昭和62年版 通信白書

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3 暮らしと情報化の進展

 今日,我が国においてみられる情報化の著しい進展は,産業や企業活動の分野にとどまらず,暮らしの中にまで及んでいる。ここでは,情報化に対する国民の意識を分析するとともに,暮らしの中において,企業の情報化がどのように利用されているかについて述べる。

(1)国民の情報観

 情報化が進展し,多種多様な情報が豊富に提供されるようになっている。これに対する国民の意識を,60年世論調査及び62年世論調査の結果を基に分析する。
 (情報は多いほうがよい)
 「情報は多いほうがよいと思うか,少ないほうがよいと思うか」という質問に対しては,「多いほうがよい」という人が34.8%,「どちらかといえば多いほうがよい」という人が46.8%となっている。一方,「少ないほうがよい」と答えた人はわずか9.7%にすぎず,国民の多数は,より多い情報を望んでいる(第2-2-63図参照)。属性別にみても,あらゆる層において,「多いほうがよい」と答えた人が多い。その割合が特に高いものは,性別では男性,年齢層別では若年齢層,学歴別では高学歴者,職業別では「自営者」,「管理・専門・事務職」及び「学生」となっている。
 (暮らしの中で得ている情報の種類は多くない)
 「暮らしの中で得ている情報の種類は多いかどうか」を10種類の情報について調査した結果によると,「一般ニュース」については,「多い」と答えた人(29.7%)が「少ない」と答えた人(9.1%)を上回っている。また,「買い物情報」については,「多い」と答えた人(26.9%)と「少ない」と答えた人(27.9%)がほぼ等しくなっている。しかしながら,これら以外の情報については、「少ない」と答えた人のほうが多くなっている(第2-2-64図参照)。
 これは,暮らしの中では,マス・メディアによる豊富な種類の情報が提供されているほか,ごく身近な情報については入手できるが,特定の分野については,詳細な情報が手に入らない場合があることを示している。
 また,情報の分野ごとに,「種類が多い」と答えた人の属性をみると,「一般ニュース」については男性及び「有職者」,「地域ニュース」につていは「自営者」,「買い物情報」については女性,「教育・学習情報」及び「音楽・催し物情報」については「学生」において割合が高くなっている。このことは,特にある分野の情報を必要としている人が,その分野について,「情報の種類が多い」と評価していることを示している。
 (情報不足で困ることはない)
 「情報が不足しているために不便だと思うことがあるか」という質問に対しては,「ない」と答えた人(70.5%)が,「ある」と答えた人(24.1%)を大幅に上回っている(第2-2-65図参照)。このことは,暮らしの中においては,マス・メディアによって全般的な情報が大量に提供されているため,情報が不足して不便を感じることはないことを示している。
 また,「ない」と答えた人の属性をみると,性別では女性,年齢層別では高年齢者,職業別では「農林漁業従事者」及び「無職の主婦」において割合が高くなっている。
 一方,「ある」と答えた人の割合が特に高いものの属性をみると,年齢別では20代(39.4%),学歴別では高学歴者(29.0%),職業別では「学生」(40.5%)及び「管理・専門・事務職」(31.3%)となっている。これらの者については,マス・メディアによって提供される全般的な情報では,十分な情報が入手できないことがうかがわれる。
 (情報が多いことのメリット)
 「情報が多いということでどのような良い面があるか」という質問に対しては,「世の中の動きがわかる」と答えた人が66.2%で最も多く,次いで「知識が豊富になる」(48.8%),「生活が便利になる」(37.5%)という順となっている(第2-2-66図参照)。
 属性別にみると,情報の多いことのメリットを積極的に指摘した人は,性別では男性、学歴別では高学歴者,年齢別では20代及び30代,職業別では「自営者」,「管理・専門・事務職」及び「学生」に多く,「情報は多いほうがよい」と答えた人の割合が高いものの属性と一致している。
 (情報が少ないことのデメリット)
 「情報が少ないということでどのような不便,不利益があるか」についての質問では,「世の中の動きに取り残される心配がある」と答えた人が38.7%でもっとも多く,次いで「自分に必要な情報が得られない」と答えた人が34.6%となっている。しかしながら,「特にない」と答えた人もこれに次いで27.3%となっている(第2-2-67図参照)。
 これを属性別にみると,情報の多いことのメリットについての質問と同様に,デメリットを積極的に指摘した人は男性,若年齢層,高学歴者,「自営者」,「管理・専門・事務職」及び「学生」に多い。一方,「特にない」という人は,都市規模別では「町村部」,性別では女性,年齢層別では高年齢者,職業別では「無職の主婦」に多い。
 (低い費用負担意向)
 「情報を入手するために,自分でどの程度費用を負担してもよいか」を,「健康情報」,「教育・学習情報」及び「趣味・娯楽情報」について質問したところ,「かなり費用を負担してもよい」と答えた積極的に費用負担の意向のある人は,3.0〜5.9%と,非常に低い水準にとどまっている。逆にほとんど全く費用負担を行う意思のない人は,20.4〜28.4%
となっている。これを各項目ごとの属性でみても,「かなり費用を負担してもよい」という人が「ほとんど(全く)費用は負担したくない」という人を上回っているのは,「教育・学習情報」についての「学生」に限られ,ほとんどすべての層にわたって,これらの項目のいずれについても,費用負担については消極的である(第2-2-68図参照)。これは,国民が,「世の中の動きに取り残されないために」あるいは「知識が豊富になるため」ということを主な理由として情報を求めており,これらの情報はテレビや新聞といったマス・メディアによって提供される情報で足りているからであり,さらに,個別の分野に限った情報に対しても,特に費用負担を考えていないからである。
 (情報に対する国民の基本的な意識)
 以上のことから,国民は,情報化の進展する中で,多くの情報を求めていることが分かる。その理由としては,世の中の動きに取り残されないように,全般的な情報を求める傾向にある。すなわち,自分の行動の前提となる全般的な情報の入手を希望している。

