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第1部 特集 ICTがもたらす世界規模でのパラダイムシフト
第1節 成長のエンジンであるICTの重要性と我が国の取組

(2) 2020年へ向けて

このように、政府としても2020年に向けた取組を強化しているが、その背景として2020年に開催が予定されている東京オリンピック・パラリンピックがあり、世界最大級の都市である東京で行われることからも国内に限らず海外からの多く観光客が訪れることが見込まれることから、我が国のICT技術や文化等を海外に発信する大きな機会になることも期待されている19

ア 東京オリンピック(1964年)以降

過去の歴史を振り返ってみると、前回の昭和39年(1964年)の東京オリンピックにおいては東海道新幹線が開通し、現在でも我が国を支える重要な交通手段となったが、世界初の「テレビオリンピック」とも言われ20、ICT分野でもオリンピック初の衛星放送中継が開始される等の大きな変化があった。また、1960年より本放送が始まったカラー映像でのテレビ中継も同大会から行われ、世界に日本の放送技術の高さを示すとともに、我が国でカラーテレビが急速に普及する契機になったことも知られている。その後においても、オリンピックに合わせた放送分野や大会結果を伝えるインフラ整備が進み、1972年の札幌オリンピックでは電光掲示板をはじめ大会競技を本格的に支援するシステムも導入されるなど、時代と共にICTの応用範囲は拡大し様々な場面で活用されるようになり、放送から通信・インターネットへ、B2BからB2Cへと応用範囲を広げて活用されるようになった(図表2-1-2-5図表2-1-2-6)。

図表2-1-2-5 過去のオリンピックとICTの関わり
(出典)総務省「オリンピック・パラリンピックがもたらすICT分野の事例及び経済効果等の調査研究」(平成26年)
図表2-1-2-6 1964年とカラーテレビの普及
(出典)内閣府「消費動向調査」より作成
「図表2-1-2-6 1964年とカラーテレビの普及」のExcelはこちらEXCEL / CSVはこちら
イ 長野オリンピック(1998年)

1998年(平成10年)の長野オリンピックにおいても、ICTは重要な役割を占めた。

同大会では、システムオペレーションセンター(SOC)とメインプレスセンター(MPC)、国際放送センター(IBC)の3個所が専用線(45Mbps)で相互接続され、大会期間中に約4,000台のマシンが接続されたとされている。

主な情報システムとして、競技の公式記録を出す「リザルトシステム」は、選手がゴールしたときの記録などを即座に判定してスコアボードに反映され、「Info‘98」では、それらの記録情報の他に選手情報や競技予定などが提供された。また、映像メディア向けのシステムである「CIS」は、リアルタイムに競技情報を提供することにより、実況中継を行うアナウンサーを支援し、これらは施設内にある光ファイバーケーブルにまとめられ、国際放送センター(IBC)に集められた映像は光ファイバーや衛星で各競技場に再配信された(図表2-1-2-7)。

図表2-1-2-7 長野オリンピックのICT
(出典)総務省「オリンピック・パラリンピックがもたらすICT分野の事例及び経済効果等の調査研究」(平成26年)

加えて、本大会では、国際映像回線には主に通信衛星が使用され、ほとんどの回線でデジタル映像が送られたことも特徴である。日本側からのアップリンクには、通常のテレビ用衛星中継に使われる茨城県と山口県のKDD(現KDDI)衛星通信所のパラボラアンテナが使われ、会場から直接海外へ映像伝送するため、長野市内のIBCに設置された2基のパラボラアンテナを装備した車載型地球局「ビックシェル」も用意され、日米間を結ぶ太平洋横断ケーブルと併せて使用された。

ウ ロンドンオリンピック(2012年)

直近の例で見てみると2012年のロンドンオリンピックは、ソーシャルメディアが世界的に普及して初のオリンピックであることから「過去最大のデジタル五輪」あるいは「世界初のソーシャル五輪」とも呼ばれ、インターネットが特に大きく活用されたことが特徴である。

同大会ではICTにおいては「ソーシャルメディア」、「セキュリティ」、「サスティナビリティ(持続性)/スケーラビリティ(拡張性)」の3テーマが掲げられ、五輪大会の運営上不可欠な要素としてICTが積極的に活用された(図表2-1-2-8)。併せて、大会3年前からネットワーク等の設計が行われ、2年前に構築、1年前にテストを重点的に実施するという入念な取組も行われた21

図表2-1-2-8 ロンドンオリンピックにおいて活用されたICT
(出典)総務省「オリンピック・パラリンピックがもたらすICT分野の事例及び経済効果等の調査研究」(平成26年)

ソーシャルメディアにおいては、視聴者、選手、協賛企業等が会場の内外においてプロモーションを含めて幅広く活用し大会を盛り上げたほか、IOCでは、ソーシャルメディアの影響力を考慮して、事前にガイドラインを準備した。

その結果、Twitterでは、2010年のバンクーバーオリンピックの約19倍にあたる966万ツイートが開会式時に世界で呟かれ、大会期間中では2008年の北京オリンピックの125倍にあたる1億ツイートにも達した22

セキュリティにおいては、侵入検知システムの構築した上で、他システム(大会運営・リザルトシステム等)と監視システムのネットワークを分離し、技術運用センター(TOC)内にあるセキュリティ運用センターにてシステムログを24時間監視するなど自動化及び人的な対策を講じた。公式サイトは世界中のハッカーからの攻撃ターゲットとされ毎秒1万1,000件もの不正リクエスト等もあったが、これら取組により、オリンピック競技運営を支障なく実現させたとされている。

