昭和62年版 通信白書

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2 情報活用能力のかん養

 情報化が進展する中で,情報そのものに経済的価値が認められるようになっている。また,情報内容も多岐にわたっている。こうした中で,必要な情報をいかに入手するのかをはじめとして,情報活用能力はますます重要なものとなっていく。
 一方,情報を提供又は伝達するメディアも,多種多様なものとなり,これらを的確に選択する必要性も生じてきている。とりわけ,ニューメディアの普及が進むにつれて,メディアの選択,あるいはメディアの利用技術等の情報活用能力の重要性も高まっていく。

(1)国民の情報活用能力に対する意識

 現在では,必要な情報を検索,選択することから,情報を使いこなし,行動に移すことに至るまで,幅広い情報活用能力が必要とされている。
 (情報の入手は受動的である)
 「情報の入手は積極的であるか」という質問に対しては,「積極的ではない」と思っている人は37.0%で,「積極的である」と思っている人(13.8%)を上回っており,総じていえば,国民は情報の入手に関して受動的である(第2-3-5図参照)。
 また,「積極的ではない」と思っている人の属性をみると,都市規模別では「町村部」,性別では女性,職業別では「農林漁業従事者」及び「無職の主婦」においてその割合が高くなっている。
 一方,「積極的である」と思っている人の割合が高いのは,年齢層別では20代であり,学歴別にみると高学歴者になるほど積極的であると思っている人の割合が高くなっている。
 (必要な情報の入手)
 一方,「必要な情報が必要なときにすぐに得られるか」という質問に対する回答は,「すぐに得られる」(29.2%),「得られない」(27.9%),「一概にいえない」(32.7%)と三分されている。さらに,これを情報入手の積極性についての質問との関連でみると,情報の収集に積極的な人ほど,「必要な情報はすぐに得られる」と思っている人の割合が高くなっている(第2-3-6図参照)。
 このことを,前節で述べた国民の情報観と合わせてみると,我が国では,マス・メディアが普及しているため,特に積極的な情報収集活動をしなくても全般的な情報は得られるが,特定の分野に限ったときには,詳細な情報は得にくく,積極的に情報収集活動を行わないと情報は入手できないということが分かる。
 (必要な情報の選択について迷うことはない)
 「一つの事柄について異なる内容の情報があって迷ったことがあるか」という質問に対しては,「ない」という人が59.8%,「ある」という人が33.0%となっており,国民は情報の選択について特に迷っているわけではない(第2-3-7図参照)。
 「迷ったことがない」という人の属性についてみると,性別では女性,年齢層では高年齢層,学歴別では「小・旧高小・新中卒者」,職業別では「農林漁業」の自営者,「労務職」及び「無職」において高くなっている。
 一方,「迷ったことがある」という人の属性は,性別では男性,年齢層では若年齢層,学歴別では高学歴者,職業別では「管理・専門技術・事務職」及び「商工・サービス・自由業」の自営者において高くなっており,これらは,「情報は多いほうがよい」と思っている人の属性とほぼ一致している。
 (異なる情報があって迷ったときの判断基準)
 また,異なる内容の情報があって迷った場合の判断基準は,「自分の知識や過去の経験で判断する」人が最も多く,次いで「どのメディアで情報が伝えられたかで判断する」人となっている(第2-3-8図参照)。これを属性別にみると,「自分の知識や過去の経験で判断する」人が多いのは男性及び高年齢層であり,「どのメディアで伝えられているかで判断する」人が多いのは女性及び若年齢層である。
