえつつ、利用者ニーズに応じた端末やサービス、料金プランを自由に選択でき、新たなサービスを創出することのできる公正な環境の確保が一層重要となっている(図表1-1-3-9)。

図表1-1-3-9 通信業界の再編の経緯

加えて、ICTの高度化に伴い、安心・安全な利用環境の整備も、今後一層重要になってくると想定される。

また、これまでの政策がユビキタスなICTを志向してきたことから、さらに進んで今後の政策はIoTの世界へ足を踏み入れつつあるのが現状だと言えよう。後述の2030年等の未来を見据えたとき、そこではこれまでも検討されてきた利活用面での応用がさらに重要になり、その際、ICTはインターネット上に蓄積・流通されている情報を処理・分析し付加価値を生み出し、その付加価値を体現する出口をネットワークにどのように実装するかが大きな課題となる。

ADSL64の普及要因分析

本文でみたように、通信自由化後の30年間で我が国は世界最高水準のブロードバンド環境を実現した。ここでは、このようなブロードバンド環境の実現に通信政策がどのように寄与したかを、ADSLの普及を例にとって、内外の先行研究における研究動向を踏まえつつ、定量的に分析する。


(1)ADSLの普及要因等に関する先行研究

我が国における通信政策がADSLの普及等に与えた効果に関する先行研究としては、辻・他(2006)65、明松(2007)66、田中(2008)67、による分析が代表的である。

辻・他(2006)は、ADSL料金の低廉化に伴う消費者余剰の増分を計測した後、「競争政策」、「市場競争」、「技術要因」、「コンテンツの充実」といった4つの要因が当該余剰の増分にどのような貢献を果たしたかを、AHP(階層分析法: Analytical Hierarchy Process)68を用いて推計している。辻・他(2006)の分析結果によると、2001年度〜2004年度にかけて累計で約590億円だけの消費者余剰が増えたとされ、そのうち、「競争政策要因」による増分約108億円、「市場競争要因」による増分約238億円、「技術要因」による増分約167億円、「コンテンツの充実」による増分約77億円となっている(図表1)。競争政策要因による消費者余剰増分(約108億円)の内訳をみると、アンバンドルが約24億円、コロケーションが約24億円、接続料金が約22億円でほぼ同額となっている(図表2)。

図表1 ADSL普及要因の貢献度
図表2 競争政策要因の貢献度

明松(2007)は、我が国のADSL事業者4社のデータを用い、ADSLの普及要因を①制度要因、②競争要因、③技術革新要因の3つの要因に類型し、それぞれの要因がADSL普及に与えた効果を分析している。分析の結果、制度要因では2001年の事業法改正にともなうダークファイバのアンバンドルやコロケーション情報開示の公示制定、競争要因ではヤフーBBの新規参入が我が国のADSL普及にプラスの効果をもたらしたことを明らかにしている。

田中(2008)は、我が国のADSL回線の加入者データを用い、ADSLの普及要因を定量的に分析し、アンバンドル政策のもとでの活発な新規参入による競争の促進と、それによる料金低廉化が我が国のADSLの主なる普及要因と結論づけている。

このように、先行研究では、とりわけ、2001年に実施されたアンバンドル政策が我が国のADSLの普及を後押ししたことが共通して明らかにされているが、以下では、明松(2007)、田中(2008)の分析フレームを参考にしつつ、最新のデータを用いた分析を試みた。


(2)ADSLの普及要因に関する定量分析

通信自由化以降の累次の通信政策が我が国のADSLの普及に及ぼした効果を定量的に分析するために、本節では、次のシンプルな推定モデルを構築した。

ln(ADSL加入者数)=定数項+β1・ln(ADSLの月額料金)+β2・(政策要因ダミー)+β3・(競争要因ダミー)なお、政策要因、競争要因としては、次の2つを設定した(図表3)。

図表3 ADSL政策及び競争要因変数(ダミー変数)

