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第1部 特集 ICTがもたらす世界規模でのパラダイムシフト
第1節 成長のエンジンであるICTの重要性と我が国の取組

(3) ICT投資・利活用が持つポテンシャル

これまでの分析によって、業績を向上させている企業は、それ以外の企業に比べて、ICT化や組織改革・人的資本への取組を積極的に行っていることが確認できた。

また、設備投資全体に占めるICT投資の割合(前述図表2-1-1-1参照)や各産業の情報資本ストックの伸び率11を他国と比較すると、日本のICT投資の水準は高いとはいえない状況にあり、実際にICTの貢献で業績を上げている企業は一定の割合にとどまっている。

それでは、ICT化や組織改革・人的資本への取組に必ずしも熱心とはいえない企業がより前向きに取り組むことで、日本の経済成長をより高めることはできないだろうか。ここでは、ICT化と組織改革・人的資本への取組が遅れている企業が、これらの取組を行い、業績を向上させた場合、日本経済に与えるインパクトについての試算を行った。

まず、ICT化に加えて、組織改革・人的資本への取組の各項目のうち、業績向上に寄与している項目をより具体的に抽出するために、統計的分析をおこない、統計的に有意な項目を抽出した(図表2-1-1-28)。

図表2-1-1-28 業績向上に寄与する項目の例
(出典)総務省「ICTによる経済成長加速に向けた課題と解決方法に関する調査研究」(平成26年)

さらに、各産業において有意とされたICT化、組織改革・人的資本への取組のうち、未実施の回答が最も多い項目をそれぞれ抽出し、各産業でそれらの項目を実施していない企業が実施することによって、どの程度の企業で業績が向上し、それに伴って、ICT投資を増加させるか試算を行った。

その上で、ICT投資を増加させる企業の増加率と同じ比率で各産業の情報資本ストックが増加すると仮定した上で、情報資本ストックの伸び率が増加した場合、どの程度実質GDP成長率が増加するかを推計した(図表2-1-1-29)。

図表2-1-1-29 情報資本ストックシミュレーション結果
(出典)総務省「ICTによる経済成長加速に向けた課題と解決方法に関する調査研究」(平成26年)

シミュレーションを行うにあたっては、まずベースとなる経済成長率を、以下の経済モデル(生産関数モデル)を用いて計算した12。ベースとなる情報資本ストックの伸び率及び2014年度の実質GDP成長率予測値は(株)情報通信総合研究所「2013〜2016年度経済見通し」を用いている13

GDPの式

このベースラインから各産業において有効なICT化と組織改革・人的資本への取組が実施されることによって、どの程度実質GDP成長率が拡大するのかを推計したところ14、実質GDP成長率はベースラインの予測値に比べて0.5%大きくなった。つまり、有効なICT化と組織改革・人的資本への取組を推進することで、他の事情は一定とすると、実施されていない状況よりも実質GDP成長率を0.5%押し上げる効果が期待できる15図表2-1-1-30)。

図表2-1-1-30 ICT投資によるGDP押上げ効果
(出典)総務省「ICTによる経済成長加速に向けた課題と解決方法に関する調査研究」(平成26年)

ICT投資と一般投資の乗数効果

ICT投資による経済成長効果と一般投資による経済成長効果については、昨年の白書においても、神奈川大学の飯塚教授、九州大学の篠﨑教授らが行ったマクロ計量モデルによるシミュレーションを紹介したが、今般、2012年度国民経済計算確報の最新データを反映するとともに、モデルを構成する方程式の一部を改訂した16最新の研究成果が両氏らから発表されたため、その成果について紹介する17

(ア)シミュレーションの前提

本研究では、両教授の監修のもと、情報通信総合研究所が実施した2013-2016年度経済見通しの額をベースラインとして、2014-2016年度までICT投資が毎年度1兆円増加するシナリオのシミュレーションを行うとともに、ICT投資は増加せずにICT以外の一般投資だけが2014-2016年度まで同額増加する場合のシミュレーションも併せて実施し、両者における乗数効果の違いを比較している。

(イ)シミュレーションの結果

ICT投資が増加する場合では、ベースラインと比べて、実質GDPは2014年度に1.12兆円、2015年度に1.82兆円、2016年度に2.31兆円増加する。

他方で、ICT投資以外の一般投資が増加するケースでは、ベースラインと比べて、実質GDPは2014年度に0.95兆円、2015年度に1.18兆円、2016年度に1.20兆円増加する。

ICT投資が増加することにより実質GDPが増加する理由は、一般投資よりも生産性の高いICT投資の設備が蓄積されることで、企業収益が改善し、さらなる設備投資が実施されることに加えて、雇用者報酬の増加から消費支出が拡大すること等の波及がみられ、実質GDPを押し上げている。

(ウ)両シナリオにおける乗数効果

ICT投資が増加した場合と一般投資が増加した場合のシミュレーションで得られた乗数効果を比較する。ICT投資が増加するケースでは、2014年度で1.119、2015年度で1.819、2016年度には2.311となる一方、一般投資が増加するケースでは、2014年度で0.950、2015年度で1.181、2016年度で1.198にとどまっている(図表)。

図表 ICT投資と一般投資の乗数効果
(出典)「マクロ計量モデルの改訂と乗数効果の計測」(飯塚信夫・篠﨑彰彦・久保田茂裕)

以上から、同じ1兆円の投資を行うのであれば、成長を増加させる効果がより高いICTに代表される財へ投資した方が、日本経済へよりよい影響をもたらすとしている。



11 平成24年版情報通信白書86p

12 この経済モデルのパラメタα、β、γ、Aを用いると、情報資本、一般資本、労働投入の水準に応じた実質GDPを計算することができるので、情報資本、一般資本、労働投入が増加した場合の実質GDP成長率を計算することができる。

13 情報通信総合研究所「2013〜2016年度経済見通し」では、情報資本ストックの伸び率を3.2%、2014年の実質GDP成長率予測値を0.74%としている。

14 一般資本、労働投入の伸び率がベースラインから変化しないと想定する。

15 なお、ここでは一般資本、情報資本、労働投入以外の要素として実質GDPに影響するTFP(全要素生産性)は一定としているが、シミュレーションで想定している組織改革・人的資本への取組み等が実施されれば、無形資産が拡大することになるのでTFPも上昇することが考えられる。このTFPの上昇も考慮すれば実質GDP成長率はさらに高まる可能性がある。

16 昨年の研究成果からの変更点は、①賃金関数の説明変数に1期前の売上高経常利益率を加えることで、ICT投資の雇用・所得面へ及ぼす経路を、②輸出関数の説明変数に海外生産比率を加え、現地生産を行う企業が増えると輸出の伸びを抑える経路を、それぞれ加えた点である。また、③円ベースの輸出物価指数関数及び輸入物価関数の説明変数に為替レートを追加している。

17 「マクロ計量モデルの改訂と乗数効果の計測」(飯塚信夫・篠﨑彰彦・久保田茂裕)
http://www.icr.co.jp/press/press20140304.html別ウィンドウで開きます

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