昭和61年版 通信白書

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4 放送サービスの拡充に向けて

 (1)主要サービスの動向我が国の放送は,NHK,放送大学学園及び民間放送の三者によって行われており,その放送サービスの種類としては,中波放送,短波放送,超短波放送(FM放送),テレビジョン放送,テレビジョン音声多重放送及びテレビジョン文字多重放送(文字放送)がある。
 また,放送事業者は,60年度末現在,NHK,放送大学学園のほか民間放送140社である。
 民間放送の社数は,前年度に比べて11社増加しており,その内訳は,FM放送を行うもの6社,テレビジョン放送を行うもの1社及び60年11月に文字放送の本放送が開始されたのに伴い,この文字放送のみを行う放送事業者として設立された4社である。
 (中波放送及び短波放送)
 中波放送は,NHKが第1放送及び第2放送の2系統で,民間放送では47社が放送を行っており,また,国内短波放送は民間放送1社が行っている。
 NHKは,国内放送のほか短波による国際放送を行っている。現在,国際放送は,直接外国に情報を伝達できる海外広報活動の有力な手段であり,また,在留邦人に対する情報提供手段である。国際社会における我が国の地位の向上及び国際交流の活発化,さらには国際的な緊張の高まりに伴い,その役割は近年ますます増大している。このため,放送時間の拡充及び送信施設の整備拡充による受信状況の改善が図られている。国際放送は,世界の全地域(一般向け放送)及び欧州,アフリカ等世界の18地域(地域向け放送)に向けて,1日延べ40時間の放送が行われている。なお,NHKは,国際放送の海外における受信改善を図るための海外中継局として,54年10月にポルトガルのシネス送信所を利用して1日1時間の中継放送(送信電力250kW)を開始し,また,59年4月からは,さらにガボン共和国のモヤビ送信所を利用して1日6時間の中継放送(送信電力500kW)を行ってきたが,61年4月にはシネス送信所の利用を中止し,代わってモヤビ送信所からの中継放送を1時間30分増やし,計7時間30分とした。さらに,61年10月からは,カナダから北米地域を対象として,1日1時間の中継放送を開始した。
 (FM放送)
 FM放送は,NHK,放送大学学園及び民間放送21社が行っている。民間FM放送については,早期全国拡充を目途に周波数割当を行ってきたところであるが,これに伴って,放送事業者の数は,60年度には6社増加した。
 なお,60年度に放送が開始された地区は,岩手,群馬,神奈川,三重,山口及び熊本の6県である。
 (テレビジョン放送)
 テレビジョン放送は,NHK(総合番組局及び教育専門局の2系統),放送大学学園及び民間放送103社が行っている。民間放送については,60年度に岡山県及び香川県を放送区域とする放送事業者1社が新たに放送を開始した。
 (衛星放送)
 衛星放送は,59年5月からBS-2a(本機)によりNHKが1チャンネルの試験放送を行ってきたが,61年2月にBS-2b(予備機)が打ち上げられ,今後,NHKにより2チャンネルの試験放送が実施される予定である。BS-2は,NHKのテレビジョン放送の難視聴解消に利用されるほか,新しい放送技術の開発実験(高精細度テレビジョン放送,PCM音声放送等)等に利用されることとなっている。
 さらに,BS-2による放送サービスを引き継ぎ,また,増大かつ多様化する放送需要に対処することなどを目的として,BS-3の開発が進められている。BS-3a及びBS-3bの打上げ予定時期は,当初,それぞれ63年度冬期及び65年度夏期であったが,BS-2aの故障等の関係で開発スケジュールが遅れたこと及び十分な信頼性が確保されるよう開発を行う必要があることから,65年度夏期及び66年度夏期に延期された。BS-3では,NHK及び日本衛星放送(株)(59年設立)がそれぞれテレビジョン2チャンネル及び1チャンネルの放送を行う予定となっている。
 (難視聴解消)
 辺地難視聴については,従来から中継局,共同受信施設等によって解消を図っているが,NHKについては衛星放送によって残存の難視聴解消を図ることとし,また,民間放送については,引き続き中継局の設置により解消を図ることとしている。一方,都市受信障害については,郵政省は原因者負担の考え方をとっており,これに基づき障害原因となっている建造物の建築主等関係者にその解消を働きかけてきたところであり,おおむねこの方向で解消が図られてきている。
