昭和61年版 通信白書

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4 通信ネットワークの高度化の展望

 通信ネットワークは,高度化を目指し,今後ますます発展していくことが予想される。ここでは,通信ネットワークを主にハード面からとらえ,その高度化について展望する。
 (1)通信ネットワーク発展の可能性
 ア.通信ネットワークの結合の形態
 従来は,一つの通信ネットワークで一つの通信サービスが提供されてきた。しかし,通信技術の発展により,通信ネットワークにおいて様々なサービスの提供が容易になると,それぞれの通信ネットワークの役割の範囲が広がるとともに,異なるネットワークで同種のサービスを提供することが可能になってきた。このことは,従来,強い関係にあった通信ネットワークとサービスが次第に分離し,互いがルーズな関係になってきたことを示すものである。こうした現象は,技術の発達とともに,各ネットワークにおける利用者二-ズの高度化・多様化によりもたらされた結果でもある。
 異なる通信ネットワークで同種のサービスの提供が可能になると,通信ネットワークを相互に接続させて通信の対象範囲を更に広げようとする動き,あるいは資源の有効利用を図るために一つの構成要素を複数のネットワークで共用する動きが現れてくる。
 通信ネットワークは,今後,多様に結合していくと予想されるが,このような通信ネットワークのハード的結合の形態を,現状及び将来の可能性からみると,次のような基本的なモデルの分類が考えられる(第2-3-17図参照)。
 [1] 交換機を経由することによる通信ネットワークの結合
 [2] 伝送路を共用することによる通信ネットワークの結合
 [3] 端末を共用することによる通信ネットワークの結合
 [4] センターを共用することによる通信ネットワークの結合
 イ.通信ネットワーク構成要素の高度化
 通信ネットワークの構成要素は,以下のように,高度化・多様化していくと考えられる。
 [1] 交換機は,通信ネットワークを結合し,情報の相互乗り入れを可能にするための接続ポイントとなるものであるが,通信ネットワークの結合を容易にするためには,そのインタフェース機能の向上が今後重要である。また,通信ネットワークの多様な結合の中で情報が正確かつ効率的に伝達されるためには,交換機能のみならず,ネットワーク全体の制御機能が交換機にますます要求される。
 [2] 伝送路については,光ファイバケーブル,衛星を中心として大容量化が図られることが予想される。特に衛星に関しては,電気通信ネットワーク,放送ネットワーク及びCATV網との結合が考えられる。
 [3] 端末については,利用者が1台の端末で各種の通信ネットワークのサービスが受けられるよう,今後その複合化が図られていくものと考えられる。現在,テレビジョン受像機がビデオテックス通信網の端末として利用されているが,これは複合化の一形態である。今後は,ディジタル技術等により,単なる送受信端末から高度な処理機能を伴った端末へと発展し,家庭内における情報ターミナルとして,あるいは企業におけるインテリジェント端末として多種多様な複合端末が出現していくものと考えられる。郵政省では,こうした動きに応じて複合端末の機能等を検討するため,60年6月にビデオテックス通信,パソコン通信,文字放送等のサービスを1台の端末で受けられる「ニューメディアターミナル」を試作したところである。
 [4] センターについては,情報化の進展に伴い,情報の収集,加工等に対する需要が増大し,今後ますますその重要性が高まっていく。ソフトウェア技術の急速な進展により,効率的な情報の収集,加工が可能になるとともに,様々な検索手法の開発等が行われている。また,データベース等の有効利用を図る観点から,今後は,各種データベースを様々な通信ネットワークで共用していくことが予想される。
