昭和62年版 通信白書

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2 均衡ある地域の情報化のために


 以上みてきたように,我が国の情報化は,東京の圧倒的な主導と影響力の下に進んできている。情報の集積それ自体が,情報の利用価値を高め,新しい情報創造を更に生み出すという特性にかんがみれば,今後とも情報化における東京の重要性は揺るがないであろう。
 しかしながら,各地方が,単なる東京のコピーあるいは一方的な受け身に立たないためには,東京との情報格差の是正,とりわけ,地方自らの情報の創造により,各地方が自立する必要がある。

(1)高度情報通信網の整備

 データ通信網や光ファイバケーブル等の高度情報通信網の整備は,航空,高速道路等の高速交通網の整備とあいまって,全国的な情報通信交流を一層促進する基盤となる。
 データ通信網やファクシミリ通信網等の整備は,前述のとおり,企業や工場の地方進出に寄与して,その地域の発展に貢献し得るものである。
 我が国では,通信に限らず,東京を中心とした放射線状型のネットワークが構築されることが多い。地方の情報を全国に伝達する場合,放送,新聞等のマス・メディアに典型的にみられるように,一度は東京に集められ,東京を経由して行われる。
 かつては,各地方の情報は,一旦そのブロックの中枢都市に集積し,その後東京等全国に伝達される例が多かった。特に,西日本については,大阪がいわば西日本全体の中心としての機能を有していた。しかし,高度経済成長の過程において,情報通信網あるいは高度情報通信
網が徐々に整備されるにつれて,東京と各地域が直結されるようになった。
 これは各地域からみれば,東京とダイレクトに結び付くことにより,より一層効率的に情報の収集,伝達を行い,我が国全体の変化に一層即応し得ることを意味するものである。
 今後,社会経済の変動がより一層激しく,かつ複雑になり,さらに国際的影響が高まるにつれ,東京とダイレクトに結び付く必要性は,各地方が発展するために一層大きくなるであろう。
 したがって,これを効率的にかつ低コストで可能にする高度情報通信網の整備が,従来にも増して必要となる。

(2)ブロック内情報通信網の整備

 全国的な高度情報通信網の整備・充実により,各地域が全国とつながり,全国を対象とした情報活動や経済活動が可能となるが,我が国においては,こういった全国レベルの活動とは相対的に,九州,中国,四国等のいわゆるブロック圏での活動が行われている。
 企業や行政の分野においては,これらブロック単位で活動が行われることが多い。したがって,このブロック圏内での社会活動や経済活動の発展は,当該ブロック圏内のみならず,我が国全体の社会経済の発展にも必要である。
 そのため,情報通信網に関しても,このブロックを単位とした情報通信網を整備することが重要である。例えば,NHKでは,いわゆる管轄放送局を置いて、ブロックごとの情報を収集・整理し,そのブロック内に伝達している。また,新聞については,いわゆる三大ブロック紙が,北海道,中部,九州で各々のブロックの情報活動において,同じような役割を果たしている。
 これらのメディアに限らず,様々な分野,手法で,ブロック圏内の情報の交流が促進されれば,当該ブロック圏の独自性の発揮につながるであろう。この観点からも,ブロック内の情報通信網の一層の整備・充実が望まれる。また,様々な局面での交流の可能性を拡大するために,各ブロック相互間の情報通信網の整備・充実が必要となろう。

(3)情報通信拠点の整備

 地域の情報化を図るためには,情報通信網の整備とともに,地域における情報通信拠点を整備する必要がある。郵政省では,この観点から種々の施策を策定・推進している。
 テレトピアモデル都市においては,本章2節で詳述のとおり,各種のニューメディアを先行的に導入することにより,当該地域の情報化を推進し,かつ,ニューメディア普及の全国的拠点となることが期待されている。また,各種システムの実用的運用を通じて,地域社会に及ぼす効果や影響,問題点を的確に把握することにより,地域社会の高度情報社会への円滑な移行を図ることとしている。
 また,高度な電気通信システムを運用するためのセンター機能をもち,かつ地域の住民,企業等が最新の電気通信システムを実際に体験し,活用するための拠点施設であるテレコムプラザの整備・促進を行うことにより,地域交流拠点が形成され,新たな情報の創造が可能となる。
 一方,電気通信分野の研究開発拠点の視点から,電気通信のすそ野を人的,面的に拡大していくための中核施設として,各種の研究施設と企業等を複合化したテレコム・リサーチパークの整備が必要である。
 また,国際化等に対応するため,テレポート計画を推進して,高度な都市機能又は港湾機能を有する情報通信基盤を整備し,24時間稼動の国際ビジネス拠点の建設を進めることとしている(第3-3-10図参照)。
 以上のような各種施策を積極的に推進していくことにより,各地域の情報発信能力を高め,それらの独自情報を,高度に整備された情報通信網を利用して,ブロック圏内,あるいは全国に向けて発信することで,地域の情報化は進展し,ひいては,地域経済の発展が可能となると思われる。

