昭和61年版 通信白書

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3 進展する電気通信サービス

 (1)主要サービスの動向
 ア.国内電気通信
 (利用の多様化が進む加入電話サービス)
 60年度末現在の加入電話等契約数は,前年度末に比べ134万契約増加し,4,530万契約となった。また,人口100人当たりの普及率は,38.0契約となり,前年度末に比べ1.1契約増加した。
 また,公衆電話については,不採算公衆電話の合理化を図ったため,前年度末に比べ約2.5万台減の91万台となった。一方,硬貨を必要としないカード公衆電話機の増加は著しく,60年度末現在,対前年度末比324%増の6万1,000台となっている。これに伴い,テレホンカ一ドも,その利便性・ファッション性のほか,同年10月1日以降,通話可能度数の割増しが認められたこともあり,60年度においては,6,036万枚(対前年度比546%増)と飛躍的な販売状況をみせている。
 さらに,NTTでは,60年度において,[1]三者間で通話のできるトリオホン,[2]車外にあっても携帯して利用できる自動車電話,[3]30か所まで電話による同時通話ができる電話会議サービス,[4]あらかじめ契約した着信人が通話料を負担するフリーダイヤルサービス,[5]従来,交換手による手動交換が必要であったPBX(構内交換電話)の内線にも直接着信できるようにするダイヤルインサービス等を新たに提供するなど,サービスの向上を図っている。
 (慶弔電報の利用が増加する電報サービス)
 60年度の電報発信通数は,前年に比べ慶弔電報は136万通増加したが,一般電報が238万通減少したため、総通数では102万通減の4,066万通となった。このため,発信通数に占める慶弔電報の比率は年々増加し,60年度においては87%となった。
 (多様なニーズにこたえる電気通信機器)
 加入電話の質的充実につれて,利用者二ーズはより便利な,より高機能な,より装飾性の豊かなものへと高度化・多様化してきている。特に,60年4月1日から端末機器の電話網等への接続が自由化されたことにより,利用者は多種多彩な電気通信機器を自由に設置できることとなった。
 この結果,技術基準適合認定件数は,852件(59年度は制度が異なるため単純比較はできないが,電電公社型式B指定件数と比べ75%増)となっており,電気通信機器の自由化は着実に進展しているものと推測される。
 (電気通信料金の改定)
 通話料金遠近格差是正施策の一環として,現在,日曜日,祝日に認められている通話料割引制度を,61年7月からは土曜日にも拡大した(第1-2-10表参照)。
 イ.国際電気通信
 (国際電気通信利用数の動向)
 国際電話については,個人利用の増大,国際電話網を利用したファクシミリ通信あるいはデータ通信の増加により,その利用数の増加は著しく,現在では,国際電気通信の主役としての位置を占めている。これに対して,かつて国際電気通信の主役であった国際電報は,国際テレックス,国際電話の利用の増加に伴い,44年度をピークに減少し続けており,現在では,44年度の4分の1程度の利用数となっている。
 また,国際テレックスは,データ通信あるいは国際電話網を利用したファクシミリ通信の進展により,58年度に利用数で国際電話を下回り,60年度には,前年度の利用数と比べて,初めて減少に転じた。
 (国際ダイヤル通話の増大)
 増加する国際通話の中でも,指名通話,番号通話等のオペレータ介在の通話の利用数は,頭打ちの傾向になっており,現在では,利用者がオペレータを介さず直接相手国加入者をダイヤルして接続する国際ダイヤル通話が主流となっている。60年度末現在,国際ダイヤル通話利用可能対地数は127となっており,また,国際ダイヤル通話が全発信度数に占める割合は80.1%と大幅に増加した。
 (国際公衆データ伝送サービス)
 KDDは,57年から国際公衆データ伝送サービス(以下「VENUS-P」という。)を提供している。
 VENUS-Pは,データ通信の用に供するため,我が国と外国との間において国際標準のパケット交換方式により,コンピュータ相互間,コンピュ一タ/端末間及び端末相互間でデータ伝送を行うサービスである。
 このサービスは,専用線と比べて任意の相手と通信できること,料金が従量制であることなどの特徴を有し,また,電話回線に比べて高速通信が可能であり,伝送品質も優れていることなどから,データ通信に非常に適したサービスである。
 VENUS-Pの契約数は,60年度末現在5,890回線であり,前年度末に比べ85.5%増と大幅な伸びを示している。
 (国際電気通信料金の値下げ)