 大都市では,建物の高層化が進んでいるため,建物による電波の反射障害が多発することが予想されるが,この反射障害を防止あるいは解消するためには,電波吸収体の利用が有効であることから,広くその利用を図るため,60年10月に発足した基盤技術研究促進センターからの低利融資を活用して,軽量・廉価で施工の容易な新たな電波吸収体を開発するよう関係のメーカを指導している。
 他方,中波放送については,従前から,外国放送波の混信等による難聴が生じており,この解消のため,中継局の開設等を推進している。60年度においては,沖縄本島北部地域等の難聴の解消を図るため,NHK及び民間放送の17局に関し,中継局の開設,空中線電力の変更等が可能となるよう措置している。
 (2)民間テレビジョン放送・FM放送の拡充
 (民間テレビジョン放送)
 民間テレビジョン放送については,全国各地域における受信者の受信機会の平等の実現を目的として,その拡充を図ってきている。その結果,60年度末現在,4以上の民間テレビジョン放送の受信が可能な地域は,世帯数にして,全国の約8割に達している。
 他方,視聴し得る民間テレビジョン放送の数が2ないし3の,いわゆる少数チャンネル地域の住民の情報格差縮小に対する要望には強いものがある。
 こうしたことから,郵政省では,61年1月,今後の全国各地域における受信機会の平等の実現について,最低4の民間テレビジョン放送の受信が可能となることを目標とする基本方針を明らかにした。
 この基本的な考え方に立って,同月,2チャンネル地域17県のうち,周波数事情,放送事業存立の基盤となる経済力等を考慮して,青森,秋田,岩手,山形,富山,石川及び長崎の7県に三つ目の,また,同年2月,3チャンネル地域の鹿児島県に四つ目の周波数の割当てを行った。
 また,札幌市,福岡市を含む地域については,地方中枢都市としての機能の一層の充実を図り,地方の活性化を促進するという観点から,東京等に準じ,5の民間テレビジョン放送の受信が可能になることを目標とすることとし,61年2月,条件の整った北海道に五つ目の周波数の割当てを行った。
 (民間FM放送)
 民間FM放送については,県域を原則として周波数の割当てを行い,全国普及を図ってきた。その結果,61年5月末現在,41都道府県について周波数割当を行っており,このうち21都道府県で放送が実施されている。さらに,61年10月1日には鳥取・島根の両県において放送が開始された。
 なお,まだ周波数の割当てが行われていない6県については,早期に周波数の割当てが可能となるよう検討を進めている。他方,FM放送の普及とともに,放送番組の多様化についての要望が特に大都市において高まっていることから,周波数事情,経営基盤,放送需要及び音声放送の全体的な在り方等を考慮しつつ,複数のFM放送の受信が可能となるよう周波数割当を進めていくこととしており,60年9月,差し向き要望の強い東京及び大阪に2チャンネル目の周波数の割当てを行った。
 (3) CATVの新展開
 ア.CATVの新たな動向
 従来,CATVは,難視聴対策メディアとしてテレビジョン放送の補完的地位にあった。しかし,近年,国民の情報通信に対するニーズの高度化・多様化,情報通信技術の著しい発達,電気通信法制の抜本的変革等を背景として,CATVは,その多チャンネル,双方向性を生かした新たな展開をみせつつある。
 (都市型CATVの展開)58年以降,大規模,多チャンネル、双方向機能を有するいわゆる都市型CATVの事業計画が相次いでおり,61年9月末現在,14事業者15施設に対して有線テレビジョン放送法に基づく設置許可を与えている。これら施設の建設に当たっては,道路や電柱等の工作物を使用することが必要であるが,施設設置が円滑に進まない事態が生じてきていた。しかし,この事態が進展し,工事が着手され,62年には相当数の都市型CATVが本放送を開始する予定である。また,こうした動きに触発されて,CATVへの番組供給会社の設立も相次いでおり,番組供給体制も着々と整備されている。
 (CATVによるデータ放送)
 CATVによるデータ放送は,ディジタル情報(文字,図形,自然画,パソコン用ソフトウェア等)をCATVセンターのホストコンピュータから,CATV網に接続された企業や家庭のパソコンに超高速で伝送し,加入者はその情報をパソコンに接続されたテレビ画面で見ることのできるシステムである。これにより,例えばCATV伝送路のテレビジョン1チャンネルで,10秒間に約5千の静止画情報を送ることができる。
