平成7年版 通信白書

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第2部 情報通信政策の動向

第2章 高度情報通信社会の実現に向けて展開する情報通信政策

 第1節 高度情報通信社会の実現に向けた政府の取組

 6年8月、政府は、我が国の高度情報通信社会の構築に向けた施策を総合的に推進するとともに、情報通信の高度化に関する国際的な取組に積極的に協力するため、内閣に、内閣総理大臣を本部長、内閣官房長官、郵政大臣、通商産業大臣を副本部長とする「高度情報通信社会推進本部」を設置した。
 同本部には各界の有識者12名で構成される有識者会議が設置されており、同会議では、高度情報通信社会の構築に向けた情報通信インフラの整備や政府の取組の在り方等の検討を行うため、関係省庁や情報通信に関する学識経験者からヒアリングを実施し、6年12月本部に対して意見を報告した。
 同本部では、有識者会議からの意見等を踏まえ、7年2月、我が国の今後の情報通信インフラ整備の指針となる「高度情報通信社会推進に向けた基本方針」を決定し、同月ブラッセル(ベルギー)で開催された「情報社会に関する関係閣僚会合」において、我が国の取組として各国に提示した。
 郵政省をはじめ各省庁は、今後本方針に基づき情報化施策を推進していくこととしており、同本部及び有識者会議においては、フォローアップを実施していくこととしている。
 本基本方針の主な概要は次の通りである。
<1> 高度情報通信社会に向けての基本的な考え方
(1) 高度情報通信社会の意義
 「高度情報通信社会」とは、人間の知的生産活動の所産である情報・知識の自由な創造、流通、共有化を実現し、生活・文化、産業・経済、自然・環境を全体として調和し得る新たな社会経済システムである。高度情報通信社会の構築に向けた動きを加速・推進するためには、情報・知識の創造・流通・共有化を支える情報通信インフラの早急な整備が必要である。
(2) 高度情報通信社会実現のための行動原則
 政府は、以下の行動原則に基づき、高度情報通信社会の実現を図る。
[1]誰もが情報通信の高度化の便益を安心して享受できる社会
[2]社会的弱者への配慮
[3]活力ある地域社会の形成への寄与
[4]情報の自由な流通の確保
[5]情報通信インフラの総体的な整備
[6]諸制度の柔軟な見直し
[7]グローバルな高度情報通信社会の実現
(3) 高度情報通信社会の構築に向けての官民の役割
 高度情報通信社会の構築は、公正有効競争の下に基本的には民間主導で進めるべきであり、政府としては、広域性への対応、経済的・法制的な側面などのバックアップ、基礎的・先端的な研究開発の推進、基盤整備に対する公的支援等の所要の環境整備を総合的、計画的に行っていくこととする。
(4) 高度情報通信社会の構築に向けての政府の取組の在り方
 高度情報通信社会の構築は国づくりの基幹のひとつであるという視点に立った施策の推進が不可欠である。政府としては、特に主要地域の光ファイバ網整備と、それを活用した公的アプリケーションの導入、実用化、及び基礎的汎用(はんよう)的技術開発については、2000年までを先行整備期間として進める。光ファイバ網については、2010年を念頭に早期に全国整備を目指す。
<2> 高度な情報通信社会の実現に向けた課題と対応
 当面対応すべき具体的政策課題と、講ずべき施策の基本的方向性は次の通りである。
(1) 公共分野の情報化(公共分野のアプリケーションの開発・普及等)
 公共分野の情報化については、我が国社会全体の情報化推進の起爆剤として期待されているところから、政府は、国民誰もが充実した公共サービスを享受できるよう、自らユーザーとして先進的アプリケーションの開発・導入など先導的な役割を果たしていく必要があるため、総合的、計画的に施策を講じていくこととする。
 本基本方針を受けて各省庁が分野毎の目標、中期的施策、その進め方等を内容とする実施指針を策定し、明らかにする。
(2) 情報通信の高度化のための諸制度の見直し
 情報通信技術の飛躍的な進展に伴い、現行法体系自体が情報通信の利用を想定しておらず、実行することが困難な利用形態が多く出現している。情報通信技術の飛躍的な進展を踏まえ、諸制度の目的に配意しつつ、どうすれば利用が可能になるか法制度を体系的に総点検するなど、諸制度の検討結果を踏まえ、見直しを行い、所要の規制緩和措置を実施する。
(3) ネットワークインフラの整備
 高度情報通信社会の実現に向けて、アプリケーション整備と同時にネットワークインフラについても、[1]全国的均衡のとれた整備、[2]地震等の災害に対する脆弱(ぜいじゃく)性の克服、[3]諸外国の動向を踏まえた整備が必要である。特に光ファイバ網については、交通ネットワークのごとく、我が国の社会経済活動に不可欠になることが予想され、経済の持続的発展と国民生活の質の向上と地域間の情報格差の是正に大きく貢献するものであって、早期に全国整備を行う必要がある。