(2)ネットワーク化の進展と暮らしの情報化

 ネットワーク化の進展は,情報化の進展を支える一つの大きな柱となっている。ネットワークは,規模が大きくなるほどその効用も増大するものである。特に,電話等の双方向のパーソナル・メディアについては,端末が増加し,規模が大きくなるにしたがって,その効用も著しく増大する。こうしたことから,ネットワーク化の進展が情報化の進展にもたらした効果には極めて大きいものがある。

 ア 基幹通信メディアの普及と暮らしの情報化
 今日,郵便,電話,放送の基幹通信ネットワークは成熟の域に達し,どの家庭においても容易にアクセスが可能となっている。暮らしの中の情報化の進展は,これらの基幹通信メディアのネットワーク化の進展によってもたらされたものといえる。
 中でも電話は,サービス開始当初は極めて高価なものであり,主に企業活動の領域において利用されていた。電話のもつ即時性と双方向性というメリットは,この時期から十分に活用されてきた。
 一方では,家庭においても,電話に対する要望は根強く,常に大量の積滞が存在していた。その後,電話は,技術の発達によって大量に,かつ低廉な価格で架設することが可能となり,暮らしの中にも普及していった。このように,企業活動において電話が普及していく過程で,経済性等が向上したことが背景となって,暮らしの中にまでネットワーク化
が進展する素地が培われてきたということができる。

