昭和62年版 通信白書

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3 よりよい暮らしのための通信の課題と展望

 郵便,電話,放送の基幹通信メディアの発達によって,情報化は大きく進展した。暮らしの中の情報化を促進させてきた生活の合理化,余暇・生活の充実等のニーズは,核家族化の進展,高学歴化,女性の社会進出,労働時間の短縮,余暇時間の増大等の社会経済の変化の中で,今後より強まるものと考えられる。このような暮らしの中の情報化を進展させる通信の動向について展望すると,次のようなことが予想される。

(1)マス・メディアと暮らしの情報化

 今日,国民は情報を選択したり使いこなしたりする能力に対して,ある程度自信をもっている。また,国民は更に多くの情報が提供されることを期待している。その一方で,既存メディアの多機能化,あるいはメディアの多様化が始まっている。しかしながら,現実には,国民は大部分の情報を基幹通信メディアを通して入手している。
 基幹通信メディアの特性は,基本的,汎用的なものである。しかしながら,マス・メディア,この中でもとりわけ放送は,個別のニーズを網羅した上で,その豊富な取材力と安定した経営基盤にょり,情報の大量提供を行っている。国民の意識・価値観の多様化や国際化の進展によって,情報に対するニーズも高度化・多様化してきているが,放送は,それらの多様な個別の情報ニーズにも対応することが可能なメディアである。
 60年世論調査によれば,「情報を何から得たいか」という質問に対しても,「テレビ」や「新聞」という人が大多数となっており,国民は,基本的なマス・メディアであるテレビ及び新聞に情報源を今後とも求めている(第2-3-13図参照)。

(2)ニューメディアの出現とその普及

 (暮らしの中の情報通信メディアの変化)
 現在,暮らしの中の情報化は,郵便,電話及びテレビジョン放送が中心となっている。一方では,パソコン通信,ビデオテックス,衛星放送,文字放送等の新たな通信メディアの普及が進んでいるほか,都市型CATV出現しつつある。
 また,生活様式が個性化することにより,メディアの活用形態,視聴態様の多様化が進み,一つのメディアについても,多機能化に対するニーズが現れている。このように,暮らしの中においても通信の多様化が始まっている。
 (ニューメディアの登場と暮らしの情報化)
 現在,高度化・多様化するニーズにこたえて,ニューメディアが登場してきており,今後の情報化の進展のために,大きな役割が期待されている。しかしながら,基幹通信メディアには汎用性があって,多種多様な情報が提供されている。ニューメディアを情報源として求めている人はわずかである。
 しかしながら,現在,ビデオテックスの普及が当初の予想を著しく下回っているように,暮らしや個人のレベルでのニューメディアの利用は,端緒についたばかりである。
 (端末の複合化とニューメディアの普及)
 暮らしの中にニューメディアが普及するためには,導入コスト,通信料,操作の容易性等が大きなかぎとなる。現在,電話をファクシミリ,パソコン,キャプテン等と複合させた端末機器の開発,販売が進められている。ニューメディア機器は,既に暮らしの中の情報化の主役となっている電話機,テレビジョン受信機等の端末機器との複合化により,普及のテンポを早め得ることがあり得る。
 (ニューメディアの普及のために)
 高価なメディアであっても,かつてのテレビのように,魅力ある情報の入手が可能なメディアに対するニーズは強い。このように、コストの問題と合わせて,情報内容の充実が普及の大きなかぎとなる。
 テレビは,最初は極めて高価であったが,その魅力の大きさによって普及が進み,今日では暮らしの中に完全に定着している。テレビは,戦後登場したニューメディアの中で最も成功したものといえる。この成功例は,今後のニューメディアの普及のための参考例となろう。
 現在,暮らしの中への普及が低迷しているビデオテックスのような静止画検索システムも,単なる案内情報だけでなく,他のメディアでは得られない情報を暮らしの中に提供できるようになれば,利用が増大するための一つの大きな契機となる。
 ニューメディアが今後発展するためには,従来のメディアにないような情報内容の質的な充実を図ることが極めて重要なかぎとなる。そのためには,ちみつな情報入手と,それを行い得るだけの人材の確保及び経営基盤の確立が急務である。

(3)余暇時間の増大と新たなメディアの活用

 高齢化,労働時間の短縮等による個人の自由時間の増大に伴い,新たに個人の余暇時間をどう使っていくかということが,個人生活の充実にとって重要となる。余暇時間を活用して,精神的充足を求める動きがある。
 特に,情報通信システムには,社会からの孤独感から仲間を求める手段として活用される潜在需要がある。電話やパソコン通信のように、対話型の通信メディアに加えて,共通蓄積領域を利用して情報を伝達,交換する電子掲示板,伝言ダイヤル通話等のシステムが出現している。今後,これらに対するニーズはより高まると考えられる。

(4)情報化の進展と住環境


 女性の社会進出が進むにしたがい、家事の合理化あるいはホームセキュリティの面から,ホームオートメーションに対する需要が高まると考えられる。また,快適な住居づくりのために,ニューメディア機器が効果的な役割を果たすことが期待されている。今後は,ホームバスシステムを組み込んだニューメディアに対応する住居(インテリジェントハウス)等が建築され,暮らしの中の情報化の基盤の整備が進んでいくことが期待される。
 また,各種の情報通信を活用することによって,特に女性が家庭の中で作業できる可能性が増大する。とりわけ,翻訳,プログラミング等の業務について,女性の在宅勤務の出現が考えられる。

(5)よりよい暮らしのための情報化の進展

 よりよい暮らしのためには,情報量が増大し,情報内容が質的に充実することが必要とされる。こうした中で,既に述べたようにプライバシーの保護等の個人の利益を確保しながら,増加していく情報を活用していくこと,あるいは自ら全国的に情報を生み出すことが重要である。このためにも,情報活用能力をかん養し,個人間の格差を生じないようにすることが重要である。

(6)高度情報社会と暮らしの情報化

 来るべき高度情報社会においては,暮らしの中のあらゆる局面で多種多様な情報が提供されるようになる。その結果,家庭内にいながらにして情報を入手することから各種の手続きを行うことに至るまでが可能となり,多くの場面で生活が合理化される。さらに,友人・知人相互間においては,コミュニケーションが増大し,これにより新たな社会的連帯の輪が形成されるようになる。しかしながら,一方では,人と人との直接的な接触の減少,プライバシーの侵害,情報の一方的供給等の解決すべき問題点がある。また,新しいサービスの利用に当たっては,情報化の進展を想定していなかった法制度上の問題の解決等を図っていく必要がある。
 今後,新しいサービスを普及させ,暮らしの中の情報化を進展させるためには,これらの問題点の解決とともに,端末機器の購入価格,利用料金の低廉化あるいは,情報内容やサービス内容の充実を図ることが重要である。

第2-3-13図 今後,情報を何から得たいか(複数回答)

 

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