 しかしながら、ネットワークインフラは、敷設当時の需要に比べ相当大きな需要に耐え得る整備の敷設を行うなど大きな投資負担を負う必要があり、短期的な立ち上げにおいては投資促進のための政策支援が不可欠である。
 そこで、先行整備期間における光ファイバ網整備事業者への新たな低利融資制度の創設等の公的支援措置、CATV事業の基盤の整備等の施策を総合的、計画的に推進する。
(4) 情報化の進展に対応した著作権等の施策の展開
 高度情報通信社会の実現のためには、ハード面の整備に併せて、国民の多様なニーズに応え、新しい魅力あるソフトが積極的に創作・供給される環境及びソフトを適切かつ円滑に利用することができる環境の実現が極めて重要であり、高度情報通信社会における著作権等の在り方について、国際的調和に留意しつつ早急に検討を進める。
(5) セキュリティ対策、プライバシー対策
 高度情報通信社会においては、地震等の災害により情報システムのダウン等の障害などが発生した場合、国民生活全般に重大な影響が生じるほか、個人に関する情報が本人の知らない間に収集・蓄積され、あるいは本人の予想しない目的に利用・悪用される可能性が増大する。このため、情報システムのセキュリティ対策の実施や個人情報の適正な保護が極めて重要となることから、各種セキュリティに関するガイドライン等の見直し及び国際的なハーモナイゼーションを図るなどの対応を行う。
(6) 相互運用性・相互接続性の確保
 相互運用性・相互接続性の確保は高度情報通信社会の基盤となるものである。
ITUやISO等の国際的な標準化機関の動きと整合しつつ、システムやサービスの提供者のみならず、ユーザーの利便性の向上の観点に立ち、オープンなインターフェースの確保に重点をおきつつ、官民が協力して、相互運用性・相互接続性の確保及び標準化を推進していく。
(7) ソフトの供給
 ソフトの充実のためには、ソフト制作者の権利及びソフトの作成の際に利用される既存の著作物の権利を適切に保護しつつ、その利用が円滑に行われる体制を整備、確立しながら、ソフトの再利用、多面的な利用を確保する必要がある。また、情報通信の普及を促進しうる誰にでも操作できる簡便なソフトの制作及び、様々なニーズに応えうる多彩なソフト制作に向け、ソフト産業の分野で、資金調達の円滑や才能開発を含めた人材教育など制作環境整備が必要である。
 以上の認識に立ち、資金力の乏しいソフト系ベンチャー企業に対する支援等の施策を講ずる。
(8) 基礎的な技術開発
 民間事業者の創意工夫による新サービスの開発やインフラ整備を一層促進するため、政府は基礎的研究開発を推進するとともに、高度情報通信社会において必要となる機器やソフトの開発にインセンティブを与えていく必要がある。このため、情報通信の高度化のための各種アプリケーションのコンセプトを策定し、これに基づき各種アプリケーションを支える基盤的な基礎技術について、長期的視野に立った取組等を進める。
(9) 人材の育成
 全ての人々が基礎的な情報処理・活用能力を身につけることができる環境の整備に努めるとともに、高度情報通信社会の発展を支える専門的な人材の育成や、情報通信技術に関する実務者の育成等を進める。
<3> 国際的な貢献
(1) 世界情報インフラに向けた動き
 持続的な経済成長、雇用の拡大、地球的環境問題への対応等の課題を解決する上で、情報通信の果たす役割が重要であるとの観点から、各国において高度情報通信社会に向けた取り組みが進められてきており、最近では、こうした取り組みを世界的な規模で実施しようとする世界情報インフラ構想の実現に向けた動きが急速に進展しつつある。
(2) 全世界的な取り組みの必要性
 グローバルな高度情報通信社会を実現するためには、先進国のみならず開発途上国においても情報通信の高度化が進むことが重要であり、先進国政府が適切な協力策を講じていく必要がある。また、各国共通のグローバルなビジョンを策定し、国内施策に反映させていくための前提として、関係国際機関も含め、円滑な政策協調・情報交換体制の整備を早急に行わなければならない。
(3) 世界的規模の共同プロジェクト
 国際的な整備目標を設定し、様々なアプリケーション開発のパイロットプロジェクトを世界的規模の共同プロジェクトとして実施することを通じて、一般の人々に対し、高度情報通信社会のもたらすメリットを示し、高度情報通信社会に関する理解を深めることは大きな意味を持つ。
(4) 情報の適切かつ自由な流通のための環境整備
 著作権等の在り方に関する国際的なルールの検討と国際的調和、プライバシーの尊重・個人データの保護、セキュリティの確保、ハードウェア・ソフトウェアを通じて世界的な相互運用性・相互接続性の確保に関する制度面での国際調和のための検討・配慮が必要となる。

 

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