 KDDは,54年以降数次にわたる料金改定を行ってきたが,61年9月にも平均13.1%の値下げを行った。今回の料金改定は,国際電話,国際テレックス,国際専用回線を中心に行ったが,値下げ額,値下げ率ともに過去最高のものとなった。
 (2)電気通信事業の動向
 (第一種電気通信事業への参入)
 60年4月1日,電気通信事業分野に競争原理が導入され,第一種電気通信事業分野においては,60年6月21日に第二電電(株),日本テレコム(株),日本高速通信(株),日本通信衛星(株)及び宇宙通信(株)に対し,また,61年8月8日に東京通信ネットワーク(株)に対し,それぞれ事業の許可を与えたところである。
 第二電電(株)はマイクロ無線,日本テレコム(株)及び日本高速通信(株)は光ファイバケーブルを使って,主として東京-名古屋-大阪間の沿線都府県を業務区域としており,東京通信ネットワーク(株)は主として光ファイバケーブルを使って関東圏を業務区域としている。61年8月に日本テレコム(株)が専用サービスを開始しており,第二電電(株),日本高速通信(株)及び東京通信ネットワーク(株)も順次専用サービスを開始している。なお,3社とも62年秋からは電話サービスを開始することとしている。
 また,日本通信衛星(株)及び宇宙通信(株)は,それぞれ米国製通信衛星を使って,全国を対象に63年から専用サービスを提供することとしている。口本通信衛星(株)は,60年6月に米国ヒューズ社と通信衛星等の購入契約を締結しており,また,宇宙通信(株)も米国フォード社に通信衛星を発注した。
 (第二種電気通信事業への参入)
 第二種電気通信事業分野には,事業法施行以降新しいビジネスチャンスを求めて多数の企業が参入しており,61年9月末現在,特別第二種電気通信事業者としての登録が9社,一般第二種電気通信事業者としての届出が279社となっている。
 特別第二種電気通信事業者は,不特定多数のユーザを対象に全国的規模で主にパケット交換等のデータ伝送サービスを提供するものであり,61年9月末現在,登録9社のうち6社が既に事業を開始している。
 一般第二種電気通信事業者は,北海道から沖縄まで全国各地に存在しているが,そのうちの約8割がデータ伝送サービスを提供しており,このほか音声伝送,画像伝送又は複合サービスを提供している事業者もそれぞれ数十社ある。
 (接続協定)
 事業法においては,第一種電気通信事業者は他の第一種電気通信事業者と電気通信設備の相互接続を行うことができるとされている。また,新規参入事業者のうち地上系3社は,市内網部分に電気通信設備を有しないことから,サービスの提供のためにはNTTの市内網と相互接続を行うことが不可欠である。
 そこで,現在,事業者間において接続協定締結のための協議が行われており,61年11月までに開業した専用サービスに関する接続条件について,既に協定が締結されている。
 この接続協定の内容には,接続する地域,接続して行うサービスの種類,接続に伴う設備改造等の費用負担,利用者に対する料金請求・収納等の制度的な事項のほか,設備の分界点,接続の技術的条件等の技術的な事項についての諸条件全般が含まれている。中でも問題となるのがアクセスチャージ(電気通信回線を他の電気通信回線に接続する場合の料金)であるが,専用サービスに関する接続条件においては,NTTの市内・市外のコスト構造等が明確になっていないことから,アクセスチャージを新規参入事業者に課さないこととされた。
 (電気通信料金算定要領の策定)
 郵政省は,第一種電気通信事業者の具体的な料金認可の指針として,電気通信審議会の審議を経て,「電気通信料金算定要領」を60年3月に策定した。
 この要領は,[1]料金は,適正な原価に適正な報酬を加えた総括原価を基礎に算定すること,[2]報酬は,事業に対して投下された総投資額の価値に一定の報酬率を乗ずることによって報酬額を算定する「レートベース方式」により算出することとし,その報酬率は,独立したサービスごとに一定の幅の中から事業者が選択できることとすること,を骨子としている。
 また,この要領の主な特徴は以下のとおりであり,公共料金としての性格に着目しながら,企業の料金面の創意工夫が生かせる仕組みとなっている。
 [1] 事業者の安定的な経営を確保するため,経済情勢に即応し,かつ,企業の実勢を反映した報酬の確保が図られるようにし,報酬率は独立したサービスごとに一定の幅の中から事業者が選択できることとした。
 [2] 公正競争の確保及び負担の公平を図る観点から,電信,電話等のサービス単位で原価を算定し,いわゆる内部相互補助を原則として認めないこととした。
 [3] 新規事業者の立上り期に配慮して,原価計算期間を既存事業者より長くしたほか,減価償却方法は会計処理と異なってもよいこととした。
 (社団法人電信電話技術委員会の設立)