 さらに,「信頼できる人に情報を選択してもらいたい」とは思っていない人が,国民の約半数となっている(第2-3-9図参照)。しかしながら若年齢層については,「信頼できる人に情報を選択してもらいたいと思っている」人の割合が比較的高くなっている。
 これらのことから,国民は,多くの情報が提供されていても,異なる内容の情報があって迷うことはあまりない。また,情報の選択について迷ったときでも,信頼できる人に情報選択をゆだねることはない。「迷ったことがある」という人についてみても,自分の知識,経験で判断するなど,国民は情報の選択に関して,かなり高い自己評価を与えている。
 しかしながら,若年齢層についてみられるように,知識,経験の不足等により信頼できる人に判断してほしい場合があるということも示唆されている。
 (情報が多いことの不便,不利益)
 情報が多いことの不便,不利益については,「情報が多くて振り回される」ことを指摘する人が28.2%で最も多く,次いで「情報の正確さの判断が困難である」(27.9%),「情報の選択が困難である」(22.6%)となっている(第2-3-10図参照)。これらは,単に情報が多ければよいというものではなく,必要な情報を検索し,選択することが重要であることを示唆している。
 また,「情報を使える人と使えない人との格差が広がる」ことを指摘した人が18.4%とこれらに次いで多いことから,情報活用能力の差によって個人間の格差が生じることについても懸念されている。
 情報が多いことについて何らかの不便,不利益を指摘している人の割合が高いものの属性についてみると,性別では男性,年齢層別では若年齢層,学歴別では高学歴者となっている。すなわち,「情報は多いほうがよいと思っている」人は,情報の選択や情報が多いことの不便,不利益といった,情報に対する問題意識を合わせもっているということが分かる。
 一方,「情報が多いことの不便,不利益」が「特にない」という人は22.6%となっている。層性別にみると,性別では女性,年齢層別では高年齢層,学歴別では「小・旧高小・新中卒者」となっている。
 (情報はうまく使いこなされている)
 「多くの情報の中から必要な情報を正確に選択したり,その情報を使いこなしているかどうか」という質問に対しては,「正確に選択したり,使いこなしている」と思っている人は約5%にとどまっている。しかしながら,「ある程度そうしている」と思っている人まで含めると半数以上となり,国民は,おおむね,「情報活用能力がある」と評価している(第2-3-11図参照)。
 属性別にみると,「情報活用能力があると思っている」人の割合が高いのは,性別では男性(63.7%),職業別では「管理・専門技術・事務職」(68.9%)及び「学生」(63.0%)となっている。また,学歴別にみると,高学歴になるほど情報活用能力があると思っている人が多くなっている。
 一方,「情報活用能力があると思っている」人の割合がやや低いのは,都市規模別では「町村部」(49.4%),年齢層別では60代(48.8%)及び70歳以上(30.8%),学歴別では「小・新高小・新中卒者」(41.3%),職業別では「農林漁業」の家族従事者(47.2%)及び「無職」(39.8%)となっている。しかしながら,これらの層についても,情報活用能力があると回答していものは約4割であることから,総じていえば,国民は情報活用能力について自信をもっているということが分かる。
 (情報活用能力の格差の現れ)
 「異なる内容の情報があって迷ったことがあるか」,「情報が多いことのよい面」,「情報が少ないことの不便,不利益」,「情報は多いほうが良いか」等の情報観に関する質問に対して,「わからない」と回答した人については,「情報活用能力がある」と思っている人の割合は,平均よりも少なくなっている(第2-3-12図参照)。こうしたことから,情報に対する関心の薄さが,情報活用能力に対する自信の低下として現れてきており,個人間で情報活用能力の格差が現れてきているといえる。