 このように,通信ネットワークは各構成要素の発展を基盤に,その高度化・多様化が図られる。このため,郵政省では,59年度から各種ニューメディア間の相互接続を可能にすることを目的として,「二ュ一メディア間インタフェース技術に関する開発調査研究」を実施している。59年度においては各種ニューメディアとデータベース間及びニューメディア相互間の接続需要調査,また60年度においてはインタフェースに関する技術的検討をそれぞれ行った。
 ウ.通信ネットワークへの新たな機能の付加
 通信ネットワークとサービスが分離してとらえられるようになると,既存のネットワークにこれまでにない新たな機能が付加されるようになる。ソフトウェア技術やディジタル技術の進展により,この傾向はますます顕著になる。
 VANはその典型例であり,既に存在している通信ネットワークに通信処理等の機能を付加し,その付加された機能を利用する利用者相互において,あたかも新たなネットワークが形成されたような機能を果たしているものである。
 一方,こうした現象は,電気通信の分野に限らず,放送の分野においてもみられる。例えば,文字放送網は,従来の放送ネットワークを利用して,テレビジョン放送波に文字等の新たな形態の情報を付加してサービスを提供するもので,既存の通信ネットワークに従来にない新たな機能が付加されたといえる。
 エ.通信ネットワークのインテリジェント化
 データ通信等の発展により,通信ネットワークは,情報を単に伝達するのみならず,様々な処理機能を有するものへと変化した。これは,通信とコンピュータとの融合によりもたらされたものである。コンピュータ技術の発展とそれを通信の中で有効に機能させるための通信技術の発展により,通信ネットワークは次第にインテリジェント化されていく。
 通信ネットワークのインテリジェント化を推進するものとして,人工知能関連技術を利用したデータベースシステムや自動翻訳電話システムの開発等があり,さらに,バイオテクノロジーの通信への応用等,未踏分野の研究開発も今後重要な課題である。
 オ.通信ネットワークの未来
 今後の通信ネットワークの発展は,電気通信分野ではISDNの構築が進められ,また放送分野ではISDBを目指したディジタル化が図られていく。ISDNにおいて映像通信等の広帯域通信サービスの提供が可能になると,電気通信と放送を融合した新たなサービスを目指してISDNとISDBの結合が行われ,しかもその機能は知的処理技術等を取り入れ,一層高度化されていくことが予想される。また,郵便ネットワークも,より高度なサービスの実現を目指して,これらのネットワークと有機的に結合され,総体として多元的かつ高機能な通信ネットワークが構成されるものと考えられる(第2-3-18図参照)。
 (2)高度な通信ネットワークの構築を目指して
 ア.技術開発の推進
 通信ネットワークの構築,発展を支えてきた通信関連技術は,各通信分野ごとにそれぞれ固有なものとして芽生え,その開発が行われてきた。
 しかし,ソフトウェア技術及びディジタル技術の進展により,各種の処理が同一形式で行われるようになると,これらの技術は通信全般にわたる基盤的な技術として大きな地位を占めるようになった。
 また,LSI技術の進展は,各種通信機器の小型・軽量化,高機能化,高信頼化を実現するとともに,機器におけるディジタル処理等を容易にした。今後,LSI等の素子技術は,各通信ネットワークの基盤となる重要な技術としてその役割が更に増大していく。
 このような共通基盤技術の出現と発達は,技術開発の全通信分野に与える影響をより大きくし,また,個々の通信ネットワークにおいて開発された技術が他の通信ネットワークにも適用できるようになるなど,通信ネットワークの効率的発展を可能にする。
 通信関連技術は今後とも通信ネットワークの発展に大きく貢献していくものと考えられるが,技術レベルが向上するほど,また,共通基盤技術が多く出現するほど,将来の通信ネットワークを十分検討した上での計画的な技術開発が必要になる。郵政省では,61年7月,効果的かつ効率的な電気通信技術開発の推進に資することを目的に,「電気通信技術に関する研究開発指針」を策定し,21世紀に向けての研究開発目標,研究開発環境及び研究開発体制の整備について,基本的な方向を示した。
 イ.通信ネットワークの安全性・信頼性対策