 60年10月25日に設立された(社)電信電話技術委員会は,電気通信網の接続に関する標準を作成することにより,電気通信分野における標準化に貢献するとともに,その普及を図ることを目的としている。具体的には,ISDN(Integrated Services Digital Network)に関する接続の標準の作成をはじめとする電気通信網相互の接続の標準の作成,電気通信網と端末との接続及びLAN(Local Area Network),付加価値通信網(以下「VAN」という。),PBX相互の接続等電気通信全般の標準の作成を推進していくこととしている。
 同委員会の60年度末の会員数は107社であり,第一種電気通信事業者,第二種電気通信事業者,通信機器メーカ,ユーザ等内外の多数の電気通信関係者が参加している。
 (ICカードに関する研究)
 ICカードは,記憶容量の大きさ及び高い安全性によって,従来の磁気ストライプカードに代わるものとして注目を集めており,様々な分野での利用が期待されている。
 郵政省では,「ICカード研究会」を設置し,ICカードを通信ネットワークを構成するニューメディアとして位置付け,その健全な普及を図るために,現状及び課題を分析するとともに,将来におけるICカードと通信ネットワークとのかかわり及びICカードの普及のための方策について検討を行った。
 (3)移動体通信の進展
 移動体通信の分野では,61年5月,新しいサービスとして航空機公衆電話が開始された。従来のサービスでは,自動車電話が,60年7月に基本料金を約1万円値下げされた影響もあって,60年度末の加入数が対前年度末比53.8%増の6万2,103加入となり,また,無線呼出しの加入数が,60年度末には前年度末比14.3%増,215万5,894加入となるなど,著しい増加を示している。
 一方,業務用,個人用等の自営無線通信の分野でも移動体通信の伸びは著しく,移動体通信用の無線局数(アマチュア・市民ラジオの無線局を除く。)は60年度末現在,約310万局となった。
 (航空機公衆電話)
 航空機公衆電話サービスは,飛行中の航空機から全国6か所に設置された無線基地局と全国4か所に設置された交換局を経て,地上の電話等と通話ができるものである(第1-2-11図参照)。
 通信方式は,800MHz帯の電波を用いたPM変調方式を採用しており,無線ゾーン(半径約400km)の境界空域においても自動的に通話チャンネルの切替えが行われ,円滑に通話を行うことができる。
 (自動車電話・無線呼出し)
 自動車電話及び無線呼出しについては,増大する需要に対処するとともに,新規参入を実現するため,約1年間にわたる電気通信技術審議会の審議等を経て,61年8月に技術基準の改正が行われた。これにより,大容量の自動車電話,文字表示等高度な機能をもった無線呼出しの導入等一層のサービスの高度化・多様化が図られることが期待されている。
 (MCAシステム・パーソナル無線)
 自営電気通信としての移動体通信の分野では,貨物運送事業等の事業用に用いられているMCAシステム(Multi Channel Access System)が,60年度末には全国14地域で運用され,局数は60年度末現在,対前年第1-2-11図
 航空機公衆電話の構成度比55.9%増の7万6,671局となった。また,一般個人が使用できるパーソナル無線は,57年12月の制度化以来急激に増加しており,61年1月にチャンネル数を従来の約2倍の158チャンネルにする技術基準の改正を行い,局数は61年3月末現在,123万6,629局に達している。
 (4)建設に向かう光海底ケーブル
 太平洋地域における初めての国際光海底ケーブル計画である第4ハワイ/第3太平洋横断ケーブル(HAW-4/TPC-3)計画が,KDD及びアメリカ電話電信会社(AT&T)を中心とした関係国通信事業体の間で基本的に合意され,61年1月,建設保守協定の締結が行われた。
 本ケーブルは,将来の通信需要の増大,サービスの多様化に対処するため,現在,計画が進められている香港・日本・韓国ケーブル(H-J-K),第2グアム・フィリピンケーブル(GP-2)を含めた太平洋域光海底ケーブル網建設計画の一環として建設されるものであり,63年末に運用を開始する予定である(第1-2-12図参照)。
 また,国内においても,我が国が有人島だけでも約400島を抱える列島国家であることから,NTTでは,国民生活に不可欠な電話役務をあまねく日本全国において提供するため,約730条,総延長約6,600kmの水底線路を敷設している。
 61年度においては,青森県八戸-北海道苫小牧間(約280km),宮崎県江差原-沖縄県国頭間(約790km)にディジタル方式の大容量海底光ファイバケーブル伝送方式(FS-400M方式)を導入することとしている。
