総務省トップ > 政策 > 白書 > 26年版 > データ活用を推進する上での課題
第1部 特集 ICTがもたらす世界規模でのパラダイムシフト
第4節 本格的なデータ活用社会の到来

(2) データ活用を推進する上での課題

一方で、データ活用を進める上での課題も存在している。様々な指摘がある中でも共通している課題として、パーソナルデータの取扱いとデータ活用人材の確保が挙げられる。

データ活用を行う企業等にとって、より価値の高いデータを確保して分析に用いれば、得られる効用も高くなる。その観点において、利用者に直接紐付いたデータを活用できれば、利用者の意識や動向を直接的に把握でき、価値が高いと考えるようになる。他方、消費者にとっては、自身のプライバシーが侵害されたり、第三者によって悪用されるのではないか、と懸念を有することになる。今後、我が国においてデータ活用を円滑に進めていく上でも、パーソナルデータの活用と保護のバランスをどのようにとっていくかが重要な課題である。本年6月24日のIT総合戦略本部において「パーソナルデータの利活用に関する制度改正大綱」が決定された。今後、制度の改正により、消費者の理解も得られた形でのデータ活用が進むことが期待される。

また、データの活用により効果を得ていくためには、処理したデータから有益な知見を導き出し、企業/組織における課題の解決に役立てることのできる人材を確保することが重要であるが、特に我が国においては、そのような専門的人材が不足していると言われる。企業アンケートからも多くの企業ではデータ分析は社内で行い、かつ、専門のデータ解析担当者ではなく、それぞれの業務担当者が行っているのが実情である。もちろん、企業によって求められるデータ活用の深度は異なるので、専門的人材を有しなくとも業務に必要な知見を十分に得られる場合はあるが、高度な分析を必要とする際に、それを担う人材を社内・社外を問わず、いかに確保していくかは重要な課題である(トピック参照)。

現在、総務省では「ICT新事業創出推進会議」を開催し、平成32年(2020年)に向けて期待される新事業・新サービスのイメージとその創出のために必要なプロジェクトのあり方について議論を進めている。そこで中核を成しているのは、ビッグデータ、オープンデータ、パーソナルデータといったデータの活用であり、それが様々な情報通信技術と連動し、様々なアプリケーションを巻き込むことによって新事業・新サービスの創出につながるとしている。今後、データ活用を進める上での環境が一層整備され、これまで以上に新たな価値を生み出していくことが期待される(図表3-4-1-3)。

図表3-4-1-3 ICT新事業創出に向けたPROJECTとACTION
(出典)総務省「ICT新事業創出推進会議」(第10回)資料

データサイエンティストとは

ビッグデータがクローズアップされる中、データ分析を行う専門的な人材として「データサイエンティスト」に注目が集まっている。Googleのチーフエコノミストであるハル・ヴァリアン氏の「今後10年間でセクシーな職業は統計家である」という言葉は至る所で引用され、統計学やデータ分析に関する書籍が数多く出版されているのはその現れと言えよう。

「データサイエンティスト」についての明確な定義は存在しないが、単に企業内/組織内のデータを集約して処理するだけの人材ではなく、そこから有用な知見を引き出した上で、企業の意思決定に活かすことのできる人材であると言われている。求められる能力としては、統計学に関する知識、分析ツールやデータ処理基盤を使いこなす能力、ビジネスを理解した上で問題を発見し解決できる能力、データ分析で得られた知見を他人に伝えるコミュニケーション能力、といったものが挙げられる。

企業アンケートでもデータ活用における課題として「どのように分析するかわからない」という意見が一定程度占めている状況において、データ分析に精通した人材への企業のニーズは高いと考えられる。今後、そのニーズは一層高まることが予想される一方、データサイエンティストは世界規模で不足していると言われている。米国のMcKinsey社によると、米国では2018年(平成30年)までに、高度なアナリティクス・スキルを持つ人材が14万〜19万人不足すると算出している(図表1)。

図表1 米国におけるデータ分析人材の見通し(単位:千人)
(出典)McKinsey Global Institute「Big data: The next frontier for innovation, competition, and productivity」

データ分析を担う人材の不足は日本も例外ではない。McKinsey社の調査によると、統計学や機械学習に関する高等訓練の経験を有し、データ分析に係る才能を有する大学卒業生の数は、日本は平成20年(2008年)単年で3,400人しかおらず(図表2)、かつ、平成16年(2004年)から平成20年(2008年)までの5年間、日本におけるデータ分析の才能を有する人材が減少傾向にあったとしている(図表3)。

図表2 データ分析の訓練を受けた大学卒業生の数(2008年 単位:千人)
(出典)McKinsey Global Institute「Big data: The next frontier for innovation, competition, and productivity」
図表3 データ分析の才能を有する人材の推移(単位:千人)
(出典)McKinsey Global Institute「Big data: The next frontier for innovation, competition, and productivity」

米国ではデータサイエンティストの育成に向け、各大学でデータサイエンスに関するプログラムを開講しているほか、ICT関連企業でも社内に研修プログラムを設置する等の流れが生まれている。

日本においても競争力確保の観点からデータサイエンティストの育成は急務となっており、官民で様々な取組が行われているところである。総務省統計局及び統計研修所では、日本統計学会等と協力し、統計力向上サイト「データサイエンス・スクール」を統計局ホームページに開設1したほかMOOCの手法を用いた「データサイエンス・オンライン講座」を開設する予定である。大学等でもデータサイエンスの講座が設けられているほか、自社内のデータサイエンティストの育成に力を入れる企業やトレーニングコースを設けて外部から受講者を募集する取組も存在する。



1 http://www.stat.go.jp/dss/別ウィンドウで開きます

テキスト形式のファイルはこちら

ページトップへ戻る