昭和62年版 通信白書

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2 地域における情報化推進事業


 通信技術の急速な発展により,高度な情報通信システムは,地域にとって行政の効率化,地域コミュニケーションの活性化,大都市圏との情報格差の是正等,地域における様々な課題の解決手段となろうとしている。このため,早くから情報通信システム導入による地域情報化に取り組んできた地域も数多くみられる。
 本項では,積極的に地域情報化に取り組んでいる地域の情報化推進事業の中から,酪農業,観光,災害対策に関するものを紹介する。

(1) 十勝地方

 日本有数の農業地帯である十勝地方の酪農業は,全国の乳牛の39%を飼育する北海道の中でも中心的な役割を果たしており,全道の年間生乳・生産量の23%に当たる60万4千トンを生産している。しかし、農産物の需給緩和等から,需要動向を考慮した計画的な生乳生産を行う必要があり,同地方の十勝農業協同組合連合会(十勝農協連)は,酪農業の省力化,市場対応力及び生産性の向上を図り、計画的な生産体制を作るため,情報通信システムの導入等を中心とした酪農業の情報化を進めている。
 (酪農業の情報化)
 酪農経営は,乳牛やその飼料である牧草などの動植物,土壌及び気象などの自然環境によって左右されやすいため,酪農に関連するデータの正確な記録と科学的な酪農技術情報の収集が不可欠である。
 このため,各農家は生乳,土壌,飼料のサンプルを分析し,その結果を農業情報センターで総合的に分析することで酪農経営の指針としている。従来,これらデータの送受は郵送によって行われていたため,分析に日数を要し,かつ農業情報センターから送られる情報量も十分ではな
かった。十勝農協連では,このデータの送受をデータ通信により行い,合わせて農業情報センターに酪農技術情報を蓄積しデータベース化することで,酪農業の情報化を進めている。
 具体的には60年4月から運用が開始された酪農経営情報システムにより,21の農業協同組合に置かれた端末と農業情報センターを結び,生乳・土壌・飼料の分析値による飼料給与設計が行われている(第3-2-11図参照)。十勝地区の約1,400戸の酪農家及び約6万7千頭の乳牛に関する情報が集計され,給与飼料に対する1頭1頭の乳牛の生乳量,個々の酪農家の土壌と飼料との関連等を迅速に分析することが可能となり,地域の酪農業の発展に寄与している。本システムの導入により,乳牛の淘汰について乳量成績で判断できるようになり,1頭当たり乳量検定成績が向上するなどの効果を上げている。
 今後,十勝地方では,十勝農協連,地方自治体等が中心となり,データ通信を利用した経営・気象・技術に関する情報通信システムを順次構築し,農業,酪農業等の情報化が進められる計画である。

(2)静岡市

 静岡市は,人口46万,人の典型的な地方中核都市である。同市では,近い将来発生が予想されている東海地震や都市型水害などへの災害対策が地域の大きな課題となっており,より効果的な防災体制や災害時の迅速な救助体制をつくるため,情報通信システムの導入が早くから進められてきた。
 (防災体制の情報化)
 静岡市の防災情報システムは,国,県,市を結ぶ大規模な防災システムの一環をなすものであり,地震災害に対しては60年9月から地震防災情報システムの導入を進めている。このシステムは,すでに構築されている同報無線や行政無線システムを高度化し,ディジタル防災行政無線,CATV,文字放送,ヘリコプターテレビ,無線ファクシミリ,データ通信,衛星通信等多彩な通信メディアにより国,市,防災関係機関及び住民を結び,防災体制の情報化を図るものである(第3-2-12図参照)。
 このシステムにより,平常時から災害復旧時に至るまでの各局面において,各種情報通信が効果的に行われることとなる。中でも警戒宣言や非難命令等の情報伝達や応急復旧対策措置のための迅速かつ正確な被災データの収集等が可能となる。同市のシステムは,災害時の通信回線網への被害を考慮し,電波を利用した情報通信システムを主体にしている
点が特徴となっている。
 62年7月現在,情報通信システムの端末として同報無線の子局と戸別受信機933のほか車載型無線機等63台の端末が配備済みであり,今後はメディアの多様化や端末数の増加を図り,システムの充実を図る計画である。
 一方,水害防災体制については,水位・雨量に関する自動計測を中心に情報化を進めるため,61年5月から広域水防システムの運用を開始している。このシステムは,テレメータシステムを利用した,36の雨量計測端末と水位計測端末を安部川と巴川両水系に配備し,各端末からの河川情報を静岡県の中央監視局及び市の防災機関へ電話回線を通じて送信するものである。県のレーダー雨量システムや気象庁等からの情報についてもデータ専用回線により中央監視局に集められ,高度な情報機器を充分に活用したシステムといえよう。このシステムの稼動により,人手による計測作業が大幅に軽減され,また,大量の防災データが収集され
るため,迅速かつ効果的な防災措置が可能となっている。

(3)金沢市

 金沢市は,北陸地方の中心的な観光都市として発展しており,近年では,様々な会議・学会・見本市等も開催され,61年には,九つの国際会議が行われるなど,コンベンショツ(集会)シティとしても注目されている。
 同市では,コンベンション機能を含めた観光都市機能を高度化し,観光都市として一層発展するため,ビデオテックスによる情報化を進めている。同市では,62年4月からビデオテックスによる情報システムの運用を開始し,コンベンショツ情報,伝統地域産業情報,タウン情報等を
提供している(第3-2-13図参照)。
 コンベンション情報に関するものは,会議を計画する場合の参考となるよう,会議施設の予約状況,会議場近辺の宿泊所案内,観光案内,交通案内等がその内容となっている。
 また,コンベンション開催の際には,ホテル会場での忘れ物等の情報も提供する。個々の観光情報をコンベンション等の目的の下に,利用者の立場に立って使いやすく再編成している点が特徴といえよう。
 すでに金沢市で開催された日本薬学会(60年4月)及び全国高校総合体育大会(同年8月)において,試行的にビデオテックスにより,会議宿泊,競技案内の情報等が提供されて、参加者の好評を得た。
 このほか,加賀友禅,蒔絵,漆器等の伝統工芸の工房・展示場の案内,観光名所の案内等ビデオテックスの画像情報に適した内容のものを多く提供している。
 また,システムの構築に当たっでは,一般家庭用に500台の端末を用意し,端末レンタル料は無料で貸し出し,システムの普及を促進している。このような積極的な施策により,62年4月末現在,端末数650端末,1か月当たりのアクセス回数80万回,延べ利用者数3万人に達し,地域の情報化に効果を挙げている。今後は,他地域との情報交換等により情報内容の充実を図る予定となっている。

第3-2-11図 十勝農協連の酪農経営情報システムの概念図

第3-2-12図 静岡市の地震防災情報システムの概念図

第3-2-13図 金沢市のコンベンションシステムの概念図

 

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