平成7年版 通信白書

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第1部 平成6年情報通信の現況

3 社会経済環境の変化と情報通信

 

(1)  産業の空洞化と情報通信


 我が国の製造業の対外直接投資額(フロー)の推移をみると、元年度をピークに4年度まで減少傾向が続いていたが、5年度には再び増加となった。投資先別のシェアの推移をみると、北米が依然として高いシェアを占めているが、近年アジア地域のシェアが高まっている(第1-2-4-13図参照) 。その要因の一つとして、円高の進行に対応して生産コストの低いアジア地域へ生産拠点の移転が進んだことがあげられる。この傾向は今後も続くことが予想されており、産業の空洞化に対する懸念がみられるようなってきている。
 ここでは、製造業における生産拠点の移転が国内電気通信産業、国際電気通信産業、放送産業に与える影響を定量的に把握する。
 12年(2000年)における産業の空洞化の進展状況を製造業の海外生産比率、日本からの中間財の調達比率等の違いにより、[1]空洞化標準ケース、[2]空洞化加速ケースに分け、それぞれのケースについて国内電気通信産業、国際電気通信産業、放送産業の生産額を推計し、産業の空洞化がこれらの産業に与える影響の大きさをとらえることとする(第1-2-4-14表参照) 。
 産業連関表(総務庁)によると、2年の国内電気通信産業、国際電気通信産業、放送産業の生産額は、それぞれ6兆6,470 億円、2,720 億円、2兆2,490 億円(2年価格。以下同じ)である。年平均経済成長率が2.8 %で、2年より産業の空洞化が進展せず、海外生産比率等の各指標が2年と同じであるとすると、12年には、国内電気通信産業、国際電気通信産業、放送産業の生産額は、それぞれ9兆3,220 億円、1兆 520億円、2兆8,530 億円に拡大すると見込まれる。
 一方、産業の空洞化が標準ケースで進展した場合、12年には、国内電気通信産業、国際電気通信産業、放送産業の生産額は、それぞれ9兆3,120 億円、1兆 500億円、2兆8,510 億円と予測され、2年より空洞化が進展しない場合と比べ、それぞれ100 億円(0.11%)、20億円(0.19%)、20億円(0.07%)の減少が見込まれる。これは全産業の生産額の減少率0.32%を下回っている。
 また、産業の空洞化が加速ケースで進展した場合、12年には、国内電気通信産業、国際電気通信産業、放送産業の生産額は、それぞれ9兆2,670 億円、1兆 420億円、2兆8,390 億円と予測され、2年より空洞化が進展しない場合と比べ、それぞれ550 億円(0.59%)、100 億円(0.95%)、140 億円(0.49%)の減少が見込まれる。これは全産業の生産額の減少率1.75%を下回っている(第1-2-4-15図参照) 。
 以上のように、今後一層、産業の空洞化が進展した場合、国内電気通信産業、国際電気通信産業、放送産業の生産額は減少するものの、その度合いは比較的小さく、空洞化の影響を受けにくい産業であることがうかがわれる。
 他方、テレビ会議システムが海外の生産拠点との間のコミュニケーションツールとなりつつあること(第1部第4章1節2(2) 参照)などに鑑み、情報通信が産業の空洞化を補う手段として活用されていくと考えられる。
 また、情報通信産業全体では、生産額と雇用者数が平均以上に伸びており(第1部第4章2節4参照)、特に電気通信産業については、他産業に比べ設備投資が順調に伸びていること(第1部第2章2節1(2) 参照)、事業者の生産性が向上していること(第1部第2章4節23)参照)などを勘案すると、産業の空洞化によって解放される資源が、これらの産業に振り向けられ、産業の高度化を促進することが予想される。
 

(2)  国際化の進展と情報通信


 郵政省郵政研究所が行った調査結果を基に、国際通話トラヒックの特性について記述する。
 我が国と20の国及び地域(注) の間の発信回数、着信回数、発着信合計回数のそれぞれについて、貿易額、登録外国人数等で説明する関数の推定結果は第1-2-4-16表 のとおりである。
 国際通話トラヒック全体(発着信合計)では貿易額弾性値が0.85、登録外国人数弾性値が0.23である。
 また、発着信別では、発信の貿易額弾性値が0.71、登録外国人数弾性値が0.29、着信の貿易額弾性値が1.11、登録外国人数弾性値が0.12である。日本の貿易額は着信に、登録外国人数は発信に対して影響力が大きいことがわかる。
 

(3)  経済のサービス化と情報通信


 我が国のGDP(名目、実質)及び雇用者数に占める第三次産業の比率の推移をみると、我が国経済における第三次産業のウェイトが高まっており、経済のサービス化が進行していることがわかる(第1-2-4-17図参照) 。
 ここでは、財をサービス財(第三次産業の生産財)と物財(第三次産業以外の産業の生産財)に分け、生産額の変動要因としてそれぞれの需要及び生産に関わる変化を考える。通信産業、放送産業について、それぞれの生産額の変動に対する両財の寄与度を測定し、サービス財の寄与度の違いをとらえる(第1-2-4-18図参照) 。
 昭和60年と比較した2年における通信産業の実質生産額の増加率5.23%のうち、サービス財の寄与度は3.50%、物財の寄与度は1.73%であり、サービス財の寄与度が大きく、経済のサービス化の影響を強く受けている。
 また、昭和60年と比較した2年の放送産業における実質生産額の増加率8.45%のうち、サービス財の寄与度は3.23%、物財の寄与度は5.22%であり、サービス財より物財の影響を強く受けている。これは、放送産業の生産額の約8割(2年で78.7%)を占める民間放送でサービス部門の変化の寄与度が小さいためであるが、その背景として製造業のテレビ広告費が多いことがあげられる。6年のテレビ広告費を業種別にみると約7割が製造業によるものである(第1-2-4-19図参照) 。


第1-2-4-13図 製造業の対外直接投資額の推移

第1-2-4-14表 経済指標等の前提

第1-2-4-15図 通信・放送産業に対する産業の空洞化の影響

第1-2-4-16表 国際通話トラヒックの特性

第1-2-4-17図 経済のサービス化の進展状況

第1-2-4-18図 通信・放送産業の生産額の変化に対する寄与度

第1-2-4-19図 産業別テレビ広告費の構成比
 

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