昭和61年版 通信白書

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6 高度情報社会と人間

 通信は,個人生活や企業,行政官庁等の社会的・経済的活動にとって不可欠なものである。通信が情報の伝達である以上,その情報,あるいは伝達の方法について基本的人権や経済的権利の確保が重要である。この二つの意味において,通信は極めて高い公共性を有している。
 しかしながら,最近の急速な情報化の進展は,社会,経済,文化等の様々な面で豊かな国民生活と経済の発展を実現するという積極的側面をもつ反面,人間性の疎外,情報の管理を通じた個人生活の管理,データベースへの侵入等のコンピュータ犯罪による経済活動の妨害といった社会的・経済的な多くの問題を発生させる可能性を有している。
 情報化の進展あるいは高度情報社会の光とも言うべき積極的側面の効果についてはしばしば語られているが,高度情報社会が真に国民のものとして建設され,国民に受け入れられるためには,その情報の客体となる個人や企業の権利,取り分け権利の侵害に対して,対抗力の弱い個人の利益が保護されなければならない。このことは,電気通信回線を利用した情報管理システムの出現による個人情報や企業情報の管理の可能性と,それによる個人生活の管理等,あるいはマス・メディアにより画一的な情報が大量に伝達される場合の影響を考えれば明らかであろう。
 このような情報化社会のもつぜい弱性を克服する観点から,ネットワークの安全性・信頼性の確保というハード面の整備は当然のこととして,通信の秘密の保護という伝統的な基本的人権はもとより,プライバシーの保護,データの保護等を,今後,一層推進していくことが国民のための高度情報社会の建設にも必要である。そのためには,利便性や経済的利益の追及を,場合によっては放棄するというコストを払わざるを得ないケースもでよう。このため,人材育成の面から,このような社会的なルールを企業倫理,職業倫理として確立し,それを守る人材を育成していくことが重要である。このような人材の養成と輩出によってこそ,高度情報社会は国民のものとして国民に受け入れられよう。
 また,健全な高度情報社会の形成のためには,人間性重視の観点から,情報通信に関連する技術のみならず人文科学,社会科学等の幅広い分野の知識と技術を有し,社会,個人に与える影響をも考慮し得る「融合型人材」とも言うべき人材を育成していくことが必要である。
 さらに,こうした人材育成の問題について,通信事業者,利用者,教育関係者にとどまらず,政治,経済,社会等の幅広い分野の関係者の間で検討が行われていくことが必要である。

 

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