 イ データ通信の普及と暮らしの情報化
 データ通信は,企業の情報化に極めて大きな役割を果たしている。コンピュータの導入により企業の事務が合理化・効率化され,事務処理が迅速かつ確実に行われるようになった。また,データ通信のネットワーク化が進展したことにより,情報化が更に進展した。今日では,多くの場面で企業活動における情報化が暮らしの中にまで浸透してきている。
 (予約業務のネットワーク化と暮らし)
 予約業務は,列車の座席予約に始まり,今日では各種のシステムが導入されている。また,予約の対象も拡大され,交通機関,音楽会等の各種催物の座席,宿泊施設等多岐にわたっており,各種の予約が迅速に行
われるようになっている。さらに,ネットワーク化の広がりにより,アクセスも容易になっている。
 予約業務は,日本国有鉄道のみどりの窓口で使用されたマルス(MARS:Magnetic electric Automatic Reservation System)が最初である。今日では,マルスに加えて,各種の予約業務システムが構築され,列車の座席,寝台等に加えて,宿泊施設,航空機の座席等も予約可能となっている(第2-2-69図参照)。
 また,郵政省でも,簡易保険・郵便年金加入者福祉施設の利用情報を,簡易保険及び郵便年金のオンライン・サービスを行っている郵便局で提供している(第2-2-70図参照)。
 (金融分野におけるネッワーク化と暮らし)
 金融の分野では,データ通信が普及し,各種のシステムが構築されている。この結果,口座を設定している店舗以外においても,入出金の即時処理や現金自動支払が可能となっている。また,現金自動支払システムが構築されたことにより,他の金融機関の現金自動支払機の利用も可能となっている(第2-2-71表参照)。
 また,郵便貯金については,全国約2万の郵便局を結ぶ郵政省の為替貯金ネットワークが構築されている。さらに,郵政省では,郵便システム,貯金システム,保険システム等のネットワークを統合した「郵政統合通信ネットワークシステム(PNET)」の構築を進めており,62年3月,一部の地区で運用を開始した(第2-2-72図参照)。
 一方,為替取引については,全銀システムが構築されている(第2-2-73図参照)。全銀システムは48年に発足し,その後,各種の金融機関が次々に加盟し,今日では内国為替業務を行うすべての民間金融機関,約5,500機関の約4万店舗を結ぶ為替取引の一大ネットワークが形成されている(第2-2-74表参照)。この結果,送金等に要する時間が大幅に短縮された。
 (流通分野のネットワーク化と暮らし)
 流通の分野では,製造業,卸売業及び小売業をネットワーク化し,商品の販売在庫管理や受発注データの交換を行うシステムの構築が進んでいる。また,多種少量生産の傾向が進む中で,これに対応して,消費者の商品選択情報を迅速かつ的確に把握するPOSシステム(販売時点情報管理システム)の導入が進められている。さらに,POSシステムに代金決済機能を付加したいわゆる「Bank-POS」も現れてきている。

 ウ 企業活動におけるネットワーク化と暮らしの情報化
 このように,企業活動において進展した情報化は,ネットワーク化によって,企業活動と暮らしとのつながりを深め,暮らしの中の情報化を大きく進展させた。すなわち,企業自身の事務の合理化・効率化を図ることから始まった情報化が,顧客サービスが向上したという点で,暮らしの中においても情報化を進展させたといえる。
 さらに,今日では,家庭内に設置された電話を入力端末として,これらのデータ通信システムに接続し,予約,発注等が行えるシステムも既に出現している。あるいは,ビデオテックスやパソコン通信は,各種の情報を検索することが可能なメディアとして既に利用が始まっているが,これらを入力端末として接続することも可能である。暮らしの中の情報化は,このようにデータ通信システムに対するアクセスが容易となったことによっても進展している。

第2-2-63図 情報の多寡に対する評価

第2-2-64図 生活の中で得ている情報の種類に対する意識

第2-2-65図 情報不足で不便と思ったことの有無

第2-2-66図 情報が多いことの良い面(複数回答)

第2-2-67図 情報が少ないことによる不便,不利益(複数回答)

第2-2-68図 情報を入手するための費用負担に関する意識

第2-2-69図 マルスの概要

第2-2-70図 簡易保険・郵便年金加入者福祉施設利用情報提供システムの概要

第2-2-71表 現金自動支払提携システムの例

第2-2-72図 郵政統合通信ネットワークシステムの概要

第2-2-73図 全銀システムの概要

第2-2-74表 全銀システムの変遷

 

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