サスティナビリティ(持続性)/スケーラビリティ(拡張性)においては、ネットワークデザインの要件を15%削減して材料や消費電力を節約し、ICTインフラが環境に与える影響について分析を行ったことや、クラウドベースのIP電話システムを活用して必要回線数の急増減に柔軟に対応する仕組みを構築したこと等が挙げられる。

これらの施策の中で、通信面を支えたのは英国BT社等であり、同大会に向けて総延長4,500kmのケーブルを新たに敷設する等、2008年の北京オリンピックの約4倍にもなる60Gb/秒のデータ転送設備を用意した。また、1,800カ所におよびWi-Fiスポットを設置することでオリンピック関係者や観光客等の通信環境を確保するとともに、大会期間中のデータオフロード23にも活用され、選手村等で設置した高速ブロードバンド等と合わせ、これら通信インフラの大部分は大会後にも活用された。

同大会では、大会サイトおよびリザルトアプリ24のアクセス数25は47.3億PV26、ユニークユーザー数27は1.1億人に達し、ピーク時には5秒間に49.3万人28がアクセスするなど大規模なアクセスが集中したが、サイトのダウン等の大規模な障害は起こらなかったといわれている。また、London 2012 WEBサイト利用の半数程度をモバイル端末が占めるなど、スマートフォン等のモバイル端末への配信・サービス提供が重要な大会となったことも特徴である29図表2-1-2-9)。

図表2-1-2-9 ロンドンオリンピックにおけるWebサイトアクセス
(出典)総務省「オリンピック・パラリンピックがもたらすICT分野の事例及び経済効果等の調査研究」(平成26年)

放送面においては英国BBC社等が主体となり、全競技の高精度な映像がリアルタイムかつ多様な視聴形態で配信され、地上波放送、オンライン配信(パソコン、モバイル、インターネット接続テレビ向け等)、双方向サービスのそれぞれについて図表2-1-2-10に示すサービスが提供され、ここでもインターネットが活用された。

図表2-1-2-10 ロンドンオリンピックにおけるBBCの取組
(出典)総務省「オリンピック・パラリンピックがもたらすICT分野の事例及び経済効果等の調査研究」(平成26年)

英BBCのオンライン配信の総視聴回数は1億回を超え、北京オリンピックの3倍超となり、このうちの約60%がライブストリーミングと報告されている。また期間中、米国NBCは全競技をインターネット中継で配信し、特設サイトは20億PV、ストリーミング映像の視聴回数は1億5,900万回に上ったとされている30

エ 東京オリンピック・パラリンピック(2020年)

このようにICTはオリンピック・パラリンピックにおいても大会を支える重要インフラとして欠かせないものとなっており、現在のフルハイビジョンと比べ大幅な高精細映像が実現できる4K・8Kテレビについても2014年6月より4Kの試験放送を開始されている。さらに、2016年には8Kの試験放送が始まる予定であり、スマートテレビと合わせて今後のオリンピック等を意識した官民一体となった取組等も進められている(図表2-1-2-11)。

図表2-1-2-11 放送サービスの高度化に関するロードマップ

2020年に開催される東京オリンピック・パラリンピックは日本全体の祭典として、我が国が活力を取り戻す弾みになるとともに、それらを世界に発信する絶好の機会となる可能性を秘めており、第1章で述べたように我が国だけでなく地球規模でICTが普及しつつあることからも、ICTは今後更に幅広い産業に浸透していき、2020年における重要性も一層増していると考えられる。

総務省においても、2020年東京オリンピック・パラリンピックに向けたICT施策について、「ICT成長戦略推進会議」及び「ICT国際競争力強化・国際展開に関する懇談会」等における議論で、多くの構成員からの報告や提言がなされており、それらを踏まえ「オリンピック・パラリンピックおもてなしグループ」を平成26年4月に設置し、2020年東京オリンピック・パラリンピックにおける「ICTによる最高のおもてなし」の実現に向け、取り組むべきICT分野の施策について集中的に検討を行い、今後これら取組を進めていくこととしている(図表2-1-2-12)。

図表2-1-2-12 「ICTによる最高のおもてなし」の実現に向けて


19 東京オリンピック・パラリンピック招致委員会では、2020年東京大会におけるチケット売上総数を約1000万枚と想定

20 http://www.nhk.or.jp/strl/aboutstrl/evolution-of-tv/p10/別ウィンドウで開きます

21 Atos社「preparationfor the London 2012 Olympic Games」

22 Twitter Japan 2012/8/13発表(8/10迄の集計):https://blog.twitter.com/ja/2012/rondonnohairaito別ウィンドウで開きます

23 集中するデータ通信のトラヒックを、Wi-Fi等の様々な回線手段を用いることで回線負荷を分散させること。

24 大会結果等を閲覧するスマートフォンアプリ

25 IET「Delivering London 2012: ICT implementation and operations」、 BT社「Looking back on the most connected Olympic Games ever」

26 ページビュー:ウェブサイト各ページそれぞれのアクセス数合計値

27 1人が複数回アクセスしても1とカウントした集計人数

28 ピーク時の数値はPC及びWebのみ(アプリ含まず)

29 出典:IET Delivering London 2012:ICT implementation and operations

30 http://nbcsportsgrouppressbox.com/2012/08/14/ondon-olympics-on-nbc-is-most-watched-television-event-in-u-s-history/別ウィンドウで開きます

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