(2)情報化の進展と情報活用能力

 暮らしの中においても情報化が進展している今日,求められる情報活用能力は質的に変化してきている。
 (必要な情報を入手することの意味)
 かつては,情報が不足していたため,いかにして少ない情報の中から必要な情報を探して入手するかが,情報活用能力として重要な意味をもっていた。しかしながら,今日では,情報が大量に提供されるようになっており,これらの多くの情報の中から,どの情報を選ぶか,内容をどう判断するか,選んだ情報をどう整理するか,結果としてどういう情報を引き出すかなど,情報に対する判断,選択,整理,処理能力等が必要となってきている。
 (情報の質的変化に伴う情報認識能力の重要性)
 今後,情報は,ますます専門化,細分化、複雑化していくことが予想される。したがって,情報を系統的に整理し分類する能力,さらには,複雑なあるいは専門的な情報であっても,これらの情報を理解し,活用する能力が必要とされる。
 また,情報が短期間に次々と提供されるようになると,情報の陳腐化が激しくなる。このため,情報を迅速に処理する能力が必要である。
 (情報通信メディアの普及,多様化に対する適応能力)
 今後は,情報通信メディアを,手軽に使いこなしていくことが社会生活をおくる上で必要となる。このためには,個々の情報通信メディアがもつ特徴を十分に理解し,その基本的操作方法を身につけ,特徴に合わせて使いこなすことが必要である。
 多種多様な情報通信メディアを自由に使いこなすことで,情報の収集,整理,処理能力が向上し,暮らしがよりよいものになることが期待される。さらに,パソコン通信等の普及により,これまで少なかった個人の情報発信能力についても増大することが期待される。
 (個人の影響力の拡大への対応)
 これまで個人は,マス・メディア等による情報の供給に対して,自分が被害者となるかもしれないことを心配していればよかった。
 しかしながら,今後は,個人からのデータベース等へのアクセス,情報の発信等が増大することにより,個人が加害者となるおそれが出てく
る。例えば,操作ミス等で,誤った注文を出したり,他人の情報を入手したり,データを破壊したりすることなどが起こることもありうる。
 そのため,自分が加害者となり得ることを十分に自覚した上で,自分が入手,発信する情報が他の人々や社会にどのような影響を及ぼすかを的確に判断,認識し,適切な行動をとることが必要とされる。このための前提として,すべての人々が社会的ルールである「情報モラル」とでもいうべき情報に対する責任感をもつことが重要である。

(3)情報活用能力のかん養のための方策

 個人が情報化の利益を享受できるか,あるいは情報化の渦に巻き込まれてしまうかは、情報活用能力を身につけているかどうかによって大きく左右される。また,情報化の利益をどの程度享受できるかについても,格差が生じる。さらに,いったん生じた格差は,累積的に拡大される可能性が強い。
 このため,今後,情報及び情報通信メディアの主体的な選択,情報活用能力のかん養に関する機会均等を実現していくことが重要であり,また,そのための方策を検討することが重要である。
 (情報活用能力のかん養と教育)
 情報活用能力のかん養のためには,今後,人生の早い時期から,適時性に配意しつつ,学校をはじめ様々な教育機関において,情報活用能力の育成に取り組むことが必要である。その際,これまでの「読・書・算」のもつ教育としての基礎的・基本的な部分をおろそかにすることなく,新たに情報活用能力を基礎・基本として重視し,学習者の発達段階に合わせて,その育成に本格的に取り組まなければならない。
 また,CAI(Computer Assisted Instruction)等の導入は,効率的学習を促進するとともに,情報活用能力の育成につながる面も大きく,その積極的な推進を図ることが必要である。
 情報化の進展により,社会の様々な局面で変化が生じてきている。さらにこれは,長期にかつ社会の多方面にわたって様々な変化をもたらす。こうしたことから,世代を問わず,高度情報化に対応するための生涯学習も重要である。

第2-3-5図 情報の入手の積極性に対する意識

第2-3-6図 必要な情報の入手に対する意識

第2-3-7図 異なる内容の情報があって迷った経験の有無

第2-3-8図 異なる内容の情報がある場合の判断基準(異なる内容の情報があって迷ったことが「ある」と回答した者に対して質問したものである。)

第2-3-9図 信頼できる人に情報を選択してもらうことに対する意識

第2-3-10図 情報が多いことの不便,不利益(複数回答)

第2-3-11図 情報の選択,使いこなしに対する意識

第2-3-12図 情報に関する意識と情報活用能力(質問に対して「わからない」と回答した者)

 

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