 これに伴い,既に旭川-鹿児島間に完成している「日本縦貫光ファイバケーブルルート」が更に沖縄まで延長されるとともに,北海道-沖縄間が有線・無線,アナログ・ディジタル方式による複数ループにより結ばれることになり,伝送能力の拡大,安全性・信頼性の向上等,より安定した電気通信サービスの提供が可能となる(第1-2-13図及び第1-2-14図参照)。
 (5)運用を開始した小山国際通信センター
 KDDにおいては,非常障害,非常災害及び需要増に対処するため,中央局の複数化を進めることとし,57年4月以来,関東地区における新たな中央局として,小山国際通信センターの建設を推進してきた。59年6月の局舎完成後,国際電話交換設備,国際テレックス交換設備等の設置を行い,国際電話は60年8月に,国際テレックスは61年3月にそれぞれ運用を開始したところである。
 これにより,東日本地域における中央局機能の分散が図られ,非常障害発生時の国際通信への影響は最小限に抑えられ,国際通信の信頼性はより一層向上することとなった。
 (6)電気通信システムの安全・信頼性対策の在り方
 我が国における経済活動や国民の一般生活にとって重要な役割を果たしている電気通信は,その重要性が高まるにつれ,ますます安全・信頼性の確保が必要となってくる。世田谷電話局でのケーブル火災事故や国鉄通信ケーブルの切断事件等にみられるように,電気通信システムのケーブルという一つの設備の障害が,金融機関のデータ通信システムの実質的な停止や電車の運行不能等の重大な障害を引き起こすことになる。
 このような状況を考慮して,郵政省は,電気通信システム全般にわたる基本的かつ総括的な対策の検討が必要であるとの見地から,電気通信システムについて,安全・信頼性対策の検討を行うため,60年7月,電気通信技術審議会に「電気通信システムの安全・信頼性対策の在り方」を諮問した。
 同審議会では,電気通信システム安全・信頼性委員会を設置し,約1年間にわたって審議を行ってきたが,61年6月,電気通信システム安全・信頼性対策のガイドラインを答申した。ガイドラインには,安全・信頼性対策の推奨的な実施水準が示されており,電気通信を運用する者や利用者に広く公開されている。
 今後,郵政省は,57年に告示された「データ通信ネットワーク安全・信頼性基準」を見直すことにより,来るべき高度情報社会における電気通信システムの健全な育成を図る計画である。
 (データ通信総合安全対策システム)
 急速な進展を遂げるデータ通信システムの災害時における長時間の障害を救済するため,郵政省では,データ通信総合安全対策システム(以下「STAF」という。)の開発調査に57年度から取り組んでいる。STAFは,データ通信システムのオンライン共同利用型バックアップシステムであり,平常時からオンラインで各種のデータ通信システムのマスターファイルと同一のファイルを常時別に保管しておき,障害時には被災データ通信システムのセンターに代わって各種の処理を行う機能を有している。
 STAFの開発調査においては,費用の軽減化,効率化,高信頼化を図るため,データの暗号化,圧縮化技術,異OS同時サポート技術等のシステム構築を行い,当該システムの性能評価,検証と実用化した場合の規模想定,費用の見積りを行っている。
 同開発調査は,60年度までにおおむね技術開発を終え,61年度においては,その検討等を行い,各種データ通信システムの運用者の意見を踏まえつつ,その早期実現のための条件整備,環境整備等について更に調査研究を行う予定である。
 (電気通信事業における損害賠償制度)
 電気通信事業における損害賠償制度については,世田谷電話局ケーブル火災による通信途絶事故を契機に様々な問題が提起された。
 郵政省では60年6月以降,「電気通信事業における損害賠償制度の在り方に関する調査研究会」を開催し,電気通信事業における損害賠償制度について検討を行った。このような検討結果を踏まえ,61年7月,NTTについては,[1]事業者の故意,重過失による債務不履行の場合には,賠償額を限定しない旨を明定すること,[2]賠償額は,サービス中断期間中に対応する平均使用料相当額とすること,[3]賠償手続は,利用者からの実損額の請求を待たないで予定された賠償額を賠償することなどを内容とする損害賠償規定の改正が行われた。
 また,第二電電(株),日本テレコム(株),日本高速通信(株)の3社においても,NTTと同様の損害賠償規定を織り込んだ契約約款の認可が行われた。

第1-2-10表 改定後のダイヤル通話料金

第1-2-11図 航空機公衆電話の構成

第1-2-12図 太平洋地域の光海底ケーブル網

第1-2-13図 青森県八戸-北海道苫小牧間海底光ファイバケーブルの敷設予定ルート

第1-2-14図 宮崎県江差原-沖縄県国頭間海底光ファイバケーブルの敷設予定ルート

 

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