本モデルは、ADSLサービスの料金水準や通信政策、市場の競争構造等が我が国のADSL契約者数に与えるインパクトをモデル化したものである。

ここで、政策要因の代理変数である、アンバンドル政策ダミー変数の係数が統計的にプラスの有意性を示せば、当該政策が我が国のADSLの普及にプラスの効果を発揮したことになる。

2000年12月から2014年12月の四半期データを用いて当該モデルを推定した結果が図表4である。推定結果をみると、月額料金の係数がマイナスで有意となっており、ADSLサービスの料金低廉化が当該サービスの普及を後押ししたことが読みとれる。また、アンバンドル政策ダミーの係数がプラスで統計的にも有意となっており、先行研究の結果と同様に、当該政策が我が国のADSL普及を促進したことがみてとれる。

図表4 ADSLの普及要因分析−推定結果−

電気通信事業法等の一部を改正する法律

総務省は、情報通信審議会答申「2020年代に向けた情報通信政策の在り方―世界最高レベルの情報通信基盤の更なる普及・発展に向けて―」等を踏まえ、2020年代に向けて、我が国の世界最高水準のICT基盤を更に普及・発展させ、経済活性化・国民生活の向上を実現するため、平成27年4月、電気通信事業法等の一部を改正する法律案を国会に提出し、同年5月に可決・成立した。改正の内容は次のとおりである。


1.電気通信事業の公正な競争の促進

2020年代に向けて、我が国の世界最高水準のICT基盤を更に普及・発展させるためには、事業者間の活発な競争を促すことにより、国民生活や経済活動の基盤である光回線や携帯電話網等の利活用を促進し、新サービス・新事業を創出することが重要である。このため、事業者間の公正な競争を促進するための改正を行う。


(1)第一種指定電気通信設備等を用いる卸電気通信役務に関する制度整備

第一種指定電気通信設備・第二種指定電気通信設備を設置する電気通信事業者69が提供する卸電気通信役務について、事後届出制を導入するとともに、届出内容を総務大臣が整理・公表する制度を整備する。


(2)禁止行為規制の緩和

移動通信市場の禁止行為規制を緩和し、事前禁止の対象をグループ内の事業者への不当な優先的取扱い等に限定するとともに、製造業者等との連携を可能とする。


(3)第二種指定電気通信設備制度の充実

MVNOの迅速な事業展開を可能とし、移動通信市場の競争促進を図るため、第二種指定電気通信設備制度について、①総務省令で定める機能ごとに接続料を設定する制度、②接続料の算定制度等を整備する。


(4)電気通信事業の登録の更新制の導入等(合併・株式取得等の審査)

第一種指定電気通信設備・第二種指定電気通信設備を設置する電気通信事業者が、他の第一種指定電気通信設備・第二種指定電気通信設備を設置する電気通信事業者等と合併・株式取得等する場合は、事業運営や公正競争に与える影響を審査するため、登録の更新を義務付ける。また、携帯電話等の特定基地局の開設計画の認定において、電気通信事業の登録を受けることを要件に追加する。


2.電気通信サービス・有料放送サービスの利用者・受信者の保護

電気通信サービス・有料放送サービスが多様化・複雑化し、さらに、活発な事業者間競争の中で不適切な勧誘活動等が見られ、現行の利用者・受信者保護に関する規律によってもなお、近年、苦情・相談が増加している。したがって、電気通信サービス・有料放送サービスにおける利用者・受信者保護規律の見直し・充実を行い、一層の利用者・受信者保護を図ることとする。


(1)書面の交付・初期契約解除制度の導入

契約の締結後に、個別の契約内容を容易に確認できるよう、電気通信事業者・有料放送事業者に対し、契約締結書面の交付を義務付ける。

さらに、サービスが利用可能な場所等を利用前に確実に知ることが困難、料金等が複雑で理解が困難といった特性があるサービスについては、契約締結書面受領後等から8日間、利用者・受信者は、相手方の合意なく契約解除できる制度を導入する。