 既に,長野県のCATV施設において,60年12月から61年6月まで関係者による共同実験が行われている(第1-2-15図参照)。
 (CATVの第一種電気通信事業への進出)
 CATVは多目的利用が可能なメディアであることから,CATV事業者においては,施設の有効利用を図りたいとの意向が強い。こうしたことから,専用線サービス,あるいはCATVと外部データベース,各種予約システム等との接続による情報サービスを行うといった形で,第一種電気通信事業へ進出することが検討されている。
 イ.CATVの普及促進
 CATVは,放送はもとより各種の情報を提供することが可能な新たな公共的な総合メディアであり,来るべき高度情報社会において重要な役割を果たすことが期待される。また,CATVの普及促進は,民間活力の導入による社会資本の整備であり,内需の拡大に大きく寄与するものと考えられる。
 こうした基本的認識に立ち,施設設置の円滑化,業務運営の円滑化等CATVの普及促進のために,次のような環境条件の整備,改善を図っている。
 [1] CATVは典型的な装置産業であり,膨大な初期投資を必要とする上,いまだ揺らん期にあることから,金融,税制面等を通じて,国による助成措置が講じられている。具体的には,現在,日本開発銀行,北海道東北開発公庫及び沖縄振興開発金融公庫を通じての出融資制度が認められており,既に3事業者に対して出融資が行われている。また,税制面においては,61年度税制改正で,初めて双方向CATV用設備(ポーリング装置)が中小企業新技術体化投資促進税制の対象設備に追加されるなど,助成措置が講じられている。
 [2] 第104国会において,テレビジョン放送等の再送信の円滑かつ適切な実施を図るため,再送信の同意に関し,当事者間で協議が整わないなどの場合の措置として,郵政大臣の裁定の制度を設けるなどを内容とする「有線テレビジョン放送法の一部を改正する法律」が成立し,61年5月20日公布・施行された。また,放送事業者と同様,CATV事業者に著作隣接権の創設等を行うことなどを内容とする「著作権法の一部を改正する法律」も同国会において成立した。これらの法改正により,CATV事業者の業務運営の円滑化が大きく促進されることとなった。
 CATVの施設設置に当たっては,道路や電柱等の工作物を使用することが必要である。CATVの普及促進のためには,施設の設置を円滑に進めることが必要である。
 ウ.スペース・ケーブルネットの推進
 63年には,我が国も本格的な衛星時代を迎えるが,この通信衛星とCATVが結び付くことにより,通信衛星を介して多彩な番組ソフトが供給されることとなり,都市型CATVをはじめとしてCATVの新たな飛躍が期待されている(第1-2-16図参照)。
 このような状況にふさわしいCATVの普及促進策を確立するため,60年12月から「本格的衛星時代を迎えたCATVの普及促進に関する調査研究会(スペース・ケーブルネット調査研究会)」を開催し,61年6月,同調査研究会から報告書が提出された。同報告書においては,[1]共同番組センターの設立,[2]衛星送受信設備の普及促進,[3]再送信専用CATV施設のグレードアップ,[4]スクランブル方式の統一,について提言がなされている。
 エ.CATVの技術開発の推進
 郵政省では,CATVの高度利用を促進するため,超広帯域伝送システム,衛星放送再送信システム等の研究開発を進めている。また,「有線テレビジョン放送技術委員会」の検討結果(61年3月最終報告)を踏まえ,都市型CATVに対応した周波数配列等の標準化及びその技術基準の策定を図っている。
 (4)文字放送の本放送開始
 (実用化試験から実用の放送へ)
 文字放送は,テレビジョン放送波に重畳して文字や簡単な図形及び付加音によって構成された情報を送り,利用者は,テレビジョン受像機にアダプタを付加することなどにより,必要な情報を必要なときに受信することができるものである。
 我が国の文字放送は,58年10月からNHKがパターン伝送方式により東京と大阪で実用化試験局によって試験放送を実施してきたが,その後,伝送可能情報量等の点で格段に勝る符号化伝送方式の技術開発が進んだことから,郵政省は,この符号化伝送方式によって文字放送の実用化を図ることとし,60年10月,文字放送の標準方式の改正等所要の整備を行った。