 国民生活における通信への依存度が高まるにつれて,通信ネットワークの安全性・信頼性への配慮も重要になっていく。
 通信ネットワークの機能が増大し,また通信ネットワークが相互に接続されるようになると,一部の機器の故障等が及ぼす影響範囲はますます拡大する。また,センター機能の拡充に伴い,データの機密保持等の問題がクローズアップされている。
 このような問題の対策として,センターにおける中央処理装置の二重化,伝送路の多ルート化,暗号化技術を駆使したデータ保護等の措置が講じられている。
 現在,郵政省では,データ通信ネットワークの安全性・信頼性を確保する上での望ましい基準として「データ通信安全・信頼性基準」を設定しており,また,61年6月には,電気通信技術審議会から,電気通信システム安全・信頼性対策のガイドラインについて,答申が出された。
 ウ.通信需要への対応
 電気通信の自由化により,利用者はサービスの内容,経済性等を考慮し,自らの要求に最も近い通信ネットワークの選択が可能になった。
 こうした利用者にとっての選択の幅の広がりは,逆に個々の通信ネットワークを構築する側からみると,通信市場や社会経済活動の変化を的確にとらえていく必要があることを示している。
 企業の動向をみると,金融,保険業等にみられるように,通信ネットワークが業務運営と密接に結び付き,その効率的な構築が企業経営にとって不可欠になっている場合が多い。また,OA機器を相互に接続させた通信ネットワークを企業内に構築して,情報の伝達,事務処理等を効果的,効率的に行おうとする動きが顕著である。このような傾向は,今後一層顕著になっていく。
 一方,家庭においては,ホームショッピング,ホームバンキング等を可能にする端末が導入されつつある。また,外出先から電話をかけて電気,ガス等を制御できるテレコントロールシステムも開発されている。今後は,電話網等の一端に家庭用電気機器等が接続され,日常生活の利便性を求めた家庭内の通信ネットワークが構築されていくことが予想される。
 こうして通信の利用領域が拡大され,その利用方法も多種多様になってくると,利用者ニーズに適切にこたえる通信ネットワークの構築が必要であり,そのためには,通信需要の実態及び将来動向を的確に把握することが重要である。従来は,通信ネットワークがそれぞれ固有の機能を有していたが,今後は通信ネットワークの機能の融合化が生じる。こうした中で,利用者ニーズに対応する通信サービスを提供するためには,社会における通信需要をあらゆる角度から分析し,将来予測を行うとともに,それを通信ネットワークの構築,運用に生かしていくことが必要である。
 また,通信需要の把握,分析を行った上で,常に社会経済活動の変化に柔軟に応じられるような通信ネットワークの構築,運用が必要である。
 エ.通信ネットワークの発展を目指して
 現在,我が国では,国民の価値観が多様化し,生活の質的充実の欲求が高まるとともに,情報化の急激な進展,技術革新,国際化等,社会のあらゆる面で様々な変化が起こっている。
 通信ネットワークは,今後ともこのような変化に柔軟に対応し,高度情報社会を築くための重要なインフラストラクチャーとして,今後その飛躍が強く望まれている。
 通信ネットワークのより一層の発展を目指して,国としては,長期的なビジョンをもって通信ネットワーク全体について,その発展の方向を考えていく必要がある。今や,単機能・個別機能通信ネットワークから,真に通信ニーズにこたえるサービスを提供する総合通信ネットワークの時代に移りつつある。今後,郵便,電気通信,放送,有線放送の各分野において個別に将来の通信ネットワークを議論するにとどまらず,通信ネットワーク全体を調和のとれた形で発展させることが重要である。そのためには,今後とも既存の通信ネットワークの整備,新たな通信ネットワークの建設等について,長期的かつ総合的な視点に立って検討を行うとともに,国民の合意を形成していくことが重要である。

第2-3-17図 考えられる通信ネットワーク結合のモデル

第2-3-18図 通信ネットワークの発展の概念図

 

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