(4)地方における人材の育成

 情報通信活動を実際に行い,社会経済活動を発展させるのは,あくまで人材である。
 いかなるハードウェアも,それ自体では技術的可能性を提供するにすぎず,人に使用されて初めて価値を生み出す。この意味で人材こそが情報活動の要である。
 高度情報社会における国民の情報活用能力のかん養の重要性については,第2章で述べたところである。今後,各地域が情報化の進む中で,その独自性を確保するためには,市民という草の根レベルの情報活用能力の向上のみならず,企業なり行政部門において,実際に経済活動を行う分野で高度な情報活用能力をもった専門家を育成し,その人材が地域に定住し得ることが重要である。
 これは,今日,工場,事務所,官庁等の諸分野で,その高度な情報通信網を使いこなし,自ら情報を生み出して,さらに,その地域の生産物を全国に送り出すことにより,地域経済の自立化を進めるためには,これら専門家が必要不可欠であるからである。
 この観点において,各地方では,その実状に応じた人材の育成に取り組んでいく必要がある。

(5)地域の独自性を求めて

 東京から地域へ通ずる道は,また地域から東京へ通ずる道である。
 東京を利活用することは各地域にとって必要不可欠であるが,それだけでは各地域はその独自性を発揮し得ず,いわば東京という巨大都市の傘の下で他動的に生きることになりかねない。
 テレビジョン放送は,我が国の情報化の推進に大きく寄与し,東京に対するアクセス,あるいは東京と同一の情報の入手を可能にするという意味において,重要な役割をはたしている。しかし,本章第1節でみたように,その番組内容が圧倒的に東京から供給されているとおり,東京
の地方に対する影響力を決定的にしている。
 また,各観光都市が自ら「小京都」と形容したり,各繁華街が「銀座」のミニチュア版の形成にとどまっていては,地域の独自性は確立し得ない。
 各地域が単独でいわば閉鎖的に経済なり文化を維持し発展することは,今日,不可能であり,全国さらには世界を相手とした経済活動なり文化活動が必須であることは論を待たない。
 しかし,その前提として,各地域での独自の経済活動なり文化活動が必要であり,この各地域ごとの独自の活動と全国レベルでの活動が並存することによって,各地域は他動的な存在から真に各地域のアイデンティティーを持った存在へと飛躍することができる。
 電気通信の分野では,たとえぱ関西文化学術研究都市で国際電気通信基礎技術研究所等が設立され,視聴覚機構,自動翻訳電話等の研究を進めている。これは,情報通信の基礎的な研究が東京への一極集中ではなく,地方において各々が情報発信の源となり得るよう進めているものである。また,放送等においては,各々の地域の情報発信能力を高め,各地域の独自性を一層出すよう自局番組編成比率を高めることが求められている。さらに,郵便の分野においては,ふるさと小包が着実に増加しているが,これは,各地域の特産品等を郵便局という全国ネットワークにのせることにより,その地域の独自の経済活動を全国に広げているものである。
 地域が情報通信の発信源となり,その地域の独自性の上に経済的基盤を確立するためには,その地域の価値が全国的に,さらには世界的に通用するというローカル性とコスモポリタン性を併せもつ必要がある。
 その地域だけで完結する情報通信も必要であるが,それだけでは,社会経済活動の狭あいさから,その地域が大きく発展することは,期待できない場合が多いであろう。
 情報通信,あるいは情報通信網は,東京から地方への道であり,窓口であるとともに,地域から東京,さらに全国への道であり,窓である。
 地域から東京への道を開き,窓を開くのは,その地域に住む人々をおいて,それ以外にはない。その地域の人々の努力と創造により,情報通信は,その本来の機能である双方向性を発揮するであろう。
 国の各種の情報格差の是正,遠距離料金をはじめとする通信料金全般の低廉化,情報通信基盤の整備等の施策は,いわば,地域の自立と発展のための条件整備の一つである。

(6)住民の創意と工夫の必要性

 以上のことを基礎として,地域の住民,企業等がそれぞれの立場において,自らのアイデンティティーを発揮しながら,情報を利用し,創造することが我が国全体として,均衡ある地域の情報化を推進するための最大の要件である。
 これが可能となったとき,地方は,単なる東京の傘の下の存在ではなく,東京からの情報を自立的に消化し得ることとなる。そして,地域から東京へ,さらには全国へ,ひいては世界への情報源としての道が開かれるであろう。

第3-3-10図 テレポートの概念図

 

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