(2)不実告知・勧誘継続行為の禁止等

電気通信事業者・有料放送事業者及びその代理店に対し、料金などの利用者・受信者の判断に影響を及ぼす重要な事項の不実告知(事実でないことを告げること)や事実不告知(故意に事実を告げないこと)を禁止する。

また、電気通信事業者・有料放送事業者及びその代理店に対し、勧誘を受けた者が契約を締結しない旨の意思を表示した場合、勧誘を継続する行為を禁止する。


(3)代理店に対する指導等の措置

提供条件の説明など、代理店による契約締結に関する業務が適切に行われるようにするため、電気通信事業者・有料放送事業者に対し、代理店への指導等の措置を講ずることを義務付ける。


3.その他

(1)ドメインの名前解決サービスに関する信頼性等の確保

ドメイン名の名前解決サービス70に関する信頼性を確保するため、①大規模な事業者及び②トップレベルドメインに国又は地方自治体の名称(「.jp」「.tokyo」等)を用いたドメイン名の名前解決サービスを提供する事業者に対し、電気通信事業の届出、管理規程の作成・届出等を義務付ける。併せて、透明性を確保するため、公共性の高い②の事業者には会計の整理・公表等を義務付ける。


(2)電波法関係の規定の整備

ア 海外から持ち込まれる無線設備の利用に関する規定の整備

訪日観光客等が我が国に持ち込む携帯電話端末及びWi-Fi端末等について、電波法に定める技術基準に相当する技術基準に適合する等の条件を満たす場合に我が国での利用を可能とする。


イ 技術基準に適合しない無線設備への対応

無線通信への妨害事例に適切に対応するため、無線設備の製造業者・輸入業者・販売業者に技術基準に適合しない無線設備を販売しないように努力義務を新たに規定する。また、技術基準に適合しない無線設備を製造・販売する者に対する総務大臣の勧告の要件を見直すとともに、勧告に従わない者に対する命令を規定する。



64 ADSL(Asymmetric Digital Subscriber Line:非対称型デジタル加入者線)
 DSLの一種であり、ADSLでは、上り方向と下り方向のそれぞれに用いられる周波数帯域幅が異なるため、伝送速度が非対称である。下り方向により広い帯域幅を割いているため、下り方向の伝送速度が速くなっている。

65 Tsuji, M. and M. Tomizuka(2006), “An Empirical Analysis of Factors Promoting Japanese Broadband Case of ADSL,” Proceedings of ITS Biennial Conference, Beijing, China.

66 明松 祐司 (2007) 「ADSL事業者のパネルデータを用いた普及要因の実証分析」『情報通信学会年報』

67 田中 辰雄 (2008) 「ADSLの普及要因」、田中辰雄・矢ア敬人・村上礼子著『ブロードバンド市場の経済分析』(慶應義塾大学出版会)、第2章

68 意思決定や評価時に複数の代替案がある場合、それぞれの代替案を階層的な構造によって評価し、複数の階層の評価要因に対する重要度を定量的に測定したり、代替案の優劣を比較する手法。

69 固定通信市場では、回線シェアが50%を超える電気通信事業者(平成27年6月時点では、東・西NTT。)。移動通信市場では、端末シェアが10%を超える電気通信事業者(平成27年6月時点では、NTTドコモ、KDDI、ソフトバンクモバイル、沖縄セルラー電話)。

70 名前解決サービス:インターネット上の通信は、ドメイン名でなくIPアドレス(インターネット上の機器を識別するための番号。例:202.214.160.1)により行われるため、インターネットの利用前にドメイン名に対応したIPアドレスを把握することが必要。名前解決サービスは、利用者からの問合せを受けて、ドメイン名に対応するIPアドレスを回答するサービスであり、インターネットの利用に必須のもの。

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