 これに伴い,60年11月,NHKが関東甲信越地区及び近畿地区で,また民間放送では日本テレビ放送網(株)が,それぞれ符号化伝送方式による実用の放送を開始した。
 その後,民間テレビジョン放送事業者及び既設テレビジョン放送事業者の放送設備を共用して文字放送を行う放送事業者(いわゆる第三者法人)が相次いで開局したほか,NHKが放送実施地区を東海・北陸地区に拡大した。この結果,61年6月末現在,NHK及び民間放送16社(うち第三者法人8社)により,ニュース,天気予報,道路交通情報,株式市況,行楽地案内等多様な文字放送番組が放送されている。
 なお,NHKは,61年度中に文字放送を全国において実施する計画であり,また民間放送においても,61年度に更に数社の開局が予定されている。
 (文字放送の普及促進)
 文字放送は手軽で実用的かつ経済的な家庭向け情報メディアとして,今後,その社会的機能の発揮が期待されている。郵政省は,文字放送の早期普及と受信機の低廉化等を図るため,NHK,(社)日本民間放送連盟,文字放送事業者,受信機メーカ,その他情報提供者等から成る「文字放送普及促進協議会」を設置し,文字放送の利便性,経済性等に関する利用者向けのPRの方法,受信機の低廉化の方策,筒易型携帯用受信機の開発等の課題について検討を進めている。
 (5)新しい放送技術の開発
 (放送技術開発の現状)
 放送技術の開発は,[1]ラジオやテレビジョンの既存の放送サービスの品質を向上させるための技術,[2]新しい形態,内容のサービスを実現し放送メディアの多様化を図るための技術,[3]周波数の利用効率を向上させ放送サービスの拡大を可能とするための技術の確立を目指して進められている(第1-2-17表参照)。
 放送に関する技術開発は,一般に既存の放送メディアの信号方式に変更を加えることによって実現されるものが多い。このような場合,既存の放送の受信に悪影響を与えることのない方式及び技術を確立することが重要である。
 主な技術開発の状況は以下のとおりである。
 [1] 中波ステレオ放送
  中波放送波にステレオ信号を重畳する放送方式であり,米国,カナダ,オーストラリア等では既に実用化されている。現在,我が国の方式として適当な方式を定めるための調査研究が進められている。
 [2] FM多重放送
  FM放送波に重畳して独立の音声あるいはデータを放送する方式について,62年度末に結論を得ることを目途に電気通信技術審議会で審議が行われている。
 [3] ファクシミリ放送
  テレビジョン放送波にファクシミリ信号を重畳する方式について,電気通信技術審議会の審議に併せ,伝送実験が行われている。
 [4] テレビジョン放送の画質改善(EDTV)
  EDTVは,現行テレビジョン放送に適用できるより精細度の高い放送方式である。郵政省では,60年6月から「テレビジョン放送画質改善協議会」を開催し,その開発を推進中である。
 [5] 高精細度テレビジョン放送(HDTV)
  HDTVは,現行のテレビジョン方式に比べて精細度が高く,ワイドな画面の新しいテレビジョン放送方式であり,衛星放送やCATVによる提供が考えられている。このスタジオ規格と伝送方式について,電気通信技術審議会で審議が行われている。
 [6] 衛星有料放送
  BS-3で予定されている衛星有料放送の実施に向け,契約者のみに視聴を可能とする技術として,衛星からのテレビジョン信号にスクランブルを施す方式について,電気通信技術審議会で審議が行われている。
 (放送技術開発協議会の設立)
 放送技術の開発については,従来,電気通信技術審議会で,技術基準の策定を目標とした技術開発の推進及び調整が行われてきた。しかしながら,近年におけるエレクトロニクス技術の目覚ましい発展を背景として,放送の分野において多様な技術開発の可能性が生まれてきたことから,これらの技術開発を効率的かつ円滑に進めるため,60年9月,放送機器メーカと放送事業者から成る民間団体として「放送技術開発協議会」が設立された。既に同協議会は,前述の[1]から[6]のほか,小型中波小電力中継局設備の開発,受信機改善等の課題に取り組んでいる。

第1-2-15図 CATVによるデータ放送のシステム構成

第1-2-16図 スペース・ケーブルネットの概要

文字放送の画面(例)

第1-2-17表 放送に関する技術開発
 

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